第十八話 変わりゆく日常の始まり 月曜日④
月曜日がまだまだ続きます。
「うそでしょ……」
震えだした彼女が持つスマホを隣にいた鋼が受け取り、通も混じってデイジーが目を通していた部分を黙読していく。
「デイジーは確かダンジョンで通信系能力を授かったんだよな? 自身をターゲットにした得体のしれない片頭痛に襲われたら精神に相当くるぞ。これが人為的に引き起こされたものなら――――とてもじゃないが許せる所業じゃない」
彼女のスマホを握りしめる鋼が憤りを感じるのは無理もなかった。知らず知らずのうちに標的にされ、理由もわからぬまま理不尽に苦しむ被害に遭ったら人類誰しもが憤慨することに違いない。これは直ちに彼女が習得した魔法について詳しく知る必要性が出てきた。
「デイジーさん。『電波』は自分が狙われるような危険性がある魔法なんですか?」
まずはそこから。通は危険性があるから早期に芽を摘む必要があると判断した何者かが裏で暗躍している可能性について考えた。
デイジーは鋼の口からスライムの単語が飛び出ているのを記憶しているため、口を割っても問題ないと意を決して、自身が習得した魔法の特性を教えることにした。
「私の授かった能力『電波』は主に通信系に属する魔法で、電波を発生させる機器の性能を何世代も引き出してパワーアップさせたり、電源が付いていない機械へのアクセスが可能になる主に現代向けの能力」
日常生活を豊かにしてくれる彼女が得た異能『電波』。これだけならさほど害は無いが、机から身を乗り出して二人を誘い、三人の顔が中央に集まってから小声で『電波』魔法の危険性を緊張した面持ちで「この内容は絶対に他言無用だから!」と瞳を潤ませてデイジーは打ち明けた。
「本当は秘密にしておきたかったんだけど――個人が保有するパスワードキー。メールアドレス、SNS、ツイッター、更には銀行口座番号、核へのパスコード、恐らく国の暗号文書さえも言語を理解していれば電波を通して頭で正解がわかってしまう現代社会の盲点、弱点を突ける非常にデリケートな魔法なの」
悩んだ末に吐露したデイジーの異能。海外の悪質なクラッカーが欲しがりそうな、反社会勢力が絶対に手にしたらいけない力。
取り扱いを一歩間違えれば、情報社会の根底を覆すかのような魔法を二人に公開するデイジー。通と鋼は早急に手を打たなければ本当に世界の秩序が崩壊する。その足音がすぐそこまで来ていることに恐れ戦き、戦慄した。
「ははっ……マジかよ…………とんでもない魔法だな。そりゃ狙われもするわ…………」
国家転覆を企むテロ扱いされること請け合いで世界中から腫物扱いされる未来が予見できる。もしかしたら現代版の魔女狩りにさえ発展してしまう恐れもある。どう手を差し伸べていいやらと通は一瞬考えてしまうが、この際それはどうでもよかった。
「確かに扱いに困る能力だけど、魔法は魔法で対抗して対処できる」
「どういうこと通君?」
「通。詳しい説明プリーズ」
通は真剣な面持ちでプルから得た情報を照らし合わせて順を追って説明する。
「まず通信系能力者の頭痛被害報告は世界中であることから魔法が関与していて、外的要因で引き起こされている可能性が非常に高い。ここまではいい?」
「ええ。時間帯も加味して非現実な現象を一際光らせてるから通君の推論は高確率で当たってる気がするわ」
「現実的にあり得ないからな」
三者共に魔法の仕業と即座に断定する。
「わかりやすく身近にあるゲーム系システムを基にして簡潔に話すけど、攻撃的な魔法でアタックされた場合、こちら側が対抗する魔法、防御魔法の方が強ければ被害が軽微になる」
「言ってることはわかるが……現実でもそれが当てはまるのか通?」
「その辺は検証が必要だけど、己の能力を表わしたパラメーターが存在するから的を射ていると思う」
「そういえば食べてる時に聞いたな」
二人のステータスに興味が湧く鋼。だが今はその時ではないと冷静に場の空気を読んだ。
「つまり、通君はレベルアップによって魔力のステータスを上昇させれば魔法に強くなり、緩和、中和させる力が向上すると言いたいわけね?」
緊迫した場面なのに何故かニッコニッコと微笑み、眉をヒクヒクさせた怪しい彼女。これには通もお手上げだ。
「デイジーさん……もしかしなくても魔力以外に」
「その先は言わないで!」
デイジーは堪らず顔を背け、通の眼前に手をつきだしてストップサインを送った。これでもかと猪突猛進を十全に発揮する行動が早い金髪乙女に、通は全てを察してしまった。
「その様子を見るとステータスを既に振り分けたっぽいな」
鋼の何気ない言葉がデイジーの心臓に突き刺さるが、気の強い彼女には深く刺さらなかったようだ。深々とめり込んでいれば強く反論できずに押し黙ってしまうことだろう。
「と、通君や鋼君だって、いつの間にか自己能力に振り分けられるポイントが目に付いたらゲームのように割り振っちゃうでしょ!」
――――バァァァン!!
話を切り裂くかたちで突如発生した耳に残る物音に身が跳ね上がり、そっちへ注意が向く三人。
周囲で静かに読書していた生徒や、だべっていた生徒も音の発生源に注目する。そこは図書室の貸し出しカウンターに座る重鎮、図書室の主である眼鏡をかけた黒髪ロングヘア先輩が滞在する特等席。
この室内で決して逆らってはいけない本の頂にいる人物が、椅子に腰かけながら本気で三人を呪い殺すような視線を眼鏡越しに送信してくる。お静かに、追い出しますよ、出入り禁止にしても? と眼力がすごい。
静寂が好まれる空間で男児二人は互いに無かったことにしようと目を逸らすが、デイジーが取った行動は違った。
「私、ちゃんと謝ってくる」
「はぁ!?」
「ちょっとデイジーさん!?」
この場面は争いを好まない日本人ならスルーするところだか、彼女は海外からの留学生。日本の既存観念に囚われない。
立ち上がったデイジーを引き止めるものの聞く耳を持たない彼女は黙って図書委員のもとに向かう。
怖い者知らずなデイジーを少し離れた安全圏から陰ながら見守る周囲の生徒たち。
デイジーは図書委員に対して臆すことなく接すると、お互いに笑いあい仲良さげに話し込むこと数十秒。会話を終えた彼女は周囲の目を気にもせず通たちが囲うテーブルに帰還して、さっきまで座っていた椅子に堂々と着席した。
「知り合いの先輩だったから、素直に非礼を詫びたら笑って許してくれたわ」
勇猛果敢な特攻隊長デイジーの戦果報告に胸を撫で下ろし、一喜一憂する一同が気を取り直したところで、通は現状で一番現実的な最善策。ダンジョンでレベルアップすることに注力する方向性を三人共通の目的意識として定めた。
「確かに魔法に対抗するなら、魔法をさずかったダンジョン沼に潜ってレベルアップして強くなるのが普通に考えて一番の近道だろうな」
「そうね。能力が上昇して電波妨害ができるようなったり、自己防衛が可能になると仮定すれば応用技術が派生したりして魔法によるパスコードの保護。ひいてはプロテクトキーで全世界に蔓延る悪質なクラッキングをブロックすることも夢じゃない電子の守護者になれるわけね! イイわぁ~~。幼い頃に妄想したヒーローになる夢が膨らんできたわよ!」
通の方針をなぞって進めていけば、謎の頭痛や魔法を身につけてしまったことによって生まれた悩みを解消できるかもしれない。デイジーから不安な感情が抜け去り、余裕が生まれて思考回路が平常に戻ることにより、どうしようもない重大的な問題点に着目することになってしまった。
「ねぇ通君?」
「なんですか?」
「思ったんだけど私達がレベルアップするには沼が必要よね? それに今後ダンジョンに挑戦するには恐らくだけど国が発行する許可証も常識的に考えて必要になってくるはず、それに関してはどうするつもり?」
デイジーがおっしゃる通り、ダンジョン沼に挑戦できなければ話は成り立たない。事実上の破談となる。いち学生が覆せることではないが、通には頼るあてがあった。
「世界中がダンジョンに振り回されているから、今すぐにダンジョンアタックは無理かもしれないけど一応コネは持っているから沼に入る許可については心配しなくてもいい」
「凄い自信だな通」
この件については日本を代表する鳳月グループのトップ、鳳月雅人が裏で手を回してくれる。スカウト時に明かされた資源を集めてほしいと言う約定。それはダンジョンに潜入できる権利を得たも当然の内容に他ならない。
「日頃の行いが良いから運も味方してくれるだろうし」
「急に仕事を辞める奴の言うセリフじゃないぞソレ」
鋼は通にすかさずツッコミを入れ、デイジーは二人に釣られて薄く微笑む。
――――キン、コン、カン、コン。
昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り、三人は場所取りに使用した本を本棚に戻して図書室を後にした。
次の話で晩御飯後まで話が進みます。




