表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライムサモナー  作者: おひるねずみ
プロローグ ダンジョン沼のプログレス
17/77

第十七話 変わりゆく日常の始まり 月曜日③

 全校生徒(おもに男子)の通への突撃インタビューは想像していたよりも早く、午前の日程が終了する頃には鳴りを潜め、教員の注意もあって収束しつつあった。

 夏の蚊が纏わりつくような生徒の煩わしさから解放された通は、栄養士がバランスよく考えた完全給食制の食事を手早く済ませ、朝の会話で取り決めた集合場所(図書室)に鋼と一緒に出向く。

 エアコンの冷房が行き届いた室内に入室して辺りを見渡すと、デイジーが入り口にいる通達に気づき、おいでおいでと窓から照りつける直射日光が届かない、日影になっている席へといざなう。

 彼女がいる図書室特有の分厚い四角形のテーブルには本がそれぞれ一冊ずつ置かれている。


「二人のために場所を確保しておいたわ」


 仕事たべるのが早いデイジーに礼をいい、通は正面に、鋼はデイジーの隣に着席して手前の本を開きながら残りの昼休みの時間を有意義に使う。


「デイジーさんに前もって話すけど、鋼もダンジョン探索の仲間として加えるからそのつもりでよろしく」

「何となくそうなる雰囲気がしてたから私は大丈夫だけど、それよりも何処まで彼に事情を話したの?」


 デイジーの言わんとしていることを把握した通はそのまま警察関連のことはまだと簡潔に伝えた。


「通君のことだから心配はしてないけど」


 ダンジョンで出会い、共に戦い生き延びて脱出したことにより、たった数時間過ごした仲だがデイジーから厚い信頼を獲得した通は、相手をよりよく知るためにこちら側の身内話を振る。


「鋼は食事処の一人息子で俺はそこでバイトをしてる関係で強く断れなくて、条件付きでダンジョンに一緒に挑む仲間としての提案を受け入れたんだ」

「通の条件を聞いた時は嘘かと疑ったが、話すうえで本気度合いが分かって互いに利害が一致したから渋々だが認めた」

「二人の成り行きは掴めたけど条件って?」


 デイジーの問いにため息を吐いて口を割る鋼。家に帰って通の示した条件を両親に報告したらこっぴどく怒られる可能性があるために珍しくも鋼が億劫になっている。


「バイトを本日づけで辞めたいんだと。家に帰るのが今日ほど嫌になったことはないぞ」

「あはは。それはお気の毒さま。けど鋼君は素直に通君の言い分を認めたんだ」

「しょうがないだろ? 通の実益が含んだ話を聞けば断るわけにはいかないさ。家業の未来に関わるから尚更だ」

「…………凄い気になるんだけど通君。鋼君にどんなメリットを提供したの?」


 通は食事時に鋼へ話した『ダンジョン沼の秘密』サイトのことをデイジーに教えると、デイジーはスカートのポケットの中に手を入れてピンク色のビーズで花模様がデコレーションされたスマホを取り出し、左で持って右手で画面を軽く指でタップして検索。通の指示するとおりにレベル2ダンジョンの項目を目通ししながらブツブツと独り言を呟く。


「ふ――ん。レベル2ダンジョンでダンジョン産の資源が収穫できることになる。研究対象として植物、動物、鉱石、原木、土壌、水質など様々な資源に高値が付くと予想される――ね。中でも研究者が注目を集めているのは医薬品になる薬効植物、未だに発見されていない未知の元素レアメタル、現地生物や家畜関係……あ――鋼君はそこに魅力を感じちゃったんだ」


 青い瞳を左右上下に頻繁に動かし、朗読に集中しているぶん反応が素っ気ないデイジー。


「俺の家が経営している店が提供しているメニューは庶民的食べ物が占めるが、そこにダンジョン産の食材が使用されればどうなるか察しが簡単につくだろ?」

「ダンジョンで取れた食材を使用していると大々的に広めればお店は大繁盛するわね。悪評が立たず、美味しければだけど」

「そこは腕の見せ所だ」


 望むところだと鼻息を鳴らし、ダンジョンに立ち入ったことのない未経験者の鋼がやる気に満ちている。そこに茶々を入れる金髪乙女。


「それも早ければ早いほど周囲に認知される確率は大幅に高くなって地域に定着するし、お互いが刺激しあい切磋琢磨に商品価値を高めるために日々工夫を凝らして食に対する平均的水準が引き上げられそうだけど、デメリットとして乗り遅れた経営店舗は後退の一歩を辿りダンジョン飯の競争が熱を帯びて激化。ダンジョンがもとで右肩上がりの業種と左肩下がりの業種がハッキリと分かれて経営不振に陥って体力がないところは次々と廃業を余儀なくされて撤退。結果、労働者が溢れて経済が更に停滞しそうよね」


 後半、彼女の言った辛辣しんらつな物言いにぐうの音もでない鋼。そこまで深く掘り下げて考えていなかったと驚きに満ちた目で、通と一緒に猪突猛進と誤認定した桃色スマホを弄る留学生を見た。


「デイジーってさ。偏差値高いほう?」


 疑問形の言葉を聞いて途端に桃色のスマホから眼を放し、首を四十五度すばやく回転させて体を向けたデイジー。突き刺さる視線から敵意があるのは明白だった。


「こぉーくん? もしかしなくても私のこと馬鹿にしてる?」


 ダンジョンから生還して一皮剥けた同学年の留学生が言い寄る気迫に、普段から物事に動じない強面の鋼が珍しくもタジタジになった。


「い、いや!? そんなつもりはサラサラないぞ!?」


 責め立てられる鋼が藁にもすがる思いで通にすがる。それをみかねた通は助け舟を出す。


「デイジーさん落ち着いて。鋼も悪気があったわけでは」

「悪気があったら引っ叩くわよ私」


 腹の底から吐き出したキツイ言葉を通に送るデイジー。そして彼女の唇が震え、口元から笑いがこぼれた。

 彼女から威圧感が消え、こちらをからかっていると分かると二人はホッと息を吐き出す。


「あはは、ごめん。ごめん。ちょっと意地悪できる隙があったから」


 場が解れてきたところで三人は住んでる所在地を教えあう。その中でデイジーが英国イギリスから来日した経緯について議題がシフトしていく。

 デイジーの夢はフリージャーナリストになって情報を世界に向けて発信することで、複数の言語を習得していく際に言葉を学ぶ楽しさに惹かれ、辿り着いた先が世界的に覚えるのが難しいとされる日本語だった。

 そして何より高校生男児二人を驚かせたのが日本語を覚えるためだけに両親まるまる巻き込んで、来日を果たしたことだった。ただし両親は仕事の都合上で日本に滞在していない。一人娘のデイジーが一人でマンションに住み、自活しているらしい。


「デイジーさん。ちょっと波瀾万丈な人生歩んでない?」

「生き急ぎすぎだろ」


 やはり猪突猛進タイプだったか。二人して顔を見合わせ大きくうなずき、更にデイジーの話を視聴しているうちにそれは確信へと変わる。

 どうやら彼女は飛び級でイギリス国内有数のオックスフォード大学に推薦で招待され博士号を十五才の時に修得し卒業。両親があなたの好きなことをしなさいと全面的にやりたいことを支援してくれるらしい。

 イギリス政府もデイジーの将来性に大きな期待を示しているらしく、彼女の前に立ち塞がる障害物は無いに等しい。


「俺さ疑問なんだけど、デイジーさんはどうして未だに学校に通ってるの? 大卒したなら高校で学べるものは何もないはず」


 通が述べた謎をデイジーは気後れすることなく、真顔で平然と答える。


「な~んだ。そんなの決まってるじゃない。同年代のあなた達と青春を謳歌するためよ。それ以外に学び舎に通う理由なんてないわ」


 面と向かって言われて、表には出さないが少し内心で照れてしまう通。 

 流石、外国人。物事をはっきり伝えてくる。ここまで清々しいと気分がいい。


「通学理由はわかったが、有名大学を卒業したのが事実ならデイジーは神童なわけだろ? 高校入学時に少しは話題になりそうなもんだが?」

「鋼。おそらくだけど教員達に強く口止めしてたんじゃないか? 些細なきっかけで国の信頼を落としたくないだろうし」


 余計なことを口走なければ知る由もない。うちの高校の先生がたは律儀にそれを厳守しているわけだ。


「仮に、もし噂になっていたら私のパパが学校に乗り込んで『話が違うじゃないか!』ってケンカ腰で抗議相手の喉元に勢いよく食いつくはずよ」

「「パパ?」」

「二人の食いつく場所はそこなの!?」


 この国ではパパは失言だったと顔を赤らめながら、デイジーは新たに訂正し言いなおした。


「聞いたら驚くかもしれないけど――私の家系、キャンベル家は国に影響を及ぼすほどの発言力を持ってるの。嘘じゃないから!!」


 そのあとに続く言葉を耳に入れた高校生男児二人は、キャンベル家ヤバイと脳内で思わず復唱する。

 デイジーの父親は映画祭で受賞するほどのハリウッドスターで母親はニュースキャスター。この事実を知った教師達は不祥事になりそうなことは可能な限り慎むだろう。触らぬ神に祟りなしだ。


「ってことはデイジーって……天才で品位が高いお嬢様!?」


 瞳を閉じてフフンと気取り私の偉大さが分かったかと横髪をかき上げ、腕組みしながら自慢げに椅子の背もたれに寄りかかり踏ん反り返る仕草をするデイジーに鋼は、自然な流れに沿って役者を演じた。


「どうしましたデイジーお嬢様?」

「ぶっふ――!」


 鋼の声色を変えたお嬢様呼びに盛大にむせて咳をするデイジー。変な場所に入ったのか咳払いがなかなか収まらない。


「悪い。崇め称えなさいって無言の圧力が襲ってきたからやむを得ず」

「次、その声でお嬢様呼ばわりしたら許さないから」


 ゴホゴホと辛そうに咳をしながら今の呼び方を禁止させる。そのやり取りを拝見して二人とも懲りないなと通が注意を呼び掛け、朝の出来事で異常はないかデイジーの身を案じる。


「確認するけどデイジーさん、あれから頭痛の方はどう?」

「ひとまずは朝の症状以来、再発してないけど」


 突発的な片頭痛に恐れているのか、不安げな表情で見つめ返すデイジー。


「あっ! もしかしたら!」


 デイジーは今もなお、現在進行形で世界中のダンジョン情報が集積されていく『ダンジョン沼の秘密』サイトでも同じ時刻に似た症状に陥った人達の書き込みがないか検索すると予感は的中し、すぐに記載された場所を探り当てて読み返す。

 そして頭痛に苦しんだ全員に一致するのは『通信系能力者』に覚醒したという一点だった。

 世にも珍しい魔法系能力者のなかで通信系だけに的を絞った症例に、デイジーの身は知らず知らずのうちに震えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ