状況確認と作戦開始
突然だけど私はいわゆる前世で物語が大好きだった。
ベッドからほとんど起き上がれなかった私にとって本やゲームは私にとってのすべてだったと言っても過言ではなかった
その中の一つ「龍の巫女と恋の色」というお話
内容は魔力、魔法、魔物といったものが存在する世界で両親を事故で亡くした幼いヒロインが引き取られた孤児院でなじめずにいたところ迷い込んだ花畑でこの世界で強大な力を持つとされる龍の子供と出会い
そのまま龍はヒロインに契約という形で自分の力を渡し、龍の巫女となったヒロインが成長し王国民が通うことが義務ずけられている学園で恋をしたり政治に巻き込まれたり魔物と戦ったりと大変なことになる…という感じである。
そしてどうやら私はその世界に転生してしまったらしいのだ
なぜわかるかですって?それは私の名前
ヒスイ・スズノガワ
これはこの物語の登場人物の名前なのだ
それもヒロインに敵対する悪役
さらに言えば物語の中でおこる事件の黒幕…つまりはラスボスのような立ち位置である
たくさんの人物を騙し利用し陥れ使いつぶし、最後にはヒロインと仲間たちの手によって断罪される
それが私に待っている運命である。
なぜその事実に気づいたのか
そんなもの生きてれば普通に気づくに決まってるでしょう!
最初はこの世界の言葉がわからなかったけど流石に1歳になるころにはわかってきて私の名前ヒスイっていうのか~あの悪役の名前と同じだな~
と軽く考えていたのだが家名がスズノガワと気づいた段階でおや…?となり
さらに世界観、国の名前そしてそして私を取り巻く特殊な環境が完全に一致してしまったのだ
スズノガワ家はかなり特殊な家である
この大陸には大きく分けて王国と隣接する帝国の二国があるのだけどスズノガワ家は帝国の貴族である
しかし現在屋敷は王国にあり私たち家族も王国に住んでいる
もちろん理由があり表向きは友好国である王国と帝国はお互いに裏切らないためにお互いに国の重要な人物の交換をおこなったのだ
つまりは人質をだしあったのである。
私のお父様は帝国皇帝の弟であり人望もあり商会としての組織を持っていたなどもあり選ばれたらしい…王国は帝国に最初は宰相の家族が行っていたそうだが最近入れ替わりで三人いる国王の子供のうちとある理由で王位継承が難しい第一王子そして王女を差し出したらしい
つまり王国にいるのは第二王子のみである
もっともこの二人はたまに帰省しているらしいが…
はたしてそれでいいのか偉い人の考えることはよくわからん…
まぁとにかく我が家は王国に住む帝国貴族というめんどくさいことになっており
王国は西洋風の国で住んでいる人もそっちよりである
そして帝国は日本風の国でありお父様や屋敷の使用人も日本人的見た目をしている
お母様は王国の人でありお父様とはいろいろあって大恋愛の末に国をまたいでの結婚を果たしたそうな
私そういうの大好き!!末永く仲良くいてほしいものである
ちなみにお兄様はお母様の連れ子でありなにやら複雑な事情があるらしい
そしてそんな二人の間に生まれた私だが…
正直かわいい
お父様ゆずりの艶やかな黒髪に
お母様ゆずりのエメラルドのような瞳
顔つきはどちらかというと日本人的かもしれない
しかし目は釣り目気味
うーん美少女!我ながらほんと美少女!!
しかし問題もある
あの物語と同じように私には魔力がなかった
ヒスイは生まれつき魔力をもたない特異体質なのだ…せっかく魔法の世界に転生したのに魔法が使えないとは残念極まりなしである
とまぁこんな感じで私は確信してしまったのだ
わたしはあのヒスイ・スズノガワなのだと
私はもちろん悪事を働くつもりはない
だがしかし私がヒスイである以上何が起こるのかわからないのだ
少なくとも破滅がまっている可能性がある以上、行動はするべきである
そして私にはとある破滅回避法がすでに頭に浮かんでいる…それは
「ヒロインのイベントを横取りしてしまえばいい」
全ての始まりであるイベント
つまり龍とヒロインの出会いイベントを横取りしてしまえばいいのである
そもそもヒロインの両親を事故から救えればいいのでは?とも考えたのだがこれに関してはどうすることもできなかった
この事件はおこる時期も原因も具体的な内容も一切あの物語では描かれておらず、なんなら孤児院に流れ着く前のヒロインの住んでいる場所すらわからないため何もできないのである
しかし龍との出会いは違う…正確な日時は解らないが大まかな時期はわかるし場所もわかっている
ならばヒロインが龍と出会う前に私が龍に会う
そしてあの物語のヒロインと同じ会話をすれば私が龍の巫女になれる!!
「完璧だわ…これなら私は破滅しないはず」
よし、さっそく計画を実行に移さないといけない
もうあまり時間はないのだから
だけどそのためにはまず一つクリアしなければいけないことがある
それが
コンコンと私の部屋のドアがノックされた
「入っていいわよ」
がちゃりとドアを開けて現れたのはこの屋敷には珍しいメイド服を着た女性
「おはようございますお嬢様」
完璧な姿勢でゆっくりと頭をさげるその女性こそ私の破滅回避のために味方につけなければいけない人
私の専属メイドのメリッサだった