第四十六話 蜂の群れ
水精召喚士になったことで力が増大した通は外敵が上空から接近してくる気配を正確に感じ取った。
二十、三十などの数ではきかない、ざっと二百は下らない一団の羽音が距離を詰めてきている。
「今すぐテレスポットに避難してください!!」
二百メートル上空の滝口の先から飛来する多数の影。それが徐々に集団となって大きくなっていき、クランメンバーは身に迫る危険を十全と理解した。
「逃げるぞ!!」
「さ、さんせ――――!!」
辻巡査が自分たちでは手に負えないと判断して、テレスポットの範囲内に先導する。
――BUBUBUBUBUBU!
「いやあぁぁぁ――――無理無理無理無理無理!!」
血相を変えて離脱を図る最中に羽音の主が音色を変えた。
滝壺から流れる大音量でかき消されて彼らの耳に届くことがないが、敵影感知で位置情報を察知できるデイジーは、心理的不安から首を捻って様々な角度からこちらに向けて飛来してきているのをしっかり肉眼で確認してしまい大絶叫。
20センチはある毒蜂が眼を青く輝かせ、百以上の群れを引き連れて空から襲いかかってくる。恐怖以外の何者でもない。
「今だ、放てぇ――!」
ギリギリまで引きつけて第一から第三部隊のスライムに号令を下す。
通が《魔技:水弾》を習得したことでプル以外のスライムたちが魔技を放てるように進化を遂げていた。
「穿て水弾」
『キーワード確認。《魔技:水弾》が以後無詠唱発動可能になります』
通自身もキーワードを設定して習得。スライムの連射に合わせて速射を始める。
【私も援護しますよ!】
天音も通たちと連動して頭部、胴体、翅に命中させて戦闘力を削ぎ、確実に個体数を減らしていくが終わりが見えない。
「天鐘! 柊!」
デイジーたちを先に脱出させて、残る辻巡査がお前らも早く来いと手で合図して大声を張り上げるが。
「俺のことは構わず早く逃げてください!」
【辻巡査、私は通君から離れることができませんから!】
.
二人の覚悟は固く、辻巡査は撃退される昆虫共を視野に入れてから、彼らに震える背中を向けた。
「お前ら、すまん! 次に機会があったら必ず俺も残る。だから俺に挽回のチャンスを与えるために必ず戻ってこいよ! 約束だからな!」
一方的な約束を突きつけてテレスポット範囲に入り転移して通と天音以外が戦闘領域から離脱する。
辻巡査たちが無事逃走して憂いを絶つことに成功するも、仲間がやられたことで警戒フェロモンが散布されたらしく後続も飛び入り参加。蜂の数が倍増し、戦況が急激に悪化した。
後方に控えていた後詰の集団が三角形の隊列を成して、魚鱗陣形を敷き突撃を開始。
進軍を阻止するため射線を向けるが、一塊となった群れの速度は緩まない。外殻に位置する蜂が脱落するが昆虫たちは一矢乱れることなく死の行軍を強行する。
このままでは戦線は崩壊して乱戦に持ち込まれてしまう。そうなればこちらに勝機は無い。
(固定、回転最大、振動付与)
通の前方に浮かぶ三つの水弾が回転技能によって横に遠心力が加わり、形状がチャクラム型に変化する。
それに呼応してプルが絶妙なタイミングで分厚い水壁を生成。相手の勢いを完全に殺し、正面左右から包み込むように蜂密度を高めて切り刻みやすくサポート。水弾では水壁が邪魔で蜂まで到達しないが違う魔技を放つことで状況を打破できる。
戦術を分かり合えている相棒と連携して、水壁が展開されたと同時に、通は昆虫たちの陣形に向け新たな魔技を起動した。
「宙を舞踊り切り刻め ! 水乙女の月輪!」
『キーワード確認。改良型魔技:水乙女の月輪を以後無詠唱発動可能になります』
――ブゥーン――ブゥーン!
三つのチャクラムは不吉な音を発しながら魚鱗陣を真正面から魚を捌くように、出刃包丁の如き切れ味で先端から最後尾まで簡単に到達した。
三つの部位に切り裂かれた陣形は崩壊し三つの集団に分断されるが、戦意を無くすことなく黒き膜翅目を青く輝かせている。
「……!!……」
これをよしとしないスライムたちが、態勢を立て直す隙など与えるものか! と、ここぞとばかり《魔技:水弾》と《魔技:水乙女の月輪》を作り出し、点と線による魔技圧力で封殺し押し込みにかかる。
『レベルが上がりました』
合計三百以上の蜂型昆虫をすべて始末した結果。膨大な経験値量が通、天音、各従者スライムたちに分配されていた。
名前 天鐘通
第一職業 水精召喚士 レベル26
筋力71
体力71
速力71
魔力170(154+16)
感力93(78+15)
振り分け可能数30P
「天音さん、大丈夫でしたか?」
通は慣れない魔力の消耗で肩で息を吐き、危険な場に留まり逃げずに協力してくれた天音に感謝の言葉を送る。
【ええ、少しはしゃいで疲れてしまいましたが……】
空中に浮遊させた《魔技:霊魔弾》を天音は休まずに生成して撃ち続けたため、霊素欠乏症により地面に乙女座りして辛そうにしゃがみ込んでいた。
慌ててプルに指示出ししようとするも、言い出す前にプルは率先して自身から霊素を生み出して、天音の霊素を補う。
照射されてから天音はゆっくり目を閉じ、疲れ切った顔が少しずつ安らいでいく。
【これは…………いいですね…………まるで温かい湯船に浸かっている気分です】
欠け始めていた霊素が新たに構築されていくうちに、彼女の髪型には少しばかりの変化が生じていた。




