決着の後に
キースロイスは今までにないほど激怒していた
憎いあの帝国の女を皆の眼前でさらし者にしてすべてを奪うチャンスだったというのに失敗した
やはり身分差をどうにかしたいなどとのたまう女の言う事など信じるべきではなかったとすべてをクリスライセのせいにしていた
「くそ!どうしてこうも無能しかいないんだ!」
なにかに無性に怒りをぶつけたいがそれよりも今のこの状況をどうにかしなくてはとキースロイスは考ええる。
どうにかしてこの状況をひっくり返せないかと…やがて彼はまたもや自分に都合のいい思い込みを爆発させる
「この決闘はクリスライセ・レーテルの勝利とする!」
「はぁ!?」
そのキースロイスの宣言にさすがに周りの生徒たちもざわめく
何が起こったかはわからないがどう考えても負けたのは今絶賛気絶中のクリスライセだ
一体どういうことだ?と一同がキースロイスの次の言葉を待つ
「お前たちよく考えろ!今の戦いは明らかにおかしかっただろうが!そしてこいつはあの帝国の女だぞ!?なにか卑怯なことをしたに決まっている!」
それは何の根拠もないいちゃもんであった
しかしこの中で最も権力を持つものがそう言い張り、周りもそれに同調したならば真実となる
「そうだな…あの悪女の事だ…なにか卑怯なことをしたに違いない」
「たぶんあそこにいる使用人たちになにかやらせたんだわ…」
「ほんとに卑劣なやつだ」
どんどん広がっていくヒスイへの批判にキースロイスはどんどん気を良くしていた
(そうだ、これが正しいんだ。俺からエリナリナを奪う悪女が!思い知るがいい…そして愛しのエリナリナ。もうすぐ君を迎えにける)
キースロイスはエリナリナに熱い視線を送ろうとして…エリナリナと目が合った
一瞬だけ、ほんの一瞬だけ彼女が自分を恐ろしい目で見ていた気がした
しかし今はいつもの可憐な顔で自分のことを見ていた
(僕としたことが疲れていたようだな…僕も彼女もお互いを愛し合っているのだしまさか彼女があのような目で私を見るはずもない)
そしてキースロイスはまたもやヒスイへの怒りをたぎらせていく
思えば学園に入学したその日からエリナリナに声をかけたかった
だというのに毎日毎日あの女がエリナリナと一緒にいた
恥知らずにもあの女は魔力もない卑しい帝国人の分際で龍の巫女という僕にこそ相応しい女性を使用人のように扱っていたのだ
僕も何度も彼女を助けようとしたがこちらの手の者を行かせてもすぐにあの女がエリナリナを連れて行ってしまう
あげくにはこの僕が直接話しかけても「ヒスイ様に呼ばれているので」と早々に立ち去ってしまう
あぁ忌々しい
だがそれもここで終わりだ
決闘という法律で決められた神聖な試合でルール違反という愚行を犯した自分を恨め!
と悦に浸っていた時
「殿下」
静かに自分を呼ぶ声が聞こえた
振り向くとそこにいけすかない顔をした教師がいた
たしかディースとか言ったか?
水を差されたと不機嫌になりながらも呼ばれたからには対応する
「なんだ?」
「はい。学園長からの伝言を預かって参りました」
「なに?」
「国王陛下からすぐに戻ってこいとの連絡をいただいたそうです」
父上が僕を呼んでいるだと?なぜ?
思案しても答えは出ない
「此度の決闘の件で話があるそうです」
「なるほどな…そういうことか…」
おそらくは「よくやった!」とかそんな感じの言葉をかけたいのだろう…ふふっ父上の喜んでいる姿が目に見えるようだ
「殿下、急がれたほうがいいかと…今すぐにとの事ですので…あとこの場は一度保留にされたほうが賢明かと」
「なに?なぜだ?もう決着はついているではないか」
「決闘のことでの話という事ですし…とりあえずはそちらのほうがいいかと」
「ふむ一理あるか…まぁいい。結果はかわらん。この場は一時保留とする!」
そう宣言してキースロイスは上機嫌で去っていく
「…馬鹿が。うちの妹をコケにした罪は重いぞ」
ディースのそのつぶやきを聞いたものは誰もいなかった
翌日、決闘はヒスイの勝利という結果が発表され
キースロイスはその頬を力いっぱい殴られたかのように腫らして登校してきたそうな
そしてさらに数日後
クリスライセ・レーテルは一人焦っていた
気絶から覚めてみれば自分は決闘に負けていた
「なんてひどい人なの…私は正々堂々と本気でぶつかっていったのに…まさか決闘の場さえ卑怯な手を使うなんて…」
彼女もまた自信を正当化していた
しかしその自分よがりの勝手な思い込みで行動した結果彼女は全てを失っていた
レーテル家の爵位がはく奪されていたのだ
これはヒスイ…ひいてはエリナリナの機嫌を損ねないための国王の決定なのだが彼女はやはりすべてがヒスイのせいだと考えていた
「まさかスズノカワ家の力がここまで強かったなんて…権力に屈するなんてありえてはいけません…抗議しなければ…そして我が家に再び爵位を」
「クリスライセさん」
いつの間にか目の前にエリナリナが立っていた
そしてその後ろには見慣れた者たち…レーテル領の平民たちがいた
思わずクリスライセは笑みをこぼした
「あぁ龍の巫女よ…私と手を取ってくれる気になったんですわね。共にあの悪女を倒しましょう!」
手を伸ばすクリスライセにしかしエリナリナはその手を取らずにじっと感情の読めない目で見つめていた
「…どうしたのです?龍の巫女。さあ手を」
「お断りします」
「は…?なぜですか?ここにその平民たちと共に来たということはこの手を取ってくれるという事ではないのですか!?」
「私があなたに会いに来たのは釘を刺しておきたかったからです」
「釘…?」
「はい。もうこれ以上私たちに…ヒスイ様にかかわるのはやめてください」
ぺこりとエリナリナが頭を下げた
クリスライセはそれを痛ましく思った
きっとあの悪女に脅されたのだろうと
「しっかりするのです!龍の巫女!あなたはすばらしい能力を持っているんです!あの悪女に屈してはいけません!」
「はぁ…あの、いい加減にしてください」
「なにを…?」
「もううんざりなんですよ。殿下もあなたも…自分が正しいと思い込んで人の話を何も聞いてくれない…私だけならまだしもヒスイ様まで…もう我慢するのも限界なんです」
「思い込む?私が何を思い込んでいると?」
「そうですよね、わからないですよね…だからこの皆さんに来てもらったんですよ」
エリナリナのその言葉で後ろにいたレーテルの平民たちが前に出る
「あなた達も私を心配してきてくれてんですね?でも大丈夫。すぐに持ちなおして…」
「俺たちは今日あんたにお別れを言いに来たんだ」
クリスライセの言葉をさえぎって平民の一人がそう言った
「お別れ…?」
「ああそうさ!俺たち全員あんたにはうんざりしていたんだ」
「何を言っているんです…?」
「あんたのことが嫌いだったって言ってるんだよ!」
突然の平民の発言にクリスライセは混乱していた
なぜ?なんで?彼女の頭に浮かぶのはそんな疑問ばかり
だが彼女はやがて一つの答えに行きつく
それはもはやお決まりの
「あぁ…あなたたちもあの悪女に何か言われたんですね?でなければあなた達平民が私にこんなこと…」
「そういうところだよ。」
「はい…?」
「なぁあんたさ俺たち平民と貴族の身分差をなくしたいって言ってたよな。偉そうにしてる貴族が許せないって」
「ええその通りですわ。それは近くで見ていたあなた達平民が一番わかっているじゃないですか」
「じゃあなんで俺たちを平民って呼ぶんだよ」
クリスライセは意味が分からなかった
みんなが何を言っているのか理解できなかった
「だってそれは…」
「何をするでも俺たちの事を平民平民って…あんたが一度でも俺たちの事名前で呼んでくれたことあるのかよ!あるなら俺たちの名前を誰か一人でも呼んでみろ!!」
彼女はそこにいる誰一人の名前もいえなかった
「そんなこと言わないでくださいまし…不満があるなら言ってくれれば改善します。だから私と一緒に頑張りましょう!この革命の乙女が…」
「もうそれもいい加減にしてくれよ!何が革命の乙女だ馬鹿馬鹿しい…偉そうな貴族が嫌い、平民の血税を無駄遣いしてるのが許せない、平民を虐げるのなんて言語道断…それ全部あんたがやってる事なの本当に気づいてないのか?」
「…?」
「終わってるよあんた…」
「ちょっと待ちなさいよ…私がいつそんな醜い貴族のようなマネをしたというんですの!?」
周りの平民たちがかわいそうなものを見るような目でこちらを見つめてくる
なぜそんな目で自分を見る?クリスライセはこの状況のすべてがわからなかった
「あんたは俺たちにどんな些細な事でもやらせるよな。靴を履かせろ鞄を持てご飯を飲み物を持ってこい次の授業の用意をしろ!これでもかってくらい俺たちに上から命令してたじゃないか」
「それにいつも高い服やアクセサリーを買って回ってますよね…?私はあなたにいつも連れまわされてました。こっちの予定も聞かずに…もちろん私は荷物持ちでした」
「税も日に日に上がっていって生活も苦しくなっていくばかりでした」
周りの平民たちから次々と不満の声が上がっていく
それは長年ため込まれた彼らの怒りの声だった
「………」
「で?それで身分平等をうたうあんたは俺たちに何をしてくれたんだよ?搾取されただけじゃないか俺たちは」
「わ…私についてこれたじゃないですか!?光栄だったでしょう!?この革命の乙女と一緒にいるという優越感に浸れたでしょう!?それに私は命令なんてしてませんわ!全部お願いじゃないですか…服やアクセサリーだって最低限整えなくてはいけない身だしなみってものがあるのくらいわかるでしょう!?文句ばかりいわないでください!あなた達平民は私が!この革命の乙女が導くんですからおとなしくついてくればいいんです!!!!」
全てぶちまけられたクリスライセの傲慢な考え
それを聞いた平民たちはもう伝えることを諦めた
どちらにしろ彼女はもう終わりなのだから
「まぁもういいんだ…あんたも平民だからな。これ以上はもう一緒にいる意味もないし」
「うん…なんだか疲れたね」
「もう行こう」
平民たちはクリスライセに背を向け立ち去っていく
「ちょっと!どこに行くつもり!?私の側以外にあなた達に行き場所なんて…」
「俺たちは今あんたが負けた相手…ヒスイ様のところで世話になってるんだよ」
「あの悪女のもとに!?騙されてますわあなたたち!」
「悪女ね…あんたはそう言ってたけど…俺たちにはあの人が悪女には到底思えないよ。あんたみたいにいちいち命令してこないし。俺たちにお礼とか言ってくれるんだぜ?」
「この前…ご飯がおいしいお店に皆連れて行ってもらいました…」
「お金も稼いで領民に還元してるそうですよ…どこかの革命の乙女さんとは大違いだ」
「騙されています!それがあの女の手口なんです!」
「騙されてたとしてもあんたよりはマシだよ…じゃあな平民の革命の乙女さん」
結局クリスライセのもとには誰一人として残らなかった
「そんな…どうして…」
「そういう事です…自分が何をしていたか少しは理解できましたか?」
「こんなのおかしいですわ!全部全部あの女が仕組んだことに決まってます!!!」
「あの一つ言っておきますけど…あんまりあの女とか言ってると大変なことになりますよ?」
「はい?」
「あなたの領地、今はスズノカワ家の領地になってますからね…あなたはヒスイ様の家の領民なんですよ?」
「そんな馬鹿な話があるわけない!なんであんな悪女の家に誇り高き我が家が!」
「…あそこの皆さんはヒスイ様に害をなす人を許しません…そして」
クリスライセの眼前
目と鼻の先にエリナリナ顔があった
「この私も、これ以上は許しませんよ?」
「ひっ…」
その時クリスライセは「恐怖」を感じた
あらがえない絶対的な恐怖
その日を最後に彼女は学園を去った
荷物をまとめ逃げるように領地に戻る姿が確認され、その後の彼女がどうなったかは学園の誰も知る由はなかった




