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スライムサモナー  作者: おひるねずみ
プロローグ ダンジョン沼のプログレス
9/77

第九話 鳳月グループ総帥 鳳月雅人①

更新が遅くなり申しわけありません。


 通達が呑まれたダンジョン沼から百メートルまでの距離を立ち入り禁止の文字が取り囲む。すでに自衛隊や救急隊員が現場に駆け付け、更にその近辺には野次馬根性で集まった民間人や報道関係者を警察官が押さえ込んでいる。

 日曜祝日ということもあり、いつもは静けさ漂う深夜でも今日(・・)は各家庭では明かりが灯り、深夜営業しているコンビニや自営業を営む店舗には地域住民たちの人だかりができあがっていた。


 そんな中、事件現場の最寄りのコンビニで買い物をする一人の成人男性。外見は若々しく百八十を超える長身で真っ黒な長髪。まつ毛は長くサングラスを掛け、服装も足元のつま先まで黒一式のフォーマルスーツにネクタイをしている。

 ビシリと着こなした背丈が高い男性に、コンビニのレジ打ち係をしていた女性は頬を桃色に染めながら、自然と色目を使った上目遣いで初々しく会計値段を告げる。


「お会計千円になります」


 端末の読み取り部分にスマホを当て購入を手早く済ませた男は、コンビニに来店した人々の視線を一身に浴びながら、駐車されていた国内に数百台しかないリムジンに乗り込み、車内で待機していた倍近く年が離れた隻眼の運転手に現場へ帰るよう指示をした。


「了解いたしました。鳳月ほうづき坊ちゃま」


 近所迷惑にならぬようエンジン音を極小までに落とし、歩行者に細心の注意を払いながら車道に戻る最高級車。鳳月と呼ばれた男性は広々とした座席中央に軽く腰を掛け、スーツ内で振動するスマホを手に取り電話を繋げた。


「私だ。簡潔に頼む」


 応答者は息をのみ、一息おいて無駄を徹底的にはぶいた事実だけを述べる。


鳳月総帥ほうづきそうすい。ダンジョンが消滅し中から生還者が出てきました!」

「そうか。人数は?」

「四名です。衣服は破れた個所はあれど大きな外傷は見当たりません」

「わかった。マスコミには適当に情報を撒いておけ。ダンジョンクリアした人物は私自ら判断する。話は以上だ」


 三十秒も満たない通話を切り、笑みを浮かべる鳳月。バックミラーで表情を把握していた隻眼の老運転手は久しく見る心底嬉しそうな雇い主に、前を見ながら声をかけた。


「ずいぶんと嬉しそうですな、鳳月坊ちゃま」

「当然だ」


 不意に車に置いてあったストップウォッチのボタンを押す鳳月。


「ダンジョンクリアタイムは警察官の言い分と合わせ、軽く見積もっても海外最優時間の六時間クリアを一時間ほど上回る! しかもクリア人数は四名で重傷者はゼロ。死傷者はいたかもしれないが、生存者達が優秀なのは確実だろう」


 無駄を極端に嫌う鳳月の舌が回る時は必ずといっていいほど機嫌がいい。長年、鳳月家専属の運転手として勤めてきた経緯がある老運転手は、まるで鳳月の考えを代弁するかのように信号待ちしていたリムジンのエンジンを軽く噴かせる。

 

いぬい。安全運転で頼む」

「ええ。わかっていますとも」


 老運転手の乾は自身もいつの間にか胸が高揚していることに気付いた。誰しもが沼に落ちることによって魔法を習得できる。極めて重要な、今後の世界を一変させるであろう大事件。

 その鍵を握るのはダンジョン最初期に潜り、ダンジョンから生還した人物。さらに厳選すればクリアタイムと身体欠損部分がないことが挙げられる。

 負傷なしでダンジョンを踏破できるのなら実力は折り紙付き。その集団(PT)が近くにいる。老体であるいぬいでさえ心躍らずにはいられないのだから主人は瞬間移動してでも会いたいに違いない。

 が、主人から安全運転命令が出たのだ。乾運転手は法定速度を厳守した運転で五分後に現場付近へ到着した。


「住民、マスコミが盛大に盛り上がってますな」

「今日ぐらいは大目に見なけらばならない。乱闘騒ぎになっても魔法が関係する以上、仕方がないだろう。しかし、この県の住民は節度を理解しているな。いいことだ。後で担当者を褒めておこうか」


 乾運転手は主人の小言を聞きながら、鳳月総帥を乗せたリムジンを発見し駆け寄ってくる自衛隊員に気づいてドアウィンドウを開けた。


「任務ご苦労様です」

「すみません。お手数ですが、左に沿って裏口の方へ移動してください」

「わかりました」


 自衛隊の指示のもと。裏口から現場に入り、関係者専用の仮駐車場にリムジンを駐車させて鳳月だけ下車する。近づく自衛隊員が「案内します」と一言いい、後をついていく鳳月。

 そして辿り着いたのは仮設テントが複数立ち並ぶ内の一つ。最も大きいテント前で左右には自衛隊員が直立不動の姿勢で突っ立っている。

 隊員同士の目配りで道が開け、案内役と一緒に中へ入る鳳月総帥。


国光くにみつ少将。鳳月グループ総帥、鳳月雅人ほうづきまさと様をお連れしました」


 テント内には少将と呼ばれた顔に生傷がある古風な老紳士と報告書らしき書類にペンを走らせている書記官の軍人。それ以外はパイプ椅子に座ってくつろぎ、陰気な表情でお手元の弁当や飲料水を渋々いただいている四人の凸凹コンビ達。

 四人組は予想外の人物の登場に驚いた表情で一斉に鳳月へと顔を向けた。


(彼らがダンジョンクリア者か)


 鳳月は生存者四名を視界に入れ、外国人女子、警官二人の実力スキルを瞬時に把握するが、残りの対象者ひとりは計り知れない何かがあると直感が告げていた。


「ようこそおいでくださいました鳳月総帥。上から全ての権限は貴方にあると厳命礼が敷かれております」

「うむ」


 国光少将は礼節を重んじ垂直九十度のお辞儀を、自分の孫くらいの年齢の鳳月に捧げた。彼は国内最大級。トップクラスのグループ会社を経営する世界有数の大実業家。鳳月グループ三代目の総帥。

 成長する可能性を感じる銘柄に幅広く投資し、大株主となって自分の意見を方針として組み込ませ、一年以内に結果をだし急成長をさせる絶対的な手腕が噂を呼び経済新聞を始め、各界を賑わせている噂の人物。

 日本経済を牽引けんいんするキーマンと称され、国内で鳳月グループを知らない人がいればモグリと蔑称べっしょうされるくらいに有名で、日本国内に無くてはならない大人物と熟知していれば年の差など関係なく頭を垂れるだろう。


「頭を上げてください国光少将。君、その書類を私に見せてくれ」


 来て早々に握手などして親睦を深めることもせず、書記官から報告書を受け取り数枚の用紙をパラパラめくり、ひとり「なるほど」と頷き一人の青年を見た。


「そこにいる天鐘君(・・・)だけを借りていく」

「了解しました。鳳月総帥」


 鳳月は人差し指でクイクイとこちらに来いとハンドサインを出すと天鐘は逆らうことをせずにパイプ椅子から立ち上がる。

 仮設テントの天幕から外に出て、自衛隊員に見守られながら駐車場のリムジン前まで来た。ドアの前で待機していた隻眼の運転手はドアを開け鳳月と天鐘をエスコートする。

 二人が乗り込みドアをバタムッ!と閉めると自らの仕事位置である運転席に乾は着席する。そこでシートベルトを締めるように言い、運転責任義務を果たすとキーを回しエンジンをかけた。


「天鐘君。彼はいぬい。私専属の運転手で鳳月家に祖父の時代から勤めて、四十年にもなる大ベテランだ」


 運転席から首だけ周り右をして軽く会釈する乾と天鐘が両者の自己紹介を終えたところで、改めて自分を紹介することにした。


「天鐘君。私は百を超える中小企業を経営し、コマーシャルやスポーツ競技のスポンサーと知られる、日本を代表する鳳月グループ三代目総帥、鳳月雅人ほうづきまさとと言う」

「知っています。多岐にわたる株式会社に投資して絶大な成果を上げたとネットの経済番組に出演していたのを拝見していたので」

「ほう……」


 鳳月は天鐘の期待値を上方修正した。自分が関係している番組を視聴してくれていた。ただそれだけで気分的に嬉しいものだ。


「鳳月坊ちゃま。失礼ながら天鐘君はダンジョンから脱出してきたばかり、手短に用件をすましてあげるのが大人の対応と存じます」

「うむ。そうなんだかな…………」


 どうも歯切れが悪い要人に天鐘は不信を募らせる。


「まず初めに謝っておく。天鐘君。君の素性は数時間前から私が持つ権力コネで仔細情報を入手している」

「…………どういうことですか?」


 国家権力で自分のプライベートを覗かれた気がした天鐘の目つきが途端に細く鋭くなる。

 数多の交渉事、血を流さない修羅場せんそうを体験して図太くなった神経の鳳月。高校生に睨めつけられたくらいで後れを取ることは決してない。

 だが、情報を基に投資で私財を稼いだ経験則が勝負勘が警告を鳴らす。目の前の高校生をただの高校生と侮ってはいけない。彼は(・・)あの中で唯一衣服に変化がない生還者。最優秀タイムでダンジョンクリアした、他と一線をかくす魔力量を持つパーティリーダー(主力)的存在。全てを包み隠さず話す必要があると直感がささやいている。


「三億の件と言えば理解できるか?」

「!? それじゃ……『ダンジョン沼の秘密』のサイトで沼位置情報の購入者は!」

「ああ。私だ。それと付け加えれば、そのサイトの運営は私の知人が受け持っている」


 一言必殺の言葉。天鐘は心臓を鷲掴わしづかみにされた気分だったが、カミングアウトされると心の奥底で梅雨の湿気のようにまとわりついていた気持ちの悪いモヤが晴れていき、清々しい気分になった。


「素性を出会う前から調べた理由は分かりました。けど一つ疑問があります」

「なんだ?」

「どうして他の三人は呼ばずに俺だけを連れてきたんですか? 明らかに大人である警察官二人のどちらかの方が適任のはず」

「簡単なことだ」


 鳳月はサングラスをクイっと上げ直し、猜疑心さいぎしんが薄れ始めている天鐘に対して誠意に応えた。


「私も君と同様にダンジョンで能力を授かった。習得した技能は『技能審査』。相手の持つ能力をサーチし、知ることができる魔法系統の識別能力だ」


 天鐘は己が所持している秘密技能以外の能力が筒抜けの事実に肝を冷やす。


「天鐘君。君がどういった仕掛け(トリック)を使ったか知らないが、スキルを軽く二十以上所持している人物を私はこれまで見たことがない」


 少し引っかかるおかしな言い分に、天鐘は脳内で予想したことを恐る恐る尋ねる。


「もしかして、ダンジョン沼は以前にも存在していたのですか?」


 プルから得た情報にダンジョン沼の起源らしき知識は得ることができていないので判別できないでいた疑問。その答えが鳳月から語られ始めた。


「いい質問だ…………天鐘君は一年前。米国主催の軍人だけの祭典。ソルジャーズアリーナの存在を知っているか?」

「はい。うろ覚えですが、確か先進国の軍人たちが一堂に集い、貴金属類を除外した近接戦闘のみで争い世界一の軍人を決めるK1みたいなものだったはず……」

「その通りだ。その祭典が開かれる前からダンジョンは先進国の重要拠点に一か所ずつ存在していた。正確には去年の元日からだ」


 約一年半前からダンジョン沼があり、今日の日まで魔法が秘密とされていた事実に天鐘は大きなショックを受けた。


「これは極秘事項だが日本の出現場所は天皇陛下の御座所。米国はホワイトハウス。国の象徴ともいえる場所に突如現れたが……今日まで市民に情報が漏れることなく事が運んでいた」


 国民に認知されることなく完璧な情報統制を敷いた政府。今までマスコミやフリージャーナリストにタレコミをする人がいなかったのが不思議でならない天鐘。


「手法を答えることはできないが……当時は、いや、今もだが通報は自分の首を絞めることにつながるとダンジョンの存在を知ってしまった誰もが心で反芻はんすうしていただろう」

「? 脅されていたんですか?」

「……そこは天鐘君の発想豊かな若い想像性に任せるとしよう――――話を変えるがソルジャーズアリーナの総賞金額は?」

「七七七億円ですよね。ユニークなのでそこだけ記憶しています。世界的に有名なラスベガスのカジノオーナーがスポンサーとしてバックに付いたと覚えてます」


 報告書に記載されていた通り、お金に関しては敏感なようだと鳳月は嬉しく思う。


「私もソルジャーズアリーナのケツ持ちの一人として、祭典に貴賓(VIP)として某国に招待され一能力者として戦闘を観戦したよ。そういえば途中で感想を求めてくる人もいたな」


 鳳月の話を聞き、天鐘の脳裏に予感めいたものが浮かんだ。

 それはソルジャーズアリーナはダンジョンで能力を覚醒させた軍人のみで組み手をさせる、各国が暗黙のルールで秘密裏に根回しして取り決めた軍事演習。真の目的は彼の国がどれほどの実力者を囲っているのか測るための大会。

 裏事情を知っている人間は恐らく極少数で、国の重鎮や莫大な資本金が手元にある大富豪といった、一般人には到底理解できない世界で暮らす雲の上の住民だけ。

 日本を代表する大手実業家グループ筆頭の鳳月家に話がいくのも頷ける。事実、鳳月の権力は自衛隊関係者にも及び、防衛省、政界に太いパイプがあるのは確実。

 現に上から数える方が早い少将クラスの軍人が【上から全ての権限は貴方にある】と偶然にも眼前で喋っているのを聞いてしまった。

 つまり、それが意味するところ鳳月雅人ほうづきまさとは、世界の牛耳る一部の人間と密接な関わり合いがあると同時に日本防衛省を跪かせる資金力、伝手、力を所持していると考えるのが自然だ。


「…………鳳月さんは――――学生の身である自分に何を求めているのですか?」


 本質を見極める瞳をした天鐘に鳳月は口角を上げる。


「単刀直入に言おう。君は私の運命の男だ!」

「…………!? エッ!?」


 数瞬意味を理解することができなかった天鐘は驚愕の声を車内であげた。完全防音使用のリムジンのため、外には聞こえないのがせめてもの救いだ。


「鳳月坊ちゃま。その言いようですと、天鐘君が求愛されたと捉えてしまうかと」

「乾。この想いは求愛に近い感情だからあながち間違いではないぞ」


 老運転手とのやり取りの隙に、無意識のうちにシートベルトを外して鳳月と距離を置く天鐘。


「ほら、御覧なさい鳳月坊ちゃま。天鐘君が怯えているではありませんか」


 天鐘はドアを開けようとするが運転席側の操作でドアロックされていて下車することができない。鳳月は近づかず、その場で分かりやすく説明した。


「すみません。早とちりしてました。運命の男とは仕事柄を指すんですね。勉強になります」


 天鐘は元いた席に座りシートベルトをする。


「私が天鐘君を個人的にスカウトしたいむねは理解してくれたか?」

「はい。ですが…………学生の自分をスカウトすることに旨味メリットはあります? 正直言うと」

「それ以上の言葉は必要ない。君は私を必ず必要とするし、私も君が無くてはならない運命の男。君は疑い深いようだから、えて言おう。秘密技能持ちは君だけではない、私も所持しているのだよ」

「ッ!?」


 天鐘は自分の隠された能力が筒抜けであることを認めたと同時に、絶対敵に回してはいけないと持つものを持つ大富豪の鳳月を恐ろしく感じた。事前に先手を打たれたことにより能力を使って誤魔化すこと、欺くことができないのだから。


「君が所持する複数の秘密技能を拝見した時に全身に駆け巡る衝撃は人生二度目だ。初見は彼女。だから二回目の君は私の運命の男と例えることができる」


 天鐘は自分を高く評価する鳳月の人柄に強い興味心が湧いた。


「これは始めに言っておくが、立場は私と対等で前金として三億、月に一億支払う。最後に君が出す条件は全て聞き入れるつもりだ」


 御曹司みずから下した破格で前代未聞の有り得ない好条件。

 天鐘はいずれ上がるだろう無名の銘柄(じぶん)に投資する鳳月とならば、組んでもいいのではないかと考え始める。


「もし君が不利な状況に陥った時は国が、私が総力を挙げて全面的にバックアップすることを約束する」

「鳳月さん。自分一人の為だけに国益を度外視した行動をとるなんて本気ですか?」

「一般人、傍から見た人なら正気を疑うだろう。だが私が持つ【秘密技能:超直感】が囁いている。君を守ることが国益につながるとな! ちなみに私の直感が外れた試しは一度もない」


 天鐘は脳裏で能力検索をして【秘密技能:超直感】を把握する。


【秘密技能:超直感】

直感が働いた時、身を委ねるように行動に移せば、全ての結果は自然と良い方向に転がっていく。

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