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スライムサモナー  作者: おひるねずみ
第1部第1章 愛別離苦のアウロラ
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第五十八話 初取引

 プルをリターンコールで呼び出し【サマナー専用秘密技能:変換トランスフォーメーション】で40匹のスライムをトークンスライムとして還元。

 大所帯にならないようテレスポット範囲に入りベースキャンプへ飛ぶ。

 晩御飯の支度に従事してる者、素材を運び込んだりしてる者がこちらを、特に通の頭部とプルを凝視してくるが末端まで指示が行き届いているらしく、近寄ってくる人物は誰一人としていない。

 規律に準じ、統率力が取れた自衛隊に軽く会釈して通たち六名は現実世界へと帰還する。

 

「心待ちにしていたよ天鐘君」


 待機していたのは清々しい笑顔の鳳月と自衛隊数十名からなる輸送科部隊。

 所属は防衛大臣直轄の陸上自衛隊中央輸送隊、遊ばせておくのは勿体ない各方面の支援隊から確保した73式大型トラック(3トン半)を30両を配備。

 ダンジョンで集めた素材を回収してダイバーシティ内で競りをする手筈になっており、既にTチームとSチームが持ち帰った医薬素材以外が会場で売買されているとのことだった。


「取引前に、天鐘君たちに伝えておきたいことがある」


 鳳月が語った内容。

 それは通たち青い宝石がダンジョン沼の調査をしている最中、政府主導、内閣府所轄のダンジョン資源開発機構が発足したとのことだった。

 それにともない、『魔魂水晶化現象(ソウルクォーツ病)』を治療できる特効薬作成に総力をあげると表明。

 国際競争力も視野に入れ、行政、内閣府の長である細根首相がダンジョン資源関連事業の垣根かきねを越えて業務アドバイザーとして鳳月に委託。独立行政法人の内部の人間として政府からのお墨付きを貰い、ダンジョンエネルギー関連の元となる魔魂水晶やダンジョン資源の売買を任されることになった。


 よく耳にする独立行政法人とは、各府省の行政活動から政策の実施部門のうち一定の事務・事業を分離。担当する機関に独立の法人格を与え、業務の質の向上や活性化、効率性の向上、自律的な運営、透明性の向上を図ることを目的とする制度であり、もちろん鳳月を監査する部署、主務大臣が存在する。

 ダンジョン資源事業は多岐に渡り、経済産業省の資源エネルギー庁を始めとした複数の省庁が複雑に絡み合っている。

 それもあり予想通り、ダンジョン資源開発機構を発足する議会の決議を求める時、いがみ合いに発展。

 口論が激化して論争になるが、政府トップの内閣総理大臣細根首相の懐刀である副総理兼内閣官房長官が「今期を逃せば日本は世界に埋もれるぞ!!」と誰もが理解できる言葉を国民が見ている議会中継で一喝。場を取り纏めた――――のは、表で見ているギャラリー(民衆)向けの話。

 裏では全員が仲良しこよしで細根首相による根回し任務は滞ることなく完璧に遂行され、政府主導のダンジョン資源開発機構発足(八百長)は前日には打ち合わせを済ませ、可決することは国会議員全員が知る事実だった。


「なんというか…………言葉が出ません」


 法律に抵触ていしょくしない? やっていいの? と鳳月と細根首相の通話をリムジン内で聞いていた通と天音は目で訴えるが、鳳月は知らぬ存ぜぬ。


「政府、政界、企業、国民さえも幸せになるのだから問題にもならなかった。バブル崩壊で失った、日本かつての栄光を取り戻せる時が訪れたのだから些細なことだろう?」

「それを言われると身も蓋もありませんよ」


 好景気になれば皆の懐が潤い、税回収が容易になり、支持率は上がる。

 ダンジョン沼の資源開発、技能習得に世界中の国民が熱狂するのは必然で、それが認可されるのが早いか、遅いかの違いでしかない。


「それに滅星の統治者が建造した富士の魔塔が撃ち込まれたことにより、ダンジョン沼の活動が活発化。最早、沼の侵食は抑えきれない勢いで米国大統領が午後になる前にダンジョン侵入規制を全面的に解除した。日本も解除した国の一つになる」


 賽は投げられた。時代はこれから猛スピードで変化していく。平穏豊かに生活を送れるかは誰にもわからないが、鳳月の表情からして良い方向に転がっているのかもしれない。


「私からは以上だ。何か質問はあるかい?」


 政界、利権渦巻く事柄は鳳月に一任して、難しいことを考えることをやめた学生の通はさっさと取引話を進める。


「ひとつだけ質問なんですが、医薬素材はどこに運送される予定なんですか?」

「それは国に所属しているか、企業に雇われているかで大きく異なる。自衛隊が持ち帰った医薬素材は国内で実績が認められている国立研究所や大学、特に錬金術師に最優先で届けられるが、通君たち鳳月グループ専属クランが収集してきた素材は私がすべて購入できることになっている」


 鳳月のすべて購入に反論しようとした通だったが、勘が働いた鳳月に見透かされ、手元に残しておきたい物があれば無理に提出しなくていいと先手を打たれ、不安は解消された。


「では集めた素材を取り出します。まずは魔魂水晶ソウルクォーツからいきますので二箱お願いします」


 待機していた輸送科自衛隊員が、スチールの材質で加工されたクーラーボックス状の箱を二つ、蓋を開けてプルの前に置く。

 通の指示によって今までスライムたちが戦利品として一生懸命回収した素材をプルが【封印されし多重核機能】で一手に引き取りひとまとめ。

 自衛隊に貸し出したスライム以外の戦利品がプルの下につどい、通の指示によって種類別に放出された。


「「おおぉぉっ――――!!!」」


 黒々と光沢感溢れる二種類の大きさの魔魂水晶ソウルクォーツが綺麗に選別され、箱を閉じて鍵をかけたあとバーコードが付いたシールを横面に貼り、専用の機器で登録処理される。

 その後、次から次へと素材が自衛隊員によって73式大型トラック(3トン半)の荷台に運び込まれて、取引会場に向け倉庫から運搬されていった。


「え~~、最後に鳳月さん、大変言いにくいのですが…………研究対象として生きたモンスターを複数体、拘束してあるのですが、どうします?」

「なに!?」


 それは想定外だぞと、驚きながら通の両肩をつかみ無論引き取ると頷いた。


「天鐘君、拘束されて危険はないんだな?」

「扱いを間違わなければ大丈夫です」


 手足を疑似腕の触手で卍固めに拘束された地球上では考えられない大きさの岩モグラやゴブリン。翅と胴体と腕を拘束された蜂型昆虫。更には辻巡査が絞め落とした例の馬も一頭追加されて大いに沸く現場。

 生物の保存状態は良好と直接確かめた鳳月は、取引会場の目玉商品として扱うよう指令を出して厳重警戒態勢で、自衛隊員が緊張した面持ちをしながら身動きできないモンスターを車両に移し、外へと運ばれていく。

 こうして本日、鳳月に渡すつもりでいた全ての素材を放出。取引を終えてから通はテレスポットで移動。

 五層終点地点にプルとトークンスライムを解き放ってから現実世界に戻り、今日の通たちのダンジョン沼調査は終わりを告げた。

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