第四十九話 トゥエルカ報告説明会①
食器を片付け終えて報告する時間になり、自衛隊員が忙しそうに動き回って鳳月総帥に報告できるよう、テーブルの上を通信機材でセッティング。
皆が席に着いたあとデイジーが付加したテレビ電話に繋がり、沼内のリアル映像が鳳月に直接届けられる。
「皆、ご苦労。早速だが報告を聞きたいぃっ!?」
モニター画面に映る鳳月が何かを見て固まった。
「鳳月総帥?」
「あ、ああ。少し驚いただけだ。天鐘君、聞いていいかな? その髪は……いったいどうしたんだい?」
ほんの数時間前までは黒髪だったのに、今では水色のカラーリングになっている。この場にいる皆が質問したかったことだ、不審がるのも無理はなかった。
「実はですね。ジョブがランクアップしたんです」
「「ランクアップ!?」」
通が嬉しそうに土産話を教えて目の色を変える人たち。誰もが到達できると聞き喜ぶが。
「俺の場合、召喚魔法と水系統に属する魔技『第二種技能獲得』で、サマナーからアクアサマナーに職業が変わったんです」
「なるほど。違う系統技能を習得するのが条件か」
「それに加えてもう一つ。一定のステータス値も必要になるので誰もが簡単にランクアップできない仕様になってます。参考までに正規の方法で挑戦すれば最低60レベルは必要になると思います」
得るものが大きい新情報に自衛隊も沸き上がる。知っていると、知らないとではわけが違う。目指すべき目標が明確になり、大和魂に火がつく大人たち。
「つまり天鐘君は特殊な方法でクリア条件を満たしてしたということかね」
「伊藤教授、天鐘君は私と同じく■■■■持ちだ。それ以上の詮索は止めていただこう」
「ふむっ! やはり滅星に認められたチケット所持者は他とは違うということか」
一人納得した伊藤教授は起立して茶色の革製長財布を取り出し、研究施設の名前と電話番号が記載された一枚の名刺を、対面に座っている通の前に差し出す。
「天鐘君がもし医療薬品と治療魔技の混合研究に興味があるならいつでも歓迎する。そのほかの用件でも構わない、気軽に連絡してくれ」
通も慌てて椅子から立ち上がり、同じ目線で挨拶を交わして名刺を財布にしまう。
その後、自衛隊員たちが随所に説明を入れながら臨時報告書を読み上げ終わり、青い宝石の番になる。
「では天鐘君、始めてくれ」
席を立ち、テレスポットがある場所を指さす通。
「みなさん、俺が指をさす場所に何が見えますか?」
「タンサン以外に何もないように見えるが?」
鳳月同様、クランメンバー以外はテレスポットを感知できていない。
「実際に見てもらったほうが早いでしょう。鋼、頼める?」
「ふあぁ!? ここで俺を名指しかよ!?」
仕事を与えられてよかったわねと微笑するデイジー。
手伝うことはないだろうと安心しきって深くパイプ椅子に腰を掛けていた鋼が「しょうがない行くか」と、やむを得ずに席を立ちテレスポットの範囲内に入る。
「「消えた!?」」
期待通りの良い反応。そして十秒しないうちに戻ってくる鋼。
「今のがダンジョン沼内の区画移動を瞬時に可能にする、テレスポットに入った時の現象です。使用しなければ解放されない設計になっていますが、一度でも転送移動すればスタート地点にあるテレスポットを感知できるようになり、更にダンジョンボスを討伐していなくても現実世界に帰還できるようになっています」
「それは我々にとって朗報だな」
今後テレスポットを中継地点として目指すことになる。わかりやすい道筋。宇宙人であるトリスの采配に合格点を送りたい一同。ある部分を除けば文句はない。
「テレスポットについては以上です。次に例の蜂型昆虫『トゥエルカ・ナハラ・カーティル』の件ですが…………実際の映像の一部をお見せしますデイジーさん」
「ここで私の出番ってわけね。通君、スマホ貸してくれる?」
「どうぞ」
今回はVR技能は伏せておきたいデイジーは通から傷一つないブラックスマホを受け取り、操作している振りをして、リリーの映像とリンクさせた。
そして加工修正しておいた背負い投げの場面を自衛隊が用意した大型モニターに投射する。
天音の姿は仲間以外が視認することはないが、蜂を拘束しているスライムの擬似腕は鮮明に映し出されていた。
事前にスライムの情報は解禁するとクランメンバー間で協議はすんでいるので、何も問題はない。この後、スライムを紹介する予定も組み込まれている。
「準備できたから動画を流すわね」
「お願いします」
名前と異常性を通から聞き及んでいたボス級との戦闘画面が遂に解禁された。
動き出す当時のやり取り。スライムの擬似腕を投げモーション中に噛み切り、解除していた風の障壁を再展開。思いもよらない戦い慣れした電光石火のカウンターに唖然と呆ける大人たち。
天井付近から落下する通に自然と叫び声をあげてしまう杉下軍曹。プルがベッドに変化して通の危機を救い、手に汗握る展開になったあと、突然ムーンウォークで颯爽と去っていく。
映像が終わり、電子機器の僅かな振動が平時より過敏に伝わる。初めて身近に横たわる死の気配に、現実を思い知る大人たち。
「ご覧になってわかったと思いますが、戦闘になったら現段階の人類では絶対に倒せない相手です」
そこまで言い切る通に武田少佐は、防衛時のみ使用を許可された自分たちの切り札を切る。
「今回20式5.56mm小銃を持参してきたのだが、使用しても討伐不能だと?」
「重火器は専門外ですが、恐らく無理だと思います。武田少佐には知覚できていない風系統技能で周囲に障壁を張り巡らせているので質量がない銃弾、遠隔にめっぽう強く無力化してしまいます。しかも障壁を囮に使う、狩りに特化した知能もあり、倒すのは障壁を削り切る強力な近接攻撃が推奨なのですが、速すぎて打点が合わず命中したとしても威力が散らされます。現段階で討伐するなら障壁破壊技能と拘束する手段が必須です」
「そうか…………現場で体験してないから分からないが、天鐘君が言うならその通りなのだろう」
うんうんと相槌をして便乗してくれるクランメンバー。




