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スライムサモナー  作者: おひるねずみ
プロローグ ダンジョン沼のプログレス
3/77

第三話 従者プル

「とりあえず【秘密技能:身体機能把握】でステータスを振り分けよう」


 適当に思考すると丸い鏡型のメニューボードが表示され、自動的にステータスの項目が現れた。


名前 天鐘通あまがねとおる

年齢17歳

職業サモナーレベル2


筋力6

体力6

速力7

魔力7

感力4

振り分け可能数5P


「見事なほどに数字が低い一桁。これって他の人はどうなっているのだろう」


 他人の平均値を知りたいがここは異空間型の不思議なダンジョン。スマホの電波を受け取ることができず、ネットに繋げることができないから情報を知る手段がない。振り分けのポイントを割り振る教材として参考にしたかったが、ないものは仕方がないと割り切り、ステータスの情報部分を黙読した。

 筋力は近接攻撃に大きな影響と重い荷物を持つに必要とされる。体力はスタミナ、生命力、持続力に直結。速力は行動スピード。魔力は魔法と魔力総量、ダンジョン産のアイテム製作に影響。感力は危険感知などの感覚が磨かれる。


「召喚系は魔法使いに分類されると考えて……この中で振るとしたら魔力一択か? それともアクシデントに見舞われた時のためにバランス良く満遍なく振り分けるか……悩むな」


 少し悩んだ結果。疑似ダンジョンシステム権を行使するには魔力のステータスが必須と脳内に刻み込まれていたため、天鐘は魔力一択を選択。魔力の数値が12になった。

 以前の約2倍の数値になり、なにかしら変化があると思ったがこれといって目立った変化は起きなかった。

 天鐘は思考を止め【階層地図】のスキルでマップを把握し、実際に地図情報が本物なのか確かめるためにプルと一緒にダンジョン内を進むことにした。


 それから一時間後。一層の階段を降りて無傷で二層に到着。それから更に三十分、モンスター狩りをして天鐘は理解を深めた。

 【階層地図】は本物で地図通りのダンジョン構成されていること。通路でモンスターに出会うことはなく、すべて部屋の中で待機して侵入者を待っているという点だった。

 それが意味するもの。プルから伝わり頭に埋め込まれた情報が真実ということに他ならなかった。


「それにしても人っ子一人いないなプル」

「……」

「っ! 迷宮ダンジョンネズミだ。プル、よろしくっ」

「……!!」


 部屋の中に入ると一層二層と出現する迷宮ネズミが部屋の真ん中で待ち構えていた。背丈はスライムと同じくらいだが、明確に違うものがあった。

それは実力。プルは天鐘の命令を受け取ると先ほど習得した『水弾』を体から放ち、勢いよく突っ込んでくる十メートル前方にいる迷宮ネズミの頭蓋をいとも簡単に射抜いた。これも全てはダンジョンから脱出するためだ、前のめりに倒れる迷宮ネズミに与える慈悲はどこにもない。


『プルがドロップアイテムをスライム核に収納します』


 プルはモンスターを倒すとすかさず【封印されし多重核機能】に付属していた『戦利品回収』を使用して、勝手にドロップアイテムを回収してくれる。銀行よりも安心して預けることができる倉庫番の役割も果たした凄く重宝するスキルだ。


『5の経験値獲得』

「おっ!」

『プルのレベルが上がりました』


 プルの頭上に浮かぶレベルアップの文字。主人である天鐘はレベル3なのに対し、プルのレベルは既に8。圧倒的に成長速度が速い。

 発光するプルが狂喜乱舞の如く、ウネウネと激しく全身を歪ませている。


「よくやったぞプル」


 労いの言葉を聞き、プルはその場で垂直にジャンプし天井に頭をぶつけて床に落下。勢いが収まりきらずポヨンポヨン跳ねまわっていた。


「これなら三層に向かっても大丈夫だろう」


 雑魚モンスターを瞬殺する優秀な従者プルのおかげで、天鐘の心境は薄暗いダンジョン内部にもかかわらず晴れやかだった。

 自分の代わりに戦ってくれる素晴らしい召喚魔法から生まれた従者スライムプルのチート技能を手に入れ、己が知り得たダンジョン知識を使い、他を出し抜くことが可能。先手を取ることができるアドバンテージがある。

 いいことづくめで自然と頬が緩んでしまう。問題は帰還後。ダンジョンから生還した自分の言い分を大人が信じてくれるかの一点のみ。それを証明するには他を寄せ付けない絶対的な強さが必要だと考えていた。


   ♤   ♢   ♡   ♧


 天鐘は【階層地図】を有効活用し、いっさい迷うことなく最短距離で最寄りの階段を下り三層に辿り着いた。そこで待ち構えていたモンスターは五体。緑の肌をした子供のような体躯と額には一本角。身に纏うのは腰から内股を申し訳程度に隠すボロ雑巾風の腰布のみ。手には野球バットの半分ほどの長さのこん棒、短剣、拳で語ろうとしている奴もいる。表情は共通して薄ら笑いを浮かべ、明確な悪意をこちらに注いでいた。


「動画で映っていた小鬼ゴブリン! しかも数が想定より多い」


 敵意のこもった鋭い視線。実際に目の当たりにすると少なからず嫌悪感を覚える。相手する数が単体から複数に変化したことによりプルの横を通り抜け、こちらに来るのではと天鐘は身の危険を感じ、即座にプルに命令しようと足元に控えていたプルに視線を移した。


「えっ!?」


 召喚者であり、主人である天鐘の命令を聞く前からプルは敵意を察知し、五匹の小鬼に向かって『水弾』を吐き出していたところだった。

 目の端で小鬼の頭部、額に命中し悲鳴を上げる暇もなく同時に絶命する小鬼が映り込んだ。プルの瞬時の判断に天鐘は深く感心した時『15の経験値獲得』が五つ表示され、プルがぷるぷる震えだし、ところかまわず跳ね始めた。


『プルのレベルが上がりました』

『プルのレベルが上がりました』

「成長するのはやすぎ!!」

『レベルが上がりました』


 遅れて天鐘が軽く叫んだ。


(おっ【精神安定】の効果で気持ちいいけど高揚しないぞ! ONして正解だった)


 数秒後。プルが飛び回るのを止めたところで天鐘は部屋内部の安全を確認し終えてからステータスを表示させ、パラメータを振ろうとしたら頭に声が響いた。


『従者プルが●●●●●●●で取り込んだ剣術レベル1、棒術レベル1、短剣術レベル1、格闘術レベル1、暗視を主人に献上しました』

「はいっ?」


 目をぱちくりさせて隣にいるプルを見た。「どう? 偉いでしょ?」と表情があったらドヤ顔をしているに違いない。スキルを確認すると確かにそこに記載されていた。

 

「これはバンバン魔物を狩っていれば大量のスキルを習得できそうだな」


 俄然やる気が湧いてきた天鐘はパラメータを魔力極振りにして25にした。


「これで【モブモンスター生成】のダンジョンレベル1条件である、従者スライムレベル10以上、召喚者魔力25以上をクリアしたぞ。案外早く達成できたな」


 後は自身がモンスター生成を行使して部屋に呼ぶだけだ。疑似ダンジョンシステム権持ちの召喚者サモナーのみに許された特許。並外れた性能をダンジョンに入って僅か数時間で目の当たりにできる現実。天鐘は嬉しさと期待のあまり、どうにかなりそうだった。

 これから世界は近いうちにダンジョンと共存していくことになる。これは【封印されし多重核機能】で得た紛れもない事実であり、現代の人間如きでは決して覆すことができない、どうすることもできない事案。

 だけど解決する方法、共存していく手段はある。むしろダンジョンを人類が正しく理解し、安定期にまで持ち込めばメリットだけを享受することができる。そこへ辿り着き不自由なく暮らすには、どうしてもレベルアップする必要があった。


「プル。今から俺がモンスター生成するから湧いたやつを倒すんだ」

「……!!」


 疑似腕で〇の合図を送るプル。ジェスチャーを見届けた天鐘は三層入り口の部屋で経験値効率の良いゴブリンを五体一セットとして取り扱い、生成することにした。

 天鐘の限界は比較的短い時間でやってきた。六セット目を湧かせた瞬間、立ち眩みが起きた。獲得した知識の中にある魔力切れの症状だった。幸いにもプルが刹那的にゴブリンに『水弾』を命中させて命を絶っているので大事には至らなかった。

 スマホを取り出し経過した時間を見てみる。三十匹のゴブリンを始末した時間は約二分。四秒に一匹仕留めていた計算。非常に美味しいレベルング効率。魔力切れが今後の課題になるが、二分でプルのレベルが1上がり、天鐘のレベルは2上昇していた。


「これは、あまりにも…………しばらくは封印して、モンスター生成については黙っていた方がいいな」


 考えてみたら人間がモンスターを生み出す。もし現場を押さえられたら非常にマズイ事態になりかねない。弁解する前に最悪、脅迫、殺害される可能性すらある。

 未だにダンジョン内で人と会合していないが、リスクは極力抑えるべきと性能実験を完了した天鐘は、モンスター生成スキルの行使をダンジョンクリアするまで封じることにした。


   ♤   ♢   ♡   ♧


 三層を歩いていると通路でモンスターと遭遇することが多くなってきた。曲がり角で小癪こしゃくにも待ち伏せする小鬼達のPTにも出会った。多少の知恵を持っていることから、この辺りからPTを組むことが求められている気がする。俺一人では無傷で戦闘を終わらせるのは不可能に近い。

 だが相棒こと従者プルの活躍により三層、四層と下り、レベル1ダンジョン最下層の五層まで一切傷を負うことなく進軍することに成功した。眼前には臭い物には蓋をするように、簡易的なとんがり帽子の絵柄が施された赤き扉が、この先の危険を伝えるようにして立ちふさがっている。


「ここまで来たけど、結局誰一人として会わなかった」


 可能性として挙げられるのは、すでにモンスターに殺されて死体を食われたりダンジョンに吸収されているか。それとも足を踏み入れてない区域にいるのか。はたまた、自分がここのダンジョン一番乗りなのか。それなら素直に「なるほど」と疑問が解け頷ける。

 実際に道に迷うことなく最下層まで潜ったのだから、最後の一番乗り説が最有力とみて間違いない。


「人と出会わなかったのは経験値効率の面から考えて、幸運でもあるから別にいいか」


 ダンジョンの知識に貢献度による分配というルールがある。文字通り、活躍した者へ多めに経験値が分配される。召喚者と従者の場合は両方の貢献度が適用され、平等に等しい経験値を獲得することができる。

 召喚者は単独活動に対してのメリットが計り知れない。経験値とドロップアイテムの独占。プルが複数の雑魚モンスターを無力化し瞬殺することからPTを組むメリットを見出すことができない。


 何気なくジーンズのポケットからひび割れたスマホを手に取り、時刻を拝見。日付が変わり日曜の深夜0時に丁度なったところだった。


「このままボス部屋に突入してクリアすれば、確実にダンジョン攻略タイムが更新される」


 ダンジョンに吸い込まれて三時間半も経過した。電話の主たる女性警察官が上司に報告。署一丸となって対策を立ててくれていたのなら、警察、マスコミ、救急隊員、自衛隊等の各関係者たちが外で待ち構えているのが容易に想像できる。


「早々にクリアして悪目立ちするのも……なんだかなぁ~~。一度引き返してダンジョンにいる生存者探しでもするかプル」

「……!!」


 こうして天鐘と従者プルはつばを返し、進んだ道を逆走するのだった。

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