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スライムサモナー  作者: おひるねずみ
プロローグ ダンジョン沼のプログレス
32/77

第三十二話 出発

※今回、一番最後に閑話と各キャラクターの紹介がある為、いつもより長めの文章になっております。

 企業クラン作成に必要な書類をまとめた後、鳳月は通達の身を守る武器を見せるよう促す。巡査の装備は警棒と単式拳銃。鋼は金属バット、通とデイジーは武器すら持っていない。


「天鐘君とデイジー嬢は技能で対処すれば武器なしでも構わなそうだが、三人には別の得物が必要そうだ。武田少佐、大至急彼らに合う装備を見繕ってくれ」


 自衛隊がボディチェックし、自衛隊車両の中から黒光くろびかりする武器。鋼と大鐘巡査にはバット、辻巡査には大太刀が手渡され、各個人が素振りして使用感を確かめる。

 重量もそこそこで手に馴染み扱いやすく、選んでくれた自衛隊員と授けてくれた鳳月に礼を述べて護身用武器を受け取る三人。


「それは私が運営するダイバーシティお抱えの名工がゴブリンから産出された『魔魂水晶ソウルクォーツ』を使って誕生した武器で、人間国宝の研磨歴五十年の匠が研いで仕上げた業物、名を『黒光こうこく』という。それに自身の魔力を流すことで切れ味と威力が増す試作品だが品質は保証する」


 自衛隊と同水準の装備品授受そうびひんじゅじゅをすませた後、全員で入口のシャッターから一番遠い倉庫北側の壁付近まで移動。沼を顕現させる紙切れ、長財布の千円札の間に挟んでおいた薄っすら輝くレベル2ダンジョンチケットを取り出す通。

 倉庫内に招集された全員の視線を緑色チケットが奪う。


「動画で観るのと現物を観察するのでは訳が違うな」

「総帥がおっしゃった通り、輝きからして異質で本物と理解できる…………」

「チケット自体が光っているのか? それとも別の何かが関与しているのか非常に興味深い。奪ってでも元素構成を調べたい気持ちに駆られてしまいそうだよ!! なあ杉下君!」

「ちょ、伊藤さんっ、私に振られてもその問いの受け答えをすることはできませんよぉ!」

「外見で人を判別するのはやめたほうが良さそうだ。持ち主の歩行――足腰の重心移動から武術経験があるレベル10以上のダイバーなのは確実だ」

「聞きしに勝るわね、私の魔力保有量の倍はある。別々に行動すると進言するくらいの実力はあると素直に認めるわ」

近遠両刀使い(オールラウンダー)か? 羨ましいな」 


 口をそろえてチケットと通の感想を喋るが、中に不純物が混じっている。科学者的、白衣を羽織ったやせ型の眼鏡男性が危険思想を呟いたのを聞き逃していない通と鳳月。


「鳳月さん。眼鏡をかけた人から失礼な言葉が聞こえてきたんですが?」

「……不審者を見るような目つきを向けないでくれ天鐘君、私も好き好んで彼を招いているわけではない。そこは重々承知してくれ。彼は治療魔法の技能を授かった稀有けうな事例の人で、医学的分野では名の通った著名人だ」

「今回ダンジョン沼に同行する衛生兵と研究者を兼ね備えた人と受け取ればいいですか?」

「その認識で合っている。実験材料採取と医薬品生成に尽力すると言って聞かなくてね。しぶしぶ私が折れる形で同伴どうはんを認めたわけだ」

「たがいに苦労してますね」


 鳳月の簡素な話によれば彼の名前は伊藤圭吾いとうけいご、年齢は六十才。鳳月グループ百パーセント出資の医科学研究所所長。病の原因となる細胞を研究する道の権威ある名誉教授で大の研究好き。グループ内でも認可治療薬を世界に数多く送り出し、結果を確実に出す非常に優秀な社員で、今まで素行や言動に問題はなかった。

 だがダンジョンで治療魔法を会得したことがきっかけで、朦朧もうろくしてしまったのか喜び勇んで部下の制止を振り切り、新たな定説。医科学実験を超えた魔法と薬学を取り入れた魔法薬学を提唱。

 鳳月雅人へダンジョンに挑戦する権利と、業務をすべてを自己研究の魔法薬学に捧げたいと直談判したらしい。


「それは厄介ですね、実績がある名誉教授なら邪険に扱うこともできませんし」

「だろう? 指示を下す役職についた人間の情熱、やる気は万金に値する、会社の歯車を動かす原動力だ。阻害すれば部署に所属する皆のモチベーション低下を招きかねない、経営者として絶対にあってはならないことだ。そこで大穴があくことを避けたい私は彼に後援する条件込みで、納得してもらっている」

「なるほど、彼の研究成果が他社に流れたら痛いですからね」

「そういうことだ。敵にまわればマイナスに働く、多少は大目に見なければ後悔すると直感も囁いている。背に腹はかえられないさ」


 論理的な思考で利益優先の現実主義。代表取締役の鑑だ。


「伊藤さんを砂漠の砂に例えれば鳳月さんは太陽ですね」

「年々拡大していくシェアのようだな。さ、天鐘君。無駄話はこれぐらいにしてチケットを」

「ま、待ってくれ! 少しだけでいい、私にチケットを調査させてもらえないだろうか!?」


 名誉教授によるチケットの精査。伊藤という男性が足を一歩前にだしたことで自衛隊員が無言で道を塞ぐ。

 決して通さない強い意志、ここは我々に任せて早く用件をすませてくれと訴いかけてくる。

 少しくらいならいいかと思っていたが。


「一日でいい! いや半日あれば重大な事実が判明するかもしれん!!!」


 母親が極めて重篤な時にそんな時間避けるかと、伊藤を無視して通は時価総額一兆円相当のチケットを惜しみもなく使用した。


「「おおおっーーーー!!」」


 チケットから淡い緑光が放出され、周囲がにわかに活気づくが


「ぇえ!? ちょ、こ、これ!?」

【軽いパニックになりそうですね】

「鳳月総帥っ!!」

「大丈夫だ、問題ない!」


 通のチケットから黒い液体が溢れグレーのコンクリート舗装床に零れ落ち、意思を持っているか如く円形状に広がっていくことで得体の知れない恐怖と禁忌感を肌で感じ取るが、鳳月の強気の宣言で全員が動きを止めると、沼の原液であろう液体が重力を無視した行動をとる。

 地面から上空に沼の液体が二本昇り、次第に数字を形成する。そこには数字で16と表示されていた。


 一連のやり取りで波打つ黒沼の怪現象が鎮まり、現場に産み落とされたダンジョン沼の大きさは大型トラックが丸々入ってしまう面積を持っている。その中でひときわ目を惹く16の警告数字。

 その場から少し離れた場所で円陣を組み、話し合いの結果。見る人によって色が大きく変わることが判明。レベル16の通が安全圏の緑。レベル13から15の自衛隊員たちが警戒に値する黄色からオレンジ。10以下の巡査とデイジーが入るべからずの赤でレベル1の鋼に至っては数字が紫に見えるらしい。

 鳳月がもう一度全員の決意を確認し、話が纏まりかけたところでデイジーがある提案をした。


「私の技能の力を電子機器に付与すれば、ダンジョン内からの通話を可能にしたり電力を消費を気にせずに使えるようになるわ」


 潜る直前にきて明るい話題が飛び出し自衛隊員の強張った表情が和らぐ。


「それの持続時間はどれくらいだ?」

「数にもよるけどいま付与すれば、恐らくだけど半日は持つはずよ」

「それは有難い!」

「デイジー嬢、やってくれるか」

「いいわよ! 任せて頂戴っ!」


 全員分の電子機器、軍通話用のトランシーバー、戦場で使える軍使用スマホや照明器具等、荷物すべてに自分の体から発した黄色い衝撃波を拡散させ付与魔法を授ける。


「完了したわ」

「何ッ!?」


 声を上げた自衛隊のリーダーの武田はどうやら魔素、低出力の魔力波を認知できないタイプらしい。


「武田少佐。確かにデイジーさんから魔力派がほとばしりました。トランシーバーに魔法の力が付いているので間違いないかと」

「そうか、やはり実際に視認できなければ色々と不便だな…………分かった。鈴木中尉、報告感謝する」


 支援魔法を施したデイジーの有用性。前々からあれば便利だと考えていた能力者に出会い、自衛隊員のデイジーを見る目が瞬く間に変化する。ダンジョンで長期間活動するなら確実に欲しい人材。彼女がいれば文明社会の強みをダンジョン内部でも遺憾なく発揮できるのだから。


「デイジー、学校を卒業したらうちに来ないか? もろ手を挙げて歓迎するぞ」

「服装もサバイバル訓練にピッタリだし、これは運命の神様のお導きよ!」


 デイジーに迫る男女の自衛隊員。デイジーも頼られて「どうしよっかなぁ~~?」と、あっちは割と本気だが、デイジーは悪ふざけと思って軽く付き合っている。


「お前達……鳳月総帥の御前だぞ。無用な会話は慎め!」

「「失礼しました鳳月総帥、武田少佐!!」」

「私に恥をかかせた礼としてダンジョン調査後、厳罰を与えるからそのつもりでいろ」

「ッ!!」


 背を正したエリート隊員の二人は勘弁してくださいと直訴し、やれやれと武田少佐は肩をすくめた。


「仲が良さそうでなりよりだ。どうかね天鐘君。彼らは信用に足りそうか?」

「どうでしょう? 自分には判断できかねます。ですがこちらが信用しなければあちら側が心を許すことはないのが道理。なので信用することにします」

「寛容な返事をありがとう天鐘君」


 その後、鳳月たっての希望でデイジーの電波付加をテレビ電話などにも追加で施し終わり、双方の目的を照らし合わせてる。


 全ての準備を済ませた鳳月は天音を抜かした計十五名に対して号令を発した。


「では現時刻、午前九時三十分をもってレベル2ダンジョン沼へ挑戦するものとする! 各自、命の危険にさらされる場面もあるだろう。逃げ帰ってきてもこの私が誰にも文句は言わせない。君たちの勇気、敬意ある行動、持ち帰った情報は後続の支えとなる。十全に力を発揮し今も苦しむ民衆のため、力を奮ってもらいたい! 健闘を祈る!」


 かくして、自衛隊九名、教授一名、通一行の計十六名がダンジョン沼の領域に向け出発した。



 鳳月は勇士達を見送ったのち、黒沼から離れそばに停車していた軍用指揮通信車シキツウに乗り込む。


「通信準備は?」

「問題ありません。いつでも交信可能です」

「むっ!」

「総帥?」

「失礼、細根首相から電話だ」


 通信車両に滞在中の自衛隊員に緊張が走り、身を硬直させる中、鳳月は何食わぬ顔で座席に着席。スマホの通話をタップして首相の話に耳を傾ける。


「鳳月総帥! すこし時間を頂きたいのですがよろしいでしょうか!?」

「ずいぶん慌てているようだが? トラブルかな?」

「ええ、総帥は『富士の魔塔』をご存知で?」

「それなら朝のテレビ報道で知っている。例の巨大建造物だろう。何か問題でも?」

「実は富士の魔塔が建造されてから世界中にレベル1ダンジョン沼の出現、活性化が報告され、最早手が回りそうもありません。海外では規制されていない沼に我先へと挑む動画が数多く出回っています」


 鳳月は難儀な質疑応答になりそうだと覚悟した。


「君が連絡するということは、それが本題ではないのだろう? いま話した事態はシミュレーションずみで沼への侵入が阻止できなかった時、別のプランに移行すると事前情報で聞き及んでいる」

「……まったく、総帥には敵いませんな」


 嫌な気配を直感し、一字一句神経を集中させて聴く鳳月雅人。


「実はかなり厄介な事案が発生しまして。日本人を装った中国人科学者が、無断で富士の魔塔地上部分の外壁サンプルを採取しようと、病を蔓延させていたクレハなる人物の怒りを買ってしまい彫像と化してしまったのです」

「ずいぶんと勝手な真似をしてくれたものだな」


 憤慨する鳳月だったが細根首相の「更に時が悪く、石化した場面が世界中継されていましたので」と聞き、溜飲りゅういんがいくばくか下がる。

 建設者の許可なき者はどういった運命を辿るかのいい見せしめだ。


「それで彼の国お得意の、強気な外交姿勢で正当性を主張してきてるわけだな」

「誠に遺憾で頭が痛くなる話です」


 最後まで詳しく聞かなくても理解できてしまうのが、彼の国の悲しいところ。


「中国の言い分は日本が異星人を刺激し、世界に無用な混乱をもたらそうとしているとのこと」

厚顔無恥こうがんむちで腹だたしくこのうえないな、対策は?」

「正直に申し上げますとかんばしくありません。首謀者が彫像化し物言わない骸となり、所持品も調べることは不可能ですが、樹海入り口の監視カメラの映像とテレビ放送のおかげで犯人を特定することに成功いたしました」


 ここまでは想定通り。だが首謀者が失敗すれば仲間が証拠隠滅を図る。事前の監視網に引っかからない手際、夜中に樹海を移動して現場に迷わず着いた森に熟知する人間の仕業なのは確実。プロの犯行だと睨んだ方がいい。寝泊まりするホテルには形跡は残されておらず、今ごろ共犯者は飛行機か船で高飛びしようとしているはずだ。更に上を行く凄腕ならミッションコンプリートして空か海で悠々自適に過ごしているだろう。技能持ちなら尚更だ。


「嫌な時期に攻勢へ転じてきたな」

「ええ、各地に人員がバラけた瞬間を突いてきたおかげで対応も後手に回っております。逃さないよう防衛大臣、警視庁長官に命じましたが難しいと」


 鳳月は今回の一件は現状では打破できないと直感が働いた。


「なら無駄な労力を割く必要性は無いな。細根首相、包囲網を解き、人員をダンジョン沼に充てるよう変更してくれ。今は耐える時だ」

「わかりました。沼に対する時間稼ぎとして、そのように手配致します」

「ああ、それと一つ尋ねたいのだが、被害者の返還要求は来ているのか?」

「総帥も分かっておいででしょう?」

「なに、聞いてみただけだ」


 返還要求は絶対にない。こちらが中国人と分かっていても異星人のクレハには区別がつかない。

 ならば地元に住む日本人が行なったことにすればいいのだ。そうすることでクレハの敵視ヘイトが人民一人を犠牲にした対価として日本に向く。

 したたかで吐き気がする。どちらに転んでも得になるよう先を見据えて行動する隣国の常套手段だ。

 その時だった。

 ダンジョンに到着した自衛隊の小隊を率いる武田少佐のテストを兼ねた通信が通信車両に入る。


「鳳月総帥、連絡が来ました!」

「きたか! 悪いが細根首相、少々立て込んでいるので後でかけ直す!」


 首相に別れを告げ、急ぎ通信を交わす。


「こちらTチーム、どうぞ」

「鳳月だ! 武田少佐、そちらの状況は?」

「現在『トゥエルカ地下洞穴五層』十六名全員無事に現着。周囲に敵影アンノウンなし。ところどころに小型の向日葵ひまわりと酷似した植物『サンタン』が群生しており、その花の種すべてが強い光を発し光源には困らず、ベースキャンプを苦なく設置できる広大な部屋がスタート地点のようです」


 視界が確保されていて分断されることなくスタート地点は一緒。安全地帯だと読み取れる情報は極めて大きい、後詰め部隊を投入するときに臆せずに人材物資を大量投入することができる。鳳月の緊張が少しばかり解きほぐされた。


「了解した。地下五層からのスタートで間違いないな?」

「相違ありません。現在いる部屋の大きさは北東南西ともに一キロあるかないかと」

「最初の部屋としては過去最大級――――武田少佐、装甲車両は自走可能か?」

「部屋内部では可能ではありますが、通路を進行するにあたり横幅が狭いルートが幾つか確認できます」


 最新鋭の軍用機器で現場の立体地図を3D画像として通信車に送信。指揮官車両を務める車の画面モニターに詳細な第五層の一部のマップが表示される。


「凄いな」

「ええ、本当に彼女の(電波)は凄いです」


 タイムラグが生じないリアルタイムの通信感度に、幸先がいいスタートが切れたと天鐘が言っていたサポートに期待してくださいの言葉を思い返した。


「間違いなく通信能力者は逸材だが、くれぐれも詮索するな。特に天鐘君の気分を害さないように徹底してくれ」

「了解いたしました」




 閑話

――――同時刻。日本海、西の海上を移動中のコンテナ船内。


「よくやってくれた! テレビ中継観ていたよ。思惑通りに事が運び、胸がスカッとした思いだ!」

「いやぁーー今回の仕事は楽でしたね、我々に敵対する研究者を焚き付けて、異星人の手によって後始末。それを日本人の犯行に見せかけて幕を引く。しゅうさん、成功報酬の振り込みのほう、お願いしますよ?」

「わかっている、色をつけて支払ってやるから心配するな。じゃあ切るぞ」


 短い間の通話がプツリと切れ、話し相手がいなくなった逃亡者はさげすみ笑う。


「けっ! 馬鹿じゃないのかあのデブ。『直感者』が住む日本に喧嘩を売るなんてまともじゃない」


 裏の社会では名の通った二つ名『直感者』。彼の庇護下にある企業と争えば高確率で衰退が決定する。

 国も然り、成功する者が有限である顧客を奪うのだから当然だ。

 その彼がもし不本意ながらも一度でも腰を上げ、敵と認識してしまったらいかに大国の重鎮として君臨していようとも無傷では済まされない。


「いや、アイツも馬鹿じゃない。周のデブはわかって依頼したんだろうな…………やはりあの話は事実なのか」


 彼は裏社会で名の知れた実力派の隠密系能力者。『猫足キャットウォーク』の持ち主。その技能を利用して辿り着いた噂では、世界をまとめる裏組織『百人委員会』が今期、新たなメンバーを特例で十二世座の席につかせる動きを見せていると偶然にも知り得ていた。


「アイツも委員会の一人だ、事前情報を掴んだため、牽制したと考えるべきか? それとも別の誰かからの差し金か……馬鹿だな、俺なら国民への体裁が悪くなろうとも保身に回るぞ――――まあ、引き受けちまったからには同じ穴の狢ではあるが、こればかりは家族を守るためだと割り切るしかない」


 愚痴をこぼしながらも未来に降りかかる結末を予想する。後者のたとえ<差し金>が正しければ、次に消されるのは己自身。身の振り方を今一度考える必要があると気分を静め、潮風に当たりながら甲板を歩くのだった。




――――同時刻。外国各所。


「うおぉぉぉ――――!!」


 各地で暴徒と化した民衆が政府の指示に従わず、情報アプリを通して集会を開く形で参加者を募り、会社の仕事をボイコットしてキープアウトされていないダンジョン沼に集団で突撃していた。

 その様子を繊細に映す、一つの動画をホワイトハウスで見ていたアメリカ大統領が「オーマイガー!」と口を大きくして叫んだ。


「このままいけば刑務所に服役している者を除いた、国民の九割以上が一週間以内に技能保持者となるでしょう」

「そうか…………もうこの流れは止められないのだな? ミスタールドルフ」

「はい、他国も似た有様です。出現して間もない沼に規制線を張ることは事実上不可能でしょう。日本の細根首相も先ほど連絡を下さり、臨界点は過ぎたとおっしゃっていました。時が来たのです――――大統領、ご決断をっ!」


 大統領補佐官のルドルフが大統領に迫り、やむを得まいと米国最高責任者が決定を下した。 


「わかった。私の会見後に規制線を撤去。レベル1ダンジョン沼の全面開放を許可すると各国に通達を出せ」

「では手筈通りに」


 こうして急遽、全世界に通じて会見を開き一時間後にはレベル1ダンジョンの規制は完全に取り払われた。




――――同時刻 富士の魔塔高層階内部。


【術式更新が完了した。これで十五歳未満の未成年は沼に立ち入ることはできない】

【トリス様。ダンジョン沼の捕食設定を聞き入れて下さり、ありがとうございます。おかげで更新方法が理解できました】


疑似神の職務に慣れてきた、白肌と白髪がキラキラと輝くクレハの表情は、花の蕾が開いたように可憐で明るい。


【それは何よりだ、交信塔さえ建設すれば、これくらいは容易いこと――――それよりも】


 トリスの雰囲気も途中までは良かったのだが、不届き者が現れた時点で塔内の大気が瞬時に震えあがったが――――即断即決! 【怪しい・不審者・天罰ですっ!】を座右の銘に、クレハの迅速な対応により処理された人間であったものが交信塔の前で固まっている。

 生命活動は継続し意識もあるが、目、口、手足さえも動かすことができない。硬直したまま時が停止した風化しない完璧な保存状態で彫像が維持されていた。


 児戯に等しい行為をしでかした愚かものに、底のしれない闇の紅眼視線こうがんしせんをモニター越しに叩きつける滅星の統治者。力を込めれば眼圧だけで彫像を爆散させ、粉砕できるがあえてしない。


【この者の所属国はチャイナだったな?】

【はい。どうやら我々をたばかれると考えているようです。更にダンジョン沼に要らなくなった不燃物や粗大ゴミをクリア後に大量に不法投棄しています!】

【ほほう?】


 トリスの赤き瞳が燃え上がり怪しく輝きだす。そこには内包する明らかな怒気が含まれていた。


【どこまで私が寛容なのか試しているのか? フム…………どうするべきか】


 トリスが思案していると、チビッ子クレハがちょこんと横に立ってトリスを見据えていた。彼女はトリスに対する不敬に両手の拳をグーで握りしめながら、眉を吊り上げている。激おこプンプン丸だ。

 トリスは良い機会だと今回の対応についてクレハに助言を求めることにした。


【トリス様、舐めらたら終わりです! お仕置きしましょう!】

【っ!?】


 昂揚こうよう感に包まれて微笑み即答するクレハに、ある種の危機感を覚える里親トリス。


【先進国の愚行を許してはいけません。彼らの自分勝手の行いで我々黒人は、家畜が放し飼いが可能な緑豊かな土地から作物が育たない荒れ地に追いやられた経緯があるのです。ウイグル問題も同じことですよ。私は彼らを許しませんし、許すつもりもありません。私達は未来を奪われた側なのですから】

【……そ、そうか……】


 場に静寂が流れた。トリスの頭の中に浮かんだ言葉は「知識を与えすぎて歪んだ方向へと育ってしまったか?」だった。まさに親の心子知らずとは言ったものだ。

 

【それで提案なのですか、チャイナ全体の獲得経験値とアイテムドロップ率を暫くのあいだ半減、いえ、生ぬるいですね。私のお慕いするトリス様にとった代償としては軽すぎます。慈悲を乞うまで九割削減するのが妥当でしょう!】

【(っ!? そこまでするのか!?)】


 過激な発言をするとは予想もしていなかったトリスに、初めてクレハに対しての焦りが生じた。確かに意見を求めたのは自分自身であり、吐いた言葉を訂正するのは疑似神の沽券にも関わる。

 我々の手法も決して誉められたものでないが、チャイナも道義に反したことに変わりはない。


【いいですよねトリス様?】


 仕える主人の賛同を得たい一心で、純粋無垢なつぶらな瞳の熱視線を発射するクレハを、トリスは嗜めることはできず、ついつい認めてしまう。


【……仕事が後に控えているので設定は任せるぞ?】

【お任せください! サッサっと終わらせて、すぐトリス様の後ろを追いかけます】


 擬似神になり、嫌な顔せず仕事をこなすクレハは、いい事があったのか常にはにかみ笑顔が絶えない。


【楽しそうだな同志クレハよ?】

【ええ、ええ! トリス様に抱き上げられたあの日から毎日が楽しいですよ!】






――――プロローグ終わり。以降、作中に登場した主要キャラクター順に人物紹介。


名前 天鐘通あまがねとおる 年齢17歳

誕生日 5月7日 

第一職業 召喚士サモナー レベル16

第二職業 学生

筋力36

体力36

速力37

魔力78(62+16)

感力49(34+15)

振り分け可能数30P

トークンスライム現在のストック数39/39


装備品 『召喚士サモナー防護服マジックコート』魔力+16、感力+15


所持スキル

【ミラーボード】【スライム召喚】【モンスター図鑑】【秘密技能:完全鑑定】

【秘密技能:身体機能把握】【階層地図】【秘密技能:装備品透明化】

【レアドロップ率上昇】【精神安定】【ダンジョンEXスキル】【従者帰還】

【剣術レベル1】【棒術レベル1】【短剣術レベル1】【格闘術レベル1】

【暗視】【霊体視認】【霊素視認】【魔素視認】【霊体言語】【トークンスライム】

※【ダンジョンEXスキル】の中にモブモンスター精製や魂の契約などが含まれています。


 小柄であどけなさが残る、真面目な清涼高校二年生。年上に好かれる体質を持つ。

 天音の蘇生薬、育ての親を治療する特効薬、鳳月のフィアンセの肉体を元通りにする。三つの願いを叶えるため、鳳月グループ総帥、鳳月雅人と共同してダンジョンと現実世界で仲間と共に奮闘する。

青い宝物ブループラネットのリーダーを務める。

お食事処『鈴原』では必ずお子様ランチを注文する。

チョコ好物で中でもチョコパイが好き。



名前 柊天音ひいらぎあまね 年齢22歳

誕生日 2月1日

第一職業 魔弾生成術師ショットクリエイター レベル8

第二職業 警察官 階級巡査

筋力0

体力0

速力22

魔力50

感力22

振り分け可能数0P

所持スキル

【射撃術レベル1】【護身術レベル1】【柔術レベル1】【ミラーボード】

【魔弾生成】【霊体視認】【霊素視認】【魔素視認】【霊体言語】


※魂の契約を結ぶことにより【秘密技能:身体機能把握】のパラメーター振りの権能のみ特例処置として使用できる。


 東京の短大を卒業し、親の勧めで地方の新米警察官の事務仕事を携わることになった婦警。

ダンジョンで命を落とし、霊体になって意識を取り戻した副作用により通とプルから一キロ以上離れることができない身となった。企業クラン青い宝物ブループラネットの空番。ニョキピョコの幽霊が苦手。



名前 プル♀ 真名、年齢、誕生日、ステータスともに不明

職業 召喚者の従者 レベル20

種族 ■■スライム 

所持スキル

【封印されし多重核機能】【知識転写】【■■技巧】その他


 全てが謎に包まれている。通が召喚した人語を理解するスライム。家事全般が得意。



名前 デイジー・キャンベル 年齢16歳

誕生日 8月20日

第一職業 通信系能力者ウェブメイジ レベル5

第二職業 学生

筋力39

体力20

速力20

魔力24

感力19

振り分け可能数0P

所持スキル

【狩猟術レベル1】【格闘術レベル1】【他国言語】【ミラーボード】【電波】

【電波操作レベル1】【霊体視認】【霊素視認】【魔素視認】【霊体言語】


 夢はフリージャーナリスト。

 多数の言語を習得するうちに、最も難しいとされる日本語を覚えようと来日した、ポニテが目印の英国留学生。

 現在一人暮らしをしながら日々を満喫していたところ、ダンジョン沼に捕食され通と知り合う。

 何事も自信満々で堂々として裏表がないことから、同性からの人気が非常に高い。可愛い物とお肉が関わると性格が変わる。企業クラン青い宝物(ブループラネット)のメンバー。



名前 辻健太郎つじけんたろう 年齢27歳

誕生日 12月12日

第一職業 剣術家ソードマン レベル7

第二職業 警察官 階級巡査

筋力36

体力36

速力32

魔力24

感力29

振り分け可能数0P

所持スキル

【射撃術レベル1】【護身術レベル1】【柔術レベル2】【ミラーボード】【剣術レベル2】

【霊体視認】【霊素視認】【魔素視認】【霊体言語】


 二年前に地方試験に合格して晴れて警官となった男性。大鐘巡査と同期採用されたため部署は違うが仲がいい。ラグビーをやっていたので体格と運動神経に優れる。企業クラン青い宝物(ブループラネット)のメンバー。



名前 大鐘弘おおがねひろし 年齢27歳

誕生日 8月30日 

第一職業 植物栽培師プラントクルトゥーラ レベル6

第二職業 警察官 階級巡査

筋力28

体力28

速力29

魔力29

感力29

振り分け可能数0P

所持スキル

【射撃術レベル1】【護身術レベル1】【ミラーボード】【園芸】【栽培技能レベル2】

【霊体視認】【霊素視認】【魔素視認】【霊体言語】


 植物のスペシャリストとして園芸技能を獲得した男性。交際を続けている女性がいる。

 企業クラン青い宝物(ブループラネット)のメンバー。



名前 ジャフィール 推定年齢数千万歳以上

誕生日2月29日

第一職業 小鬼魔術師ゴブリンメイジ レベル10

筋力2(12-10)

体力1(12-11)

速力1(10-9)

魔力22

感力20

所持スキル

【ミラーボード】【魔素霊体完全視認】【古代悪魔言語】【言語翻訳】


 無実の罪により、複数の呪いを身を宿して弱体化した大将軍で元四大悪魔筆頭。餓死する寸前にプルによって吸収される。

 彼を知るものは現段階ではプルのみとなっている。悪魔の料理カレーが好物。



名前 鳳月雅人ほうづきまさと 年齢30歳

誕生日 9月27日

第一職業 儀礼的武術家フォーマルファイター レベル15

第二職業 鳳月グループ総帥

筋力25

体力25

速力31

魔力20

感力1020

所持スキル

【秘密技能:超直感】【古武術レベル2】【総合格闘術レベル2】

【暗殺技能レベル1】【ミラーボード】【魔素視認】


 人類最高峰の感力を所持する最高経営責任者(CEO)。

彼が手掛ける事業の成功率は100パーセントを誇り、上位停滞していたグループの総指揮権を父親から譲り受け、二年で日本トップに押し上げた傑物。

 国内はおろか世界からも認められ、地位、名声、富、人が欲しがるものは手に入れた。残すところは最愛の人との結婚と生まれてくる赤子のみとなっている。



名前 鈴原鋼すずはらこう 年齢17歳

誕生日 5月11日

第一職業 物質管理人マテリアルキーパー レベル1

第二職業 学生

筋力7

体力6

速力7

魔力4

感力4

振り分け可能数0P

所持スキル

【料理技術レベル2】【ミラーボード】【素材把握】

【霊体視認】【霊素視認】【魔素視認】【霊体言語】


 通と十年以上の付き合いがある清涼高校の二年生。

家が外食経営しているため、料理の腕はいい。家庭科部所属し、夏の大会に向け試行錯誤している。

 企業クラン青い宝物(ブループラネット)のメンバー。


名前 桜坂真奈美さくらざかまなみ 年齢17歳

誕生日 4月16日

第一職業 錬金術師アルケミスト レベル不明

第二職業 学生

ステータス不明

所持スキル

【錬金】その他不明。


 天音が補導した藤原学園高二の生徒で『錬金』技能保持者。天音が言うには危機的状況で通に助けを求めているらしい。不良の腐女子で天音を慕っている。情報によると小柄で異性には口が悪いらしい。

 企業クラン青い宝物(ブループラネット)のメンバー予定。人に譲ることが出来ないソウルドリンク持ち。



――――ここから異星人紹介となります。


名前 滅星のトリスメギストス

年齢、誕生日、レベル、ステータス、所持スキルともに不明

第一職業 滅星の統治者

種族 疑似神


 滅びた星を統治運営する、人類に対して絶対的な力を持つ大魔法使い。

 地球と高次元グリファを繋ぐ交信塔『富士の魔塔』を楔として地球に打ち込んだ張本人。これにより宇宙から放射される人類に有害な電離放射線を無害にする魔結界を構築した。

 世界に対し宣誓公言し、ダンジョン沼を地球に配備して地球人の成長、文明開化を促すが、その真意は誰も分かっていない。



名前 病神クレハ 人間年齢で15歳。

誕生日、レベル、ステータス共に不明

第一職業 滅星の助手

種族 疑似神

所持スキル

【病神魔法】その他不明。


 契約により自らの命を契約者のトリスに捧げて人間を捨てた少女。

 以降、爆発的に能力が成長し、人間の限界を軽々突破。人類が束になっても敵わない実力に至る。



――――ここからは脇役となります。


佐々岡警部ささおかけいぶ

天音の教育係で警部をしている男性。神を信じていない。

年齢四十五歳。


名前 クルシュタール 推定年齢数千万歳以上

第一職業 大悪魔の副官

現在生存しているのか全てが不明。


名前 ラビド

全て不明。


名前 悪魔王ベルガー

ザビドと同様に不明。


乾運転手

鳳月雅人の専属運転手。年齢六十五歳。

四十年鳳月グループに勤める男性。

以前はスタントマンをしていた。


大川先生おおかわせんせい

通と鋼の担任。


吉沢社員よしざわしゃいん

通に不動産書類を渡した鳳月グループに属する人物。


戸口部長とぐちぶちょう

鳳月グループの橋がけ役。


武田少佐たけだしょうさ

自衛隊リーダー。第一部隊の指揮を執るTチーム隊長。


鈴木中尉すずきちゅうい

自衛隊副リーダー。第二部隊Sチームの隊長。


伊藤名誉教授いとうめいよきょうじゅ

通が持つプレミアチケットを一日かけ、心ゆくまで調べたかった治療術師。Tチーム配属。


杉下軍曹すぎしたぐんそう

伊藤教授の護衛役に抜擢された軍人女性。

伊藤教授の暴走を抑えるのが主な役目。


細根首相

内閣総理大臣。


厄介払いされた研究者 

クレハの力により彫像化。


裏社会を知る逃亡者

百人委員会と『直感者』を知ってる間者。


中国人の周さん。

政府中枢に食い込んでいる肥満体形の人。百人委員会の一人。


アメリカ大統領

米国最高責任者。


ルドルフ

大統領の側近補佐官。

 次回、第一章の投稿は9月12日0時を予定に変更しました。


※文字抜けがあったので修正しました。数多くの誤字脱字の指摘、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白いです!! 続き楽しみに待ってます。
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