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スライムサモナー  作者: おひるねずみ
第1部第1章 愛別離苦のアウロラ
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第七十話 七人目のクランメンバー

 玄関の扉まで十メートルとなったところで何もない場所から突如として、両サイドに外はね髪がある黒髪ショートレイヤーの小柄な女の子が姿をあらわした。

 彼女の格好はTシャツのボタンをせず、剥き出しの肩と肌着のVネックレースの白インナーを覗かせ、膝下まで隠したベルト付きの黒スカートを履き、スカート生地の前中央には黒い大きなボタンが七個くっ付いている。

 彼女は着飾った私服で肩掛けの茶色いレザーポシェットと、腕時計を身につけていた。


「すみません! わたしを助けてください!!」

【この子が例の桜坂真奈美です…………ちょっと上半身が大胆なことになってますが、普段は男性に色目を使う性格ではないので、よほど切羽詰まってますよ】


 理由を話さず、自己紹介もせず、眉毛を下げた困り顔でまず助けてと来た。

 彼女の不安が色濃く伝わり、あどけない瞳を見てしまった通は、仲間にするしない以前に一目で彼女の力になって護ってあげたいと思ってしまった。


「立ち話できる雰囲気ではないので、よかったら家の中に入りませんか?」

「はい!! わたし、荷物持ちます!」


 ソフトに話すと気合いを入れて即答し、通が左手で持っていた合計重量二十kgはある荷物を全て肩代わりする真奈美。

 それだけで天音が言ったように切羽詰まっていたと読み取れる動作に、通はできうる限り彼女へ刺激を与えないよう努めることにした。


「お、お邪魔します」


 通が玄関の鍵を閉めると、玄関マットの上から不安そうな表情を投げかけてくる真奈美。初対面の男性宅に押し入り、逃げ場を失ったのだから当然だ。

 天音から口が悪いと前に聞いていたが、明らかに遠慮していて控えめでいじらしい。

 容姿も幼く童顔で可愛さアピール全開にして、保護してくださいと父性に訴えてくる。


「あっ」

【っ!!】

「ど、どうしました!?」


 真奈美の背後を転がる青い奴ら。説明なしで鉢合わせしたら確実に彼女に刺激を与えてしまう。

 そこで通は苦し紛れに手荷物を覗くフリをしながらハンドサインを送ると、優秀なまんまるコロコロ達は方向転換。


「あ――なんでもないです。牛乳を買い忘れたかなと思いましたが、気のせいでした」


 通が靴をゆっくり揃えて脱ぎ、真奈美の横に並び、冷蔵庫がある場所を案内。後ろを振り向く真奈美。

 彼女の行き先にスライム達の姿はどこにもない。


(本当にギリギリだった)


 冷蔵庫方面に転がっていったスライムは青い小物になりすまして真奈美が気付くことなく、食材を冷蔵庫に詰め込んでいると新鮮な食材の匂いを嗅いだことで真奈美ではなく、通のお腹の虫が鳴った。

 緊張感なしの音に堪えきれずクスクス笑い、はにかむ彼女の警戒心が多少緩和され、結果オーライと自身の体内時計を褒め、少量の荷物を持って二階の自室に案内する。


【通君、自己紹介する前に彼女の大好物であるチーズシェイクを渡して友好を示しましょう】


 一番始めの対応の仕方で印象が、がらりと変わる。

 今後の活動に直結するため、天音の提案に乗ることにした通が、中央に鎮座する半透明のテーブル奥側に移動。

 真奈美をドアに近いほうに座らせる配慮を取り、二本のうち片方のカフェシェイクを渡すと、驚きの表情で震えながら受け取る彼女。


「ど、どうして…………わたしの一番好きな飲み物を知っているんですか…………」

「それは俺が君のことを探していたからなんだけど」


 通の言葉に腰を床につけながら、チーズシェイクを持って後退あとずさりする真奈美。その表情にははっきりとした恐怖が張り付いていた。


「あ、あなたもグルなんですね!? 最後の希望だったのに…………こんなの酷すぎます!!!」


 腰に力が入らず、立ち上がることができない真奈美は自身のポシェットに手を伸ばすと、通は情報にあった薬を服用する気だと、か弱い細腕をつかんで阻止。


「離して! あなたもちからの息が掛かった人なんでしょう!」

「何の話か見えてこないけど――――誓って君に危害を加えたりしない!」

「……うう…………本当ですか? 信じて裏切られたら一生恨みます! 一族末代まで祟りますから!!」


 先に誤解を解くのが正解だと判断した通は、クランメンバー加入の絶対条件である通過儀礼、魂の契約を一から十まで説明する。


「いいですよ。もし私をかついだ嘘でしたら、すぐに薬を服用します」


 動作に移る前に阻むことが可能で、抑止力になり得ない提案。問題ないと双方が納得して、素のジト目を更にジトジトさせた真奈美が、ミラーボードに表示された魂の契約書にサイン。

 彼女の小さな身体に霊能技能が息づく。そして……


「っ!? えええェェッッ~~~~!!! 天音お姉様ぁぁ~~~~!!?」

「えっ? お姉様!?」

【ふふっ、通君も一緒に驚きましたね? お姉さんの一人勝ちです】


 チーズシェイクは俺を油断させる前座か! と、してやられた通。好物を最初に提示しなければ、怪しまれることなく普通に自己紹介から始まっていた。

 通の身体能力も加味した天音の悪戯。女性に対して甘々な通は、面と向かって勘弁してくれとは言えない。


「これで騙すつもりは無いと信じていただけたと思います」

「……天音お姉様が神秘的な存在になって……尊い」

「あの、もしもし?」


 さっきまでの危機迫る顔はなんだったのか気になる通は、天音に見惚れている真奈美の、ほっぺを人差し指で優しくプニュと、ひと突き。


「はひぃ!?」

「正気に戻りました? お互い自己紹介がまだなので軽くしましょう。俺は天鐘通です。好きに呼んでもらって構いません」

「わ、わかりました。では通さんと呼ばせていただきます――――それで私の名前ですが桜坂真奈美、親しい人はマナと呼んでます。私も通さんの好きに呼んでもらっていいです」

「ならマナさんと呼ばせていただきます」


 自己紹介が終えたところでマナに断りを入れ「プルちゃんのお部屋」を通して、鳳月に捜索者をこちらで保護したことと、クランメンバー加入の件を簡潔に伝えて謝辞しゃじを述べたあと、デイジーに「プルちゃんのお部屋」と「階層地図」の魔技アプリをマナにも使用できるようにしてほしいと伝えると、すぐにメッセージが返ってきた。


『私、いま授業の最中だけど、頼まれてあげるわ。その子のスマホの電源を入れて、今から言う二十二桁の番号に電話してもらえるかしら』


「通さん、二十二桁ってどういうことですか? それに何故、私の携帯の電源を切っているって知っているのでしょう? 激しく疑問です」

「後々、わかることだけどデイジーさんから直接聞いてくれた方が俺的には助かるかな」

「そうですよね。仲間の技能を本人のいない前で喋るのはご法度。通さんの言う通り本人の口から聞くことにします」


 通は内心で聞き分けがいい子で助かると本気で思っていた。デイジーがアレなので、気苦労が絶えなかったこともあり、天音が引き合わせてくれた巡り合わせに特大の賛辞を贈る。


「電話番号は…………誤入力……なし! てえぃ!」


 可愛らしい声で番号を送信するとマナのスマホが黄色く輝き、アプリが二つ送られ十秒足らずでダウンロードが二つとも完了して使用可能になった。


「なんでしょう? このアプリケーション。初めて見ますね」


 通をジト――とじっくり見つめて、チーズシェイクを付属のストローでひとくち口に含むマナ。仕草が小動物そのもので男眼で見ても可愛いと思ってしまう。

 これはデイジーがマナと顔を見合わせたら、スライムの時のようにお祭りになりそうな気配がする。通のダイバーシティの持ち家へ一時的に避難させる予定なので尚更だ。

 それからマナに二つの魔技アプリを説明しているとデイジーからまたメッセージが届いた。


『通君、その子の画像を今からこっちに送ってもらえないかしら?』


「っ! 早くもプリティセンサーが反応したか……」

【言い得て妙ですね通君】

「プリティセンサー???」


 一人だけ状況がつかめていないマナ。

 拒否したら後が怖いのでやむなしと、通はデイジーに二枚の画像を送った。


【反応がありませんね?】


 いったいどうしたのかと心配になり、こちらから連絡を入れるが反応はなし。授業中で迷惑になると考えデイジーのことは横に置いておき、魔技アプリが与える特権をマナに全て叩き込む。


「これを全部デイジーさんが製作したんですか!? 同い年ですよね!?」

「そう、だからクランメンバー以外は他言無用でお願いするよ。デイジーさんが昨日特許をクラン創設者の鳳月さんに提出したら、迅速に対応、強引にねじ込んだ結果。今日中に特許登録が完了するらしいけど、メンバー以外、世間は知らないことだからね」


 飲み物の容器を持った両手が小刻みにプルプル震えている。それにもかかわらず意地でもシェイクを飲むマナが人形みたいに思えてくる。

 口に出して笑わないよう我慢し、クランが結成された存在理由、要点、注意事項の説明が終わり、通は自身の召喚能力を披露。スライムを一匹召喚してマナの隣に召喚した。


「!!?」


 スライムに気づいた瞬間、飛び上がり距離を取るマナ。身のこなしは一般人の上位に位置する動きだった。


【マナ、そんなに驚くことはありませんよ】

「だ、だってスライムはなんでも溶かすではありませんか…………あれ? 溶けてない?」

「俺の召喚したスライムは特殊で、ダンジョンにいるスライムとは別物ですから安心してください。なんなら触れ合うこともできますよ」


 消化されないと召喚した本人から言われれば、触りたくなるのが人の性。躊躇い触れると満面の笑みを浮かべるナマケモノに早変わり、ダメ人間製造機のスライムの魅力に取りつかれた女性がまた一人、この世に爆誕した。

 通の技能を教え、後攻のマナの番になる。

 肩掛けポシェットからテーブルの上に取り出したのは、チューブ型の試験管プラスチック容器に入った赤いポーションが八本。逃走時に使用していたエスケープタブレットが二個。

 ポーションの方は下級クラスの効能で小さな傷なら瞬時に治す力を秘めていて、軽傷の切り傷や出血を止めるのに優れた効果を発揮する。

 エスケープタブレットは強敵から逃げるため、戦闘力皆無の非戦闘員向けに作られる薬。マナのような生産者でレベルを上げるためにダンジョン沼へ潜るダイバーなら一個は常備しておきたいアイテム。まだ知名度が無く、広く知ら渡ってないようだが、品薄になるのは時間の問題だろう。


「それを使って俺の家で待機していたのはわかりました。マナさんが俺たちが望む、三種類の薬の製作を手伝ってくれるなら喜んで協力します。ですから主立った原因を話してくれませんか?」

「……通さん……聞けば必ず後悔しますよ? それでも…………聞きたいですか…………」


 通が是非と答えると彼女は、おずおずと重い口を開いた。


「わかりました…………通さんを頼らざるをえなかった経緯をお話しします」

エスケープタブレットの危険性とデメリットを、後日の話に書く予定です。

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