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お父様視点 娘という名の天使

今日も今日とて書斎で書類を眺める作業を続ける

どうしてこうも毎日毎日なにか問題が起こるのか不思議である


しかしこの俺ヤナギ・スズノカワも随分と遠くまで来たものだ

帝国現皇帝である兄に王国に行けと言われた時にはどうやって早く帰るかばかり考えていたものだが…

今ではもうこのままここで暮らすのも悪くないと思っている


「オヤジ」


長年俺の右腕を務めてくれているカツラギがそっと書斎に入ってきた

粗暴な顔つきだが帝国独自の服であるスーツを着こなした姿は思いのほか似合っていると評判の男だ


「行ったか」

「ええ、今しがた」


行ったというのは我が娘ヒスイのことである

専属のメイドと一緒に毎日屋敷を抜け出ているのを俺とカツラギは把握している

最初は止めようとしたのだが


「まぁまぁオヤジ。うちのお嬢なんですさかい、少しくらいヤンチャなほうがええでっしゃろ」

「そうは言うがお前…外はいろいろと危ないだろう!うちの娘に何かあったらどうするんだ」


「メリッサのやつがついとりますし安心してええと思いますよ。案の定普通の人間やないみたいですし」

「本当に信用できるのか?」


「まぁ少し前のあいつなら絶対にワシも許しはしませんでしたけども…今のあいつならまぁ大丈夫と思いますわ」

「ふむ…今更お前の人を見る目を疑ってるわけではないが…やはり心配なものは心配だろう?うちの娘は控えめに言ってもこの世界で一番可愛らしいのだぞ?いつどんなことがあるかわからないではないか」


「はぁ…あいかわらず親ばかでらっしゃる…あんまり構いすぎるとお嬢に嫌われまっせ」

「それは困る!」


やれやれとカツラギはため息をついた

お前もヒスイをかわいがっているくせに…!俺は知っているのだぞ

お前、ヒスイに頼まれてわざわざ王都にまでお菓子を買いに行ってるそうじゃないか…

まぁうちの天使が相手なら仕方ないだろう

ヒスイは間違いなく天使だ

あの子は生まれたときから不思議な子だった

もう語りたくもないほどの大騒動の末に結婚した我が妻であるミレナーレとの間に生まれた娘ヒスイ

産声を聞いた時はとてもうれしかったのを覚えている

いや泣き過ぎじゃね?こんなに泣く?ってほど泣いていた


しかし数日たつ頃には驚くほど静かになっていた

少し心配になったが医者が言うには何も問題はないそうで

ならば大丈夫かと様子を見ることにした

しかしヒスイが一歳になるとまたもや様子がおかしくなった

歩けるようになったとたん屋敷の中を驚くほどアグレッシブに歩き回り使用人たちを見つけてはニコニコと笑顔を向けたのだ

そして俺に対してはというと

何処にいようとも関係なくついてきてはそばに居たがった

娘になつかれて悪い気はもちろんしないが…実はこのころ私とミレナーレの間には微妙な空気が流れていた

なんやかんやで無理に婚約を押し進めたという負い目がある俺と実家のことや連れ子であるディースのことで考え込んでしまうミレナーレ

このままではまずいと思いつつもどうすることもできなかった

そんな状況を動かしてくれたのはヒスイだった

ヒスイは私とミレナーレが一緒にいるときは笑っているのだが気まずそうにミレナーレが席を立とうとすると大泣きするのだ

それはディースに対しても同じことだった

そうしてるうちに俺たち家族の間に妙なわだかまりはいつの間にかなくなっていた

今では俺とミレナーレは恥ずかしながら未だに若いころの熱を持って愛し合っている

うちに遠慮していたディースも今ではうちの連中からも若と心から呼ばれるような立派な後継ぎだ

ヒスイは不思議な子だ

周りにいる者をあの子は不思議と笑顔にしてくれる

まさに天使だ

まぁこの俺とミレナーレの子なのだ何かの拍子に天使が産まれたとしても何もおかしなことは無いだろう


「オヤジ、今アホなこと考えとりませんか?」

「いや?至極まっとうなことしか考えていないはずだが?」


その時扉がノックされ最愛の妻であるミレナールが姿を現した


「あなた、今大丈夫かしら」

「どうしたのだ?いったい」


「そろそろヒスイちゃんのお誕生日でしょう?何を送るのがいいか相談しようと思って」

「おぉ!俺もそのことでお前に話をしようとしていたのだ!」


「あら!やっぱり私たちは以心伝心なんですわね」

「ちがいない!はっはっはっは!」

「アカン…この人らバカップルが過ぎとる…」


そこにもう一人

「父上!母上!ヒスイのプレゼントの話ならぜひこの僕も混ぜていただきたい!」

「ディース!もちろんだとも!みんなで考えようじゃないか!」


ここに集まった三人の娘(妹)バカ達の姿に少しだけカツラギは頭痛を覚えたとかなんとか


そして


「オヤジ…姐さんに若もそろそろ夕食の時間でっせ」

「ふむ?もうそんな時間か…ヒスイはまだ帰らぬのか?」


「いつもならそろそろ帰って来とる時間やと思いますが」


「お父様!!!」

元気な声とともに飛び込んできたのは最愛の娘

しかしここで安直に喜んではいけない

娘の前ではかっこいい父でいたいのだ


「どうしたヒスイ。そんなに慌てるとははしたないぞ…もう少し落ち着きなさい」

キリっとした表情を瞬時に引き出す

これで父の威厳は保たれるのだ


「お父様にお話があります」

「話だと…?」


いつになく真剣な表情を見せる娘に少し怯んでしまったのは内緒である


「孤児院のことです!」

「孤児院だと?」


何のことだ?全く話が分からない


「お父様はうちの領地に孤児院があることをご存じですか?」

そうは問われても記憶にない


「いや…?そんなものはないはずだが…カツラギはどうだ知っているか?」

「いえワシも孤児院なんてもんがあるなんて把握しとりませんなぁ」

「じゃあ私がこれから話すことをちゃんと聞いてくださいまし!」


そうしてヒスイが話し始めたことをきっかけに

エライことが起こるのだが

それはまた少し先の話である

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― 新着の感想 ―
[一言] 2日分貯めて読みましたw 威厳大事ですよねw 何気に気になり出したのが、カツラギさんw
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