二章 戦闘向けスキルを貰えなかった者の生き方
異世界転生モノあるあるその一。この世界はスキルがすべて。
日本にいた頃よく読んでいた所謂なろう系小説らしく、この世界もスキルが全てだ。
パワー7と呼ばれる最強の七種のスキル……またはその亜種スキルを入手できれば、無難にやれば歴史に名を遺すことすら容易いだろう。
瞬間的に膨大な魔力を生成する『闇の水連』。
無限に近い知識を得られるという『始祖の追憶』。
……特にこの二つが有名だ。戦闘スキルを得られなかった俺でも、一度聞けば十分そのヤバさが分かる。
レベルアップで覚える剣技のようなスキルと違い、この手のスキルは異世界転生したとき――またはこちらに転移したときにだけ得られる、入手のチャンスが一度だけのスキルで、ボーン・スキルと言う。
ここで有用なスキルを得られるかどうかで、その後の人生が左右されるのは理不尽な気がするが、日本にいた頃も容姿や生まれで人生を左右されたので、もしかするとそう変わらないのかもしれない。
この世界には大勢の異世界転移・転生者がやってくるが、そうでない人々がオーソドックスで使い勝手のいいスキルを持って生まれることが多いのに対し、異世界人はピーキーで、極端に強いチートスキルか、使い道が限定された外れスキルかの二パターンが多い。
かくいう俺のスキルも変わっている。
広義では『創造』系と呼ばれる最強格のスキルの系譜にあるスキルだが、その能力は全く戦闘には向かないし、かといって職人向けの能力でもない。
『食料生成』……それが俺のスキルの名だ。
三日以内に食べたものを魔力で生成するスキルで、食費が浮く以外の価値が無い、低収入者向けの……つまり貧乏人向けの節約スキルである。
ほぼ完全上位互換にあたる『天地創造』というスキルと比べて、一度に大量の食事を生成しても魔力消費が少ないらしいが、だからなんだという話である。
このことを把握したとき、軽く己に失望した。せっかくゲームみたいなファンタジックな世界に来たのなら、冒険に出たいのは道理だろう。
なので諦めきれず、最初の頃はちょっと色々試してみた。
腹に入れるかどうかが重要なら、本来飯じゃないものを無理やり腹に詰め込めば生成できるんじゃないか? ……と思い、下剤を山ほど飲んで病院送りになったのも、今となっては笑い話にしてもいいだろう。
これで下剤を量産できたら、軽度の毒薬を飲んで量産しようと考えたのだ。
しかしこれで生成できたのは大量のうんこと脂汗だけで、俺の目論見は失敗に終わった。
どうやら重要なのは腹に入れたかどうかではなく、それを食事と認識できるかどうからしい。
俺は冒険の旅に出ることを諦めた。
下剤を飲みまくり腹痛になったことで懲りたのだ。そもそも、冷静に考えて毒薬を量産できても別に強くないし。
かくして俺は迷宮に潜るのを諦め、それ以外の収入源を欲した。
「フー。悪くない湯だったな」
別に湯船に浸かったわけではなくそもそもシャワーしかないのだが、なんとなくそんなことを呟きながら俺はシャワールームを出て元の席に戻った。
いつものネカフェで、ハマっている漫画と珈琲を持って引き戸を開け、リクライニングチェアに座る。
今日はまだ寝ない。それよりも先に、すべきことがある。
『タウンクエスト』……表紙にそう印刷された、駅や雑貨屋の前に置かれているフリーマガジン。
これも異世界人が持ち込んだものらしく、日本のタウン〇ークと見た目がそっくりだ。
日本のタウン〇ークと同様に、視界に入っただけで気分が下がり食欲減衰効果もあるシロモノで、正直捨てたい衝動に駆られたが、生活が懸かっているのでやむを得ず、俺は渋々ペラリとページをめくった。
最初の方に特集として、共通点でまとめられた今週おススメのクエストがまとめられており、その後は地域ごとにまとめられている。
ファンタジックな世界らしい薬草採取やモンスター討伐のクエストはここにはない。あるのはギルドによる冒険者募集の求人で、そこに入ればそういったクエストを受注できる。
『働きやすい職場です!』
『やりがいを感じられます』
……などと耳心地のいい言葉が並び、笑顔で肩を組むパーティの写真が載っているが、コイツラは既に解散していてギルドにいない。恋のもつれの喧嘩別れで、リーダーは女僧侶と一緒に地元に帰った。
こっちで見れるのは職人系の仕事や、要人警護のような金持ちからギルドを介さず直接請け負う仕事で、大金を稼げる分労働形態の保証は無いし、怪しげなクエストも混じっている。
やたらと相場より高い報酬を提示している依頼と、治安の悪い港周辺の求人は注意が必要だ。眠りの魔法をかけられ気付けば船で蟹工船、なんて話もたまに聞く。
業務内容がフワッとしていたり、~など、と書かれた所も避けた方がいい。書いてあることとはまるで違うことをさせられることがあるからだ。
そしてそういう怪しいものを省いていくと、パッとしない依頼だけが残る。そこから俺のような何一つ実用的なスキルを持たない人間が選べる仕事を、近隣でえり好みしつつ探すと、大量の求人が書かれているはずのこのマガジンでもヒットするのは一、二件だ。
「うーむ……」
ホントはネットカフェで独り言は厳禁なのだが、ついうっかり呟いてしまった。
チッポケな労働意欲が刺激された依頼は二つ。
魔導具工場の軽作業……誰でもできるカンタン作業♪
探偵の助手……週一からOK! 始めは簡単な事務作業から。
軽作業はたぶん、量産された壺に穴がないかチェックして、水を入れて魔法陣がプリントされたシールを貼る仕事だ。
下級聖水を作る仕事で、似たようなものを何度もやったことがある。死ぬほど単純で退屈だが、難しい要素はない。報酬もぼちぼちだが。
探偵の助手は……面白そう! という他に何もない。ファンタジックな世界にいるのに何一つ冒険できていないから、ならこういうの欲しいな、というところである。
ミステリーはそこまで好きなわけではないが、コ〇ンと金〇一はちょいちょい読んでいたし、ホームズとかビブ〇ア古書堂とか、王道、流行りの物は最初の数冊手を出したことがある程度には好きだ。つまり、ミステリー「も」好きって言えるくらいには好きだが、ミステリー「が」好きだといえるほどには好きじゃない。そんな感じだ。
無難を取るか、興味を取るか……。
一瞬、目を瞑って考える。
「……よし」
俺は興味を優先することにした。
できえば 感想 宜しくお願い致します。