プロローグ
――幼い頃から、家が嫌いだった。
仕事に疲れ、毎日のように深酒する母。転勤ばかりで、滅多に帰ってこない父。
母は常に明かりもつけずに暗い部屋で、憂鬱そうな顔を浮かべていて、父は子供との距離感が未だにつかめていなかった。
二人のことが嫌いだったわけじゃない。ただ暗く殺風景で、でもそれでいて人の営みが僅かに息づく我が家が嫌いだった。
高校の時、雪花の家に入り浸るようになってからタガが外れたように思う。あの頃から、俺は外泊が増えていった。
友人の家、ネットカフェ、二十四時間のフードチェーン、果ては公園のベンチ……。
外泊して帰るたびに、母は不安そうな顔で、じっと俺を見つめた。そして何か言おうとして……結局、そっと顔を逸らして自室に戻り、また新しい酒瓶を開けた。
当時はそれを見るたびに、無性にイライラした。母を弱い人だと蔑み、父をいないも同然の人間として扱うようになった。
大学を機に1人暮らしを始めてから、俺は一度も実家に帰っていない。だから、母と父はきっとあの頃のままだろう。
ある日突然異世界に転移してから二年。
特に不満のない日常を過ごしつつ、俺は時折二人のことを思った。
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