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スライムサモナー  作者: おひるねずみ
第1部第1章 愛別離苦のアウロラ
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第五十七話 魔技アプリ

 そしてブートキャンプの大詰めを迎え、最終テストとして素手のデイジー以外がの蜂型と戦うことになる。


――――十分後。


 やはり近接組は空を舞う蜂型とは相性が悪く、単体ならさほどでもないが複数体になると簡単には討伐できなかった。そこでスライムたちと連携を取り、横からサポートさせると苦戦せずに討伐可能になった。


「次、天音さんどうぞ」


 通がモブ生成で蜂型を呼び出し、天音は先の戦闘では使用してなかった第二次職の精製技能クリエイトスペルの名を告げる。


霊銃器精製スピリットガンクリエイト双銃ダブルハンド!】


 天音の両手に二丁拳銃が握られ、生成された《魔技:霊魔弾》が光となり銃器に吸収される。

 自動装填が完了した瞬間に早撃ちして左上空から接近していたトゥエルカ・ナハラの胴体を銃弾が撃ち抜き、宙でその姿を爆散させる。


【通君、追加をお願いします!】


 天音のおかわり宣言で追加した蜂型が近寄る前に次々と撃墜されていく光景。

 当然、近接組は羨ましがるわけで……


「現職警察官がやると様になってかっこいいな……俺も遠隔系技能が欲しい……」

「遠隔斬撃か! 夢があって悪くないぞ鈴原!」

「このメンバーの中だと魔法系のデイジーさんが一番可能性がありますね」

「筋力100で第二次職にならなかったから、素直に魔力と感力にパラメーターを振ることにするわ……」


 理想と反省点を雑話してる最中に天音のブートキャンプが終わり、ドヤ顔で待機メンバーに近づき【火力こそ全てですね】と会話に花を咲かせているとデイジーの顔つきが変わり、付近にいる何者かを敵影察知で捉えていた。


「距離――約四百メートル先、右手通路から敵がこっちに来てるわ」

「おっ、いいタイミングだ。これで真の実戦が試せるな」

【通君のスライムたちが訓練状況をんで、こちらにおびき寄せたのかもしれませんね】


 そこまで練っていたの!? と、通の顔を見た。首を振り否定するリーダー。事はそんなに都合よく運ばないが、スライムたちの自主的行動は目を見張るものがあり、ついつい疑ってしまう。


「反応数は七。移動スピードからして相手はこちらに気づいてないけど、どうする通君?」


 デイジーから振られた接敵情報。保護者スライムなしで戦う選択肢を通は下す。

 敵がやってくる一方通行の通路に入ると二つの異変に気づく。

 一つは暗闇を照らす役割を買っていたサンタンが地面に一株も自生してなかったことだ。種すら残っていない。

 だが幸いにも高い場所に咲き誇っているサンタンは無事。

 これから導き出される答えは、今から進む区画にはサンタンを自らの意思で除去している生物がいるということ。

 残り一つは学生三人が同時に答えた。


「「獣臭?」」


 通と鋼は一家揃って森でのキャンプ。デイジーは海外旅行先の動物との触れ合いで体験した鼻をつく独特な臭いを感じとり、巡査たちには見当がつかなかった正体の元を瞬時に把握した。

 大鐘巡査、辻巡査、鋼を前衛。後衛に天音、通、デイジーの隊列編成でこちらからも距離を詰めていく。


――――カポッ、カッポッ、カッポッ!


「スピードを上げたわ! 注意して!」

「もう見えてる! 気を引き締めろ――――五頭の馬が突っ込んでくるぞ!」

「野生の馬の迫力すげえな…………けど」

「動きのひとつひとつがよ――く見えていますので、今の僕たちなら笑顔であしらうことが可能でしょう」


 赤、緑、黒、白と色彩溢れる標準サイズの五頭の馬が、目を血走らせ均等に横に広がり躍動感やくどうかん溢れる全力疾走しゅうほで地鳴らしと共に突っ込んでくる。

 このまま二頭がノーマークで前列を通り過ぎれば後列に被害が出るかもしれないが、通の《魔技:水壁》で妨害、馬の頭から激突させ二頭がその場に地面に倒れたところを天音が高火力霊銃器の狙撃銃スナイパーライフルを生成。

 馬の眉間をピンポイントで撃ち抜き一頭を絶命させ、残りの片割れの馬には《魔技: 水乙女の月輪ウィンディーネスラスト》が水壁ごと胴体を半分に切断。後列にいた二体の馬に速度を落とさずに飛んでいき足元から救い上げるように脚部を切り裂き、敵後方で猛威を振るっている。

 前衛一対一に調整。

 真っ向勝負になったことで肉体派の辻巡査は腰の刀剣に手を伸ばさず、試したかったことを実行する決意を固めた。


「大鐘、鈴原ぁ! 左右は頼んだぞ!」

「わかりました!」

「まかせろ!」


 大鐘巡査が左を鋼が右の馬の突進を避けて、馬の脇腹中央に光黒こうこくバットを渾身の力で振り抜き左右に吹き飛ばす。倒れて起きあがる力もないモンスターに対して二人は追撃の手を緩ませず、魔力をわせた得物で頭部に容赦なく攻撃を与えて素早く始末する。


 一方で辻巡査は全力疾走、襲歩しゅうほ状態の馬を技能肉体強化で体を張って受け止め、引きずりられ跡を残して踏みとどまり、馬の首を掴んで地面にはり倒し、脚も利用して強引に首を締め上げにかかる。

 

「あばれるなよ?」


 そこに技能怪力が付加され、上半身の血管を浮かび上がらせて気道を圧迫。黒馬を気絶に追い込む。

 こうしてレベル2ダンジョン沼の初実戦相手、トゥエルカ・アルヒサァンとの戦闘は負傷なしで呆気なく終えた。


 馬型モンスター。トゥエルカ・アルヒサァンをスライムが吸収して保管するとデイジーが嬉しいニュースを口にした。

 それは電波技能と階層地図を組み合わせた魔技アプリの開発。ブートキャンプの最中に片手間で秘密裏にやっていた作業に驚きを禁じ得ない。

 デイジーの電波付加によりスマホに自動登録。迷宮の図柄に金髪女性の人物が虫眼鏡を当てた、本当に片手間なのと疑ってしまう作り込まれたアプリが目に入る。

 物は試しとアプリをタップ。するとスマホ画面が光り魔技が発動。使用者の頭脳内に階層地図能力が付加され、現在層のマップが手に取るようにわかる。これは便利とデイジーの仕事に、アプリ会員メンバーが感服した。


「このマップ解放アプリは鳳月総帥に話を通して申請する予定だから、それまでのあいだ秘密にしてくれると助かるわ」


 なんとデイジー。アプリ申請してダイバーたちから金銭を巻き上げる算段をしている模様。更に今後、敵影感知の技能を組み合わせる予定である。学生なのに商魂逞しい。


「軍用アプリとして転用されそうな気がするけど」


 人間悪知恵が働く生き物。法律を掻い潜り、裏で何をするか分からない。通の心配ごとは確実に引き起こされる。だが当然、製作者のデイジーもそこの点についてはきちんと考えている。


「私以上に言語へ精通した電波能力者は限られているはずだから、転用されたとしても複数言語と電波で構成された独自の開発者権限パスワードキーで強引に無力化するわよ? それに私を脅したら相手の組織資産、個人資産を遡り全体像を把握したあとに預金記憶を証拠も残さず全て抹消。私だけにしか復元できないシステム魔法を付与して、電子の闇に消えるように手を打つわ」


 復元できないシステム魔法。それは誰にも阻止することができないウィザード級ハッカーの力に他ならない。

 恐らく容疑者に関連したことをデイジーの電波が感知して、金融機関に再登録しようと赤の他人に依頼した他人名義登録さえ、電波がキャッチして封じ込めることができるのだろう。

 事実上、決済システムが個人、組織問わず使用不可になるわけで、通信取引ができなくなり、現生頼げんなまだのみの生活になるわけだ。

 現代版の役員報酬、給料報酬体系も見事に崩れ去り、銀行振り込みではなく現金になる。

 現代を生きていくに非常に不便になること請け合いで、デイジーの性格を思えば相手が妥協しないかぎり、行くところまで行く泥沼の争いになるだろう。


「まさかデイジーさん、その魔技コードはもう完成しているんですか……」

「そうね――原案は途中で魔力と感力が低くて容量不足だけど、将来的には実現可能よ? 期待していいから」


 得意げな様子で話すデイジー。彼女は決して自意識過剰ではなく、凡人では到達、達成できないことを軽々とやってのけそうな気配を持ち合わせている。

 

「そこまでやるなら、相手の素顔、住所、潜伏先を世界に公表するんだろうデイジー?」


 最高防衛戦力であるスライムたちを抱き込む姿勢なのか、辻巡査の言葉に答える前から悪どい笑みを浮かべるデイジーの表情は、どこか故意犯に近い。


「当然よ。犯罪者、テロリストには決して屈しない。人情沙汰にんじょうざた覚悟で私は行動するわよ? 通君のスライムが護衛についてくれるなら百人力だから、何も恐れることはないわ!」


 デイジーのオラオラ思想にできれば加担したくない通。しかし、そうも言ってられない。攻めの姿勢を相手に見せて戦ったらやばいと認識させなければ、交渉のテーブルまで持ち込めない。

 デイジーから頼られて念願されるのは嬉しく思うが複雑だ。できれば両者被害なく穏便に終わらせたい。


「(通を入れた)役目を負った相手は気の毒だな…………仮想敵だが、ちょっと同情するわ……」

「あと依頼を受け持って狙ってくるのは非合法組織でしょうし、資産が消滅したことを表立って起訴きそできない。身の安全を確保して命令を下している人間は恐れおののくから、十分な交渉材料で抑止力になるわ。逆に状況によってはこっちが主導権を握れるから心配しなくてもいいわよ」

【ですがデイジーさん。相手は対抗策として恐らくスマホや通信機器を身に着けないで行動しますよね。そこはどうするつもりですか?】

「別に相手さえいれば情報は読み取れるわ。電子機器はオマケみたいなものだから」


 レベルアップで人外の力を手に入れたおかげで、肝が据わりすぎていて学生の精神レベルではない。敵になったら大変な事態になると言葉の節々から読み取れる。


 魔技アプリが評価されて要らぬ厄介ごとが降ってわくかもしれないが、前もって想定していれば防ぐ手立てを講じることは容易いと結論づけて、上昇した身体能力にものを言わせて駆け足で調査続行。

 五層東側にある四つ目のテレスポットと六層に続く階段を発見して六層に降りてマップ解放したのち、明日のことも考慮して約束通り十八時前に探索を打ち切り、地上へ引き上げることにした。

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