15歳 意外と何も起きない日々
前略、15歳になりました。私は元気です
だいぶ幼さも抜けてとっても美少女に育ちました。
鏡をみるとそこにはあの物語のヒスイほぼまんまの私の姿…いや実は物語にあらがってめちゃくちゃ太ってみようかな?とかも考えたのだ
幸いうちの領地はどこに行って何を食べてもおいしい
美味しいものを食べて太れるなら本望では?と思いもしたが…全くダメだった
まず家では私のカロリーは徹底的に管理されている
たまに貰い物やこっそり買ったお菓子をドカ食いしてみるものの…最近はセリックに護身術を習ったり散歩として領地の視察をしていたりするので太らねぇ…ちくしょう
逆にガリガリならいけるのではと思いきやそれもダメだった。どうなってるんだ一体
おかげで私は痩せすぎず太すぎずの完璧美少女だ
ふっくらしてるところはふっくらと
引っ込んでいるところは引き締まっていてキレイな黒髪に少し吊り上がった顔が美しい
我ながらほれぼれするわ!ちくしょうめ!!!!!
そんなこんなで今日も日課の領地視察である
傍らにはメリッサ
頭の上にはナクロのいつものスタイルである
ちなみにナクロだがまったく成長しない。いつまでもキュートな手乗りサイズです
やっぱり魔獣だから普通とは違うのね?
今日の視察地はいわゆる商業地である
いろんな業者さんがお店を出している場所である
うむうむ今日も大変賑わっており良き良き。
そうそう私が5年くらい前に拾ってきた元王国貧民街の皆様だが
普通に受け入れられて普通になじんでいる
うちは結構土地が荒れてたりしたので開拓やらなんやらで人手が足りなかったのは本当だったのだ
さらにうちは領地経営の収入や帝国側からも支援があるので資金は豊富なので余裕もあった
てなわけで一斉雇用
以前にやった領地革命のように衣食住を保証してとりあえず仕事をやらせてみたというわけだ
やはりみんな貧民街からは抜け出したかったらしく熱心に働いてくれた
よかったよかった
なおもちろん悪事をはたらくものや甘えを見せるものもいた
そんな人たちは不思議なことにだんだんと姿を消していった
どうしたのかな?と思ってカツラギに聞いてみたところ「魚のエサにでもなったんとちがいます?なっはっはっは!」と言っていたが冗談だと信じたい
ただ私的にやっぱりどうにかしてほしいのは
「あ!おいお嬢がきたぞ!」
「なんだと!?」
「お嬢!おつかれさまです!!」
「本日はどのようなご用件でしょうか!おい早く一番いいケーキとお茶をお出ししろ!」
顔を出すだけでこれである
なんぞお前ら?私は恐怖の悪女かなにかか?
まぁ間違ってはいないのかもしれない
しかしほんとに一斉に膝をついて頭を下げるのはやめてほしい
ほらぁ…なんか身体の悪そうなお年寄りや小さな子供までやってるし…体裁が悪すぎるわ
「もう何度も言ってるけどいちいちそんな大げさな挨拶いらないからほんと…ほらおじいさん立って立って…膝が悪くなるわ」
私は先頭にいたおじいさんに肩を貸して立ち上がらせる
この人は確かこのあたりを取り仕切っている人だったかしら?
「おぉ…やはりお嬢はお優しい…」
「いや普通だと思うけど…ほら小さい子にまでこんなことさせないでいいから」
「お嬢様からのお達しです。全員顔を上げなさい」
メリッサ!もうそういうことするとなんかほんとに偉そうな悪女感出ちゃうから!!
ってあら?
「ねえみんな…あれはなにかしら?」
視線の先
なんか隅っこのほうにボロボロになった王国製の馬車のようなものがあった
「あぁあれは少しありましてな。お嬢が気にすることではありませんよほっほっほ」
「そうそうお嬢には関係ないことだからな!はっはっは」
ほんとね?本当にいいのね?触れないでいいならマジで触れないわよ?私
そんなこんなで視察を終えて帰宅した
ちなみにこの視察だがお父様から言われている私の仕事だ
曰く私が領地に顔を出すことがいろいろ重要なんだとか
お屋敷に帰るとお兄様がいた
「あらお兄様ではないですか。お久しぶりです」
「やぁヒスイ。ただいま…少し見ない間によりキレイになったね」
そういうお兄様はえらいイケメンに成長していた
20になったお兄様はいろいろとすごい
学園では学力と武力両方でトップをとり首席で卒業、その頭脳と実力を認められ今は学園で講師をしているのだ
若きイケメン天才講師として男女問わず大人気だそうな…凄いなぁ
というかお兄様は私と違って王国の人から嫌われてないみたい
やっぱり見た目なのかしら?まぁいいんだけどね
「きょうはどうされたんです?」
「ヒスイも来週には学園だろう?いろいろ準備があるかと思ってね。教科書とかは僕が用意しておいたからね…あと必要なものでかさばりそうなものは僕が何とかしておくから…あとは当日の工程とか…」
お兄様がいろいろ資料や準備しておくといい物のリストなんかを渡してくれた
「まぁ!ありがとうございますお兄様。でもなんだか講師のお兄様に便宜を図ってもらってると考えるとずるしてるみたいですね?」
「ははっいいんだよ、僕が勝手にやってることだからね。学園でも何かあったら言ってね」
「はい、ありがとうございますお兄様」
「うんうん…さてあとはギアとセリックを誘ってひと汗流して帰るよ」
お兄様は現在学園に併設してある寮で暮らしているのでたまにしか帰ってこないのだ
そしてたまに帰ってくるときはギアとセリックを連れて何やら訓練とかやってるみたい
「あぁまたタマリを借りていくね」
そうそう意外なことに少し前からタマリがお兄様の専属メイドとして任命されたのだ
メリッサの教えを受けメイドとしてなかなかいい感じに仕上がったらしい
まぁ専属と言っても基本タマリはうちの屋敷に居て必要な時に転移の魔法でお兄様のもとに行くという感じだ
それってめんどくさくない?転移ってメリッサの魔法でしょう?いちいちメリッサに魔法使ってもらってるの?と思ったのだが本人たち的には何も問題はないという事なのでならいいかと放置している
「あ!若様~待ってください~…ぷぎゅ!ふぇぇ~」
お兄様の荷物をまとめていたらしいタマリが大きな荷物をもってバタバタと走って行って転んだ
…本当に大丈夫なんでしょうね?ふぇぇ~なんてリアルで言う子初めて見たわ
「メリッサ?タマリは大丈夫なの?」
「まあ…おそらく」
すたすたとメリッサがタマリのもとに歩いていき転んだタマリを助け起こした
「しっかりしなさい。ちゃんと転ばない方法を教えてあるでしょう?」
「うぅ~すみません~この前のあれがまだなじまなくて…」
「それでもしっかりとやるのが私たちの役目でしょう」
「がんばります…」
「いいお茶の葉が手に入ったの。今度いれてあげるから頑張りなさい」
「わぁ!ほんとですか~!がんばりますっ!」
そして再びパタパタとタマリはお兄様を追っていった
「…タマリ何かあったの?」
「いえいえお気になさらず」
お前もか
なんなの?フリなの?私は気にしなくていいって言われたら本当に気にせんぞ?
「そう…私にはいいお茶いれてくれないの?」
「毎日高級品をいれてますよ」
マジか
まぁしかし学園か…正直少し不安だ
学園…この国では15歳になる子供は全員学園に通うことが義務づけられている
と言っても正確には領地を治める領主に自分の領地の子供たちを通わせる義務があるという感じだ
だがそこは王国クオリティー
何やら自分たちが通わせている子供の成績やらなんやらを競って格を決めたりしてるらしい…あほらしいが本当のことなんだって
まだからまぁ、領主は基本的に平民の子とかはよっぽど優秀じゃない限り学園には通わせていないみたい。国側ももちろん黙認
はぁ…本当にあほらしい
当然のことながらうちのお父様はそんな最低なことはしない
我が領地の子供はみな入学だ
やれ学園の品が落ちるやら下々の者とつき合せたらうちの子が馬鹿になるなどなど言われたい放題だったらしい
そういうのもあり嫌がらせとか受けないか若干不安なのだ
しかしもう少し何かあってもいいだろうにうちの領地が国から嫌がらせを受けているという話も聞かないし意外と大丈夫なのかな?
そうそう
この前、私もついに社交界デビューを果たしたのだ
実はデビューにはそうとう遅いのだが…これはあの第二王子が原因なのだ
私とあの王子の婚約はなんとまだ続いているのだが
あの王子が私を社交パーティーなどに連れていくわけもなくずっと放置されていたわけだ
だが何を思ったか少し前に急に手紙をよこしてきたのだ
どういう風の吹きまわしだ?と思いつつ参加することにした
「来たか」
「お久しぶりです殿下」
王子はまぁこれまたイケメンに育っていた
あの物語に出てきたそのままの容姿だ
「ちっ…相変わらずの不快な容姿だ。あまり僕の視界に入るんじゃないぞ」
性格のほうは最悪だがな!
会場への移動中もひたすら罵詈雑言の限りを浴びせられた
「馬鹿みたいな髪だな、ただでさえ下品な黒髪なのにそんなに伸ばすなんて何を考えてるんだ?」
「ここはちんけな帝国じゃないんだぞ?なんだその服は?着物とかいうやつか?ドレスを着れもしないなどお前の格が知れるな」
「はっ…頭の上のやつは魔獣か?そんな弱そうなやつとしか契約できないとは…笑い種だな!いや魔力がない癖に契約できたことを誉めてやろうかくっくっ」
よくもまぁそんなに人を罵れるものだと感心しながら聞いていた私
いい気はしないが…いや少し楽しんでたかもしれない
言葉のバリエーションが豊富でそこはさすが王子だと感心した
会場入りするとさっさと王子はいなくなった
そして一人残された私にまぁ視線の突き刺さること突き刺さること
「あれ…帝国の…」
「まぁ…なんて下品な色…」
「なんでも王子と無理やり婚約を…」
「かわいそうに…」
「魔力もないんでしょう?…」
「同じ空間にいるってだけでも恥ですわ…」
おーおーなんてテンプレな嫌な貴族達なのか
感動すら覚える
まぁいいや私にはやっぱりアウェーみたいだし、せめておいしいご飯でも食べて帰りましょ
その時一人の豪華なドレスを着た令嬢が私に近づいてきて
「あらごめんなさい~飲み物が~」
とわざとらしく私に向かってグラスに入ったジュースを投げてきた
あちゃー汚しちゃったか~と思ったけど
「あれ?」
私の着物はどこも汚れていなかった
逆に
「いやぁあああ!私のドレスがー!?なんで!どうして私のドレスにかかってるんですの!?」
令嬢は泣きながら立ち去って行った
私も確かにジュースをぶっかけられたと思ったのだが…手元が狂ったのかな?
にゃふ、と頭の上から鳴き声がきこえた
あらナクロ起きてたのね
それからは誰も話してこないし絡んでも来ないので視線は感じるがまぁいいかと開いてる席に座って料理を眺めていた
ふんふ~ん何食べようかな~
私が料理を取ろうと席を立った時
「お嬢様、こちらをどうぞ」
とウエイターさんが私に料理を持ってきてくれた
ありがとうございますとお礼をいって料理を見る
おぉ~すごくおいしそうだ…大きなお肉がごろごろと入ったスープ…お腹がすいたし食べちゃおう
一口食べるとやっぱりすごくおいしかった
う~んここには好意的な人はいないって思ってたけど親切な人もいるのね~とお肉をもきゅもきゅと食べながら考えていた
しかし何故か周りはそんな私をニヤニヤと見ていた
え?なに?普通に食べてるだけですが?マナーとか間違ってます?
それになんかナクロもおかしい
私がスープを口に含む度に私の頭の上でふみふみとするのだ
ぱくっ、ふみふみ、ぱくっ、ふみふみ
いつになく活発だ…ナクロも食べたいのかな?
「ナクロも食べる?」
んなっと拒否られた
どうやらいらないらしい
そしてふみふみが一息ついたのか今度はあたりをきょろきょろと見まわして
けほっと咳をした
「ナクロもしかして調子が悪いの?」
んなっとこれまた拒否の意を示される
なんだなんだ?今日のナクロは本当におかしい
とその時
周りで令嬢、令息が何人かお腹を押さえてうめき声をあげだしたのだ
「うぐ…お腹が…」
「あぁっ…なんでこんな急に…」
おお?なんだかやばい雰囲気だ
「うぐううううう我慢できない…!」
「あっ…まて!俺が先だぞ!」
あわててみんながトイレに走っていった
え~…これは…食中毒とかかしら…?もしかして私もやばい?
しかし待てども私には何も起こらなかった
トイレのほうからは悲鳴が聞こえてくる
「おい!早く出ろ!!いつまではいってるんだ!!」
「いやぁああああ!お願いだから早く変わってぇえええええ!」
阿鼻叫喚の大惨事である
なんだか知らないけど私は無事でよかったよかった
「おい!なんであいつだけ無事なんだ!お前…薬を盛り間違えたな!?なんであいつのに盛らずにほかの大皿に薬を盛ったんだ!」
「ひぃ!そんなはずはありません!たしかに私はアレに渡したスープだけに薬を盛りました!信じてください!」
どこからか怒鳴り声が聞こえた気がしたがトイレ側からの喧騒にかき消されてよく聞こえなかった
とまぁこんな感じで慌ただしい社交界デビューでしたのよ
そして来週からはいよいよ学園だ
楽しみ半分、不安半分
考えても仕方がない、なるようになるの精神で行こう
とりあえず学園に持っていく荷物をまとめることにした




