今日も三日月に赤い金魚は笑う
「なろうラジオ大賞5」参加作品です。
ホラーです。
「あ! 見て、ヒロヤ」
「ん? どうしたの、マキ?」
中学生のマキとヒロヤは帰り道を二人で歩いていた。
幼い頃からの昔馴染みである二人は家も近いということもあって、中学に上がってからも部活のあとは二人で一緒に帰宅していた。
ヒロヤが上を指差すマキに導かれるように空を見上げると、
「あ、月だね」
「うん。三日月」
「でも今日のはずいぶん赤いね」
空には赤い三日月が横に倒れるようにして浮かんでいた。
「そうね。金魚が笑ってるみたい」
「なにそれ?」
マキのよく分からない例えにヒロヤは首をかしげる。
「おばあちゃんがよく言っていたの。
飼っていた赤い金魚がたまに笑うんだって。いつもは口を丸くしてパクパクしてるのに、赤い三日月の日には口角をニヤリと上げて笑うんだって。
でね、そんな日にはいつも必ず悪いことが起こるの。誰かに不幸が訪れるのよ」
「……」
上を向いているはずなのに、ヒロヤには長い髪が顔にかかっているマキの表情を窺うことができなかった。
「マキのおばあちゃんって確か……」
「うん。十年にもおよぶ連続死体遺棄事件の犯人として捕まったあと、謎の獄中死を遂げてるわね」
「……」
ヒロヤの言葉にマキは微笑みながら頷く。
「おばあちゃんはね、赤い三日月の、それも今日の笑ってるみたいな月の時にやることにしてたらしいわ」
「え?」
「だから、金魚はそれを知ってて笑うんじゃないかっておばあちゃんは言ってたわ。おばあちゃんの赤い金魚は血が大好きだからって。
そのことを、私だけがおばあちゃんから教えてもらってた。私は、おばあちゃんに似てるからって」
「……」
「おばあちゃんはね、お気に入りを自分だけのものにしたかったのよ。誰にも取られたくなかったの」
「……マキ?」
マキがピタリと足を止める。
周りには誰もおらず、森の近くのわき道はしんと静まり返っていた。
「……ヒロヤさ。この前、告白されてたよね?」
「あ、う、うん。部活のマネージャーの子ね。そういうのよく分かんないから断ったけど」
「うん、そうだね。
でも、いずれ分かっちゃう時が来るのよ」
マキは悲しいほどに笑みを浮かべていた。
吹く風がヒロヤの背中を伝う汗をヒヤリとさせる。
「ねえ、ヒロヤ。
今日は赤い三日月が綺麗ね。
きっと、赤い金魚も笑っているかしら」
そう言って微笑むマキのほんのり色づいた唇は、まるで空に浮かぶ赤い三日月のように、それを見て笑う赤い金魚のように、とても楽しそうに笑っていた。