第六話 ジャフィール
最初に謝っておきます。第六話でダンジョンクリア。第七話で事情聴取回と言いましたが六話の話が一万文字以上になってしまうため、すいませんが六、七、八話と分割します。
なのでダンジョン脱出後の事情聴取回は九話になりそうです。
お詫びとして六話(いつもより短い)を予定より早く載せ、七話を八月三日0時にあげます。
「ジャフィール! お前には『魔首都グリムシェイド』国家転覆計画主犯の容疑がかけられている。逮捕状はここにある。おかしな真似は止めて大人しく投降しろ!」
(馬鹿な! 何かの間違いだ!)
「それと身内も全員連行しろとの上からの指示だ!」
「あなた!」
(やめろぉ! 関係ない家族を巻き込むなぁ――――!!)
「ジャフィール様。私が副官であるクルシュタールが全身全霊を賭して、必ずやジャフィール様を陥れた真犯人を見つけ出してみせます!」
(俺の下から去れクルシュタール。最後の命令だ、自分の身を第一にしろ! 出処不明な容疑を掛けられ処分されるぞ! 優秀な部下まで巻き込みたくはない)
「いやはや難儀ですねジャフィール。私と同格である悪魔の中の大将軍。トップエリート軍人だった貴方が、敬愛する『主君ベルガー』様に身の潔白を証明しようと力を全て捧げ、無実と訴えても裁判では敗訴し、一族郎党はあなただけを残して断罪処刑。おまけに捜査へ加担した優秀な部下も行方知れず」
(もう……)
「ああ。あなたの刑の執行役は私『ラビド』が主君ベルガー様より仰せつかっております。以前のあなたなら効果はなかったでしょうが衰退、退化した今なら死よりも残酷な運命が待つ呪詛を幾重にも重ね掛けして、ゴミ溜めの異次元に放置封印することができそうです」
(もうやめてくれ……俺が何をしたというんだ…………)
小鬼魔術師に退化し、ガリガリにやせ細ったジャフィールは胸を締め付ける痛みで悪夢から目覚め、背中を預けていた、かりそめの玉座から転落した。
彼はここ。正方形の空間に唯一存在する生物でゴブリンメイジ、レベル1ダンジョンの主である。
「いったい、どこで道を違えてしまったのか?」
貧相な胸板を押さえ、呪いの激痛に顔面蒼白で一人問答するが、未だに答えは出ない。
彼は時の止まった空間で自殺しようにも死ぬことが出来なかった。十重二十重に複雑にからまる複合種の邪念。時間停止空間の呪いで胸の痛みだけを神経が受け取り、それを無限とも思える時間。数千万年以上の歳月のあいだ出口が無い異次元に閉じ込められていた。
そして今日。ジャフィールがいる空間エリアが未知なる力によって共鳴振動し、どこかに空間が繋がり停止した時が動き出した。
――――ゲホッ! ゲホォォ――!!
時が動き出したことにより激しく吐血し、ジャフィールが掛けられた呪詛の激痛が以前の倍以上に効果を発揮しだした。
拘束期間中。いっさい食事を口にしていないため餓死寸前。空腹で気が遠のきそうになるが痛みでそれすら許されない。
自害しようにも手足が震え、全身が痙攣し床から立ち上がることさえもう叶わない。完全なる重度のハンガーノック症状。
(なんとなさけないことか…………大悪魔と言われ、恐れられた者に残された力は魔素視認能力といった最下級なカス技能のみ)
自称気味に笑い吐血する小鬼魔術師ジャフィールは、息絶え絶えで命が尽きるのも時間の問題だった。
(この憔悴しきった体で、いったいなにをなせるというのだ。なにもできないまま、ここでくちはてるのが運命なのか)
それも一興かと迫りくる死を完全に受け入れ始めた時に、身の毛がよだつ魔力波を全身に浴びた。
魔素視認能力を使い放射した人物を、部屋に侵入した者をうつ伏せの体勢で拝見するジャフィール。
それは部屋の赤き扉を開けることなく、液体状に姿を変え、音も無く侵入を果たした。やがて一か所に集まり形を形成。青い光沢を放つ丸い球体がそこにいた。
(姿かたちはスライムといえど騙されぬ。その身に秘められた内包せし二種の根源なる力、総量、魂の密度、どれをとっても超一級レベルだ)
スライムは進む、阻むものがいない二匹だけの空間を。
(なんという……! 近づかれるだけで手に取るようにわかる。以前の力を以ってしても、立ち向かうことなどできない!)
さらに歩み寄る、ウネウネと蠢く流線型の丸いフォルム。
(これほどのスライムが何故ここにいるか分からない。時の狭間に漂流するイレギュラー対象者を清掃するべく派遣された異次元の、神の僕たる掃除屋なのか!?)
やがてスライムは――――小鬼魔術師に身を落とした瀕死のダンジョンボス。ジャフィールのもとに辿り着いた。
(スライムは捕食生物。ただのスライムに喰われる結末はプライトが許さないが。あの者、絶対者級の特異スライムに喰われるのなら死しても誇れるだろう)
ジャフィールの心は既に折れ、はるか昔に復讐を諦めていた。そんな死にゆく彼が望むものはただ一つ。
(最後に家族の顔を拝みたかった…………)
六、七話を一気に掲載しても良かったのですが、題名を別々につけたかったので短くてもあげました。