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スライムサモナー  作者: おひるねずみ
第1部第1章 愛別離苦のアウロラ
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第六十二話 デイジーのジャッジメント

百話辺りで第一章が完結しそうです。

「夜分失礼するぞ恭平きょうへい。少しサイトのことで看過できない問題が発生して、私のパートナーが困って……いや、静香さんのほうではなく、仕事のパートナーだ」


 親しみを込めて通話する鳳月。砕けた口調から年代の近い存在と読み取れる。相談中にデイジーの事柄が飛び出したことで、この後の光景が頭によぎる。


「デイジー嬢! 折り入って相談があるのだが!」

「なんでも言っていいわよ! もう転売出品者の通信経路は把握済み! 主犯格も…………ふふっ! とらえた、私からは逃げられないわよ――!!」

「流石はデイジー嬢! 食事が早いから仕事も早いと思っていたよ! では私刑を始めるとしようか!!」

「はやく! はやく! 鳳月総帥、私にオーダープリーズ!!」

(うわ――。やべぇわ! この二人)

(混ぜてはいけない可燃物のようだ……)


 着火寸前の爆弾と火種のように、両者、性格が似ているのか行動も迅速でノリノリである。


「デイジー嬢、彼らが以後、友人のサイトを使用できないようにしてほしい。期限は……デイジー嬢のジャッジメントに任せる!!」

「おけまるうぅぅ――――!!」


 ちょっと古い若者言葉がデイジーから飛び出し、近未来的な。ちょっと道をたがえれば犯罪扱いになるそれは引き起こされた…………



  ♤   ♢   ♡   ♧



 都内某所のビジネスホテル。


「おおう! 通信障害か?」


 突然PCの画面が固まり、カーソルが渦を巻く。

 ネット環境のいい立地で初めて起きる現象に、腹が見え隠れする贅肉太りした男性が座っている椅子がきしむ。


――――ブゥーン!!


「うお! なんだ!?」


 モニター画面がブラックアウトして再点灯。サイトが閉じられデスクトップ画面が映しだされる。


「はああ? 何落ちてんだよ! サーバーくらい強化しとけっつうの!!」


 一人部屋で甲高い声を出してさえずり鳴きながら、ダンジョン沼の秘密サイトにアクセス。IDとパスワードを入れるがサイトに嫌われ弾かれる。


「あー? 入力ミスったか?」


 再度IDとパスワードを確認して入力するが赤文字で正しいIDパスワードを入力してくださいと馬鹿にされ、顔を真っ赤にしてキーボードに八つ当たりをした。


「んだよ! また俺が打ち間違えたってか!?」


 不満を漏らしつつ、手近のミスドのチョココーティングされたドーナツを左手で鷲掴み、口に咥えながら入力画面を凝視して打ち込む中年男性。


「アハハハハハハ――――――――アハハハハハハ――――――――!!」


 トラップカード発動! モニターに死神のタロットカードが中央に表示。画面が真っ赤に染まりボイスチャンジャで変換された男の濁声がスピーカーから発せられた。

 驚いた男性はドーナツをのどに詰まらせて椅子から転げ落ち、その反動で椅子がバギバギ割れる音を鳴らす。


「ゲホ、ゲホッ! な! 何が起きた!!?」


 使い物にならなくなった椅子を、邪魔だと八つ当たりして横に蹴り飛ばし、その間に気味の悪い声と真っ赤な点滅画面がおさまると、画面に警告文が表示されているのを男が目にした。


「ふっ――――っざけんなよぉぉぉ~~~~!!」


 警告。

『あなたは当サイトにて相応しくない行いをしたので、規約条項に基づきアクセス権限を剥奪しました』


「そんなバカなことがあるか!!」


 オークションに対する規約条項に転売のことは記載されてあり、しっかりと頭で網羅もうらしていた男性はサイトの法律に厳守していたはずと自負していた。許さねぇ! 絶対訴えてやると粋がっている、その時だった。

 手下に貸し出している、裏のルートで仕入れた廃棄スマートフォン数台と自分の所持しているスマホからコールが入る。まさかと青ざめる転売ヤー主犯。


「まて、まて、まて、まて、待て! もしかして……全員! アクセス拒否されているのか!!?」


 転売は物品を売りさばかなければ身が破滅する商売。それは転売者全員が覚悟していること。

 いっせいに鳴り出した不気味な呼び出し。主犯格が取ろうか迷っているところに不可思議な現象が現れた。


「やばい、やばい、どのオークションサイトにもアクセスできねぇぇ! なんなんだよこれ――!!」

「早く出てくれ兄貴!」

「どうなるんだよ、俺ら…………」


 なんと通話していない携帯から、その場の肉声が聞こえてくるのだ。


「ウグイス…………あの野郎、ヘマしたんじゃないだろな!!」

(げげえぇ!!)


 転売ヤー組織を傘下に収めている反社会裏組織、幹部からの音声。

 幻聴とも読み取れる不可解な状況と、役立たずは切り捨てる裏組織の、人を人とは思わない恐怖からパニックを起こした主犯格は、荷物を持たずに部屋から飛び出した。



  ♤   ♢   ♡   ♧



「フッ、フッ、フゥッ↑! 実演終了! ミッションコンプリートォォ――――!!」


 ウェ~イ↑! 鳳月の指令より一歩踏み込んだ一撃をお見舞いし、やりきった満足感から猛りの声を上げるデイジー。

 「プルちゃんのお部屋」の効果で他所に漏れる声はなく、主犯格の携帯を傍受していたのでクランメンバーのみが事実を把握していた。

 そしてデイジーの仕事がオークションに反映され、転売出品していたネックセスやリングがオークションサイト一覧から綺麗に消えさり、液晶画面には在庫ゼロと表示されている。


「運営の力を使ってないのに五分未満で対応できるんだね……」

「デイジーにかかれば赤裸々なプライベートが暴露されるな……」

【現状を把握した国家保安局が動き出す日も近いですね。警察のサイバー科に所属している全員が、電波能力者に取って代わる日が近いかもしれません】


 これ、電波能力者に本気で脅迫されたら詰みますねと頭で思い浮かべ、嫌な世の中を空想する三人。通信機器に溢れる世界で暮らしているのだから根深く深刻だ。頭痛の種にしかならない。

 

「デイジー嬢、素晴らしい手腕だ! 称賛に値する!!」

「むふっ! まだ転売している組織が何組かあるけど、今回は警告を含めてここまでで良いわよね?」

「ああ、それでいい。彼らから今日の実例が拡散されて、噂に尾びれがつきそうだ! このまま様子を見守るのも悪くない」


 二人とも状況を愉快そうに楽しんでいる。なに? この人たち怖い。頭のネジが何本か抜けているのでは? 一般人の感性と隔たりがある。ピエンと泣きたい平和ボケした同級生の通と鋼。


「あのデイジーさん。その力を間違ってもこっちに向けないでね? お願いだから」

「大丈夫だと思うが、もしやらかしたら俺は絶縁も辞さんぞ?」


 さあ、どう出るデイジー。


「失礼ね。以前にも言ったけど、私にはリリーちゃんがいるから馬鹿な真似は起こさないわよ」


 彼女は人畜無害と訴えているが、リリーが人質とされていることで裏切らないといった見方が多くの割合を占めているので、複雑な心境になる三人。


「デイジーさん……スライムの数を増やそうか?」


 監視の意味も込めての提案。それだけ恐れられていると自覚したデイジーは、要らないと強く突っぱねる。


「誓ってみんなに危害を加えるつもりないから! 急によそよそしくしないで!」

「それはデイジーさんの心がけ次第(・・・・・)だよ」

「俺らの弱みを握って(・・・・・・)そうだからな」

「そう、わかったわ」


 気を落としたデイジーの素直な返事を聞いて、少しはお淑やかになるのかと、ちょっと内心期待した二人の学生。


「私の、下着姿の写真を二人に渡すから……それで許して…………」

「「え? ええ――――!!!?」」


 突然何を言い出すんだ!? と、何段階か話が飛躍してぶっ飛んでいる内容とデイジーの今にも泣き出しそうな声が合わさり、落ち着けと自分を奮い立たせる男子高校生。

 通の隣にいる天音は「あ――男の弱みに付け込んで泣き落としに来ましたか」と同性だったため客観的に作戦を捉えていたが、男の通には天音の釣り目を細めた表情が「デイジーさんを泣かせる気ですか? 早く謝りなさい」と脅迫されているように映っていた。


「デイジーさんの写真を受け取った事実が、学校の女子たちの耳に入ったら社会的に抹殺されるので勘弁してください(その前に天音さんに殺されます)」

「弱みに漬け込む真似はしたくないから俺もパスだ」

「なら許してくれる……?」

「許すもなにも」

「俺らは怒ってないからな、デイジーの勘違いだろ?」


 スマホでの会話で姿が見えないことをいいことにデイジーは、借り受けた部屋の椅子に座り、マンションから持ち込んだ実家の紅茶を優雅に飲みながら、チョロいわねと、小悪魔な顔をして微笑んでいた。

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