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上には上がいる

エンシェントドラゴン

それは現存する魔物の中でもかなり古くから存在が確認されているドラゴンである

丸く大きな胴体に長く伸びた首と尻尾に四足歩行さらには全身にびっしりと生えた鱗、この鱗は生半可な物理的衝撃と魔法的干渉では傷をつけることすらできない。その全長は4メートルほどになる

またさまざまな属性の魔法のブレスを吐き

その巨体からは想像のできないスピードでの移動も可能だ


そんな存在に対するは魔女サーシャ


「あの言っておくけど勝てるとは思わないでよ?私はこいつと相性悪いんだから」


サーシャのその発言にギアたちは焦った


「え~!あんなにかっこよく登場してそりゃないぜサーシャさん!」

「そうですよ!なんか勝てる雰囲気だったじゃないですか!」


はぁとため息を吐くとサーシャは淡々と口を開く


「あのねぇ私はそもそも戦いにはあんまり向いてないんだってば。こういうのが得意なのは姉さんのほうなの!そこんところちゃんとわかって…っと!」


もちろんエンシェントドラゴンがそんな雑談を待ってくれるはずもなく

大きく開けた口から火の玉を無数に吐いた

サーシャは何でもないように飛んでくる火の玉に触っていく

すると不思議なことに火の玉はサーシャの手を焦がすことなく霧散するもしくは軌道がそれてあらぬ方向に飛んでいく

その様子にセリックはただただ驚愕していた

自分が一発受け止めただけで吹き飛ばされたあの攻撃をおおよそ自分より強そうには見えないメイド服の女性が涼しい顔して何発も受け止めているのだ。

やがてしびれを切らしたのかエンシェントドラゴンが突進の態勢に入った

そしてセリックの腕を引きちぎったのと同じく目にも止まらない速さで突っ込んで…


「あぶない!避けるんだ!」

たまらずセリックは叫んでいた


「避けたらあんたらに当たるでしょうが…よっ!」


あたり一帯に轟音が響いた

なにかとてつもない質量の物体同士が激しくぶつかり合ったような音

そして衝撃波

何が起こったのか誰もが一瞬わからなかっただろう

それくらいに理不尽な光景だった

自らの身体を超スピードで打ち出したエンシェントドラゴン

それをサーシャの右足が受け止めていた

突っ込んできたエンシェントドラゴンに対してサーシャはなんの変哲もない前蹴りで対応したのだ

周りにとてつもない衝撃をまき散らしながら当事者たちは少しのけぞる程度だった


「いたたたた…重いのよこのおバカ!!!」

態勢を立て直したサーシャがすかさず正拳突きを放つ

怯んだエンシェントドラゴンにさらに蹴りを放つ

純粋なパンチとキック

ただそれだけでエンシェントドラゴンの巨体が数メートル飛ばされる

そして


「ほらさっきのお返しよ。火が好きなんでしょうあなた」

パチンとサーシャが指を鳴らす

その瞬間エンシェントドラゴンの身体が大きく燃え上がった


「まだまだできるだけ多くここで畳みかけましょうね~っと」


サーシャの周囲に幾重もの光の幾何学模様が形作られていくそしてその一つ一つが大きく輝いた後エンシェントドラゴンに無数の現象が降り注いでいく

最初と同じように雷が落ちる

かと思いきや巨大な氷の塊が降り注ぐ

そしてまた炎が襲い掛かる

ありとあらゆる魔法がエンシェントドラゴンを襲っていた


「すごい…」

セリックはただひたすらにその光景を生み出す女性に目を惹かれていた

力を持たない人々を守りたくて剣をとり王国の騎士長と呼ばれるほどに自分は強くなった

強くなったと思い込んでいた

そんな自分をあざ笑うような目の前の存在、人の形をした超常現象を前に彼は


ただただ綺麗だと思った

綺麗で美しい

その存在に触れたいと手を伸ばすがそこに自分の腕はなかった

そんな自分がひたすらみじめに思えてしまった


「サーシャさんすごいすごい…!」

「やれー!そのままぶったおしちまえ!」

「うんにゃ、やっぱだめだぁこれ」


気の抜けた声とともにサーシャが魔法を使うのを止めた

そしてエンシェントドラゴンはというと


「おいおい嘘だろ!ぜんぜん元気じゃんかあいつ!」

たまらずギアは叫んでしまった


「ねぇ~ほんとに。嫌になるわぁ~私なりに頑張ったのにさぁ」

「ちょっとサーシャさん!?あなたならもっと強い魔法とかつかえるんじゃないんですか!?」


「いやだからさ~私は攻撃系の魔法は得意じゃないんだって…いやもっと強いやつ使えるけども細かいコントロールができないからこのあたり全部吹っ飛ばすことになるけど困るでしょう?」

「私たちも…とんじゃう…?」


「とぶとぶ。むしろ消し炭になるわね」

「そ、そんな!じゃあどうするんだよ!?このままじゃあどっちにしろ終わりじゃないか!」


「最初に勝てるとは思わないでって言ったでしょうよ」

「いやそうだけどそういう問題じゃ…!」


どこか緊張感のないサーシャの態度にギアたちは何が何だかわからなくなっていった

そしてそんな思いをくみ取ったかのようにサーシャが口を開く


「あ~…まぁもう大丈夫よ。私よりこわ~いのが来たからさ」

「え…?」


「ほらあそこ」

サーシャが指さした先

そこはスズノカワ家に続く街道

エンシェントドラゴンを挟んで向こう側

そこに小さな人影が現れていた


その正体は

「やっぱり全然ダメだね…サーシャさんに全く追い付けなかった」


龍の巫女 エリナリナだった


「いやいや十分早いですよ~私全力で行ったんですけどもこんなに早く追い付かれるとは思いませんでしたよ」

「わぁ嬉しい。特訓の成果は一応出てるってことかしら」


エンシェントドラゴンという最大級の脅威を前にどこか和やかに会話する二人は明らかに異質だった

そしてその空気を正すかのようにエンシェントドラゴンが咆哮をあげた

しかし違うのだ

いつだって場を支配するのは強いものだ

そしてこの場が異質に思えるのはそう思っている者がエンシェントドラゴンこそが強者だと思い込んでいるためである

だが実際にこの場で一番強い者…それは


「うるさいよ」


エリナリナのその一言とともにエンシェントドラゴンの巨体が何かにはじかれて宙に浮いた

数十メートルは上空に飛ばされただろうかその場にいた全員が空を見上げていた

そしてエリナリナの手にはいつの間にか光でできた弓と矢のようなものが握られていて


「ばいばい」

エリナリナの手から矢が放たれた

その光の矢はエンシェントドラゴンを貫きそして…跡形もなく消してしまっていた


「…お見事ですエリナリナ様」


ぱちぱちとあきれたような表情でやる気なさげに拍手を送るサーシャ


「う~ん…どれくらいの威力が出せるか実験してみたかったんだけど…弱すぎたね」

「かぁ~!やってらんねぇ…私が頑張って足止めしてたの全部無駄じゃん!あ~お嬢様が私や姉さんが魔法使った時の「チートめ…」ってやつの気持ちがわかるわぁ~上には上がいるなぁほんと」


「なんだかごめんね…?とりあえず帰りましょう。ヒスイ様が心配してるから」

「待ってくれ!」


帰路につこうとしていたエリナリナを誰かが呼び止めた

それは第二王子、キースロイスだった


「あぁ、あなたは」

「僕はキースロイス!この国の次期王だ!君の名前を教えてはくれないか」


「はい…?私ですか?エリナリナ・キールスと申します」

「おぉ!なんと美しい名前なんだ!見たところ王国の民だな?助けてくれてありがとう!ひいてはお礼がしたいのでぜひ王宮に」


「いえ結構です。私はスズノカワ様のお屋敷でお世話になっているのでこれで失礼させてもらいますから」

「あぁ!君もあの帝国のやつらに苦しめられている被害者なのだね…!心配はいらない!この僕が君をあの汚らわしい家から救ってあげるから」


エリナリナの瞳が濁り

不穏な魔力があたりを渦巻き始めた


「エリナリナ様。絶対に手を出したらだめですよ…困るのはお嬢様達です」


その言葉で爆発しそうだった魔力がかろうじて抑え込まれた


「被害者などではありませんよ。私は皆様に良くしていただいています」

「君は容姿だけでなく心も綺麗なんだね!あんな虫けらたちをかばうなんて…美しい…あんな黒髪の汚らしい悪女より君を僕の婚約者としたいところだよ…いやそのほうがいいに決まっている!」


もうただただエリナリナは限界だった

なんとか抑え込められているのはサーシャのおかげだ

サーシャが魔法で透明の糸を作りエリナリナの身体を固定していたのだ

まさにファインプレーである


「お戯れはやめてください…私はスズノカワの皆様には感謝しているのです。だからおかしなマネはしないでいただけると幸いです」

「…!そうか…君は僕のことを心配してくれてるんだね…わかったよ僕はこれから力をつけて君を迎えに行く…その時まで待っていてくれ」


もうすべてを終わりにしてやりたい

エリナリナの心は純粋な破壊衝動に飲み込まれようとしていた

それを飲み込み無理やり笑顔を作る


「ええわかりました。あなたがもし力をつけてスズノカワ家に…あの人に手をだしたのなら…私のほうもあなたに会いに行きますね」

「ああ!約束だ!」


それはキースロイスへの実質の終了宣言だった



王都への帰り道

キースロイスは先ほどの光景を何度も思い出していた

強くて美しいエリナリナという少女

あの凶悪なドラゴンを簡単に倒す力に可憐な容姿…完璧だった

自分のように聡明でカリスマのある王にはあのような女性がふさわしい

断じてあのような帝国の黒一色で構成されたようなゲスな悪女などではない


「あぁ今から君を迎えに行くその日が楽しみだよ…帰ったら父上に相談だな…そしてその前にあの無能な騎士長は首だな」


キースロイスは自分に都合のいい未来に夢をはせていく

その先が地獄につながっていることも知らずに

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