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スライムサモナー  作者: おひるねずみ
第1部第1章 愛別離苦のアウロラ
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第七十五話 マナ姫生誕祭

王族が誰かさんの脳内に誕生しそうです。

 通さんのしつけの仕事が終わり、武田少佐からマイクを渡されて途切れた話が再開されました。


「自分も諸事情により早くダンジョン捜索したいので要点だけ伝えます。良質な特効薬を安定して供給するには優秀な錬金術師が必要不可欠。ですが錬金術師は貴重な存在で、世界全体から見ても0.1パーセント未満とも言われています」


 ここまでの情報はネットで調べれば発見可能な、ありふれた内容。


「そこで鳳月総帥の専属クランメンバーとして、今日正式加入していただくことになった、横にいる彼女こそがちまたで噂になっている錬金術師の、桜坂真奈美さんです!」

「「おおおぉ――――!!!」」


 いい繋ぎ方です通さん。レア感を際立たせた後に私を紹介する! 皆さんの好意的な眼差しが堪りません! 脳汁が過剰分泌されて溢れ出してきましたよ。


「小柄ですが自分と同い年の十七歳、現役バリバリの女子高生です」

「「えええぇ――――!!?」」


 ちょっと大人の皆さん!? その驚きかたは本人の前で失礼です!!


「「かわい――いぃ――――!!」」


 私の身形を褒めてくれる、少数派の女性陣が集合している一角から甘声が聞こえてきました。

 男性陣もそれに乗っかる形で肯定。チヤホヤされるのは大好きなので、もっと褒めても大丈夫です! 今ならいくらでも受け入れられます!


「皆さん、彼女は幼な可愛いと感性が感じ取ったと思います。マナさんと背格好が同じお子さんがいる親御さんは、彼女と面影を重ねたことでしょう」


 と、通さん。それ、私が年下に見えるって、はっきりと言ってますよねっ! ねっ!


実子じっし、お腹を痛めて産んだ子供がもし、人生を左右する危機に直面していたら、あなたがたはどうしますか?」

「手を差し伸べるに決まっています!」

「当然だ、俺たちは自衛隊員の前に人の子だ!」


 通さんは目を閉じてウンウンと頷き、役者を演じています。ああ…………通さんのプランニングが段々と見えてきちゃいましたよ。


「実はマナさんと出会ったとき、彼女は焦燥しょうそうしていて、それはひどい有り様でした。衣服は乱れて上半身は下着姿インナー。乱暴された(やけど)跡があり、錬金術で製作した錠剤を服用して命からがら逃げてきたのです!!」

「「!!!」」

【う、嘘は言ってないですね。当時を思い浮かべても、嘘はないのですが…………ものはいいようで……通君の恐ろしさの片鱗を見た気がします】


 説明の仕方に苦言を申したいところですが、通さんは私の今後のことまで踏まえて嘘偽りなく真実を、自衛隊の皆さまに提供しました。

 私に降りかかった災難に立ち向かい、懸命に守護してくれようとしています。クールに見えて内心では激情が渦巻いてますね。

 それは自衛隊員も同じようで…………


「こんな幼そうな子に乱暴を働いたのか! 俺の娘だとしたら泣きたくなる――――当然だが全殺しでも許さん!!!」

「日本のロリータコンプレックスはここまで侵攻していたのね? 早く正さないと危険だわ!」


 いたるところから、大小さまざまな意見が上がりました。ダンジョン沼会場は熱気に包まれ、士気は非常に高まった気がします。


「話はまだ終わりません。ダイバーシティへマナさんを車で輸送中、なんと追跡されていたのです! 今の話で皆さんはご理解頂けたと思います。相手は組織ぐるみで、マナさんは俺に救助を求めるまで一人で苦しんでいたのです!!」


 信じられないといった非難の声が女性陣から上がりました。味方がいることが涙が出そうになるくらい嬉しいです。


「当然、後をつけられたままダイバーシティに入れませんから、軽い制裁を彼らの車両に下しました。これで多少は警戒したと思いますが、こちらの思う壺です。今からマナさんと一緒にレベルアップをするため、自衛隊員の皆さんにトゥエルカ地下全域を託し、俺たちクランメンバーはトゥエルカ地上部に進出します」


――――うおおおおお!!!


 歓声が上がり始めました。

 武田少佐の滑出し「日本の厚生労働省から承認を得るのは現実的に不可能に近い」が嘘のような盛り上がり、通さんは策士です。


「地上部から帰還したマナさんは、大幅にレベルがあがっていることを俺が保証します。恐らく特効薬製作に一波乱を巻き起こすのは間違いありません。高品質な治療薬が少しでも早く国民に行き渡るのを願うばかりです。期待してくれて構いませんが、みなさんに一つだけ! マナさんに関してお願いがあります!」


 早くも自衛隊員の心を、通さんは掌握しつつあります。


「マナさんを不幸のどん底に落とそうとする藤原財閥子飼いの暴力団組織、藤原組が技能を使いマナさんの家族に報復をする可能性を秘めています。聞いた話によると藤原組の構成員は技能持ちを多数抱えており、警察関係者に内通者がいるとのこと。武田少佐に話を通してあるので、もし我こそは! と、今ここで警護に名乗り出れる方は挙手してくれませんか?」


 通さんの願いに賛同し、眼前にいる千人の自衛隊員が次々と手を挙げていく。気づけば大多数が垂直に宣誓する形で私を見つめていた。

 明朝。覚悟を決めて自宅を飛び出したとき、このような光景が私の前で展開されるなど、想像だにできなかった。


 これは……夢だ。


 お姫様プレイの願望を持った私が見る、悪夢でない最後の。希望に満ちた夢。

 目が覚めれば泡沫うたかたに消えてしまう儚い夢物語。きっと現実の私は藤原組に薬物を投与されて、幻覚を見ているに違いない――――だというのに頬へ伝わる温かい感触が、目の前で繰り広げられていることこそが現実なのだと訴えかけてくる。


【良かったですねマナ。千人の自衛隊が守ってくれますよ】

「…………うう。これ現実、なんですよね?」


 私は泣きながら通さんの服の裾を掴んで、上目遣いで見上げた。


「っ! も、もちろんです! マナさん、最後に自衛隊への号令をお願いできますか?」

「こ、こにょ! こにょタイミングでしゅか!? ちょと待って…………くださいよぉ~~」


 噛み噛みの鳴き声で、男性隊員たちから微笑ましい笑い声が溢れ、女性隊員たちはマナちゃん頑張ってと熱い声援が飛ぶ。


「ずいませ、少し時間を下ざい」


 だって、はちきれんばかりの、人生で初めて味わう感情の嵐で、こっちは涙腺崩壊。涙で前が見えないんですよ! 

 私は急いで要らない洋服の生地で作ったお手製ハンカチで涙を拭う。

 通さんは私が落ち着きを取り戻したのを見計らい、マイクを手渡してくれた。

 ここからは私が主役の初主演初舞台! 観客席は通王子の手回しで満席御礼。藤原組が怖くてドラマは語れませんよ!!!


「自衛隊の皆さん! こんにちは――――!」

「「こんにちは――――!」」


 思ったより食いつき具合が良好です。周辺警護人員が入れ食いなので、まさに姫に相応しい大舞台! 泣いた後ですが、テンションあげあげで行きますよぉ!


「私の名前は桜坂真奈美、通さんの紹介があった通り女子高生です! 決して中学生ではありません!!」


 ドッと笑いに包まれる民衆。中には「私には女子大生に見えるよマナちゃん」と、励ましてくれるかたもいました。悲しいことに逆効果ですが、気持ちだけ汲んでおくことにします。


「今週の月曜日に錬金術師になってから散々な目に遭いました。詳しく内容を話すことはできませんが、通さんが言った証言は全て事実です!」


 ここは最重要です! 私も通さんの手法を真似て、押さえる箇所は強調していくことにしましょう。


「ただひとつだけ言えることは…………藤原組、組長の息子に、私の人生を破滅させる動画を撮影されてしまった…………ということだけです…………」

「「っ!!?」」


 おっと、私としたことがつい口を滑らせてしまいましたよ。いけない口ですね? 視線を自分の足元に固定して、哀しげに語る悲劇の美少女を演出。

 動画は違法薬物を飲んでしまった映像ですが、私が抹茶と言い張れば権力者であらせられる通さんと鳳月総帥が力を貸して誤魔化してくれるはずです! そして頼りがいがある千人単位の自衛隊ダイバー部隊が、ナニを? 勘違いをしたのか、ずいぶんと殺気立っています。

 いいですよぉ! わたしに忠誠を誓う騎士たちが姫君を穢されて憤怒している姿! チヤホヤされて守られてる感が増し増しで、シチュエーション的にも味付けされたチャーシュー的にも大好物です!


「みなさん。私は通さんに助けを求めて救われましたが、暴力団員が家族、親族のもとに行き危害を加えると考えてしまうと、このままでは安心して夜も眠ることができません」

「「真奈美いぃ――! 心配するなぁ――!! 俺たちが! 責任を持って面倒みるぞぉ~~~~!!」」

「っ! あ、ありがとう! ありがとうございます! みなさん!!」


 これは! これこそが! 私が求めていた楽園です!! あなたのおかげで、新たな扉を開けて、目覚めちゃいましたよ! 今日はアイドルマナ姫の誕生祭です!! ここでコンサートライブをしてもいいですよね通さん!!


「今のみなさんの言葉で私は勇気を頂きました。困難に阻まれても、いくらでも頑張れます! 錬金術で副作用のない特効薬を製作して、国民を絶対笑顔にしてみせます!!」

「真奈美イィ――!」

「真奈美ちゃーん!!」


 観客席のファンたちが、次第に声を一つにして大きなうねりとなって、私の名前を連呼し始めました。


「ま・な・み! ま・な・み! ま・な・み!」


 アンコール! アンコールきちゃいましたよ! 大成功です! やりましたよ通さん!!!

 さあ、そろそろいいでしょう。フィナーレです!

 

「青い宝石リーダー通さんの権限を借りて私! 桜坂真奈美が! 今をもってダンジョン沼、トゥエルカ地下全域の開放を許可します! 思う存分に力を振るってください!!」


 次の瞬間。この場にいる人間全員のボルテージが最高潮に達して、歓声が湧き地面が震動しました。

 凄いですよコレは! 想像以上に良い完成度です!


――――ゴゴゴゴゴゴ!!!


「ぉおお――!?」

「きゃあぁぁっ――――!!」


 えっ? ちょ!? ほ、本当に震動してます!? 地震! 逃げ場がないダンジョンで地震ですよ!! 大地もマナ姫の生誕を喜んでくれるのも結構ですけど、岩盤崩落で生き埋めになってしまいます! 助けてください通さぁ~~ん!

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