プロローグ
『瀬原集落聞書』シリーズ、『同じ顔』、『相生の松』の前日譚です。御付き合い頂ければ幸いです。
車窓からの光に、自分の、少し色素の薄い髪が透けて鳶色に見える。
外の風景が、やけに埃っぽく、黄ばんで見える。
緑色をしている筈の木々も、薄黄色い空を背景にして、妙にコントラストが強く、黒く見える。
其れ程に木々の緑が濃いのだろう。
良く言えば自然が多い。
悪く言えば、次の世紀になっても開発の手が入らないかもしれないと思われる程の、辺鄙な場所である。
彼方此方に妙な石像が立っている。
目に入る風景は、全て、黄ばんでいて、黒っぽい。
古い、失敗したモノクロ写真を並べられた様に見えて、何だか先程から現実感が無い。
うっかり着てきてしまった中学の紺色のブレザーの制服は、ヒョロヒョロと伸びてきた手足には、そろそろ不似合いで、自分でも、如何にも子どもっぽく思える。
―プリーツスカートと紺色のリボンは結構気に入ってたけど、サイズが合わなくなってきたな。背が伸び過ぎたみたい。
真っ直ぐ伸ばした髪は、膝の裏に届くくらい長い。
―…高校入学に合わせて切ろうかと思ってたのに。
せめて結わえてくるべきだったのかもしれないが、今から彼是思ったところで、後の祭りである。
坂本佐織は、つい最近中学を卒業したばかりで、本当なら、高校に進学する筈だった。
唯一の肉親だった父親に死なれてしまったので、此れから、遥か遠く、南方に在る親戚の家に身を寄せる事になったのである。