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スライムサモナー  作者: おひるねずみ
第1部第1章 愛別離苦のアウロラ
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第四十一話 新たな技能

(レベル2ダンジョンにはAランク素材は存在しないのか…………)

 

 スライム達が手分けして内部にある資源を片っ端から収集していくのを眺めながら、医療素材精査を終えた通は母に残されたタイムリミットを頭で算出していた。


(母の発症は月曜日の午後。残された望みのレベル3ダンジョン沼出現は土曜日零時ジャスト。二日半のタイムリミットがあるけど、母が月曜日まで彫像化しないとは限らない!)


 助かる見込みが大幅に下降修正され、途方に暮れる苦労人。

 クランメンバーたちはスライムの行動を熱心に見守っているため、通の僅かな変化に気づいていない。


『32の経験値獲得』


 誰にも伝えることができない心緒しんしょを振り払い、行き止まりの小部屋で戦闘している画面に注目する。

 リリーが撮影している動画には、膝丈辺りの大きさがあるモグラが二足歩行でジャンプしてから飛び掛かり、鋭利な爪でスライムを引っ掻いて傷を負わせようと奮闘しているのが確認できる。


「プル達の息の合った連携で、傷を負うことなく終わりそうだね……」


 沈んだ気分を誰にも悟らせず、今日は絶対やり過ごす決意を固めて、通はいつもと大差ない表情につとめることにした。


「さっきの蜂と比べるまでもないな」

「そうね、安心して見ていられるわ」

【少し残虐性がある映像ですね…………通君のスライム達が味方でよかったと心底思います】


 プル達は本当に敵対した相手には容赦がない。

 駆け寄ってきた、飛び掛かってきたモグラの集団を中距離戦用のビヨーンと伸びた複数の触手鞭で一匹も逃すことなく拘束。地面に数回叩きつけ、彼我ひがの実力差を見せつけて弱らせる。モグラ達はなお足掻くも功をさない。爪が届かない範囲外から滅多打ち、四肢を縛られて抵抗できない哀れな獲物は、ノソノソと這い寄ってきたスライムにモグモグと美味しく捕食され、核に仕舞われていく。


『レベルが上がりました』


 通のレベルが20に達成し、プルから得たダンジョン秘蔵知識を頼りにミラーボードを表示。レベルアップで振り分け可能な5ポイントをすべて使用する。

 それによってステータス条件を満たしたことにより、脳裏にだんせいの野太い声が届く。


【レベル20、魔力100達成確認。以下の技能、魔技から一つを選択せよ】


 選択方式の中にある技能は『水遊び』『水操作』『水弾』の三つ。水遊びはその名が示す通り、お遊戯クラスの超初心者技能。水操作はコントロールする術を学べる基本的技能。最後の水弾は即戦力に直結する水使いのコストパフォーマンスに優れた魔技。


 普通に考えれば主力スキルとなる魔技の水弾を選び取るだろう。だが通はプルが放つ水弾の威力、操作性が何処から来ているものなのか本質を真の意味で理解している。

 いま水弾を覚えても水が手元から回転せず飛ぶだけで、たとえ魔力が高くても速度が遅く飛距離も短くて使い勝手が悪い。

 水操作はかなり有用性が高い技能だが、水遊びを通した派生先の技能なので今後覚えることができる。

 なので一番不遇でいらない子と先入観から認定されてしまう水遊びを、通はあえて選択する。


【技能『水遊びレベル1』をその身に授ける】


 スッと、頭に降り注いでくる技能の断片、ピースを完成させ水遊びをものにする通。

 スライム達の虐待行為は継続中だが、通は紺色のセミワイドパンツのズボンポケットにスマホを戻して擬態ソファから立ち上がって新たな技能と向き合う。

 それを目で追っていた鋼が水遊びを視野に入れた途端に飛び上がる。


「おお!?」

「急にどうしたの? えぇ!?」

【通君! 水を出せるようになったのですか!?】

 

 通は手のひらを上に向け、水を現実として放出させる。

 湧き昇る魔力、水遊びによって生み出された正真正銘の水がボコボコと湧き水の如く手のひらで停滞する。今まさに通自身が生きる水源になった瞬間だった。

 そこにどうした、どうされましたかと少し離れていた仲良し巡査コンビが歩いて近づき、水遊びを習得した経緯を聞く。


「なるほど。要するに、職業レベルとステータス、資質によって授けられる技能は人によってまちまちなんだな」

「ええ、その人を形成する周囲の環境も影響するので、同一の技能構成になる確率は極めて低いです」

「そうですか…………なら情報が出揃ってない我々先人は手探りで進むしかありませんね」


 人柱にならなければいけないが、アドバンテージはこちらにある。時間が経てば経つほど、後発組は狩場の混雑でレベルアップしづらくなる。

 素材の買取価格も簡単な物は低価格で取り引きされ、命をチップにしてまでダイバー稼業を続ける価値があるか頭を悩ませることになるだろう。

 それを思えば現在置かれた状況は大いに恵まれており、メリットの方に天秤が傾く。 

 今日持ち帰る素材の価値いかんによっては、今後の人生設計に多大な変化がもたらされるのは間違えようがない。


「お、次は指先か」

【わぁ! 通君、器用ですね】


 通は手のひらから放出していた冷水を止めて、代わりに五本の指から水を出すパフォーマンスを始める。


「ふふ、サーカスの曲芸みたいね」


 通もそれは自覚している。隠し芸になるやもしれないが威力、水量、ともに恥ずかしいレベルだ。


「前もってみんなに伝えるけど意味がある行為だから、ダンジョン調査中でも水遊びを続けるよ?」


 断りを入れるが各方面から変な顔をされる。魔力の無駄遣いになるのだから当然だが。


【技能を使用し続ける利点があるんですよね?】

「だな。天鐘が今の環境下で行動を起こすなら、かなり有意義な成果が見えてるんだろう」

「天鐘君はダンジョンに詳しいですから期待できますね」


 信頼されているおかげで通を深く追及してくる仲間はいない。ここさえクリア、達成できればクラスチェンジは目前。

 そこに役目を終えた42匹のスライム達が通の下に戻ってきた。

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