メリッサ視点 4度目の正直はあなたのもとに
メリッサ・カナン…それが私の名前。
他人を信じたがゆえに何もかもを失い人生がめちゃくちゃになった愚か者の名前である
幼いころは普通の少女だった…と思う
もう100年近く前の話しだからよく覚えてない
ただ両親のことはよく覚えている
母親はほとんど家に帰らず、たまに帰ってきては硬いパンをおいてまたどこかに知らない男と出かけていく
そして父親はいつも酒に酔っていてよく私たちに暴力をふるっていた
私と妹のサーシャはいつも二人で震える毎日を送っていた
ある日、完全に両親が家に帰らなくなった
理由はわからない。とにかく両親が帰ってこなくなった
そして残された幼い姉妹に何ができるわけでもなく、無力な私たちを置き去りにしたまま物事は進んでいく
結果として私たちは住む場所を無くした。
最初に他人を信じたのはその時だったかもしれない
手を差し出してくれたのは優しそうな顔をしたシスターだった気がする
そのシスターが経営しているという孤児院…そこが私たちの新しい居場所だった。
でもそこは地獄だった
シスターは国からの援助費が目当てで孤児を引き取っていたのだ。
当然お金だけが目当てなのだからそれが私たちに使われるわけもなく満足な食事も与えられず住処を提供してるのだからと労働させられ、隙間風や雨漏りはもちろん虫やネズミが這いまわるような場所で薄い布だけを渡されて眠る毎日
なんで私たちがこんな目にあうのか向けどころのわからない恨みや怒りだけが溜まっていった
そんな日が数年続いた時だろうか
一人の老人が孤児院にやってきたのだ
そしてその老人は私たち姉妹を引き取りたいと申し出たのだ。
この地獄から抜け出したかった私たちはすぐに飛びついた
シスターは渋っていたようだか老人から多額のお金を提示されたらしく喜んで私たちを手放した
「おぉこんなになってしまって…つらかっただろう?もう大丈夫だよ」
老人にそう声を掛けられ私は嬉しくて泣いてしまったような気がする
そしてこれが他人を信じた2回目
そしてその老人は犯罪組織の首領だった
王国に不満を持つものがあつまった反王国組織
私たち姉妹はそいつらに目を付けられてしまったのだ
なんでも私たちは普通の人に比べて魔力量がかなり多くまたその質もかなりよいというその筋の人からすれば奇跡のような存在なのだという
それを知っていたなら自分たちを宮廷魔術師にでも売り込んでいればそれこそ幸せになれたかもしれない
しかし私たちを手に入れたのは人の形をした悪魔たちだった
それからは過激な人体実験の日々だ
痛くて苦しくて辛くて逃げ脱せなくて
唯一の救いは食事と寝どこだけはちゃんとしていたことだろうか
彼らにとって私たちは貴重な実験動物だ。死なれてはこまるとの配慮だったのだろう
でもだからこそ辛かった
死にたくても死ねないそんな地獄を耐えられたのは妹がいたから
この世界に残った唯一の肉親
ただ一人残った大切な存在
絶対に負けるものかと私たちは二人で地獄を耐え抜いた
気づくと私たちは魔女になっていた
長い寿命に老いぬ身体、尽きぬ魔力に強靭な肉体
地獄に長くいた私達は人間ですらなくなった
周りの悪魔たちは実験は成功だとかこれで王家を亡き者にできるとか言っていたが私がまずやったことはその組織を跡形もなく消し飛ばすことだった
みんななぜだとか育ててやったのにとか言っていたがこちらからするとそれこそなぜ?だ
激情のままにあたりを破壊しつくして、その場には更地だけが残っていた
次に例の孤児院に向かったのだが…きれいさっぱりと無くなっていた
今となってはどうなったのか知る由はない
それからはずっと妹と二人、人目につかない森の中で結界を張り静かにくらしていた
穏やかな日が90年くらい続いたのだろうかサーシャが倒れたのだ
魔女となった私たちは寿命なんてまだまだこないし老いもないしこの90年ほど病気のひとつだってしたことはなかった
なのになぜ?
治癒の魔法をかけても効果はなく薬も効かない…
そして日に日に弱っていく妹をつれて頼ったのは王国だった。
魔法にくわしい王国なら魔女の事もこの病の正体もわかるのではないかと
そして他人を信じた三回目
国王は私に言った
妹の治療をするかわり王国の命令を聞いてもらうと
私は妹のためならなんだってする
それからは今までとかわって忙しい日々だった
魔法の実験にも付き合ったし魔物の討伐にむかったこともあった
表には出せない仕事をこなしたこともあった
ほんとはわかってる
あいつらは妹の治療をする気なんてないってことくらい
できないだけかもしれない
でも私を利用してることだけは真実だろう
それでも
妹が助かる可能性がすこしでもあるなら私は…
そこからしばらくして私は国王からの命令でとある家にメイドとして潜入することになった
なんでも帝国から友好国の証として帝国から移り住んできた帝国貴族に領地を与えたらしくそいつらの行動を逐一報告せよという命令だった
それを私がする必要があるのかと思ったがどうやら私を王宮から引き離したいと考えているらしい
好きにすればいいと私はもう何もかもがどうでもよくなってきていた
その家は…なんというか王国しかしらない私からするとかなり異色な家だった
全てが独特でやりにくいなと思った
そして私は王国出身だからか同じ王国民である奥様に気に入られてた
そしてお嬢様の専属に任命された
奥様には気に入られている私だがどうやらそれ以外の人にはあんまり好かれていないようで
特に旦那様の右腕
家の使用人にはカシラとよばれている人に警戒されている
数か月に一度使用人が集まっての会議があるのだが私はそこに入れてもらえない
「お前はダメじゃ。ここには入れれへんわ」
「…なぜでしょうか」
私としては王国に報告しないといけないのでなんとかして参加したいのだが
「お前はうちの家族やない。そんなやつを大切な集会に参加させるわけにいくかいな」
「…ここの使用人に血のつながりなんてあるのですか?」
「アホか!んなこと言っとるんちがうわ!この家のもんはなみんな家族なんじゃ!しかしお前からはそれを感じん…そない獣みたいな目したやつ家族なんて言えるわけないわ」
「はぁ…私にはよくわからない事ですが…では失礼します」
馬鹿らしい
なにが家族だ
他人なんて信じるやつは馬鹿を見るだけ
きっとこいつらもすぐに思い知る
「おいお前…姐さんに気に入られてお嬢の専属になったがワシはお前の事信用しとらんからな!お嬢に何かしてみぃ…この命にかえてもお前の命とったるからな」
「肝に命じておきます」
ほんとに愚かなこと
この家の者全員が束になったって私にはかなわないのに
私はお嬢様が嫌いだ
生まれつき魔力が一切ないという私とは真逆の子供
そのくせ家族からも使用人からも愛されて
いつもへらへらして…幸せそうに
むかつく
魔力がないくせに無力な子供のくせになぜそんなに笑えるのか
腹が立って仕方がない
そしてお嬢様が7歳になった時だった
私の運命が変わったのは
「これは賭けよ」
そう告げられて伸ばされた手
その言葉はむちゃくちゃで荒唐無稽で
でも不思議と引き込まれるような
この人を信じるのが正しいのだとそう思わせる何かがあった
そして4回目私は他人を信じた
これが最後だとして
全てを終わらせるつもりで
不思議と心が軽くなるのを感じた
あぁこれで良かったんだと何も始まってないのに思えた
それからはいろいろと大変な毎日だった
お嬢様に引きずられていろんなことが起きて
でも悪くないと思える私がいた
そんなある日
「おい」
廊下を歩いてるとカシラに呼び止められた
「何か御用でしょうか」
「御用でしょうかあらへんわ!いまから集会やぞ。はよこんかい」
「私は参加できないのでは…?」
「誰も「お前」が参加できんなんて言うとらん。「家族」が参加できんって言うたんや」
「同じことなのでは?」
「違うわドアホ!今のお前は間違いなくワシらの家族じゃ目を見りゃわかる。ぐだぐだ言うとらんとはよこんかい」
よくわからないまま私は初めて使用人の集会に参加した
あの日お嬢様の手をとって全てが変わった
おそらく今私は幸せなのだろう
そう思えるのはまだ少し未来の話し
ちなみに重要な会議だと思っていたそれはただの飲み会だった