セリック視点 左腕の忠誠をあなたに
途中で長文のセリフが出てきますが喋っているキャラと状況がお察しのアレなので読み呼ばしてもらっても問題はないと思います…w
それは意味のない事なの?
俺は何を言われているのかわからなかった
何の話をされているのか理解ができない
「何を…言っているんだ…?」
「あのね私、思うの…この世界にはたくさんの人がいるわ。偉い人、貧しい人、平凡な人、弱い人、強い人、運が悪い人いい人みたいなね?でねやっぱり明確に人との間に差はあると思う」
お嬢様は自分の考えをまとめるように
俺に何かを伝えるために必死に言葉を紡いでいる
「なにか大きな…人々にとってすっごく有益な発明をした人と何もしてない人だとやっぱり差があるものよね?仕方がないわ…でもだからって何もしてない人の人生に何も価値がないなんてありえないじゃない?そんなの悲しいじゃない…そこであなたが感じた嬉しいって気持ちよ」
俺にはお嬢様が何を言いたいのかまだわからなかった
「自分が何かをして誰かが喜んでくれる…笑ってくれる。それってとても素敵なことでしょう?だったらそれは「意味」じゃないかしら?長い人生で誰か一人でも自分のしたことで笑ってくれたのなら…きっとその人生に価値と意味はあるのよ…そうは思えないかしら?」
「………」
俺はついしゃがみこんでしまった
この人の言う事があまりにもまっすぐな言葉で
綺麗で理想と希望にあふれた言葉
今の俺にはそれは眩しすぎた
しかしお嬢様はそんな俺にメイドの制止も聞かずに近づくと同じようにしゃがみ込んで俺と目を合わせ、そして言葉を紡いでいく
「あなたのおかげでうちの子が助かったわ。ギア、メナ、タマリって言うのあの三人は」
「あの子供たちの事か…」
「そう。あなたが自分の腕をなくしてまでかばってくれたから、あの三人は今日も生きてる。それはあなたにとって何も意味のない事なの?後悔しか残らなかったの?」
あぁそうか
その問いかけは俺の心にするりと入ってきた
そして答えはすぐに出てきた
「後悔なんてない…俺は…あの時何を犠牲にしたってあの子たちをかばった…同じ状況なら何度だって同じ選択をする…!!」
「じゃあ意味がないなんて簡単に言っちゃだめよ。あの子たちにとってあなたは強くてかっこいい騎士様だったんだから…胸を張ってあげなさいな自分に。自分で自分を認めてあげなくちゃ誰が認めるのって話でしょ」
俺は声を出して泣いた
どうせなら雨で覆い隠せてしまえばよかったのに
俺の涙と反比例するように雨は上がっていた
「さて…まだ答えを聞いてないんだけど?」
「答え…?」
「そう。さっきも言ったでしょう?私はあなたを勧誘しにきたの」
「でも…でも俺は…!あんたの期待には応えられない…俺の今までの人生に意味はあった…でもこれからは…?取り柄だった剣ももう振るえないんだぞ…」
「ん~…じゃあこうしましょう」
そういうとお嬢差は俺に手を差し伸ばした
「これは賭けよ」
「賭け…?」
「そう、私が断言してあげる。あなたはいずれこれまでの…いえ今まで以上に強くなれるわ。」
「………」
「そしてこの手を取ったなら私はあなたに全力で協力する。あなたに幸せだって言わせてみせるから…さぁどうする?この手を取るかどうかの二択よ。このままここで腐っていくか…この手をとるか…とったとしても私が嘘を言っていて今よりもっと不幸になるかもね?この賭け…あなたはのるかしら?」
お嬢様の目を見る
10歳の子供のものとは思えないような力強さと気高さを感じた
それと同時に年相応の無垢さや優しさも感じ取れた
あぁそうか
きっと俺は今日この日のために…
「…そう。残念だわ」
俺はお嬢様の手を取らなかった
賭けになんて乗るには俺はもう強くはないのだろう
だから
だから代わりに捨てられなかって剣を取り出した
そして左手でしっかりとつかみ剣の腹を自分とお嬢様に向ける
「…?なにかしらそれは」
「俺は…かつて王国に騎士として忠誠を捧げました」
これは騎士になる際の忠誠の犠だ
これにより主に忠誠を誓い騎士として認められるのだ
かつての俺は右腕で王に忠誠を誓った
だがその腕はもうない
ならば
無くなってしまった忠誠を今ここに
俺の今までとこれからに意味をくれたあなたにこの身のすべてを左腕で
「俺…いや私セリック・アイルマナーは剣と己の誇りにかけてあなたに忠誠を誓います。どうか受けてはもらえないでしょうか」
剣を掲げたまま膝をついた
「…え?これは…予想外の展開ね…サーシャどうすればいいと思う…?」
「ん~誓ってくれるって言うならお受けすればいいんじゃないですか?もらえるもんは貰っときましょ」
「軽いわね!いや…でも…う~ん…本気なのよね?」
お嬢様はずいぶんと困っているようだ
それはそうだろう
突然10歳の少女に忠誠を誓ったりするなんて冷静に考えるとヤバイやつだ
だがしかしここは譲れないのだ
「はい本気です。」
この人に仕えたい
この人のもとでなら俺はきっと夢見た誰かを守れる騎士であれると思うから
「そう…ね。近くにいてもらうほうがいろいろ安心かもね…わかったわ。その忠誠をお受けします…作法とかわからないんだけど…ごめんなさいね?」
ぎゅっと剣をもった手を両手で包み込まれた
確かに正式なやり方ではない
でもそれでいいのだ、これがきっとこの場は正しいのだから
それから
「では改めまして。私はサーシャと申します。どうぞよろしく」
「あ、あぁ…セリックだ…そのこの前は助けていただき」
「あーあーそういうのはいいよ~めんどくさいからさ」
「あなたもらえる者は貰っておくんじゃないの?お礼くらい受け取りなさいよ」
「いらないものは貰わない主義なので~」
「いい性格してるわねあなた…あ、そうだ。サーシャの魔法でセリックの腕ってどうにかしてあげられないの?」
「う~ん、できますけど…あんまりおススメはしませんね。こう…身体から魔法で指向性を持たせてはやすみたいな感じになるので本人に負担がすごくかかるんですよ~まぁやろうと思えばできるけど…やる?」
サーシャ嬢に小首を傾げられながら可愛らしく聞かれたのだが…ここは主を思えば了承するところなのだろうだが私にはその気がなかった
「いえ遠慮しておきます。私の右腕は王国への忠誠とともに捨てたものだと思いますので…もし左腕もなくなってしまったのならその時はリスクなど気にせずお願いしたいところです」
「あいよ~っと。納得できました?お嬢様」
「ええ。その気がないのなら無理にしなくて大丈夫よ」
少しは難色を示されると思ったがそうでもないらしい
いや…もしかしたらやはり戦力としては期待されていないという事だろうか?
もしそういうことならば努力すればいいだけの事
お嬢様の言葉を嘘にしないため鍛錬を欠かさずおこなおう
「さて、いろいろ片付いたし…メリッサが帰ってきたらみんなで帰りましょうか」
「お呼びですか?」
!?
突然後ろから声が聞こえて慌てて振り向いた
するとそこにはサーシャ嬢とうり二つの見た目をしたメイド服の女性
本当によく似ている。一目ではわからないほどに
しかしよく見ると表情が違うし色違いの綺麗な宝石がついた髪飾りをそれぞれしている
「早かったわね?終わったの?」
「はい。言付け通りにこのあたりで一番大きい裏組織とやらをとりあえずつぶしておきました」
なにやらとてつもない会話を聞かされたきがする
「そう…結構無茶ぶりしちゃったかもって思ったんだけどさすがねメリッサ…ありがと」
「いえ」
「ん~?姉さんにそんなこと頼んでたんですか?なんでです?」
姉さん?あぁ双子なのか
それはそうか
「いや…一応保険と言いますか…まぁ私にもいろいろあるのよ」
そこで私は周りにいつの間に複数の気配があることに気づいた
「お嬢様!おさがりください!」
「どうしたのセリック?」
お嬢様を背にかばう
気配はどんどん近づいてくる
かなり人数が多い
「あ~もしかして姉さんつけられた?」
「いえ…これは…」
やがてその気配の元が姿を現した
それはたくさんのボロボロな恰好をした人々
この貧民街の住民たちであった
「なに?あなたたち?私たちに何か用かしら」
「あんたらずいぶんといい服を着てるな…」
「お金持ってそう…」
「なんでこんなところにいるんだ…?俺たちを見て笑いに来たのか…?」
「許せねぇ…お前たちがなんでもかんでも独り占めするから…俺たちは…」
「そうだ…だからこれは悪いのはお前たちなんだ…わたしたちじゃあない…」
周りには老若男女、様々な人間がいた
そして一様に暗い瞳でこちらを見つめながら様々な武器…包丁や木材などを構えてこっちに近づいてくる
くそっ…こんなことになるなんて…私がこんなとこにいたから…
いや後ろ向きになるな!ここが私の騎士としての本当の初仕事だ!何が何でもお嬢様は守り抜いてみせる!
まだ慣れない左手で剣を構える
俺が覚悟を決めたその時
「メリッサ」
「はい」
メリッサ嬢が左足を上げた
そして勢いをつけて地面を踏んだ
瞬間地面が揺れた
そうだ…そうだった
あの時、戦いが苦手だと言っていたサーシャ嬢でさえあれだけの強さを持っていたのだ
その姉ももちろん規格外だったわけで…
時間にして数秒
ほんの一瞬の出来事だった
しかし周りの連中を行動不能にするには十分な時間だった
「ひ、ひいいいなんだこれ!」
各々何が起こったか理解できずに慌てている
それはそうだろう。どこの誰が個人で地震を起こせるなどと思うだろうか
そんな混乱を収めたのはぱんぱんとお嬢様が手を叩く音だった
その場にいた全員がお嬢様に注目した
「はいはい~みなさんお静かに。そこのあなた」
お嬢様が集団の先頭にいた男を指さした
「な、なんだよ…」
「私たちになんの御用かしらって聞いてるのだけど?」
「なんの用だと…?そんなのてめえらから金目の物を…!」
「はいわかりました。もう十分です。予想通りのテンプレをありがとう」
はぁ~やれやれとお嬢様はため息を吐いた
「おっけーです。うちは人手を求めています。というわけで希望するならうちで職を探してあげるからついてきなさいな」
「は…?ほんとうなのか…?」
ざわざわと困惑が広がっていった
「本当よ…ただ私は優しくしてるわけじゃないからね?そこは勘違いしないでね?本気でのし上がりたい、ここから抜け出したいと思う人だけついてきなさい。甘えたらうちの連中にすぐ追い出されるからね?わかった?」
「んなこと突然言われても…あのもう少し詳しく…」
「うるさい!私はもう一仕事終えて帰るところなの!もういっぱいいっぱいなの!来るなら急ぐ!あと10分!ハイスタート!」
住民たちお嬢様の勢いに飲まれは大急ぎで走っていった
そして10分後
そこにはかなりの人数が集まっていた
あんなめちゃくちゃな話だったがやはりお嬢様には人を引き付ける何かがあるらしい
「…結構集まったわね…お父様に怒られないかしら?」
「大丈夫じゃないですか?開拓なんかで人手がいるのは確かですし」
「そう…そうよね?じゃあメリッサお願いできる?みんなで帰りましょう」
「はい、では」
「あ~と!少し待って!」
「どうしたの?サーシャ」
「え~と私はこのセリックに少し用があるので先に帰っておいてください!」
私に用…?
なんだろうか?まったく想像がつかないが…
「あぁなるほど…がんばってね」
どうやらメリッサ嬢は何かに勘づいているらしい
なんだ?
「よくわからないけどわかったわ?サーシャは帰ってくる手段ちゃんとあるの?」
「そこは大丈夫です」
「そう?じゃあお先。メリッサ今度こそお願い」
「かしこまりました」
パチンと指の鳴る音が聞こえるとそこにはもう私とサーシャ嬢以外誰もいなかった
何から何まで規格外だ
「え~とそれではセリック?とりあえず…ごめんね?がんばっ」
サーシャ嬢が目を泳がせながら私に不思議なことを言った
「あぁサーシャ嬢。私に話とは…いったい?」
「あなたに用があるのは私なんですセリックさん」
またもや突然の声に振り向くとそこには可憐な表情をたずさえた小さな少女
その姿は忘れるはずもないあの時の少女だ
「君は確か…」
「あの時はどうも。私はエリナリナと申します」
少女、エリナリナ嬢はぺこりと頭を下げた
私も同じように頭を下げる
エリナリナ嬢が突然現れたことに驚きはない
なぜならこの少女は見た目に反してあの強大な魔物をいとも簡単に倒してしまう強者なのだから
「あぁこれは丁寧にありがとう。私は」
「セリックさんですよね?先ほどまでのお話は聞かせていただきました…はぁ~っ!ヒスイ様はやっぱり素敵です…他人のすべてを肯定して優しく包み込んでくれる…あの人の言葉には優しさと尊さと気高さ…すべてが詰まっています!!そんな言葉をかけていただいたあなたが心底うらやましいです!でもあれはあなたに向けられた言葉ですからねうらやましいなんてお門違いな感情を抱くわけにはいきません!それにあなたもヒスイ様の素晴らしさに触れたんですから結果はオーライってやつですね!あぁ!あの小さくて可憐な容姿からは想像もできないほどの力強さ…最高です!本当はギアたちがヒスイ様に話をしに行ったときから不安だったんです…また危ない目に合うんじゃないかって…でもヒスイ様のやることに私がいちいち口出しなんかできないしやってはいけないんです…あの人は自分の心のままに行動されるからこそ美しいんですから…その行動を縛るなんてまさに愚の骨頂!そうです!あなたもそうだと思いますよね?ね?実際やっぱりすべていいほうに転がりましたし…はぁぁん!いったいヒスイ様はどこまでキレイな存在だと私に思わせれば気が済むんでしょうか…もう私は…私はぁ!……はぁ…ふぅ…すみませんすこし興奮しすぎてしまいました…でも私の言いたいことはわかっていただけましたよね?ね?」
…………………はっ!いかんいかん、あまりの衝撃に脳が止まっていた
なんだこの…?なんだ?
「どうして黙ってるんです?」
「ん!?あぁいや…すまない…なんというかその…」
「あぁ!ヒスイ様のすばらしさに共感して言葉が出なかったんですね?わかりますその気持ち!」
「あ、ああ!そうだそうなんだ!そういうことにしておいてくれ…」
私はサーシャ嬢に助けを求めようとするがもはや目を合わせてすらもらえなかった
「それでですね?セリックさんはヒスイ様に忠誠を誓ったんですよね?ね?」
「そうだが…」
「では私のお願いを少し聞いてはいただけないでしょうか?」
「君の…?」
「はい、詳しくはまた後程お話いたしますが私はヒスイ様を…あの尊い人を守るための力が欲しいんです…あなた王国の騎士長だったんですよね?ですからどうか私に戦い方を教えてはもらえないでしょうか?」
「戦い方を?だが君はすでに私よりも強いではないか。そんな者に教えることなど」
「わかってないですね…いいですか?」
エリナリナ嬢はにっこりと笑うと
突如として恐ろしい速さの正拳突きを私の顔めがけてはなってきた
それをとっさに回避するが
すさまじい音が響き私の後ろにあった民家の壁にエリナリナ嬢の腕がめり込みそこからひびが広がっていき…音を立てて壁が崩れ去った
「もう下手な魔物より化け物じゃん…」
サーシャ嬢のつぶやきは可憐な少女に言うにはあんまりな言葉だったが
正直同意してしまいそうになった
かわせたからいいものをもし当たっていたらと思うとぞっとした
「ね?わかっていただけましたか?」
「は…?」
「あのですねどれだけ威力があっても当たらなければどうにもならないじゃないですか?そして今やはりあなたのように体を鍛えてて戦闘経験も豊富な人相手にはいくら身体能力が高くてもかわされてしまうことが証明できました…つまりはそういうことです」
「そうか…君は私に戦い方、というよりは身体の使い方を教えて欲しいというわけだな?」
「えぇその通りです」
エリナリナ嬢は再びにっこりと微笑んだ
なるほど確かに先ほどの一撃をかわせたのは偶然じゃない
身体の運び方などから軌道が見えたためだ
その身体能力や魔力は規格外でも技術は素人…そういうことだ
それが戦いに最適な身体使いを覚えたなら?まさに無敵だろう
「君は…そこまで強くなって何をするつもりなんだ?」
ずいっとエリナリナ嬢が顔を近づけてきた
その表情からは笑みが消え、至近距離から覗き込まれているその瞳からもなんの感情も読み取れなかった
「さっきも言ったはずですよ?私はヒスイ様をお守りしたいだけです。あの人が汚されてしまわないように、曇ってしまわれないように…ただあの人に笑っていて欲しいだけです…それ以外に何か理由が必要ですか?」
それは何の迷いも歪みもない言葉だった
それだけに私は何もいう事ができなかった
ただ一言以外は
「わかった…君に戦い方を教えよう」
「わぁ!ありがとうございます!あ、ヒスイ様には内緒ですよ?」
そういうとエリナリナ嬢はまた可憐に年相応の少女のように笑った
「おつかれ」
ポンと肩を叩いてねぎらってくれたサーシャ嬢の優しさが心に染みた
なんか基本的にすんなりお礼を言わせてもらえないセリックが自分で少しツボでした
長くなりましたがこれで10歳編は終了で次回から15歳編からの学園編になります




