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明日になれば

作者: そら

いろいろあって離れていましたが、少しずつ少しずつ書いていこうと思います。

仕事がお休みの時に、少しずつですが。

 ゆっくりゆっくり息を整える、静かにけれど体深くまでいきわたるように。


 閉じた瞼に浮かぶのは、嫌な思い出ばかり。


 どうしてあの人は私をののしるのだろう、私はあなたから生まれてきたのに。


 どうしてあの人は私を叩くのだろう、叩かれるたびに逃げ場のない私はよりいっそう、体を縮め心を縮め考えることもやめたのに。


 息をひそめ、自分が空気みたいになれたらどんなにいいかと憧れた幼少時代、目につかないよういればいたで、そんな子供らしからぬ私が嫌だとあなたは私を叩きながら泣く、こんな子供が嫌だと嘆く。


 いつもあざだらけで、運が悪ければ骨も痛めていた子供の私が生きていけたのには理由がある。


 この辺りに住む大人はみなこんな感じだし、同じようにここで生まれた子供たちもまたこんな感じだからだ。


 ボランティア団体がこの地域にはいて周回をしては、大人も子供もまずそうなものはそこに一時は保護してくれる。


 ここで暮らす子供が運よく一人で出歩けるまで育てば、一番最初に覚えるのは、空腹のときはあの場所の前にいけば食べ物がもらえるということだった。


 生きていくために私もそれに並びそれが当たり前になった時母親が帰らなくなった。


 そういう親と暮らさぬ子は一定数いて、それぞれに居場所を見つけ生きていた。


 子供たちだけで生きているのをそこでは誰も気にしなかった。


 そんな小さな子らにも知恵があり、ポロポロ上手に泣ける子は、そっと彼らから飴などもらっていた。


 考えることをやめた私やボランティア団体にも反抗的な子供らは、そんな中でも一定数いて、彼ら団体の言う誰にでも与えられるあたたかいシェルターを素直に受け取ることができなかった。


 けがした時、ヤバい時、空腹に我慢できないとき、そんな時にはその施設に向かうけど、ギリギリまで私たちは、そこにはいかなかった。


 その周辺をうろうろとして、安全な場所を見つけると皆でそこで暮らすということを繰り返しながら生きていた。


 古ぼけた建物の屋根の下でも小さいのは3歳くらいから大きいのは9歳くらいまでの8人のグループだけどみんなで眠れば怖くなかった。


 たまに住人がいなくなった部屋を見つけることができても、すぐに大人にみつかりそれを取り上げられた。


 一番上の男の子が通称ばんちゃん、片方の目がよく見えない、私たちが見つけたその部屋にやってきた数人の大人にさからって殴られてから見えなくなった。



 私たちはものを知らないらしい、ボランティアのお姉さんが前に言ってた。


 確かあの時は義務教育の子なのに学校にもいかないなんてと別のボランティアのおばさんと話してた。


 おばさんは戸籍がどうとか話していたけど全然わからなかった。


 ばんちゃんがボスでサブが星くん、星が大好きだから星くん。


 ばんちゃんよりちょっと小さいくらいで、ばんちゃんが9歳くらいだから自分は8歳でいつかこんな星じゃなくきれいな星が見たいんだって。


 大きくなったらどこかきれいな星を見に行くんだって、そんな星くんを私たちみんなで早くいけるように応援してる。


 次に大きいのがちゃんと名前がある洋子ちゃん。


 洋子ちゃんは誕生日も言えて7歳で小学校もいったんだって、だけどお父さんが仕事で失敗してお金が返せないから、ここにきたんだって。


 はじめはお父さんもお母さんもいつものお父さんとお母さんだったけど、だんだん怒ってばかりになって、泣き虫になって、ある日起きたら二人ともいなくなっちゃったんだと言った。


 それからちゃんとした施設というところに連れていかれそうになって逃げてきたんだって、そうだよね、泣き虫のお父さんとお母さんだったら、待っていてあげないと泣いちゃうよね。


 私たちは洋子ちゃんを先生と呼んでひらがなと計算を教えてもらってる。


 教えてくれる人を先生と呼ぶんだって、他にも優しくて殴らないし怒鳴らないお父さんとお母さんの話しを洋子ちゃんに聞く。


 その時はみんなぽわっとした気持ちになる、私たちはしらないから。


 素敵な小学校という場所の話しを聞くと給食というごはんも出してくれていろんな事を教えてくれる先生がいるという。


 隙を見せるとろくなことをしてこない大人と子供しかいないここにいる私たちは、そんな楽園が本当にあるなんて驚きだった。


 楽園と言うのは神様が見守っていてつらいことも何もない場所なんだって、これも洋子ちゃんから聞いた。


 洋子ちゃんは前に住んでいたところの教会という所に通っていたんだって、お父さんとお母さんと。


 洋子ちゃんの話しはワクワクして不思議だった。




 みんなでいろんな話しをしながら、暗い夜も嵐の日にも当たり前に普通に過ごしてた、1日、1日といつも通りに。


 いつも先に寝ちゃう小さいちび助二人がくるんと2人丸まって寝てるのをみながら、いろんな話しを毎日しながら。


 繁華街のどこそこに新しいお店ができたから、朝早くいけば食べ物が捨てられてるかも、とか、今度のごみの日はどこそこに行ってみようとか他愛もない情報交換もしながら。


 まるで隠された宝物の話しをするように、ドキドキ期待を込めたりして。


 そういう仲間と時間があたたかい気持ちなら、ここが私たちのあたたかい場所なんだね、と洋子ちゃんが言うからみんなで照れながら笑ったりした。


 洋子ちゃんはごはんをもらいに行くときは、かっちゃんと呼ばれる洋子ちゃんと同じくらいの男の子とせっちゃんと呼ばれる女の子と行く。


 この2人は私たち以外はすごく威嚇して、体中の傷跡もひどいからボランティアの人たちもつい目をそらすから、洋子ちゃんが目立たないんだ、洋子ちゃんは連れていかれたくないんだもの。




 いつも通りに毎日が過ぎていくと思っていたのに、信じられないあの日がきた。


 洋子ちゃんとかっちゃんがあの新しいお店の前にビニールに入ったクッキーがおいてあったと大喜びで帰ってきた。


 ラップで白い紙で1枚ずつ包まれたそれをキラキラと嬉しそうに眺めそっと1枚ずつはがしておいしそうな甘い匂いにみなでゴクリと唾を飲み込んだ。


「なんだこれ!」「すげー」みんな大興奮だった。


 大人の真似をして乾杯とクッキーを持ち上げ一斉に食べた。


 私とばんちゃんはチビたちに持たせてそれぞれに食べさせた、そして自分たちも一口食べ始めたその時一斉に声が、苦しむ声が聞こえた。


 何事かと見れば皆がうめき声をあげて苦しんでいた。


 そして私も急激な腹痛、吐き気、めまいに襲われた。


 かすむ視界の先で倒れ苦しむ仲間の姿が見え、私はそれっきりわからなくなった。



 私が気が付いたときは病院の中で、隣にはばんちゃんがいて私をじっと見ていた。


 私が目覚めたことを知ったばんちゃんは静かに静かに涙を流した。


 泣いた姿など見たことなどない私はばんちゃんに声をかけようとして、そのまままた眠ったらしい。



 私がしっかりとおきられるようになって、警察の人に聞かれたことを話した。


 ばんちゃんと同じようにあの新しい店先から持ってきたクッキーの話しを。


 他の子はどこにいるのかと聞くと、大丈夫だと言う、誰に聞いても。


 私たちはニュースになり、何がなんだかわからないうちに、いろんな人がきていろんな事を言ってきた。


 その中の議員という人が、君たちだけでも生き残った奇跡とか言った瞬間、ああ、ああ、ああと私は思った。


 心が荒れ狂ってるのに体はそのままで、ばんちゃんをすがるように見た。


 ばんちゃんはその見えない片方の目も見える目もすべて真っ黒にどこまでも暗くしていった。




 その後私は祖父母という人に引き取られた。


 家出した娘が私を生んだのを知らなかった、警察から連絡がきたので驚いてすぐにきたかったが、娘を探して娘から話しを聞いたり、ちゃんと娘の子だという証明がどうとか言っていた。


 私はあの人ともども引き取られたわけだ。


 あの人と話せるわけがなく、話すな、見るな、存在するなと言われ続けて、逃げたのだもの、今更どうしていいかわからないし、この祖父母は祖父母で字も書けない読めない私を見てはかわいそうにと言う。


 苦労をした娘が不憫だともいう。


「かわいそう」なのは私じゃない、あの人じゃない。


 星が見たかった星くんやお父さんとお母さんを待っていた洋子ちゃん、かっちゃんたちは、傷つけられずに眠れるここが楽園だとやけどや傷が残る体なんてここにくるため、そのためだったんだと笑っていたのに。


 そうしてチビたち、何が好きかすら知らないまま死んじゃった。


 甘いものなんか私たちは食べられなかったから、私は絶対あの味は忘れない、一口しか食べなかったけど優しいふりしたあの味は。


 いつも2人でくっついたままいたっけ、じっと様子をみながらいたチビッ子たちに、私たちのいるところではその必要がないことを覚えさせてしまった、信じさせなきゃよかったんだ。


 道端に転がっていた肌の色の違う子を拾ってきたのは星くんだった。


 兄弟にしては体の大きさも微妙に違うし、顔かたちも違うけど小さいんだからと、ボランティアの所に連れていったら親がせめてここの国ならと言いながら預かってくれたけど、しばらくしてまた路地に2人転がっていた。


 星くんはよく星をみてくるっていっては、子供を拾ってきた。


 ばんちゃんもそう。


 ちゃんとそのまま保護される子と保護できない子の差なんて私にはわからない。


 おチビたちが遊ぶようになって、笑うようになって・・・それを私が壊した。




 今私は中学校に通い、夜には星を見て淡々と毎日を過ごす、みんなの代わりに過ごす。


 あのお店の人はネズミ捕りのつもりで毒入りクッキーを作ったという、わざわざ綺麗に包装して。


 あの男の人にはゴミあさりする私たちが本当にネズミと同じ存在だったんだろう。


 ネズミな私たちには殺人罪が適用されなかった、勝手に駆除剤をもっていって食べてしまった愚かな気の毒な戸籍のない子らしい。


 ギリギリギリギリ歯ぎしりの音がする、落ち着けキュン、キュンというのは私の名前、星くんがつけてくれた大事な名前。


 ここでの名前なんて関係ない。


 あふれる思いが荒れ狂う、笑え笑え、とがった牙は隠して笑え、心を見せるな、思い出せ。


 あの店主が謝りにきたとき、私とばんちゃんは奴にとびかかった、かみつき暴れた。


 そんな暴れる私たちと違ってあの店主はひたすら涙を流し謝り続けた、周囲の人間はそんな店主をかばって暴れる私とばんちゃんに、蔑みの視線を向けた。


 やはりこの子らはという視線だった。


 それでも私たちは暴れるのはやめられなかった、だってみんなは暴れて怒ることもできないんだから。


 この嚙んでる歯から毒がでればいい、なぐるこぶしから刃が出ればいい、けれど私たちは子供の手と歯と体しかなかった。


 あの店主の慰められ出ていくときのあの目、一瞬私たちをみて嘲りを浮かべたあの目を忘れるものか。





 夜寝る時には嫌なことばかり思い出すから、歯ぎしりを抑えながら一つずつ幸せなことを思い出す。


 降り続く雨の続く日は、誰のお腹のなる音が大きいかを競って、なぜか小さいくせにチビたちが優勝したあの日。


 雨上がりの早朝に都会とは思えない綺麗な空気の匂いや水たまりをみんなで跳ね回って、これがジュースだったらなと、お腹をぐうぐう鳴らしながら笑い転げた朝。


 大きな満月の夜は星くんが、月も好きだなと路地を駆け回り、それを追いかけてかげふみ遊びをした夜。


 そしてボランティアの人たちの所に行く昼。


 なぜかそこではみんな不愛想な顔になり、大人にあまりいい思いがなかった私たちは不器用でかまえすぎていたから。


 その帰りの道では、あまりに不愛想すぎる仲間たちの物まねで大爆笑した、こんな返事はないよなあとたった1音でボランティアの人たちに「ん」と聞かれたことに答えたかっちゃんをからかった。


 みんなで「ん」と大きな声をあげながら。


 一つ一つ思い浮かべながら私はその匂いや声を思い出し大丈夫だよと仲間に微笑む。


 大丈夫、大好きだよと微笑む。





 あの人がまるで何事もなかったかのように、このごろ話しかけてくる。


 あの人いわくあまり贅沢はできないけれどとプロポーズされたらしい。


 祖父母もとても喜んでいる。


 何か私に言ってくるけれど私には関係ない、好きにすればいい。


 私は私として生きていくだけだし、この保護された円の中に入ったからには、受け取れるすべてを受け取るだけだ。


 あの子たちの分まで。


 静かに微笑みながら、静かに爪を研ぎながら。





























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