第五十一話 チケット獲得者の悲劇
有意義な報告会の成り行きでスライムを譲ることになった通は少し待ってくださいと断りを入れ、ミラーボードを操作して魔力に振り分けPを全部つぎ込み、合計魔力に200なったことで封印された秘密技能を解放して新たな技能を得る。
【サマナー専用秘密技能:変換】
従者と下僕を回収しトークンとしてストック可能になる。
使用条件:トークン技能所持の第二次召喚職、魔力200以上、装備込みでも可。
(よし!)
通は力を試すためにプル以外のスライムを一度【サマナー専用秘密技能:変換】で回収した。
周りが煩いが表示されたメッセージに集中する。
トークンスライム現在のストック数63/100
これで通常召喚したスライムを戦力として手元に戻して保存できるようになった。
二日前にアクセサリーや小道具にして持って歩こうと一案したが、すぐに考えを改めて破棄した。アクセは嵩張り悪目立ちする。小道具は気づかずに落とした時にフォローが難しい。いずれ技能獲得で乗り越えられる問題だったから良しとした。
その悩みがたった二日で消え失せて調子がいい通は再度トークンスライムを吐き出す。
「ダイバーシティから外に出さなければいいのだろう? ふむ。これはこれは」
「癖になる肌触りね! 寝枕決定ぃ!」
「俺は大丈夫だが杉下軍曹が危ないな、スライム依存症になりそうだぞ?」
まずスライム三匹を従者契約を結ばずに伊藤教授、杉下軍曹、Sチームリーダーの鈴木中尉に一匹ずつ貸し出した。
従者契約を結ばなければ経験値は自然とスライムにストックされ、通と合流した時に蓄えた経験値を一括して受け取ることができる。この経験値を従者契約させる予定の錬金技能持ちである桜坂真奈美に渡す予定だ。あくまでも予定である。交渉に失敗したら全員に配分する手筈になっている。
「経験値が減るのは痛いが、資源が取り放題になるのはデカイな」
「余分な荷物を背負わなくていいのも大きいですよぉ武田少佐」
「欠点はスライムを失った場合、荷物の取り出しが不可能になる点だけだな」
「フッ、それならスライムを民間人と考えればいい。俺たちが全力で守るさ」
ショッキング映像を見てしまったばかりだと言うのに自衛隊の意気込み、士気は上々でとても頼もしい。
「鳳月さんには帰還後に渡すつもりなので、それまでは我慢してください」
笑顔でお預けを伝えると鳳月の眉間にシワが寄った。
「……天鐘君、今からこちらに来て渡す時間は十分あると思うのだが?」
「えっ?」
そんなに欲しいの? 意外な言葉に素の声が飛び出した。
「ちょっとした理由があるので待っていてくれませんか?」
「…………」
モニター越しに映る鳳月が腕組みして本気で悩み、唸り声をあげ、椅子を左右に揺らしながら葛藤している。物珍しい物を見る目で伊藤教授と自衛隊員が二人のやり取りをスライムと戯れながら見守っている。
「…………しい」
マイクも拾えない声量でボソボソと呟き。
「私も欲しいぞ天鐘君!!」
「あ、はい」
どうやら年齢問わず、老若男女、資産家にもスライムは人気があると鳳月の行動で理解した通は「私も憑いて? いきますよ」と暇を持て余す天音と一緒にテレスポットで地球世界に戻る。
そこで通たちが瞬時に姿を現したのを驚きながらも自衛隊が柔軟に対応、案内されて倉庫二階の鳳月しかいない、PCと睨めっこするようなデスクワーク部屋に通された。
通は鳳月のテレビ電話画面に映りながら「スライムをダイバーシティ敷地内から絶対に出さないでください」と強く念を押した。
「大丈夫だ、この件はトップシークレットとして処理する。関わるのは身内、自衛隊、医療従事者、それとフィアンセのみに限定する」
椅子に座りながら膝にかかえたスライムを猫のように撫でて話す鳳月。さわやかな笑顔が常時の五割増しに輝いて見える。
必要事項をきっちり伝えて用件を終えた通は、踵を返そうと背を向けると、テレビ通話が鳳月の「カット」の音声でOFFになり、後ろから涼しさを感じる声をかけられた。
「ところで天鐘君。とある情報筋から得た情報なのだが君はどう思う?」
「? 何がです?」
首だけ回して鳳月を見た。そこにはさっきまであった好感溢れる、清涼な笑みはない。
「チケット獲得者に降りかかった悲劇についてだ」
通と付き添いの天音はゾクリと、得体のしれない感覚に身を震わせ振り返った。
「どういうことか説明してもらえますか?」
「それはこちらのセリフだ天鐘君。どうして今まで隠し、黙っていた?」
【これは完全にお母さんの件はバレてますね】
天音の意見に視線を交錯させて同意する通。相手は【秘密技能:超直感】保持者で雲の上の存在。
相手を出し抜く成功率は圧倒的人生経験の差で簡単に埋められゼロになる。
「…………」
「話せない話なのか? それとも私は頼りにならないか? 信用ならないか?」
「違います!」
鳳月の落胆した言葉を大声で否定する通。
自衛隊員が何事かと靴音を鳴らして階段を駆け上がるが、鳳月の「来なくていい!!」の一喝が外まで響き、階段から聞こえる足音がだんだんと遠ざかっていく。
「信じるに足ると踏んだのなら、余すことなく事情を話してもらおうか! もちろん天音巡査の件についてもだ」
自分の名前を聞いて口元を押さえて驚く天音。ここまで勘が冴えているのと、タイミングもいいことに絶句する。
「なぜ天音巡査がここで出てくるんですか? 彼女はいま!」
「無関係と、本気で言っているのか? だとしたら大人を舐めすぎだ、私の目は節穴ではない」
先回りして通の喉元まで上がってきた反論をふさぐ鳳月。主導権は完全に鳳月に委ねられた。ここから奪還するのはもう不可能だと、通と天音は覚悟を決める算段をした。
「確かに神隠しの沼は天鐘君が証言した通り、世界にいくつか似た症例があるのを確認した。ダンジョンから脱出したクランメンバー全員が【霊体視認】【霊素視認】【霊体言語】の霊能力を所持しているのは理解できるが、鈴原君に与えたのは早計だったと言わざるを得ない。もはや言い逃れはできないぞ天鐘君?」
「…………」
「天鐘君は尽力している私には伏せたままにするのか?」
鳳月は全身全霊でぶつかり自分と良好な関係を築きたいと考えて行動している。それは取引を交わしたあの時から通は理解していた。
だからダンジョン沼の件で一人だけ爪弾きにされていることが我慢ならなかった、彼の感情は罪悪感として心に響く。
「…………」
「天鐘君…………君が誰にも明かせない悩みを抱えているのは見当がついている。私では大した力になれないかもしれない……それでも私は声に出して何度でも言おう――――君の力になりたい。孤独にさせたくないんだ。どうか、私に胸底にある悩みを話してくれないだろうか?」
【通君。ここまで親身になってくれる彼に伝えないのは、流石に気が引けます…………ですから話してしまいましょう。きっと和解できるチャンスは今が最初で最後ですよ】
鳳月と天音の眼差しは闇を切り裂き、進むべき道を照らしてくれる光だと、目頭を熱くした通はまだ誰にも打ち明けていない問題を話す決意をした。
「……わかりました。お二人に身に秘めていたことを話します…………聞いてくれますか」




