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スライムサモナー  作者: おひるねずみ
プロローグ ダンジョン沼のプログレス
30/77

第三十話 無自覚

 すいません。12話の通の魔力値が間違っていたため、装備品込みで修正しました。

魔力53→62

装備品 魔力25→16


追記で遂にPVが一万を突破致しました。

読者の皆様、心よりお礼申し上げます。

「あの、鳳凰さん。サインした後で悪いんですが…………結果を出していない俺が本当に頂いてもいいんですか?」


 通は己の物欲がどれほど深いのか、鳳月に査定されているのではないかと疑心暗鬼になり、長身の鳳月を見上げる形で身を縮こませて遠慮する態度を取った。


「別に構わないさ。最初からパートナーとなる人物に渡す予定で作らせていたのだから問題ない。ときに天鐘君」

「はい?」

「君、年上に好かれやすいタイプだろう?」


 脈絡が無い言葉に一瞬思考がフリーズする。何を言っているんだこの大人はと。


「全然そんなことないですよ」

「いいや、何千、何万と人と接してきた男の私が即座に認めるほどだ。目上の女性陣は虜だろうな」

「あはは、冗談上手いですね鳳月さん」

「……なるほど……な」


 鳳月は己の目利きに狂いはないと証明するために麗しい女性社員を三人呼び、先ほどの通の仕草について聞くと三人の若い女性社員が総帥の言葉を全力で肯定した。総帥に顔を覚えてもらうために取った行動と考えれば理解できるが、デイジーも腕を組んで頷いていることから本当に意味が分からない通。


「やはりな。鈴原君、天鐘君はもしかしなくても」

「鳳月さんが思っている通り無自覚ですよ。本人にその気が一切ないから更に質が悪い。ですがそれを逆手に取って利用してますけどね俺」

「鋼、今の言葉は聞き捨てならないんだけど。詳しい内容を聞かせてもらってもいいかな?」

「今更だな――まあ、隠すつもりはないから通が知りたいなら話すけど…………いいのか? この場所で話しても」


 会話に関係ない社員の目があると言いたいんだろう。続きはプレゼンを終えた車内ですることに決まり、残りの室内を見回ってからリムジンに乗車して、社員に見送られながらその場を後にする。




「で俺が通を誘って実家のアルバイトとして雇い入れた結果、通が担当する時間帯の女性入店率が母の統計により二割上昇したことがわかったんだよ。通がいる曜日はいつも忙しいからな」

「統計取ってたのか…………確かに席がほぼ埋まっていて繁盛しているなと感じていたけど…………でも鋼、それは流石に話を盛りすぎじゃない? いくらなんでも齟齬そごがあると思うよ」

「ほら、俺が言った通りだ。全く自覚してない」

【本当ですね】

「本当ね」


 鋼の話に天音とデイジーも同意する。


「通君、昨日話したあの話のこと覚えてる?」

「あの話?」


 時間軸をさかのぼり、デイジーとの会話を脳を働かせて記憶から引き出そうとするもピンとくるものがない。思案しているうちにデイジーが答えを口にした。


「校内での異性好感度ランキングよ」

「ああっ! あれか!」


 ランキングの順位、特に先輩たちからお気に召されていると昨日デイジーの口から聞かされていたが、身に覚えがない通は半信半疑だった。

 しかし女性社員たちの賛同具合で好ましい感情を向けられているのを実感し、腑に落ちないが年上の女性に人気があるのではと結論付けが終わった後に鋼が車内で「待て待て」と制止をかけた。

 初耳だぞと鋼が好感度ランキングに関心を持つが、それは服用すれば身を滅ぼす劇薬。進んで触れていい話題ではない。


「鋼君、もしかしてランキングに興味があるの?」


 目を細めた彼女の瞳は、まるで道端のゴミを見るような視線だ。乙女の秘密を知ろうとしているのだから当然と言えば当然。通は無難な返答をしたほうがいいぞと、念話を送るが親友に届くわけがない。


「いや、まあ。そりゃあ、男だから当然気になるさ。この場面でシラを切って興味が無いって言ったらデイジーは嘘だと決めつけるだろうしな! だから俺は報道の自由化に伴い、聞く権利があることを声を大にして主張する! 俺の評判を聞かせてくれ、頼むデイジーっ!」


 火に油を注ぐ言葉に両手を合わせて懇願する鋼の恥をかなぐり捨てた行動。

 両者が対立する姿勢を瞳に入れて、最近の若者やろうは肝が据わっているなと、雲行きが怪しくなってきた会話が飛び火しないようにそっと見守る二人の男性警官。

 辻、大鐘巡査も高三の頃にラインアプリが始まり、活用していたので年頃のこうの心情は理解できる。女子達がくだした己の評価を知りたいと考えるのはごく自然なこと。

 ここで注意しなければならないことはただ一点のみ。真実を知って彼が盛大に爆死してピエロにならなければいい。それだけだ。もし悲惨な結末だったら天鐘と一緒に励ますと辻、大鐘巡査はこの僅かなあいだに目配りして協働する。


「実に清々しい発言ね鋼君、ある意味尊敬に値するわ。だ・け・ど・報道の自由は私の喋る話を捻じ曲げて伝える表現の自由(・・・・・)も含まれているのだけれどいいのかしら?」


 これを正しく翻訳すると「正直に話すわけないでしょ? 馬鹿なの?」になる。

 このランキング提供はデイジーにとっても諸刃の剣で不利益の塊。安易に喋ることはできない。


「デイジー、俺の扱いがおざなりだな…………通にはランキングのこと伝えたのによぉ――」

「ええ、でもそれは私から言い出したことだからノーカウント。鋼君に話す利点がないから口が裂けても言わないわよ?」


 ツンツンしているデイジーと言い争いをしたら勝てないと薄々感づいているはずの親友が後退しない。意地でも聞き出そうとしているが敗戦は濃厚。そろそろ身を引かなければ大変なことになるぞと通はハラハラしながら再度念波を送るが鋼には伝わらない。


「そこをなんとか!」


 女々しい言葉に若干切れ気味のデイジー。同じ女性の天音がそれを察知して通の背後でこっそり告げ口した。


【通君、早く止めないと血の雨を見ますよ】


 通の面持ちが悪い方へ徐々に移り変わる様子と、デイジーの剣呑な雰囲気を過敏に感じ取った二人の巡査が「あっ、これあかんやつだ」と理解するが対策を立てる時間はない。


「もうっ! じゃあ仕方なく話してあげるけど……覚悟はいい鋼君?」

「おうっ! いつでもウェルカムだ」


 鋼は気さくな高校男子。異性に好意を寄せられていると自分で気づいているのか自信満々だ。デイジーはそれを見て肩を落として深い溜息を吐き、憐れみの視線を送った。


「鋼君。鳳月さんが朝一番に言った言葉の意味を本当に理解してる?」

「んっ? どういうことだ?」

「警告するわよ鋼君、もう一度よく考えてみて」


 鋼が思案する今がラストチャンスだと念波の代わりに通が横から口を出し、デイジーの燻ぶる怒りを鎮めようと鋼を正解に導く。

 

「鋼、デイジーさんの立場になって予想してみて――――言いたくないけど鋼の場合は聞いたら最後、高校生活が終焉を迎えるよ……」

「んんっ!? ちょっと待ったデイジー! ランキングは俺が答えを出すまで一時保留だ!」

「ええっっ~~! 鋼君、いまさらそれは都合が良すぎるでしょ?」


 小悪魔な表情で悪乗りする金髪留学生と必死に頭を働かせる高校男児。


「すまん、やっぱ無理やり聞き出すのはまずかったよな」

「当たり前でしょ! 鋼君がしていることは女性に対しての越権行為よ。もし私が喋っていたらどうなっていたかわかる? 私を含めた全学年の女の子を敵に回すことになっていたわ…………ふふふっ、卒業までのあいだ鋼君の精神が保つか見ものね?」


 それを想像する鋼。


(ちょっと佐々木さん)とクラスメイトに呼び掛けてもシカトされ。

(大宮さん。ハンカチ落ちたぞ)と良かれと思って手渡すも嫌な顔をされ。

(飯島さん。今日の家庭科部で顧問から連絡が)と年下の後輩に伝えようとするも距離を取られる。

 最悪な学園生活が頭に浮かび、身を震え上がらせた。


「デイジーが怖い、デイジーが怖い、とおるぅ、デイジー・キャンベルさんがこわい」

「ははははっ!! 君達は本当に仲が良いな。三人がお揃いのブレスレットを身に着けていることからも一目瞭然だ」


 大人の鳳月にからかわれて学生の漫才が鳴りを潜め、通は恥ずかしながらデイジーから聞いた自分の好感度ランキングの顛末を伝えると「ほらみろ」と鋼が「私の推察は正しかった」と鳳月が己の意見を正当化する。

 

「俺、ランキングのことはその場限りの冗談だと思っていたんですが、さっきの場面に携わって考えが変わりました」

「人は案外、自分のことは知っているようで他人から指摘されるまで気づけないときもある。天鐘君、今日という日に感謝し胸を張るがいい。君は今、己を知り成長したんだ」

「ありがとうございます。鳳月さんのおかげで認知することができました。デイジーさんと鋼もきっかけありがとう」


 他人を不快にさせず自然体できちんと礼を言える通に、鋼とデイジーはさぞかし目上の人には受けがいいんだろうなと感想を抱く。実際のところ傍から見ても好感度はかなり高い。一種の才能タレントだと、これから来たる年配がたとの交渉事は通に任せたほうが無難で、良い成果がでると認めるくらいには信頼できるパロメーターだ。


「そろそろ目的地だな」


 鳳月の一言で前方に注目すると、検問所から一番遠いであろう周囲を囲む灰色の外壁が大きく映る。その眼前には土色で塗装されたプレハブの巨大倉庫建造物があり、隣には十字マークが刻まれた白いドーム状の研究施設と、小型ヘリポートとヘリコプターが存在する。拝見しただけで敷地内での重要施設と判断できる。

 近くには迷彩服を着た自衛隊員らしき人達が厳重警戒に当たっていた。

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