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平和の裏側 深夜編

タマリが以前にディースの事をディース様と呼んでいたのですがこの回では若様と呼んでいます

以前のディース様呼びのほうが間違っているのでしれっと修正しております。すみません…

夜も更けて闇が濃くなるそんな時間

タマリは作業に追われていた


「ふぇえええ~…若様のお荷物整理が終わらないよぉ~」

若様とは今タマリがお世話をさせてもらっているスズノカワ家長男のディースのことである

普段は寮暮らしのディースが屋敷に帰ってきていたのだがもうじき戻るので荷物の整理をしなくてはいけなかったのだがタマリは盛大にお昼寝してしまったのだ


別にディースは荷物整理が遅れたくらいで怒りはしないのだが

タマリの上司であるメリッサにはめちゃくちゃ怒られそうだ

それは何としてでもさけたいタマリは半ば泣きながら作業を進めていた

まぁ彼女がお昼寝していたのは実は理由があるのだが…それはそれである


「えっと…これと、これ…あ、インクが少ないからとってこなくちゃ…」


パタパタとタマリは夜の屋敷を小走りで移動していく

明かりなどないのにまるで見えているかのように正確に移動していく


と、そこでタマリは突然何者かに腕をつかまれた

そして


「声を出すな。おとなしくしろ」

「ふぇ…?」


それは黒づくめの男だった

黒い装いに黒い覆面と徹底的に闇に紛れて姿を隠す

つまりはそういう目的の人間だ

そんな男がタマリを羽交い絞めにし首にナイフをつきつけていた


「あわわわわわ、な、なんですかあなたたち…」

「おとなしくしろと言っている。命が惜しければいう事を聞け」


男がナイフをぐっと押し付ける

チクリとした痛みと共に少しだけ血が流れる


「ふえっ…なにが…目的なんですか…?」

「この屋敷にヒスイ・スズノカワというのがいるだろう?その部屋まで案内しろ。誰にも見つからないルートでな」


「お、お嬢になにをするつもりですか…?」

「それをお前が知る必要はない。助かりたければ口ではなく身体を動かせ」


タマリはあわあわしながらも注意深くあたりを観察する

そして


「がぶっ!」

「ぐっ…」

男の腕を思いっきり噛み、注意がそれた瞬間に逃げだした

だが


「おっと、めんどくさいことは無しだぜ」

逃げた先に同じく黒づくめの格好をした別の男が現れ、タマリはあっけなく捕まってしまった


「あう…」

「何やってんだよ。ガキに逃げられるなんて」

「少し油断していただけだ…このガキがふざけやがって!」


バチンと男がタマリの頬をおもいっきりぶった


「ひっ…」

「おいおい~あんまり乱暴なことはするなよ~でもなお嬢ちゃん?こっちだってあんまりめんどくさいことされるとな?もっと痛い事とかしなくちゃいけなくならさ~おとなしくしてな?」

「さっさと案内しろ」


こくんと頷くとタマリはゆっくりと歩きだした


やがてタマリは一つの部屋の前で立ち止まった


「ここか?おい全員呼べ」

「あいよ~」


男の一人が何らかの魔法を発動する

するとその場所にさらに五人ほどの武装した男たちが現れた

その光景を見たタマリはおずおずと口を開いた


「あのあの…もう、このくらいで…やめませんか…?今ならその…きっと皆さん許してくれると思うんです…」

「許す?馬鹿か?この状態で誰が俺たちを許すっていうんだよ?」

「そうそう、注意して潜入しろって言われてたけどかなり警備もザルだしさ…張り合いがないよね~ま、王国から報酬はたっぷりもらえるから楽なほうが助かるけどね」


「王国に雇われて…?」

「おい。喋りすぎだぞ」

「ごめんごめん。でもどうせこの子も殺しちゃうんだからいいっしょ」


「こ、殺す…?殺しちゃうんですか…?お嬢も…?」

「そうそう。ターゲットのお嬢様と~目撃者の君…両方ぐさ~ってやっちゃうんだよ~楽しみだね」

「なぁおい。やっぱり殺すよりもさ、こっそり生かしておいて変態にでも売り払ったほうがよくないか?」


「いやぁ…もしバレたらめんどくさいことになるしねぇ…あ~でもこの子も結構かわいいしこっちはそうしようか?」

「へへっそうこなくちゃなぁ」


その会話を聞かされたタマリの瞳から涙がこぼれ落ちた


「あ~あ泣いちゃった…そんなに怖がらなくても大丈夫だよ?すぐに何にも考えられないようにしてあげるからさ」


そして男の一人がドアノブに手をかけようとした


「ぐすっ…やっぱり…こうなるんですね…」

タマリはこれから起こることを脳裏に刻みながら涙を拭いそして


「じゃあもうやってしまわないとですね」


タマリを拘束していた男の腕がちぎれた


「はぁ…?」

「なんだどうし…た?」

その突然の光景に周りの男たちはおろか、腕がちぎれた本人でさえ何が起こったのか理解できていなかった


「お、お前…その腕どうしたんだよ…?」

「え…なんで俺の腕が…え?」

男の両腕は胴体から離れ地面に転がっていた

だが血は一滴も出ていなかった

傷口が白い結晶のようなもので覆われていたのだ


その結晶が血が飛び散るのを防いでいたのだ

その奇妙な状況に麻痺していたがだんだんと腕をなくした男が痛みを認識しだした


「ぐぎゃぁあああああ…っ!!!」

男の叫び声は途中で聞こえなくなる

なぜなら男の口内からも白い結晶が生えてきてその口を塞いでしまったのだ


「ダメですよ~せっかくお掃除が大変だから血が出ないようにしたのに叫び声なんかあげられたらみんな起きちゃって大変ですよ?お静かにお願いしますね?」


男たちはその言葉の主…タマリに視線を移す

この少女が、無力な一メイドだと思っていた少女がこれをやったのかと

何をしたのかさっぱりわからない

魔法なのはわかるがこのような魔法は見たことがなかった

そして何より恐ろしいのはその少女が顔色はおろか態度や雰囲気にさえ変化が見られなかったことだ

男たちのようなその道で生きていた者ならわかる

だがこんな少女がその域にまで至っているのか?と困惑していた


「どうかしましたか?あ、もしかして諦めてくれる気になってくれましたか…?」


やはりどう見てもその少女はオドオドした普通の少女にしか見えなかった

だが男たちもプロだ

疑問のすべてを一度頭の隅に追いやり瞬時に戦闘モードへと思考を切り替えた

そしてもう何かをさせる猶予を与えないため予備動作無しで数人でタマリをナイフで刺した

首、胴体の急所に的確にナイフを刺した

刺したはずだった

しかし男たちの手に伝わってくるのは何か硬いものにナイフを突き立てたような感触

またあの白い結晶である

それがタマリの身体をナイフから守っていた


「まだ諦めてはくれないんですね…じゃあもう少しだけがんばりますっ」


ナイフを突き立てた男たちは嫌な予感を感じその場から飛びのいた

しかし飛びのいた先で自分の両腕がなくなっていることに気づく

よく見るとタマリの足元に自分達の物と思わしき腕が落ちていた。そしてやはり傷口は結晶で覆われている

その光景と激痛に叫びを上げそうになるがやはり結晶によって口を塞がれてしまう


「なんだ…なんなんだお前は…!聞いてないぞ…こんな化け物がいるなんて…おい!残った俺たちで逃げるぞ!こんなの先方の情報不足の契約違反だ!やってられるか!」


男の一人がそう叫び逃げ出したが誰もついてこない

なぜだ?と振り向くとそこに人の形をした白い結晶の塊があった


「あぁ!急に逃げようとするから手加減ができなくて間違ってしまいました…どうしよ…」

そんな気の抜けた声をききつつ残った最後の男は脇目もふらずに逃走する

だめだここにいたら殺されるともはや足音を消すこともせず無我夢中で走る


そんな男の進行方向にメイド服を着た女性が現れる

表情というものが感じられないその女性はじっと男を見つめていた


「どけぇええええええ!!!」

もはや恐怖で冷静な思考などできなくなっていた男がその女性…メリッサにナイフを突き出した

そして



「タマリ」

「あ!メリッサさん!どうですか?私頑張りましたよっ」


メリッサはタマリのまわりに広がる死屍累々な光景を眺めると


「60点」


そう言い放った


「えぇ~!私がんばりましたよ~ぅ」

「辺りを散らかしすぎ。それとちゃんとなるべく傷つけないように確保って言っておいたでしょう」


「だってナイフとか出されて怖くて…あ!この人とかはちゃんと無傷ですよ!ほら!」


タマリが人型の結晶を指さす


「それは無傷とはいいません。あなたのこれ自分で解除できないでしょう?解除するの私でも苦労するんですよ?」

「うぅっ…」


「まぁでも一人は私がこうして無傷で確保できたことですし及第点ですかね」


メリッサが片腕で引きずっていた男を投げた


「あのメリッサさん…この人…歯がほとんど砕けてますけど…」

「……それくらいサーシャが治せるわ…たぶん」


二人の間に微妙な空気が流れた


「それにしてもだいぶ身体に馴染んだようね。」

「はい!おかげさまで~メリッサさんの魔力が私の中を流れているのがわかりますっ」


「そう、それはよかった。あなたが魔女になりたいって言った時はどうしようかと思ったけどね」

「えへへ…私もメリッサさんみたいに強くなりたくて~」


「はぁ…魔女の力なんて欲しがるもんじゃないと思うけど…まぁいいわ。疲れたでしょうし次の作業前にお茶でもいれましょうか」

「わ~い!メリッサさん大好きです~っ」


「抱き着かないで…歩きにくいから」

「えへへ」


魔女メリッサとその魔力を分け与えられた半魔女のタマリ

二人の夜はまだ長い

なお後日、とある暗殺集団の組織が龍の巫女を名乗る少女によって跡形もなく消されたのはもはや語るまでもないことだろう



また別の日の深夜、ヒスイの部屋にて

ヒスイはベッドでスヤスヤと寝息をたてていた

それをじっと見つめる存在が一つ

ナクロだった


昼はよく寝ている印象があるナクロだが夜は基本起きていた

そして部屋の物色や主であるヒスイにいたずらしたりと気ままにすごしていた

しかし今日ばかりは勝手が違った

ただひたすらじっとヒスイを見つめ続ける

そしてヒスイに変化が現れた

安らかな寝息を立てていた今までとは一転して苦し気な表情をのぞかせたのだ

そしてその頬に黒い…まるで蛇が這いずったような痣が浮かびだしだんだんと広がっていく

それを確認したナクロはヒスイの側に駆け寄り


ぽんぽんとヒスイをその小さくてふわふわの手で叩いた

すると痣はきれいに消えてなくなりヒスイの寝顔もまた安らかな物に戻っていた

そこに慌ただしい足音と共にメリッサがヒスイの部屋に入ってきた


「はぁはぁ!お嬢様…!」

メリッサは慌ててヒスイに駆け寄って状態を確認した

しかしそこにはメリッサに気づかずに暢気にすやすやと寝ているヒスイがいるだけだった


「何ともない…?確かにいま命を蝕む類の呪いの気配を感じたのに…」

そこでにゃあ~とナクロがないた


「ナクロ…?まさかあなたが?」

ナクロはそのままとてとてと歩いていくと窓を叩いた


「開けろってこと…?」

にゃあ~と再びなく

そしてメリッサが窓を開けるとそこからナクロは顔を外に向け、けほっと咳をした

その後はヒスイの側まで戻るところんと丸まって寝息をたてだしたのだった


「なんなの一体…」

メリッサをしていまだによくわからない存在。それがナクロだった




王国にある王宮、その一際豪華な一室において

王が臣下による報告を受けていた


「ふむ…また失敗したか」

「はっ!申し訳ありません…なんとかやつらの交易等を妨害しようとはしているのですが…」


「うまくいかぬか」

「はい…送り込んだ商人はおろか騎士たちまで手ひどくやられてしまっているそうです…」


「こちらで向こうの物流を抑えようにも帝国側からの供給とあの領地自体がにぎわっていることもあって効果は期待できぬか…」

「もうしわけありません…」


「いやよい。まだ我が息子キースロイスとあそこの小娘との婚約は続いている。それが利用できるだろう…今は様子見だな」

「それがよろしいかと…」



そして同じく王宮にあるキースロイスの私室ではこれまた同じようにキースロイスが臣下からの報告を受けていた

「あぁ!くそ!!!また失敗か!役立たずめ!」

「申し訳ありません殿下!」


「いつになったらあの女を排除できるんだ!?腕のいい暗殺者とかいうクズを雇ってみたが失敗したあげくに音信不通!王国一の呪術師に呪いをかけさせてみたら失敗して自分が呪いで死んだ…どうして僕の周りにはこんな無能しかいないんだ!」

「申し訳ありません!次こそは必ず…ですのでお怒りを鎮めください!!」


「くそっ!…あぁやはり僕に釣り合う人間はこの世界に一人だけだよ…エリナリナ…もう少しだけ僕を待っていてくれ…」


それぞれの思惑を抱えて時は進んでいく

そして物語の舞台は学園へ

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