一歩を踏み出すその理由と都会デビュー
あれからタマリ達に話を聞いて頭が痛くなった
まさか誘拐までするとは思わなかった。珍しくメリッサも慌てて大変だったわよホント
タマリが一方的にメリッサを慕っているのかと思っていたけどメリッサのほうもちゃんとかわいがってたみたいでそこは安心した
まぁしかし第二王子があんな人だったなんて…お父様とお母様が徹底的に抗議するとか言ってたけどどこまで効果があるのかもわからない
あの物語ででてくる第二王子はとっても素敵だったのに…将来的には素敵な男性になるのかしら?
まぁいいや、あの様子だとどっちにしろ向こうから婚約破棄だとか言ってくるでしょう
私は物語のヒスイと違って何もしてないし理不尽な断罪とかはないと信じたい
それよりも目下の問題はこっちだ
「お嬢たのむよ!この通りだから!」
「僕からもお願いします」
「…私からも…!」
私のもとで頭を下げるタマリたち三人組
なぜこんなことになっているのかというとその原因は私の手元にある王国発行の新聞にあった
そこには大きな見出しでこう書いてあった
若き王国騎士長が騎士をクビに、不祥事と実力不足が問題か
これを読んだらしい三人が私にどうにかしてほしいと相談を持ち掛けてきたのだ
いや私にどうしろっていうのよ本当に
「…私にどうしてほしいのよ」
「俺たちみたいにここで働かせてやってくれよ!この兄ちゃんには世話になったんだ俺たち!」
「うん…うん…!」
確かに話を聞いた限りセリックはこの子たちに良くしてくれたみたい
タマリのことを身を挺してかばってくれた
だがしかしだ私は三人のいう事に素直に了承できない事情があった
セリックはあの物語のメインキャラの一人だ
あの物語では隻腕の狼ことセリックと呼ばれていた
物語の開始から五年ほど前に事故で利き腕を失い騎士を解雇
そこからどんどん堕落してしまいついには裏社会の住人になってしまうのだ
利き腕を失っても元騎士長だ。裏社会でもみるみる頭角をあらわしてついには大きな組織のボスにまで上り詰める
そんなセリックとヒロイン…つまりはエリーの出会いは龍の巫女の噂を聞きつけた裏組織がエリーを誘拐することで始まる
エリーの優しい心に触れたセリックはだんだんとかつての夢と正義の心を取り戻していく…みたいな話なのだ
ここで何が問題なのかというと何を隠そうその裏組織
運営していたのはおなじみ黒幕女ことヒスイなのだ
つまり
関わりたくないのだ
セリックと関わることで私の破滅フラグが立つ可能性が非常に高い
この世界は物語の中なんかじゃない
私も誰もかれも皆生きている紛れもない現実だ
でも物語の中で起こる出来事はだいたい起きるのだ
どれだけ準備をしてもエリーとリアは出会った
なんのつながりもないのに私と第二王子の婚約がおこった
助けを送ったのにセリックは腕を失った
ここで私がセリックと関わることで意図しない裏組織ができてしまって
それを理由に私は将来断罪されてしまうかもしれない
私はそれが怖い
メリットよりデメリットのほうが大きいのだ
私は誰にも不幸になってほしくはない。でもなにより私が生きていたいのだ
だから自分からフラグを立てるようなマネはしたくない
だからどうしても踏み出せない
何かあと一歩、なにか一つだけ理由が欲しい
「ところでお嬢これ」
メナが私に箱を渡してきた
可愛いラッピングがされた箱だ
「なにこれ」
「最近下町のほうでできた予約でいっぱいのケーキ屋のケーキです」
なんですと!?
カツラギをパシらせてもぜんぜん買えないあのケーキ!?
「そんな…こんなもの一体どうやって…」
「ふふふ、ちょっとした伝手がありましてね…どうですかお嬢がもし望むならもっと手に入れることも可能ですよ…?」
「もっと…それは…本当なの…?」
「もちろんですとも…それとはまったく関係ない話なのですけどどうか僕たちのお願いを聞いてはいただけないでしょうか…?」
あれれ~?おかしいなぁ
なんだか急にセリックのことを一度勧誘してみたほうがいい気がしてきたぞ~?
不思議だな~?
このケーキはメナも関係ないって言ってるから関係ないもんね~?
「そうよね。みんながお世話になったんだから私がちゃんとお礼を言うのが筋よね?」
「そうそう!その通りだぜお嬢!」
「メリッサ!出かけるわよ!準備して!あとサーシャも呼んでちょうだい。知り合いがいたほうが話もスムーズに進むでしょう」
「「「さすがお嬢~~!!」」」
というわけで準備待ちである
ケーキを食べようと思ったけど一人で食べるのも寂しいしギアたちは仕事に戻らせたからエリーを探してたんだけど…
「でねでね!こ~んなに大きな木があったんだよ!」
「うんうん。その話もこの前聞いたじゃない」
「あんなんじゃ伝わってないよ~もうほんとね、こんな!こ~んな大きかったの~」
「そうなんだ。私もいつか見てみたいな」
なにやらエリーは知らない人とお話をしてらっしゃる
すごく親しそうだけど誰だろう?見たことない人だ
でもこの屋敷にいるってことはお客様よね…?う~ん?
とりあえずエリーに声をかけてみることにした
「エリー」
「あ!ヒスイ様!」
声をかけるとそれはそれは可憐なお花のような満開の笑顔で振り向いてくれるエリー
相変わらずヒロインパワー全開の美少女だ
そして
「う~?あ!ヒスイだ~ただいま~!」
エリーと話していた人が振り向くと同時にすごくなれなれしく話しかけてきた
いや誰ですかあなた
「えっと…?」
「どうしたの~?僕の顔に~なにかついてる~?」
すごい
何だこの人
とにかくすごい
まず女性だ
大人の女性
真っ赤でまっすぐな髪が腰まで伸びている
顔はめちゃくちゃ整っていてとろんとした目が優しい印象を与えるが…
身体つきがすごい
お胸はすごく大きい…なんだその大きさは
めちゃくちゃ大人だ
その見た目を一言でいうなら…えっちなお姉さんだ
妖艶で優し気なお姉さん
しかしその見た目に致命的なまでに言動があっていない
僕という一人称に加えて異常に間延びした子供のような喋り方
そして大げさな身振り手振り
いろいろとちぐはぐだ!!!!
こんな人初めてあったよ!?以前にもあってたら絶対に忘れないもの!?
「あの…?初対面ですよね」
「え~~~~なんでそんな事いう~の~僕だよ~忘れたの~…?」
謎のお姉さんが目に涙を貯めながら私をぎゅっと抱きしめる
おぶっ…胸で窒息する…
いやほんとに誰なの!?
…いや待てよ?なんか…記憶に引っかかるような…?
「だから言ってるでしょう。あなた見た目が変わりすぎてわからないって…ヒスイ様。その子はリアです」
「そんなに変わったかなぁ~?」
リア?
え、ちょっと待って?リアって誰だっけ?
そんな名前の龍は知ってるけども…リア?
「えぇ!?リアってあの龍のリア!?」
「うん~そうだよ~僕こそが~強くてかっこよくて~偉大な龍のリアだぞ~。思い出した~?」
どうやら本当にリアらしい
「え…なんでこんなことに?」
「すみませんヒスイ様…私にもよくわからなくて。なんだか気づいたらこうなってて…」
「ふふん~僕はね~リナと~一心同体だから~リナが強くなると~僕も成長するんだよ~!」
あ、思い出した
そうだ。物語のエンディング
最後のシーンでこの状態のリアができていた
あの物語ではこんな性格じゃなくてもっと大人な感じだったんだけど…
というかそれより龍の成長うんぬんが本当ならエリーってばもうあの物語のエンディングくらい強いってこと…?
そんなはずないか…まだ10歳よ?まぁこれも物語と現実の誤差ってやつなのかしら
「そうだったのね…すぐにわからなくてごめんなさいね。今までどこに行ってたの?」
「え~と~ね~、王都とか帝国とか~その先の水の国とかにもいったよ~」
ほぉ~ずいぶんと長い旅をしていたことね
そこでなんか力を付けたとかかしら
都会デビューかよ
あんなちっこい龍だったのが
こんなえっちな(見た目だけ)お姉さんになってしまってまぁ…変わっちまったなお前…みたいな
とそこでリアが「あれ~?」と気の抜けた声を出した
「どうしたの?」
「ん~?いや~?この子なんだけど~」
「リア?ナクロちゃんがどうかしたの?」
リアは私の頭の上にいるナクロをまじまじと見ていた
おぉ~!リアあなたまさかナクロの可愛さがわかるのかしら!?
なんかメリッサたちはナクロの事にあんまり触れないからもやもやしてたのよ~
いやまさか食べる気じゃないでしょうね?
ナクロみたいな下位の魔獣は餌とか言わないわよね?
「え~?ナクロちゃん~…?ん~?でも~この子って~…」
その時ナクロが小さくにゃあとないた
あら珍しいナクロはあんまりなかないのに
これはすごくレアよ!
「あ、うん~わかった~」
「?なにいってるのリア?」
「ううん~なんでもないよ~ごめんね~」
そしてそこでメリッサが準備ができたと呼びに来てしまった
「あぁごめんなさい。私これから行かなくちゃいけないところあるからまたあとでね」
「はい。いってらっしゃいませヒスイ様」
「ばいば~い~またあとでね~」
そしてヒスイは王都へ向かうのだった
…………
ヒスイが去った後
エリナリナとリアは再び二人で話をしていた
「で、リア?なんだったのさっきのは」
「あ~え~とね~ヒスイの頭の上にいた子ね~」
「うん」
「僕の~お母さんの~お友達なの~」
「リアのお母さんの…?」
「そうそう~もうね~しばらく会ってないんだけどね~生まれたばかりのころに~何回かあってるから~間違いないの~」
「でもリアのお母さんってくらいだからすっごく強いよね?あんなかわいい子と友達って成立するの?」
「でもでも~あの子すっごく強いよ~お母さんと~1年くらい~戦い続けて~決着つかなかった~って言ってたから~」
「…まさかあなたより強いってこと?」
「どうだろう~負ける気はないけど~負けちゃうかも~」
「え~…なんでそんな子がヒスイ様と契約を…?」
「なんか~戦ったりしないで~純粋に~可愛がってくれるヒスイと~今の環境が気に入ってるんだって~あと余計なことは言うなって~釘刺されちゃった~」
この情報はエリナリナの協力者でもあるカナン姉妹にもすぐさま共有されることになる
それを聞いた二人の感想は
「「そんな事だろと思った」」
だったそうな




