思惑と次の舞台
そこはスズノカワ家の屋敷の一室
カリカリと手帳のようなものに何かを書く少女が一人
その少女の名はエリナリナ・キールス
愛らしいという表現がこれ以上にないほど似合う容姿にこれまた誰もが恋に落ちそうな笑顔を浮かべてひたすらに何かを書いていた
「よし、今日の日記も書いたし、今日はもう寝ようかな」
パタンと日記帳を閉じたエリナリナが軽く伸びをするとその頭の中に女性の声が響いた
「あ~?今日はもうおしまいなの?なら眠る前に少しお話ししようよ~」
その部屋の中にはエリナリナ以外誰もいないのにもかかわらず聞こえてくる来る声にしかし特に驚くこともなく応答する
「リア。あなた今日はどこにいるの?」
「う~ん?今日はね~王都?ってところの下町?ってところでいろいろお話ししてたの~」
リア
その名は古来より時折人と契約を結び縁を結んできた龍といわれる存在のその一体
エリナリナとリアは契約を結んでおりお互いがどこにいてもその存在は一心同体
こうして会話するくらい難なくできるのである
「王都…誰かに正体がばれたりしてないでしょうね?」
「あたりまえだよ~僕を誰だと思ってるのさ~」
「それでも心配なの」
「んふふ~そういうところも僕は大好きだけどね~」
「…それにしてもその僕って一人称が本当に慣れないんだけど」
「え~?私より僕のほうがかっこいいから~好きなの~」
「…あなた自分の見た目わかってるの?」
「う~?」
「まぁ…リアがいいならいいけどさ」
「うんうん~僕がいいからいいの~っ」
リアは龍である
エリナリナにひいては人間にたいして友好だが従順ではない
いつも気まぐれに己がままにいきている
それゆえに時折変な知識を身に着けてはこうして反映させるのだ
ちなみにリアは今、以前までの小さな龍の姿をしていない
巫女と龍は一心同体
巫女の力が増せば龍の力も増していく
リアはエリナリナの成長に合わせて姿が変わっていた
しかし今現在のリアの姿を知っているのはエリナリナとリアだけである
「それで?しばらく姿を見てないけれど戻ってこないの?」
「そろそろ戻るよ~結構人間のことお勉強できたと思うし~リナも一緒に来ればよかったのに~楽しいよ~旅行って言うんでしょうこういうの!」
「私はヒスイ様の側が一番だから」
「ふふふのふ~本当に好きなんだねぇ相変わらず~」
「うん。私は今までもこれからもずっとヒスイ様のことが大好きよ」
「う~すこし複雑だなぁ~リナの一番は僕だって思ってたのに~」
「リア、これはそういうのじゃないの…リアのことはもちろん大好きよでもヒスイ様の好きとリアの好きは違うの」
「う~?あ!僕知ってるよ~それ恋って言うんでしょ~?」
「う~んこれは恋じゃないよ。あえていうなら…そう、愛だよ」
「う~!う~!よくわからなぁい~」
「ふふっ。リアはヒスイ様のこと好きじゃないの?」
「ううん~好きだよ~おいしいものいっぱいくれるし~色々教えてくれるし~あと面白いの~」
「そう、よかった」
「リナは~ヒスイと~つがいになりたいの~?」
エリナリナは盛大にむせた
「こほっ!けほっ!はぁ~…何を言い出すのいきなり!つがいって…」
「違うの~?僕は嬉しいよ~二人が一緒になってくれたら~」
それはエリナリナ自身考えていることだった
自分はヒスイ様とどうなりたいのだろうと
しかしそう自分に問いかけるたびに心に浮かぶ答えは一つだけだった
「…私はねヒスイ様と一緒になりたいとは思わないわ」
「え~なんで~?」
「いろいろ障害が多いもの…私はねヒスイ様が幸せになってくれるならそれでいいの。あの人が笑っていられることが私の幸せ。ヒスイ様が…誰かと結婚したりしたら…うん…少し胸が苦しいかもしれないけれど私は笑って祝福するよ」
エリナリナは無意識のうちにきゅっと胸を押さえる
あなたの幸せが自分の幸せだからと自分に言い聞かせて
でもそれは間違いなく本心のはずだから
心が痛くたってきっと大丈夫
「ふ~ん難しいんだねぇ~人間は~…あ!じゃあじゃあ僕がヒスイと一緒になるよ~!そうすればリナもヒスイも僕とずっと一緒だよ~」
空気の読めないリアの発言にしかしエリナリナは笑っていた
少しだけ気分が沈んじゃんったけれどあまり無茶苦茶な話におかしくてやっぱりリアは私の一番の友達だと再確認した
「あははは!ありがとうリア。いつもありがとうね」
「う~ん?よくわからないけどぉ~どういたしまして~」
とそこでエリナリナはこの話中の間ずっと気になっていたことを聞いてみることにした
「ねえリア?なんだか少しが身体が熱いみたいなんだけど…あなた今なにかしてるの?」
「うん~トカゲやろうが出たから~ぶちのめしてる~」
いつのも間延びのした喋り方ながらやけに荒い言葉を発するリア
トカゲやろう
それはリザードやドラゴンと呼ばれる種類の魔物のことである
龍であるリアはたまに勘違いでこれらの魔物と同一視されるのが我慢ならないらしく見つけ次第いたぶってから退治しているのだ
「まってリアって今王都にいたんじゃないの?」
「そう~王都の近くの森で~このトカゲやろうがいたから~ぼこぼこにするの~あ、腕がちぎれた~こんなにもろい癖に~龍に似てる~なんておこがましいよね~」
「ちょっとリア!あなた目立ったらダメって言われてるんだから王都の近くで戦うなんてしたらダメ…!」
「戦ってなんかないよ~あそんでるんだよ~こんなやつらに~戦いなんて成立しないからぁ~はい首もとれちゃった~お~わ~り~」
「リア!もういいから早くそこを離れて!誰かに見つかるとあぶないから!」
「え~?うん~じゃあ帰るね~リナはもう寝ちゃう?僕も王都からもう少し離れたら寝るね~じゃあね~」
リアからの一方的な会話の打ち切りにエリナリナはため息をはいた
まぁしょうがないかと
「でも一度そういうこともちゃんと話しておかないと…でもそろそろ眠い…今日もヒスイ様のところで寝ちゃってもいいかな?」
エリナリナはそっと部屋を抜け出してヒスイの部屋に向かった
途中でカナン姉妹と会うが二人とも何も言わなかった
王都にて
王宮の一際豪華な一室そこにこの国の国王と宰相が臣下からの報告を受けていた
その報告を聞いて王はしばし思案していた
「ふむ…王都の近くにエンシェントドラゴンが現れたと?」
「はっ!…どうやら間違いないようです」
エンシェントドラゴン…それは魔物中でも最上級に分類される強力な魔物だ
ひとたび現れれば国を挙げての大規模討伐が行われるほどだ
しかし王の…いやその場にいたものの関心は次のことにあった
「それで?そのエンシェントドラゴンを何者かが単騎で討伐していたと」
「はい。その模様です」
「信じられんな…よもやこの私を馬鹿にしてるわけではあるまいな?」
「とんでもありません!すべて事実でございます!」
「ふむ…どう思う?宰相よ」
「あの忌々しい魔女の仕業では?いつの間にか妹も姿を消しているようですし…助かるはずもない妹を食って力を手に入れでもしたのでしょう…おぞましい」
その時おそるおそる臣下が口を開いた
「お言葉ですがその…簡単に近くを調査したところ魔力の痕跡等がいっさいなかったそうです」
「なるほどな…どんなに強大だろうとやつは魔女だ、あの汚らしい魔力の痕跡がないのは不自然か…しかしそうだとすると」
「そのものは魔力を使わずにエンシェントドラゴンを倒したということでしょうか?ありえない!」
そう、そんな存在はありえない
道理に合わない
いるとすればそれは…
「その存在はどうしたのだ?」
「どうやら東のほうに去っていった模様です」
「東か…やつらの領地があるほうだな」
それはスズノカワ家がある方角だった
「我が領土を汚す忌々しい帝国の虫どもの住処か…どうやら最近やけににぎわっているそうだな?あの魔女もあそこに追いやってからおかしくなっていった…何かあるな」
「王よ、なにかと言いますと?」
「少し調べてみる必要があるな…それと首輪もつけておく必要があるか。あそこの娘は婚約者がまだいなかったはずだな?」
「はい、間違いありません」
そうかそうかと国王はその肥えた顔に歪んだ笑みを浮かべるのであった
このお話でとりあえず前半は終了です
次からヒスイ10歳のお話を少しだけやったあと年齢をもう少し引き上げて後半の学園編に突入する予定です




