第四十話 新たな資源物質
現状打つ手なし。これからどうするべきか? 昆虫が去った方向を警戒しながらクランリーダーの通にお鉢が回ってきた。
「『※トゥエルカ・ナハラ・カーティル※』を以後、カーティル級と呼称するとして、あいつはスライムの数と俺たちを戦力分析して身を引いたと仮定するのなら、俺はこのまま威力偵察を継続したい」
通の意見に手をあげて賛同するのは鋼、天音、デイジーの三人。辻、大鐘コンビは反対に回る。
「天鐘、お前自らカナリアにでもなるつもりか? 冗談も大概にしとけ」
「辻巡査の言う通りですよ天鐘君。まだ若いのですから危険は避けるべきです」
通の家庭事情を知らない二人の言い分は正しいが、認めてしまえば母が助かる確率が低下する。ここは避けて通れないと判断して、胸に秘めた母親の病状だけを二人の巡査に正直に伝えた。
「なるほどな。それが後に引けない理由か…………若いのに苦労してるな。なあ大鐘?」
「全く同感ですよ辻巡査。チケットを国に申告したり、競売に出さなかった経緯がこれでよく分かりました。天音巡査に鳳月総帥、更に自身の育ての親が関係しているのなら腹をくくるのも頷けます」
互いに理解し合い、二人の態度が瞬く間に軟化していく。
「まったく天鐘、次からは隠し事は無しだぞ?」
「ですが……」
「てすがもへちまもねぇ! いいか耳の穴をかっぽじってよく聞け! 俺たち警察官は国民に頼られてなんぼなんだ、当てにされなかったらサツをやってる意義がないんだよ。まあ、今は天鐘と比べれば頼りない存在に見えてるんだろう」
「そこは認めるんですね」
「馬鹿やろう、大鐘だって似たり寄ったりだろうが」
【まあまあ、抑えてください辻巡査。私も通君には、もっと他人に頼るようにアドバイスしましたから】
天音と大鐘巡査のフォローで辻巡査の怒りが鎮まり、二人も反対意見を覆して賛成票に投じてくれることになり話がスムーズに進んでいく。
「少し聞きたいんですが、皆さんは経験値いくつ獲得できました? 俺は2000貰えてます」
通の問いで蜂を倒したログ、二十五個を確認し合算すると通以外は600の経験値が加算されていることが確認できた。
今まで経験値が入っていない鋼が600なのでとてもわかりやすい。
「そうなると蜂一匹で200もらえて、通君が四割の80を頂いた後、残りの120が私達五人を対象に均一分配されていることになるわね」
「すくなっ! 俺達の一人当たりの経験値、全体のほぼ十分の一かよ」
「まあ妥当なところでしょう」
【そうですね。私達なにも行動を起こしていませんから、貰えるだけでも有難いと思わないといけません】
簡潔に各自の経験値配分量が分かり、上昇したレベル数を教え合う。天音、デイジー、辻巡査が二。通、プル、大鐘が三。唯一レベル1だった鋼は一気に5レベル上昇していた。
蜂型昆虫の経験値がゴブリンの十倍以上と破格なことから、遥かに格上な存在なのだとリリーが撮影した動画の動きからも読み取れる。人間がおいそれと対応できる速度ではないことだけは確かだった。
全員がミラーボードでステータスを振り分けポイントで上昇させると、デイジーが新たな技能を授かったと報告。
技能名は【敵影察知】感力1で感知距離が十メートル延びる索敵系技能。現在デイジーの感力は21。これで二百メートル先にいる敵位置が手にとるようにわかるようになり、先手も取れる。その前にプル達が敵接近に感づくかもしれないが言わぬが花だ。
「少し話が脱線しましたが、戦闘はしばらくの間はプル達に任せることにしませんか?」
「異議なし」
「通君の意見に賛成するわ」
全面的に賛同し、話がまとまったところで青い宝石一行は自衛隊と鳳月総帥に一連の顛末を報告した後、スライムを全面に展開して曲がり角を通りすぎ、広い円形状の空間にたどり着いた。
サンタンの種が地面に落下して、いたるところに転がっている。そのおかげで部屋内部全体を照らし、土の地面に自生している新たな植物素材、壁際にある宝の山が眼球にくっきりと映し出され、クラン全員のテンションが急上昇した。
「なんだあれは! 壁にめり込んでる岩が銀色に光っているぞ!?」
半径二百メートルある部屋に足を踏み入れる前にデイジーの覚えたての技能を通して全体を把握。
敵影無しとデイジーが答え、次に部屋の先にある通路は三か所で、その内の一つは小部屋で行き止まりと知っていた通は半数のスライムを小部屋探索にまわし、残りを護衛に置いてから素材調査と収集を開始した。
一同はさっそく気になっている壁に近づき、鈍い輝きを放つ銀色の塊に対して素材鑑定可能な鋼が「俺が説明しよう」と挙手して、鼻歌まじり気軽に銀物質へ手を置く。
未知なる世界に圧倒され、鉱石に対して危険意識を割くのは無理な話だった。
「これは『銀箔鉱石』だなわぁぁぁ!?」
鋼が力を込めすぎたのか、手を置いていた一部分の岩が耐え切れなくなり、ボサッと音を立てて地面に崩れ落ち、床が銀色に染まる。
「あのさ……ちょっと待ってくれ…………これ俺のせいか?」
自分を指さして見苦しい言い訳をする鋼。最初に発見して無邪気に叫んでいた辻巡査の視線がどことなく無機質で不気味だ。
「どこからどう見ても」
「鋼君のせいでしょ?」
無慈悲な通告を通とデイジーから叩きつけられ意気消沈する鋼。
説明報告が不可能になった鋼の代わりに通が同じ轍を踏まないよう【秘密技能:完全鑑定】を遠くから行使して、プルの【封印されし多重核機能】から得た人体に関わる危険性情報を新たに更新。銀物質を完全に理解してから細心の注意を払い、銀岩に軽く触れて『銀箔鉱石』の特徴をセールストークっぽく詳しく話す。
「この銀箔鉱石ですが、ただの銀ではなく純度99パーセントの自然銀と魔素の塊であり、酸化鉄がゼロに近い状態で構成されています」
「それは凄いわね! 銀には酸化鉄がかなりの割合で含まれているのに」
サクラデイジーの協力を得て、力説に拍車が掛かり興味を示した巡査三名も聞き入る姿勢だ。
「デイジーさんが言う通り本当に凄いことなんです。加工を施さない初期段階でこの純度率。更に魔素を含ませたことにより、通常銀のHBW換算で十倍以上の硬度になってます」
チラリと未だに落ち込んでいる鋼を視線に入れて、続きを説明する通。
「ですが、さきほど鋼が失敗してしまったように非常に脆い性質を持ち、少し圧力を加えてしまうと含んだ魔素が暴走して跡形もなく崩れてしまいます。これが銀箔という名称がついた由来なのでしょう」
「そうなんだよ! 情報が頭に入ってきた瞬間、俺はヤバいと気付いたけど後の祭りだったんだよ」
信じてくれよと泣き言のたまう親友に通は「もう皆わかってるから」と優しく諭し、スライム一体を持つように指示する。
「そこで採取、保存する方法に適しているのが、この子なんです」
鋼が持つスライムにピカッとサンタンの種の光が後光として重なる意気な演出で注目が集まり、通がスライムに命令すると鉱石部分に近づき、原型を崩さないで体内に包み込み核へと収納していく。その一連の様子を今回初めて生で見たクランメンバー達は有能すぎると口をそろえた。
鋼の【素材鑑定】は触れないと効果が発動しません。
通の【秘密技能:完全鑑定】は鋼の技能の上位互換で物質を目視すれば鑑定可能です。




