メリットなき決闘
王宮にある王室でキースロイスが父である国王と何かを話していた
「父上!なんでこんなものを!僕があの女と婚約していることは秘密だったはずです!」
「おちつくのだキースロイスよ」
「落ち着けるわけないじゃないですか!なぜ突然こんなことをしたのですか!?」
「お前とあの娘が婚約することは大きな意味があるのだ。お前にとっても悪い話ではないだろう?長年婚約を続けてきたのだ、もう発表しても問題はあるまい」
キースロイスは拳を握りしめた
あいつとの事を父上に話ておかなかったのは間違いだったのか…いやしかし…と彼の考えは纏まらない
「きけキースロイスよ…これはもう変えられぬ事なのだ…詳しくは話せぬがわかってくれ」
「…!」
キースロイスはそれですべてを理解した
なるほどそういうことか!あの女が裏で手を回したんだ!
やはりあの悪女をこれ以上放っておくことはできない…!父上もきっと僕ならこの状況をなんとかできると考えてこういう手段に出たに違いない!
「わかりました父上…僕におまかせください」
「おぉ!わかってくれたかキースロイスよ!」
「はい。では僕は行きます。吉報をお待ちください」
「あぁ頼んだぞ我が息子よ」
国王は息をついた
キースロイスがあの女などと言ったときはびっくりしたがあの様子では照れ隠しか何かだったのだろう…
ぜひともこの婚約を成功させて龍の巫女を手中に収めるのだ
そして次の一手を考えていたその時
目の前で大きな炎があがった
その炎に見覚えがあった国王は恐怖で顔をひきつらせた、周りに居た臣下達も同様だ
やがて炎が収まり、そこに現れたのは龍の巫女だった
「こんにちは」
「な、なにをしにきた」
「何をしにきた?これを見て私が何もしないと本当に思いました?」
エリナリナが突き出したのは例の婚約発表のビラだった
「こ、これの何が問題なんだね?あの二人は正当な婚約を結んでいるだけだぞ?」
「どの口がそんなことを…!」
エリナリナの周りが燃えているように見えた
どんどん高まっていく濃厚な魔力の気配に全員が逃げ出そうとしたその時
「はいは~い、すみませんね~」
一人の女性が現れエリナリナの腕をつかんだ
その女性はメイド服を着ていた
「お前は…」
「あ~、私は初対面なんだけどあなたたちは私の事知ってる…のかな?」
確かに国王はその顔に見覚えがあった
数年前まで王国にいた魔女であるメリッサと同じ顔をしていた、しかしその雰囲気や喋り方などには違和感を感じた
「…なんで止めるんですかサーシャさん」
「そりゃ止めるでしょうよ…絶対にめんどくさいことになりますからこのまま帰りますよ~、ではではお邪魔した~」
サーシャが指をパチンと鳴らすと二人の姿は消えていた
「なんだったんだいったい…」
王室に国王の疲れが滲んだ声だけが響いた
翌日、キースロイスは朝早くから学園にいた
あの女…ヒスイに何をしたのか問い詰めるためだ
しかし待てどもヒスイは現れなかった。他の生徒たちはというと異様な雰囲気のキースロイスに近づかないようにしていた
「くそっ!なぜ来ないんだ!…あいつがいる寮まで行くか…?いやあんな平民のたまり場に高貴な僕が行くことなどありえない…どうするか」
「キースロイス殿下」
考え事をしていたキースロイスは不意に何者かに声をかけられた
それは白い騎士服のようなものを着た女生徒だった
「何者だ」
「私、クリスライセ・レーテルと申します」
平民なら口をきかないところだが身なりからして貴族だと判断したキースロイスは会話を続けることにした
「僕に何の用だ」
「殿下、私はがっかりしているのです…まさか殿下があんな悪女と婚約していたなんて」
「なんだと…?」
「あの女は誰が見てもわかる悪そのものです。なのに殿下は婚約をしているなど発表しました…この国を率いる者がこれではあんまりではないですか」
それはキースロイスの火に油を注ぐ言葉だった
「貴様!!いわせておけば!この僕があんな女と望んで婚約していると本気で思っているのか!?」
「違うのですか?」
「当たり前だ!!!!」
キースロイスはクリスライセに本当の事情を…本人がそう思い込んでいる事情を話した
「なるほど…そういう事だったんですね…やはりあの悪女をこれ以上許しておくわけにはいきません!」
「何か策があるのか?」
「ええ殿下。私にお任せください。このクリスライセ…革命の乙女があの悪女を懲らしめてご覧に入れましょう」
「革命の乙女?」
「はい。私はこの国をよくしたいんです…貴族も平民も関係なく身分に囚われないそんな国にしたいのです…そんな志を認めて我が領地の平民たちは私のことをそう呼んでくれますの」
「なるほどなぁ」
キースロイスは何を馬鹿なことをと内心思っていた
(貴族は生まれたときから尊く偉いんだ。平民と同じなどありえるわけがない…しかしこの女は使えるかもしれないな)
「いいだろう、お前に任せる。何か必要なものがあれば僕に言うがいい」
「ありがとうございます殿下。さっそくですが一つ頼みごとをしても?」
そしてクリスライセから何をするつもりなのか聞いたキースロイスは笑いをこらえるので必死だった
「いいじゃないか…あの女の泣き顔が拝めるかもな」
キースロイスは上機嫌で教室へと向かった
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「あ~最悪…」
三日ぶりに学園に向かう私
あの衝撃の婚約発表から私はあまりのショックで倒れて体調を崩してしまっていた
皆にめちゃくちゃ心配されたからこうして学園に行っているけど…できればもう少し寝込んでいたかった…
絶対に噂になってるよね…憂鬱だ…
「ヒスイ様?まだ体調がすぐれませんか?」
「大丈夫よエリー…ただちょっと学園に行くのが怖いというか…」
「大丈夫です!私はヒスイ様の味方ですからね!」
ぎゅっとエリーが私を抱きしめてくれた
おぉ…これがヒロイン力…
「ありがとうエリー。少し元気が出たわ」
「はいっ!」
そうよねうじうじしてても仕方ないし…前向きに行こう
と覚悟を決めた私を待っていたのは学園に踏み入れた瞬間なぜか私をぐるっと囲むように現れた生徒たちだった
「え~と…?どなたかしらあなたたち」
身なりからしてなんとなくみんな平民みたい…?
う~ん?見知った顔は一つもないけれどはたして…
「その方たちはうちの領民の平民たちですわ」
ずらっと生徒たちが道をあけてその真ん中から誰かが歩いてきた
あ!革命の乙女(笑)さんだ!
「どうです?うちの平民たちは。あなたのように虐げたりしていませんし私も身分関係なく接していますから少しですが高貴なものを感じるでしょう?」
そうして礼の姿勢を取る皆さん
いやなんか使用人みたいな扱いですが…?まぁうちは使用人でさえあんな感じじゃないけれども
もっと主に遠慮ない感じだ。メリッサとか、メリッサとか、メリッサとか
まぁそれはともかく
「あ~、え~と…何か御用ですか?」
ヤバい…名前が思い出せない
革命の乙女(笑)が印象に残りすぎて…
そんなことを考えていると革命の乙女(笑)さんが腰にさげていた細剣を抜き私に向けた
そして
「ヒスイ・スズノカワ!私はあなたに決闘を申し込みますわ!まさか逃げはしないですわよね?」
まためんどくさいことになった。
「いえ、あの…とりあえず私は病み上がりなんですが…?」
「そのような嘘が通じるとお思いですか?身を隠すために仮病を使う…汚いあなたのような人が使いそうな手です」
いや本当なんですが…
それにしても決闘って…
「できれば受けたくないのですが?」
「この決闘はすでに殿下より許可を得ていますので受けないのであればあなたの不戦敗ですよ」
なんで本人の意思を無視して許可が下りているのか
まぁ今「殿下」って言ってたしそういうことなんだろう
「…種目はなんですか?」
「見てわかりませんか?」
革命の乙女(笑)さんが細剣を軽く振った
なるほどね…そのまま決闘か…でも剣なら私も護身程度にはセリック達に稽古をつけてもらってるし何とかなるかも?
あ、でも確認をしておかないといけないことがある
「決闘といいますけど…何を賭けるんですかね?」
「もし私が勝ったらあなたが虐げている平民たちを全て私がいただきます」
それだと虐げてないので誰もそっちに行かないですが大丈夫です?
「私が勝ったら?」
「ありえない事ですが…潔くこの身を引きましょう」
なんだそれ
わけがわからんし得がない
びっくりするほど私にメリットがない
だがしかし認可されてしまった決闘はもうどうしようもできないのだ
ましてや殿下の許可
はぁ…最悪だ…




