襲撃と出会いと事件
ヒスイという女
はて?この屋敷にヒスイとかいう女がいただろうか
うむ私だ
「ねえもしかして今呼ばれたの私?」
一応周りに聞いてみる
「みたいですなぁ…うちのお嬢を呼び捨てで女呼ばわりするとはずいぶんとまぁ早死にしたいやつなんやなぁ」
カツラギの眉間に青筋が見える
「…誰だか知らないけれど行ったほうがいいのかしら?」
「いや、ええんと違います?メリッサの奴が行っとりますし」
「そうよね…じゃあいいか」
そして私がお菓子に手を伸ばそうとした時
玄関のほうで何かを壊したような音と幾重もの怒鳴り声が聞こえてきた
「おどれは何様のつもりじゃあゴラァ!ここをどこや思うとるんじゃボケェ!!!」
「貴様ら無礼だぞ!このお方を誰だと…」
「あぁ!?」
だめだこれ
もう収拾つかないやつだよ
「はぁ…カツラギ~あんた下の人にもちゃんと教育しときなさいよ」
「いやいや誰や知りませんけどこない舐めたマネされてキレもできんような奴は不要ですよ」
おバカ!
絶対めんどくさくなるってそれは!
もういい。とにかく行こう
「ちょっと行ってくるからエリーはここにいて」
一応エリーの存在はうちの者以外には秘密なのでお客様が来るときは少し隠れてもらっているのだ
そして後ろでぐちぐち言ってるカツラギを引き連れて玄関口に向かう
「あぁお嬢、一応ドス持ってくるんで待っといてもらえます?」
「いらないから」
「まぁそうですな。ドスの一本くらい誰かもう持ってっとりますわな」
「そういうこと言いたいんじゃないんだけど」
そんなこんなで玄関につくとなにやら殺気立ったうちの人たちと鎧を着こんだ騎士のようなものたちがにらみ合いをしておりその様子をお父様たちとメリッサがこれまた殺気立った感じで眺めている
いや止めてよ
そしてその中心にはなにやら金髪の少年がいた
なかなかの美少年だ
いったい誰なの?
私はとりあえずお父様に事情を聴くことにした
「お父様?何事なんです?」
「ヒスイ!なぜきた!いますぐ戻りなさい!」
「待て!ようやくでてきたなこの悪女が!」
騒ぎの中心でなぜかこちらを睨んでくる少年にそう怒鳴られた
「はい…?あのどちら様でしょうか?」
「どちら様でしょうかだと!?白々しくもよくそんなことが言えたな!僕は貴様に無理やり婚約を結ばされたこの国の王位継承者のキースロイスだ!」
は?
今なんと言った?
情報量が多すぎて脳が処理できていない
「キースロイス第二王子殿。うちの娘に言いがかりはやめてもらいたい。無理やり婚約を持ち掛けてきたのはそちらのほうだ」
お父様が静かに少年に話しかけた
そう第二王子だ
どうやらこの怒鳴っている少年は王国の第二王子らしい
そしてどうやら私が無理やり婚約を結ばせたと思い込んでいるそうだ…あの物語のように
なぜ?
「僕を第二王子と呼ぶな!兄は帝国に売られた用無しだ!この僕こそがこの国唯一の王子だ!」
なんかすごいこと言ってるなこの子
「あのとりあえず…私からあなたに婚約を迫ったという事実はないので誤解を解いてくださいませんか?」
「嘘をつくな!ならなぜこの僕が貴様のような卑しい女と婚約することになるんだ!」
え~…知らんがな…
「いや…あの…そもそも初対面なんですが…」
「ふん!おおかた僕のあまりの優秀さを噂で聞いて目を付けたとかそんなことだろうが!そんな考えることが出来なさそうな顔の女のやることくらいこの僕には…」
「おい…その辺にしておけよガキ」
それは今まで聞いたことのないカツラギの声だった
「な、な…!僕をガキだと!不敬だぞ!」
「不敬…不敬やと?笑わせるわ…なんを勘違いしとるんか知らんがガキやからとなんでもお目こぼししてもらえる思うんなら大違いやぞ?沈められたいんかお前」
「ひっ…!」
カツラギから漏れ出るあまりの殺気にさすがの第二王子様もビビりまくっているようす
そしてそんな王子を守ろうと騎士達が間に入る
「貴様!この方は正真正銘我が国の第二王子だぞ!手を出せば我ら王国騎士とて容赦はせぬぞ!」
「王国騎士やと~?それがなんぼのもんじゃい!おうメリッサぁ!お前もそうとうキレとるやろうが。ワシが許したるから全員いてこませや…まぁもちろんワシもやるがのう」
「ええわかりました」
カツラギとメリッサが一歩前に出る
ってダメダメダメよ!?
カツラギはともかくメリッサが暴れたらほんとに死人が出ちゃうから!
「おい二人ともまて」
お父様が二人を呼び止めた
あぁよかった!お父様は冷静だったようだ
「なんやオヤジ!まさか止める気じゃあないでしょうなぁ」
「……」
カツラギは獣のような眼でお父様を睨んだ
メリッサはいつも通りに見えるがしかし明らかに不満そうだ
「違う。俺もやると言ってるんだ」
お父様がいつの間にか持っていた刀を鞘から引き抜いた
お父様も冷静じゃなかった!!!!
「三人ともだめーーー!!」
私、渾身の叫び
「なんなんだくそ!オイお前たち帰るぞ!僕は絶対認めないからな!貴様が婚約者なんて!」
そんな捨て台詞をはいて王子と騎士が去っていった
と思いきや一人だけその場に残っていた
騎士の中でも一際豪華な鎧を着ている騎士だった
そして頭を下げた
「この度は大変申し訳なかった。私は王国騎士長のセリックというものです…私の謝罪でどうにかなるものではないとは承知ですがなにとぞ」
「あぁ!?んな男の謝罪一つで気が済むと思うとるんかコラァ!」
「もういいってカツラギ…この人が悪いわけじゃないでしょう?」
見た感じ優しそうな人だし
「ちっ…!おう若いの!騎士隊長とか言うたか?わざわざ謝るくらいなら子守ぐらいちゃんとしとけや!」
「あぁすまなかった…事の次第は私のほうから上に伝えておく。そこのご令嬢も本当に申し訳なかった」
そうして最後に私に頭を下げると騎士隊長と名乗ったその人も去っていった
はぁ…それにしても災難だった
なんだか疲れた…
でもなんだかずっと頭にひっかかってることがある
何かを忘れているようなそんな感覚
なんだろうか?
私の婚約…第二王子…騎士長…
騎士団長?名前はセリックって言った?
「あ!!!思い出した…これって物語の!!」
そうだ確か少しだけ語られていたはずだ
悪役のヒスイに無理やり婚約を結ばされた王子がスズノカワ家に騎士を引き連れ抗議をしにいってその帰り道にたしか…
なるほどあのセリックって人は物語の主要人物だったのか…だとしたらこの後起こる事件を防ぐことで破滅を回避する布石にはならないだろうか?
なぜか物語通りに第二王子と婚約することになってしまっているし
できることはしておきたい
でも王子たちって馬車よね?あ~もう!もう少し早く思い出せていれば!
だって仕方ないじゃない!もう転生してから10年もたってるのよ!?思い出せただけでも奇跡よ
なんて言ってても仕方ない。はやく手をうたないと
「メリッサ?いる?」
「はい。ここに」
「さっきの王子様達を追いかけたいんだけど」
「………お嬢様まさか…あの王子はやめておいたほうがいいかと…」
「違うわよ!そうじゃなくて私この場面も「知ってるの」!早くしないと!」
「なるほど…しかしお嬢様が行くのは反対です。ここはサーシャにでも頼んで…」
「お嬢様!!!!!」
その時、かなり慌てたリリィベル先生が私に縋り付いてきた
「ど、どうしたのリリィベル先生?そんなに慌てて…」
「あの子たちが…ギアたちがさっきの人たちに連れていかれてしまったようなんです!!」
は…?
「ギアたちってメナとタマリもってこと!?なんでそんなことになったの!」
「わからないんです!さっきお買い物を頼んだんですけどそのあと屋敷の外の人が馬車に乗せられた三人を見たって…!!」
うそでしょう!?なんで王子が人さらいみたいなことするのよ!
というかヤバイ
だってこの後あの物語通りなら…王子たちの乗った馬車は魔物に襲われてしまうのだ
「メリッサ!急いでサーシャを呼んできて!早く!」
お願い間に合って…!!!




