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青天の霹靂

仮想敵国から「うちのとこにだれか婿くれ」といわれ、主の命令により婿入りすることになったアラン。

婚約者となる令嬢の今までの婚約者候補たちは軒並み呪われているらしい。ついたあだ名が『破滅令嬢』。

アランは令嬢と婚約しても呪われずに済むのか。令嬢との恋の行方は?




初投稿です。いろいろ不手際があるかもしれませんが、温かく見守っていただけたらと思います。

よろしくお願いいたします。

「アランよ、マローバ王国から婿がほしいからいいのがいないかといわれてな。そなたを推薦しておいた。故に、あちらに婿に行け」

「は?」


 主からの想像だにしていなかった言葉に俺が返せたのは、たった一言。というよりも一文字。むしろ反応できただけすごかったのではと頭のすみで考える。それがたとえ主に対する言葉というか反応としては失格ものだとしても、だ。


「あ?マローバ王国だと?同盟結んでいるとはいえ、仮想敵国じゃねーか」


 主の傍らに控える彼女の婚約者の言葉に、部屋に控えている俺の同僚である騎士も侍女たちも頷いている。

 そんな俺らの心情もわかると、我が主もまた頷く。しかしその表情は怒りとあきれと疲れと、いろんなものが混ざっているように見受けられる。それでも花よりも美しいのだから、我が主のポテンシャルはすごいと思う。


「いやまぁ、妾とて大事な忠臣たるアランをやるのは業腹だが?けれどいい加減融和政策を推している父上のためにもどうにかせねばならん。妾が王位を継いだ後も隣国とキナ臭くてはかなわんしな」


 主の言葉に、心の端では「さもありなん」となりつつも、疑問が消えないのもまた事実。

 次期国王に内定している我が国第一王女ナリーニ様が俺の主だ。その治世が素晴らしいものであるようにと、賢君と名高い父王陛下から日々教えを受けておられるのは護衛騎士としてよく理解している。


 同盟を結んでいるが、仮想敵国ともいわれる隣国・マローバ王国とは、50年ほど前まで戦争をしていた。明確な勝敗があったわけでもなく、国力の低下と国民たちの疲弊による停戦といったところだ。何せ今でも国民レベルで仲がすこぶる悪い。

 融和のためにと婚姻を進めたりもするが成り立たなかったり、成り立っても先入観のせいかうまくいかなかったりするのだ。もちろん、うまくいった例もある。だがそういった例はかなり少ないのだ。時間が解決することもあるが、親から子へと代々言い聞かせるが如く嫌悪の情を受け継いでいっているわけだから、どうなることやら。

 しかし、現国王陛下はそのうまくいった例から手広く様々な政策を取られ、我が国からの隣国への潜在的嫌悪感を少しづつだが薄れていっているという。さすがは陛下。おかげで国民の笑顔が増えているという話はよく聞く。国民が豊かにならねば国も豊かにはならないのだろう。最近の国益は右肩上がりだとナリーニ様の高笑いが王宮に響く毎日だ。主が幸せで今日も素晴らしい。

 そんな素晴らしい陛下を父としても王としても尊敬されて主だ。そのために打てる手があるのなら打つだろう。が。


「なんだってそれが『次期国王たる王女の側近』から出そうってなったんだ?」


 それだ。


 ナリーニ様の婚約者であるビーラン様の言葉に、やはり周りが同意するように頷く。そんな周りにナリーニ様はクッションにしなだれながらチェリーを口に連んだ。これは何やら策をめぐらせ、実行し終わったのだろう。かなりお疲れのご様子だ。侍女がすっと果実水を差し出した。この果実水に使われている果物も、ナリーニ様が推し進めた研究により最近量産に成功したのだ。さすが我が主。


「婿に、といわれたのはあっちの公爵令嬢だ。調べてみたらまぁ特殊な娘でなぁ。精霊と人のあいの子らしい」

「そりゃ、また……」


 予想外の内容に、ビーラン様も言葉をつづけられなかったようだ。かくいう俺もどう答えたものかと思案する。が、結局何も浮かばない。勉強不足を痛感する。だが、それはほかの同僚たちも同様だったようだ。困惑が空気を染めるのを、ナリーニ様はわかるわかると首を振った。


「難儀よな。人とほかの種族との子はできにくい。違う力故に母体が保たぬ例が後を絶たん。だがその公爵令嬢の母御はその力に打ち勝ち、娘を生んだ。しかもよくある命と引き換えに、なんていうこともなかったようだ。よほど相性が良かったのであろう」

「は?そんな珍しい血、仮想敵国のうちに婿取りなんてめちゃくちゃ怪しいじゃねぇか」

「それな」


 ビーラン様の言葉に、ナリーニ様も同意を返される。

 普通そんな凄まじい血統、自国に囲い込むために婚約者をあてがうだろうに。

 しかしナリーニ様があきれ返ってクッションにさらに体重をかけている。これはろくなことがないな……。

 案の定、続けられた言葉には頭を抱えたくなった。


「で、さらに詳しく調べたんだが、母御はすでにおらん。いや、多少語弊はあるが、まぁ、人としての母御はおらん」

「あ?」

「何せ令嬢の父親であり精霊が、母御を殺したからな」

「は……?……まさか悋気を起こしたからとか言うなよ」

「正解だこんちくしょう!マジ精霊の考えることわからんわー」

「姫様、言葉遣い!!」


 侍女から叱責の声が飛ぶが、我が主はどこ吹く風だ。ナリーニ様は外では猫をかぶっているが、身内だけだとかなり口が悪いし自堕落をさらすからなぁ……。

 だが、ナリーニ様がやけくそ交じりになるのもわかるから、侍女もそれ以上は何も言わない。

 しかし、悋気で命を奪うとか。神話や物語ではよく聞くが、それでも本当に起こるとやるせなさを感じてしまう。種族によっての常識が違うのは、人同士でも大概あるのだから仕方ないだろうが……その令嬢には同情してしまうな。


「ビーランの言ったとおり、人外はとかく心が狭い。いや、人間も心が狭い奴は多いがな、ビーランとか」

「おい!」

「だがまぁ、殺す前に何かしらアクションはあるだろうからましだろうが……マジ人外本能に忠実すぎるわぁ……理性ないんか?」

「姫様、言葉遣い!」

「うるっさい!多少は目をつぶれ!!マジやってられんから!!」


 とうとうクッションに突っ伏されてしまった……。いやまぁ、人外の理不尽さここに極まれり、ナリーニ様がまいってしまわれるのも仕方ないだろう。外から差し込む日差しが、なんだか場違いのように思える。


「どうやら母御が娘にばかりかまうのがよくなかったらしい。精霊が当たり散らしてな。娘を殺そうとしたらしい。で、母御はそれをかばい死亡、それで終われば、まだよかったんだがなぁ……」


 疲れた声を出す主に、侍女見習いがそっとつまめる水菓子を差し出す。ナリーニ様はそれに目を向けることなく摘まみ上げ、行儀悪く寝転がりながら口へと運んだ。侍女も続きが気になるのか、今度は何も言わなかった。


「もともと精霊の子をなし、産み、育てられる稀有な女人だ。もともと人とは違っていたのだろう。精霊の子を宿したり、もともとの能力だったりが何やら転じたらしくてな。娘の守護霊みたいなことをやっとるらしい」


 それでさっきの「人としてはいない」ということにつながるのか。娘を守りたい思念だけなのだろう。人だが人ではない、のか。それが母親と令嬢にとって幸福ならいいが、歪だなとは思ってしまう。


「で。『娘を守る』というだけの存在と化した母御だ。娘に仇なす存在を絶対に許さん。諸々利権のために近づいてくる有象無象を呪いまくったらしい。軒並み却下とばかりに大小の差はあれあっちの国の貴族・有力商人その他諸々の子息は呪われておる。母御の眼鏡にかなうものはいなかったようだの。ある程度の数が却下となった段階で国内での伴侶を探すことをやめたらしい。それで仕方なく、他国に婿を求めることにした、と。ちなみに令嬢についたあだ名、は『破滅令嬢』。他国でもそのうわさが広まり、婿がねがおらん。故に仮想敵国である我が国にも声がかかったというわけだ」

「はぁ?!そりゃ婿じゃなくて人身御供とか人質っていうんだよ!!」

「わかっとるわ。お前は少し黙っておれ」


 ビーラン様の怒りもさもありなん。けれど話が進まないからとナリーニ様がたしなめると調べられたことを教えてくださった。


 どうやらあちらの若者は、下位貴族や中堅以下の商人くらいしか動けるものがいないらしい。主要な家柄の若者はほとんど呪いを食らっているとか。呪いの重さの差はおそらく令嬢に抱いた感情の差であるのか。なるほど、とビーラン様が訳知り顔になる。まぁ、この方も特殊だからなぁ……。人外の思考やらがわかりたくないがわかるのだろう。


「で、陛下から妾に声がかかってな。我が国はよそと争っている暇はない。自国の発展に注力したいのだ」

「あれこれお前がいろいろと研究やらなにやらさせているもんな」

「戦争が起きて圧倒的勝利を得ることは簡単だ、妾ならできるとも。だが、民たちの努力も、妾の考えを覆されるなど許せるはずもない。貸しを作るのも一興、さらには精霊と人との子と言うのも手に入れるのもありだと考え、ノることにした。そこでアラン、そなただ」

「私、ですか」

「うむ。そなたは神の加護があるであろ?故にある程度の災難や呪いを受けつけず、次期国王である妾の側近ということで地位も高い故、異国とはいえ公爵令嬢に婿入りするのも異論が起きにくい。さらには騎士としての力量も高く、神官家系のため加護だけに頼るでなく呪いから自身の身を守れるというのは大きい。何より妾肝いりの側近だ。妾がこの国の幸福と発展のために尽力することを何より希っていることを知り、そのために助力を惜しまぬ、そんなそなたが最適であろ?」


 まぁ、そんなアランだからこそそばから離すのは惜しいのだが、遠くにいても妾の手足となるに足るものはそうおらぬ……今回の条件に関してはお主以上に適したものはおらぬし……。と小さく続ける主に、俺は胸が温かくなる。あぁ、この方に認められているという事実がこんなにも幸福を呼び起こす。身の内から湧き上がる高揚を隠し、ためらいなくひざまずいた。


「かしこまりました。必ずや我が君の望み通り、我が国と隣国との融和のために尽力いたします」

「うむ。だが、決して死んではならんぞ。令嬢の呪いだけではない。我が国との開戦を 望んでいる一派もいると聞く。そんな低能で世界の流れを読めん雑魚のために妾や父上を『戦を起こした暗愚』などというくっだらん忌み名をつけられたらかなわんからな」

「御意」

「さて、惛約式が終わつたら、アランはそのままあちらに渡る。婚約期間も向こうで過ごすことになろう。時間もない故、準備のために下がるがよい」

「は。御前、失礼いたします」


 敬愛する主君から離れるのは何とも言えないが、この方のお役に立てるのならば。それは何たる幸福だろうか。


 主君の為に働ける喜びを胸に、俺はナリーニ様の部屋を後にし、正式な通知が来る前にでもできるだけの準備をしておくことにした。

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