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スライムサモナー  作者: おひるねずみ
第1部第1章 愛別離苦のアウロラ
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第六十一話 転売ヤー

「なあ、千万あるなら『ダンジョン沼の秘密のサイト』のオークションで購入してもいいよな?」

「私は他人のお金にケチつけることはしないわ。鋼君の好きなようにすればいいじゃない」

「鋼のことだから目星はついてるよね?」

「まあ、俺が購入しようとしている品を知れば、納得はするが戯言を返されるからな」


 鋼が落札しようとしているのは牛刀と称される刃渡り四十センチの刃付き両刃、シャープな反りがあるスタイリッシュな和包丁。軍人が使用するアーミーナイフより長く、洗練されたフォルムで若者の男心をくすぐる。

 使用されているはがねは、包丁に最適解の最高級青二鋼を使用。それにソウルクォーツを混ぜ込み鍛冶技能に目覚めた職人が製作したばかりの逸品。

 魔素視認で刃から赤いオーラのモヤが立ち登っていて流通している包丁でないのは一発で区別できる。

 そして購入価格は二百万と強気の設定額になっており、直送で明日には手元に届くことになっている国内限定品だった。


「物騒な包丁なのは見ただけで判別がつくね」

「鋼君、これを親にでもプレゼントするの?」

「いや、ダンジョンの戦闘で武器として使う予定なんだが」


 場の熱気が明らかに下がった気がした。


「包丁を持って戦ったら他の同業者から非難されそうだけどいいの鋼?」

「そうよ、そもそも包丁は料理人の命なんでしょ?」

「ああ、二人が言いたいことはよ~~くわかる。俺も白い目をするだろうから充分そこは理解してる。けど辻巡査が刀剣を手にしたら技能の恩恵がよくわかったと話してたからさ、俺も牛刀を持ったら能力に目覚めるかと考えたんだよ」


 【技能牛刀レベル1】は牛刀の扱うセンス向上として鋼に宿った。実際に牛刀を握ることで技能が初めて発揮される。

 警察官が扱う警棒術は剣道を模範にしているのだが【技能剣術レベル2】は警棒では効果を充分に発揮されていなかったのか、辻巡査が警棒から刀剣に戦闘スタイルを変えて格段に動きのキレが良くなったことを、辻巡査が口にしていたので間違いない。

 鋼が料理人としての矜持を捨てれば戦力増強されるのだから、あれこれ口を挟むのは野暮というもの。


「ごめん……鋼に損な役をやらせてるみたいで」

「いいんだよ。俺が好きでやるんだから」

「はああ~~~~」

「どうしたデイジー?」


 息を吸い込んで思い切り吐き出した微熱混じりの溜息ためいきが、携帯から流れてきた。


「男の友情はいいわね――――私も真の女の友情をいつか味わってみたいわ」

【あはは…………女の友情はハムより薄いと言いますからね】


 友好関係を深く掘り下げて考えない、男性特有の軽さを持つ通と鋼には女性の悩みはわからないが、諦めにも似た音声から滲み出る二人の思い。

 同性との付き合いで、日々神経をすり減らしている、面倒臭い生き方をしているのは望まずとも感じ取れた。


「おっしゃああああ――――!!」


 歓声をあげて吠える鋼。


「鈴原君、購入おめでとう」

「買い手は鋼君しかいなかったのね」

「おう、三分経っても新たに金額を上乗せされることなかったからよかったぜ!」


 話している間にオークションでの取引が確定したらしい。それならと通もオークションページを開いて物色していると、例のアクセが瞳に飛び込んできた。


「デイジーさんに渡したアクセが出品されてる」

「えっ! 私、買う予定なかったから探してなかったわ。それでいくらなの?」

「アクセ、リング21ページ目に掲載されてるんだけど五個在庫があって、一つ百万で売買が成立してるのが四件ある」

「あれ一つ百万か…………」

「売れば小金持ちになるわね……」


 実は通たち、あのあとアクセ系はドロップしていたのだが鳳月に提出していない。種類は違うがそれなりの個数を所持していた。

 なぜ渡さなかったのか理由はある。それは同じ系統に統一させたアクセサリーを装着することで、ボーナスパラメータや特殊能力が身につくからだ。

 特に岩モグラであるサフラフルドがドロップするストーン系アクセは非常に有難い性能を持っている。

 ネックレス、ブレスレット、リングの三種を装備すると体力が10加算され、攻撃を受けても衝撃と痛みを和らげる効能付き。痛みに慣れていない現代人にはとても有難い性能だった。

 そこで全員分を確保しようとしたが、明らかにネックレスのドロップ率が低いことに気がついた。なのでネックレスを取引交換で手に入れることができないか模索したわけだ。結果は…………想像はついていた。

 オークションでもネックレスの値段がリングの十倍以上の高値をつけている。

 リングを売ればよかったと思ったが、少し目を離した隙に買い占められ、値段が五割ほど引き上げられていた。


「早くも転売ヤーが蔓延はびこり始めたかもしれない」

「アイツら、どこからともなく湧いてくるよな!」

【転売自体はやり方さえ間違えなければ違法ではありませんからね】

「そうなんですか!?」


 通が驚くのは無理もなかった。転売=悪として刷り込まれているため、犯罪と認識してしまいがちだが、実は四つのポイントに触れなければ逮捕されることはない。それにダブ屋を取り締まりしていない都道府県もある。更にダブ屋を逮捕するには公共の場で行われていなければ検挙できないといった法律も存在しているのだから納得いくはずもない。

 追及の目を広げれば国内以外なら、お隣中国のバイヤーも金払いが良く、転売候補として売り払い先に挙げられるので抜け道は幾らでもある。

 今の時代、情報、伝手を持って行動を起こせる人がより多く稼げるのだから。


【『チケット不正転売禁止法』が施行され、急速に強化されつつあるので、転売がやりにくくなっているのは確かですよ】

「検挙はされているんですね?」

【もちろんです。私たち警官が国民の平和を守れるように、日々頑張って目を光らせてますから!】


 天音の深夜に行うパトロールも、警官の信念によって突き動かされているのならば、他の警察官も信用できる。


「他の商品も転売の動きがあるけど、値段が高額だから様子見してるようだ。あっ!」

「どうした通?」

「狙ってたネックレスが転売されてる…………」

「例のドロップしにくいストーンネックレスね。値段は――二千五百万! 二倍じゃない!!」


 ぼったくりよ、詐欺だな。口をそろえて罵倒する学生たち。だが心なしか、これからの臨時収入を把握した三人はどこか楽しそうだった。


「ふむ。少し目に余る振舞いだな」


 罵詈雑言ばりそうごんの中に鳳月の言葉が混じり、三人トリオの演奏が不協和音に変わり始める。


「全年齢対象の知人のホームページに土足で上がり、夢のひとときを踏みにじるとは――――天音巡査、私個人が私刑を振るっても構わないかな?」


 あー、キレてますね。キレてるな。面白くなってきたわよ。三者三様に天音は何もなかったことにすればいいんですねと「見ざる、言わざる、聞かざる」を徹底することに決めた。

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