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スライムサモナー  作者: おひるねずみ
プロローグ ダンジョン沼のプログレス
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第二話 スライム召喚と封印されし多重核機能

 沼の触手に捕らえられ地中を進む天鐘。いつの間にか強く握りしめていたはずの雨傘とスマホが、手のひらから離れ紛失していた。その事実さえも非現実な状況を目の当たりにして、ショックのあまり言葉を失っていた。

 そこは自分以外に何も存在しない黒の世界。道は空洞と化しており、異質な空間をただただ、下へと導かれるように緩やかに引っ張られている。

 数十秒後、着地した時に生じる衝撃が靴底に走った。すると漆黒の闇は消え、梅雨入りに入ったばかりの初夏では考えられないひんやりとした空気が肌身に接触した。


「さむっ!」


 大衆向けの夏服である英文字が書かれた半袖Tシャツと、ジーンズ姿の天鐘の体は雨に濡れたことにより、自然と小刻みに震えていた。

 見渡せば青い長方形のレンガが隙間なく規則的に折り重なった形で壁と地面が構成されている。それが薄っすらと光を放ち視界は辛うじてだが確保されていた。

 道幅は人が横に並んで五人は通れるくらいの横行きで、天井はそれなりに高く、七、八メートルはありそうだ。


「これが……ダンジョンか……!」


 ゴクリと生唾を飲み、雰囲気に飲まれ心拍が高まりつつある鼓動を天鐘は深呼吸で鎮める。

 ダンジョンの床に落ちたことにより付着した汚れを軽く手で払い、吸い込まれた時に生じた風圧で乱れた黒髪を適当に整えてから、傍に落ちている裏面で放置されたスマホを拾い上げた。


「画面に大きなヒビが入ってるが壊れてはいない。電源は無事っと。はぁ――良かった――」


 自分の携帯を手に取り、外に連絡が可能かもしれないと電話マークをタップし、家にいる母親に連絡を入れようとするが機能しない。

 よく見ると電波が悪いらしく圏外になっていた。その動作と並行して表示された時間を目の端に捉えると二十時三十分を回っていた。


「今日中にダンジョンから脱出は出来ないだろうな。最短の生存者PTはダンジョンクリアに六時間費やした。俺の立場でシミュレーションすればボスを倒して生きて出るのは難しいが、覚える魔法次第で状況は変わる」


 天鐘は役に立ちそうにないスマホをジーンズのポケットに入れ、もう一つの持ち物である雨傘を手に取った。天鐘通と貼られたシールの傘は、台風の強風に煽られたみたいに逆さに開いて竹箒状たけぼうきじょうになっているが、護身用の武器になると考え所持することを決めた。現状、使えるものは何でも使う。

 心細い武器ではあるが、あるとなしでは気持ちの持ちようがだいぶ違う。

 不意に幼い頃、傘を剣に見立てて友達とチャンバラごっこをしていた思い出が天鐘の脳裏によぎった。


「なんで今になってあの時の思い出が」


 今はそんなことを考える余裕はないと天鐘は首を左右に振り、生れ出た念を払拭する。神経を集中させ立ち位置を大雑把に把握し終えた天鐘は、前後の片方から吹いてくる風を頼りにして、背後の道を進もうとした。


【レベル1ダンジョンにようこそ】

 

 突如として女性特有のソプラナ調アナウンスが頭の中に響いた。


「これが生存者が語っていた念話って奴か」


 少なくとも周辺に人の気配はない。声の主は何処にいるか全く見当がつかない。このダンジョンに侵入者を監視できる場所があるのか、動き出そうとしたタイミングを狙ってのことから確実に覗かれていると解釈したほうがいいと天鐘は用心することにした。


【モンスターを討伐してレベル2になれば、その穢れた身に現在のあなたが本当に望む、祝福のダンジョン技能を授けることにしましょう。頑張ってください。業を一つ抱えた穢れし人間「天鐘通さま」】


 天鐘は自分の本名を呼ばれたことに驚いたが、それ以上に「監視者は中二病をこじらせているのか」と、斜め上の説明をしたアナウンサーを鼻で笑った。


「モンスターと言ってたが、初期階層に出てくる奴は動画で把握しているし、複数で襲われることのない一層二層くらいなら何とかなるだろう」


 ついでにそこでレベルアップして監視者アナウンサーが話していた、祝福のダンジョン技能を習得しモンスター対策バッチリの魔法を覚えることができれば先に進むことが容易になる。

 一番いいのはダンジョンに連れてこられた他の人達との合流。そうすれば戦力も強化され脱出確率は急上昇するだろう。もしかしたら誰かが五分後に今いるダンジョンをクリアするかもしれない。そうなると魔法を習得するために急いでレベル2になる必要性がでてきた。

 天鐘は寒気がする風が吹いてくる方向に向けて歩みを進めた。五感を集中させて曲がり角を慎重に曲がり、不意打ちに注意しながら前進すると通路が途切れ、先に部屋があることに気づいた。

 音は風切り音のみで足音すら聞こえない。そっと忍び足で部屋の入り口に行き内部を探る。部屋は広く見通しは悪いものの、自宅の間取りほどありそうな空間だった。


「っ!?」


 いる! 天鐘は僅かながら気配を感じ目を凝らす。地面と同じ色をした丸いフォルムの形をした物体が地面を擦りながら、こちらに近づいてきた。


(やるしかない!)


 天鐘は覚悟を決めた。全神経を研ぎ澄ませ、竹箒たけぼうきと化した雨傘の金属部分の尖った先端をゆっくりとした動作で相手に向けて構えた。


――――ポン、ポン、ポ――ン!


 すると動きを察知した物体が視認性が悪いダンジョン内で跳ね上がり天鐘に飛び掛かる。


(今だっ!)


 姿が確認できた物体、青色スライムは雨傘のフレーム部分、親骨と受骨で横に強打され、公式テニスボールのように三回ポンポンと横へ転がった。

 天童の瞳に体勢を崩して体積を歪ませているスライムの全体像が完全に収まる。高さは目測で二十から三十。横幅はビーチバレーの玉サイズで映像と同じ大きさ。生存者が証言したスライムの弱点であるキューブ状の核も確認できた。

 これなら十分に勝機があると天鐘は間を置かず一気に勝負を仕掛けた。

 傘は武器に例えるなら叩くものではなく、突くに特化したレイピアの形をした得物だ。それを重々承知している天鐘はスライムの弱点である核部分に狙いを定め、勢いよく突きを放った。


「なっ!?」


 予想外な事態が起きた。スライムは予測していたのか地面に付着している体積を上部にしぼり集め、核を守る動きを見せた――が、天鐘の渾身の突きはスライムの体を貫き、辛うじて武器が正方形の核に到達。核に損傷を負わせたが、まだ終わりではなかった。


――――ジュジュ~~!!


 ステンレスフレームで加工された雨傘がスライムの体内で溶かさせそうになっていた。消化は早くも始まっており、傘が腐食し伝わってくる振動で耐久性がみるみる失われていくのがわかる。


「愛着ある傘だったけど、お前にやるよ!」


 ひとこと別れを告げ、天鐘は最後の一押しと自分のお気に入りパラソルをスライムの体内に、ねじって押しこみ、傘を手放した。それが決定打となりスライムの核が呆気なく壊れ、その場でスライムの肉体が液状化。

 そのあと元通りに復元されて動きだすことはなく、しばらくするとレンガ作りで構成された地面に傘と一緒に染み込みようにして溶け、傘の取っ手だけ残して消えていった。


『10の経験値獲得』


 スライムを倒した場所に浮かび上がる黄色い文字。


『レベルが上がりました』

「っ!? うっ、おおぉぉぉぉ――――!!」


 身体に眩い光がほとばしり、決して人に聞かれたくない魂の叫び。天鐘はダンジョン内部でゴリラのような咆哮を上げた。

 レベルアップ。まるで体が作り変えられるような感覚。初めての衝撃に戸惑うものの、想像を絶する気持ちのよさに天鐘は心の中で悟りを開いた。


(レベルアップ頑張ろう)


 次第に光が急速に沈静化し天鐘が落ち着きを取り戻すと、例の念話が聞こえてきた。今度の声は女性ではなく男性の野太い声だった。


【召喚魔法『スライム召喚』をその身に授ける】 


 複雑で理解不能な膨大な量の文字列が頭の中で三回フラッシュバックする。一瞬にして刷り込まれる知識と得体のしれない力。

 摩訶不思議な出来事に天鐘は戸惑いながらも、与えられた複数の知識によって形成されている召喚魔法の言霊を呟いた。


「サモンスライム」


 天鐘の体から青い靄が発生してスライムが倒れたところへ集まり収束。それが青白く光る地面に五芒星の魔法陣を描いていく。術式が完成すると同時に大量の煙が魔法陣から放出され、天鐘の周りを完全に包み込む。

 煙は無味無臭と現在得た知識で判明している。天鐘は期待に胸をときめかせ、煙が晴れるのを今か今かと首を長くして待った。


   ♤   ♢   ♡   ♧


「これが俺のスライムか」


 煙が散り、姿を現したのはプルプル震える青い丸型のスライム。見た目は先ほど倒したスライムと一緒で、もし隣に並べられたら正直にいって区別できない。目印が必要だなと考え事をしていたら、スライムが何かを訴える気配を感じた。


「もしかして名前が欲しいのか?」


 その場で跳ねるスライムの様子に天鐘は思わず微笑んだ。

 

「肯定と受け取るぞ? お前に性別はあるのか?」


 召喚したスライムは、その場で軽く跳ねた。天鐘はYESと解釈し次の質問をした。


「お前は男か?」


 スライムは肉体を使って左右から棒状の腕を作り、手前で腕をクロスさせ違うと天鐘に伝えた。


「凄いな。俺の言葉の意味を確実に理解している」


 もっと原始的で簡単な命令のみしか実行できないと踏んでいた天鐘は普通に感心していた。

 知識と意志を持ち合わせているのならしもべではなく従者扱いが妥当だろう。

共に長い時間を過ごせば愛着が沸き戦友にもなる。思考がずれ始めた。今は名前だ。


「女性の名前か…………うーーん。お前はプルプルしているからプル。お前の名前は今日からプルだ」

「ッ!? ……!!」


 プルと命名されたスライムはポヨポヨと軽く跳ねて俺の足元に来て体を擦り付けてきた。スキンシップのつもりだろうか。可愛い奴めと腰を下ろしてプルのてっぺん部分を頭部と思い、手で軽く触れてみた。

 弾力があって表面はツルツルしていてほどよい触り心地。プルもまんざらではないらしく、俺が手を離して立ち上がると飛び跳ねて手のひらに自分から頭をぶつけてくる――――その時、不思議な感覚が全身に駆け巡った。


【従者スライム『プル』が●●●スライムに変異覚醒。秘密技能シークレットスキル『封印されし多重核機能』の解放に成功しました】


 脳に流れたのは一番初めの蔑むような中二病女性の声ではなく、どこか懐かしさを感じさせる心休まる優しい声色。アナウンスにも種類があると知ったが、それは些細なことだった。

 なぜならスライム召喚のとき同様に情報の羅列が脳内にプルを通じて大量に注ぎ込まれているからだった。その情報量は軽く十倍は上回る。とてもではないが目など開けていられない。思考を完全停止して瞳を閉じ、流れに身を任せ、額に脂汗を浮かべながらフラッシュバックが収まるのをジっと数十秒間のあいだ耐え忍んだ。

 インプットを終えたあと精神的に枯れ果て、天鐘は後ろに倒れ込んだ。


――――むにゅん。っと良い感触が背面全体に広がる。まるでウォーターベッドの質感。プルが主人である天鐘に対して自分の意志で初めて補助サポートした瞬間だった。


「さんきゅー。やっぱ、お前賢いなプル」

「……!!」


 褒められて嬉しいのかプルは自身の体内に気泡バブルを発生させ、上で休んでいる主人の首から足のかかとまでの身体箇所に沿って、まんべんなく気泡をぶつける。


「お、お、おお、おおぉ~~! マッサージ機能もついてるのか!」


 これは最高の召喚魔法だと天鐘は確信した。今しがた獲得した『封印されし多重核機能』の知識は膨大で一言では決して言い表せないダンジョンの秘蔵情報も含まれており、これからさきも重要な役割を果たすと信じて疑わない。

 プルが解放した数多くの機能の一つに『知識転写』というスキルがある。これは天鐘の持つ知識とプルが持っている知識をコピーして移す効果があり、マッサージ機能は天鐘の知識から得たもので、すぐに機能の使い道を知ったプルが早速行動に移したのだがら賢いと言わざるを得ない。

 天鐘は力加減が絶妙なマッサージを堪能しながら、プルから得た知識を頭脳内で整理整頓していく。


「なるほど……ね。確かにシークレット機能だ」


【封印されし多重核機能】

 スライム核の真なる力で疑似ダンジョンシステム権を行使可能。成功率は魔力、レベル値に準ずる。

 追加効果。封印された秘密の技能、スキルを習得できる。習得するにはレベル、ステータスが一定値必要。達成すれば自然と知識として身に付く。使用するにはOFFからONにすること。


「凄すぎることが説明されてるし、疑似ダンジョンシステム権ってダンジョンを好きに操作できるに近い。【モブモンスター生成】のレベリング速度に拍車を掛けるインチキチートスキルも付属してるからプルが有能すぎて怖いくらいだ」


 条件を満たし機能を獲得すればダンジョン内でやりたい放題だ。まだダンジョン内で三十分も経過していないのに、滑りだしが順調すぎて思わず口角がつり上がってしまう。


「これはもしかするとダンジョンクリアも夢じゃないかもしれない」


 ご満悦の天鐘は多重核機能一部の権能で実行可能なバシップスキル【モンスター図鑑】【秘密技能:完全鑑定】【秘密技能:身体機能把握】【階層地図】【秘密技能:装着品透明化】【レアドロップ率上昇】【精神安定】の計七つの機能を自分の意志で一つ一つOFFからONに手動で切り替えた。


【モンスター図鑑】

 モンスターの名前が頭上に表示される。

【秘密技能:完全鑑定】

 ダンジョンで入手可能な全アイテムの正式名称、使い道の一部を知ることができる。

【秘密技能:身体機能把握】

 レベルアップで獲得したステータスPを振り分けることができる(プル適用済み)

【階層地図】

 現階層の地形構造を知ることができる。

【秘密技能:装備品透明化】

 ダンジョン産の装備品を透明化して誤魔化すことができる。

【レアドロップ率上昇】

 ボス級がレアドロップアイテムを落とす確率が上昇する。

【精神安定】

 精神が病んでしまうショッキングな出来事に対する耐性が上がりクールになる。

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