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スライムサモナー  作者: おひるねずみ
プロローグ ダンジョン沼のプログレス
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第十五話 変わりゆく日常の始まり 月曜日①

一番初めの投稿まで遡って色々と加筆修正を加えました。

 翌日。身体に異変を感じることなく天音とプルに留守番を任せ、胃薬を服用して学校に行く身支度を整えた通は玄関で靴を履き外に出た。


「よう!」


 庭にある石垣の壁に背を預けて待ち構えていた同じ学校に通う服装の男子。見覚えのある人物に通は気づいて気さくに挨拶を交わす。


こうが家の前で待ってるなんて、今日は雨が降りそうな予感が」


 玄関に引き返して傘を取りに戻る行動にでた通に後ろから「今日の降水確率はゼロだぞ。ゼロ!」と言われて振り返って「知ってる」と笑って返す通。

 彼は食事処鈴原の一人息子でクラスメイトの鈴原鋼すずはらこう。小学一年生の頃から一緒に通学している数少ない腐れ縁の親友。通と公立清涼高校で勉学に励む高校二年生。食品を扱う家系なため、髪は知り合った当初から黒の短髪で今も変わらない。

 背丈は通より拳一個分大きいくらい。目つきはつり目で肉体はまあまあ鍛えられてるほうで若干怖い印象を持たれてしまうが、意外なことに部活は家庭科部に所属している。話してみれば話の通じる男で一度打ち解ければ自ずと友達になれるくらいフレンドリーな同級生。

 通常は学校から遠いとおるの方が鋼の家の前で出待ちする格好なのだが今日は違っていた。思い当たる理由は一つしかない。


「テレビのニュースでダンジョンクリア後に保護されたところを見た時はビックリしたぞ通。スマホを掛けても通話に出ないし本気で心配したんだぞ?」

「ああ!? それがさ、ダンジョンに捕食された時にスマホに強い衝撃が加わってなぜか通話だけができなくなっていたんだよ。使い物にならないから下校途中に店によって修理に出す予定なんだ」

「それでか! そいつは災難だったな――」


 余裕をもって登校し、他学生達も思い思いに会話している日常風景。死傷者が出た、おとといの出来事がまるで遠い過去のように思える通。

 それを知ってか知らないかわからないが鋼は通にダンジョンの話題を振るのを極力避けているのに、道半ばで気づいた通は聞きたいことがあるならできる範囲で答えると鋼に伝えると、彼が待ってましたと笑みを浮かべ機嫌を良くした。


「やっぱ、分かるもんか?」

「そりゃ十年も付き合っていれば何を考えているかだいたい想像がつくよ。俺がダンジョンで経験した非日常で受けたショックをまだ引きずっていないか、探りを入れてることぐらい気づくさ」

「まあ、な。その様子だと神経が図太い通は大丈夫そうだ」


 軽口を叩いて笑う鋼は通常運転の通を確認すると、聞きたくてしょうがなかったダンジョンの詳細を真剣な面持ちで聞いた。


「通。まず確認したいんだが魔法って本当にあるのか?」


 通は一呼吸置き、事実だけを述べた。


「魔法は存在する。自分自身が習得したから」

「へぇ。じゃあ動画の炎を制御する魔法はCC加工の作り物ではなく本物なのか?」


 真実、真相をダンジョンクリア者本人に聞くほど、正確な情報はない。生き証人である親友の通の答えを生唾を飲み込みながら待つ鋼。


「あれはイタズラでもなければドッキリでもない。紛れも無く本物だよ。生還者の所々破れた服装と、ありえない体験をしたことによる精魂尽きた表情。慣れていないためか、炎詠唱者の左腕に軽度のやけど跡も見受けられる」

「……よく見てるな」

「それと合成映像ではないと確実に断定できる根拠がある。ダンジョンクリア前には視認できなかった炎詠唱者の赤い魔素が、今では鮮明に見えるようになった」

「!? つまり通には一般人には見えない魔法の素を目視できているということか!?」

「そういうこと」


 この瞬間、魔法が存在することを鋼は頭で認めた。

 知り合い、腐れ縁の親友が魔法を使えることに自分のことのように歓喜している。リスクはあるがダンジョン沼に吸い込まれれば魔法を習得できる淡い期待を抱くには十分な一報。

 ありえないものが存在する事実に我を忘れそうになる鋼をよそに通は話を続けた。


「あと放映したTVのアナウンサー達の言動から滲み出る危機感。今後、世界がどう変わっていくのか世界的な分水嶺ぶんすいれいに直面していることに、みんな内心で薄々気づいているんだ。ただそれを提唱してしまうと、取り返しのつかない事態に発展するから黙っているだけで、世界的権威のある学者達や国を代表する政治家たちは今後の対策に悩み苦しみ唸っているはず」

「ダンジョンに入ったら魔法を習得できるとわかった民衆が、想いのままにダン突するのは想像に難くないな。俺も突撃したいし分からないでもない。幸い日本は島国で総面積がそれほどでもないから比較的おだやかだが、外国は国土が広すぎて取り締まることは実質不可能に近いだろ、はっきり言って詰んでるよな」


 このままいけば近い将来、魔法によって世界を震撼させる大犯罪が起きることは間違いない。法律など魔法の前では何の意味も持たない。たとえ政府が節度ある行動を呼びかけたとしても大多数の国では徒労に終わるのは目に見えている。


「なあ通。思うんだけどさ、俺ら学校に通ってる場合じゃないよな」

「それ聞いていると虚しくなる……俺ら学生の本分は学び、社会に出て得た知識を活かし、最終的には自分の足で立って自立することだから若いうちに怠けたら後が大変ってよく見聞きするし」


 言葉に出して言ってみたものの、通自身の今後はプルの知識を頼りに行動するため、反目した言動に心内で苦笑していた。


「頭では理解しているが、非現実。魔法が関わってくるとなると基本概念が壊れそうで一刻も早くダンジョンへ入って力を授かりたいんだよ。通なら理解できるだろ? 男のロマンが!」

「能力を得ていない鋼には同情するけど、両親が汗水流して稼いだお金で俺達は高等教育を受けているんだから、そこを考えたら真面目に学校に通学するのが親孝行になるわけで」


 通の言い放った言葉は一般論で正論。反論の余地がない鋼は、一足先に魔法を習得した通に羨望せんぼうの眼差しを向けた。


「通は良いよな。奇跡的に魔法を習得できて。で、どんな魔法を覚えたんだ?」

「それは……」


 通は口を開くのに少し躊躇した。日曜午後の空いた時間に自分の職業情報を集めるためダンジョン沼の秘密にアクセスし、職業の統計数を知り己のサマナーがどれだけレアなのか把握したためだった。

 魔法職全体の一握りに過ぎない、五十人にも満たない極少数に当てはまる召喚士の通。

 天音曰あまねいわく「通君の能力はあらゆる場面で活躍できる万能性、融通が利く力があります。おいそれと話せば利用しようとする輩が連日のように自宅訪問することになるので、心許せる人にしか告げてはいけませんよ」と口酸っぱく口止めされていたのだが、口が堅い親友の彼になら別に話しても問題ないだろうと結論を出す。


「誰にも能力のことを絶対に喋らないと約束してくれるなら、最も信頼している鋼だけに習得した魔法のことを話すよ」

「ん? まさか他人には言えないヤバイ魔法なのか?」


 訝しげな視線を投げかける鋼に通は深刻な顔をして黙って首を上下に振る。


「わかった。他ならぬ通の頼みだ。誰にも他言はしないことを約束する」

「ありがとう鋼。そうしてもらえると非常に助かる」

「それで? どういった魔法を習得したんだ?」

「それが……現状、周囲に知られると問題になること請け合いで下手すればちょっとした騒ぎになるんだ…………俺の魔法はスライムを召喚する魔法なんだ」


 通の予想通り、鋼は気になって仕方なかった魔法に目を輝かせて勢いよく飛びついた。


「スライムゥ――!? それで通はスライム達を壁代わりにして目立った外傷なく無傷で生還できたのか! 聞きたいんだが、ここで召喚することは可能なのか? ダンジョン外でも同じ効力を発揮できるのか?」


 立ち止まって通の両肩を力強くつかんで揺らし、矢継ぎ早に質問する鋼。歩道で静止する彼の背中を軽く前に押して、通は止まらないよう注意し歩行を再開する。


「魔力が尽きない限りは効果を落とすことなく魔法の発動は可能だけど、流石に召喚魔法を人目が付く場所で使うのはゴメンだ」

「そりゃ魔法関連が世界に浸透したのは昨日、おとといの出来事だからな」


 同速度で隣を歩く鋼の横顔は無茶なことはさせないと物語っている。それを感じ取った通は安心して鋼の質問に対応した。


「スライムって例のダンジョンで出現するスライムのことだよな」


 大半の民衆は鋼と同じ疑問を抱く。


「実際のところ強いのか? モンスター相手に立ち回るスライムを想像すると逆に返り討ちに遭ってそうなんだが?」


 想定通りの質問。通は余裕ある喋り方で誤解を解くことにした。


「俺のスライムは少しばかり? 特殊でさ。狭い通路など限定した場所なら一体でゴブリン五体を相手取ることができる」


 昨日の夜。召喚士サモナー防護服マジックコートを装備したことによりパワーアップを果たしたトークンスライム達はゴブリン五体をいとも簡単に足止めしていた。

 それ以上の実力を持っているのは検証しなくてもわかりきっている。


「素直に凄いな通のスライムは。スライムの召喚できる数によっては通一人とおるひとりいればダンジョンクリア余裕じゃないのか? 通は今、何体同時に召喚して命令を下せるんだ?」


 通はスライムトークンの最大数を確認した。そこには三十九と表示されている。


「魔力消費なしの召喚が三十九匹。それとプルを合わせて最大召喚数は少なくても四十といったところかな」

「通だけで地形次第ではゴブリン二百体を相手取ることが可能ってことか…………もはや俗に言うチートだな」


 単身で二百体を率いるゴブリンの群れに挑めば人間が勝利を掴むことは限りなくないに等しい。

 動画で拝見するだけでも相手は少なからず人を殺傷できる武器を扱う知能もある。数の暴力で徐々に傷つき継続戦闘能力を損ない、最後には集団で三百六十度から蹂躙される未来は挑む前から想像に難しくない。

 だが、それを乗り越えられる能力を得た通。二人は口角を上げて笑いあいながら話に夢中になっていた。


「それとさ鋼。実はスライムなんだけどさ」

「まだあるのか!?」

「家庭内の仕事をやらせたら、意外なことに一家に一匹欲しいと所持していることが誇らしいくらいには有能で非常に重宝してる」

「!!?」


 鋼は通の話を聞けば聞くほどにスライムに興味を持った。特に言語を完璧に理解する通がプルと命名したスライムに。


「プルが自宅でカレーを作ったんだけどさ。これが旨いんだよ」

「スライムが料理できるのかよ!?」


 嘘だろう!? 食事処の一人息子でもある鋼は過敏に反応し思わず叫んでしまった。周囲にいる通学、通勤中の人達が何事だと一斉にこちらに振り向くが、興味を無くして話のネタに各所で盛り上がっていった。


「すまん。迂闊だった」

「いや、鋼は全然悪くない。常識的に考えてもプルの行動には驚かされることばかりだし」


 召喚した従順なスライムが料理を作る。誰もが知るカレーをだ。鋼がどこでプルは知識を得たのか詳しく聞くと召喚して繋がったことで知識の共有化ができるようになったらしい。

 そこで情報を引き出し料理道具、料理工程を正しく理解したとのことだった。


「あと家庭で有用なのは水魔法で水を出せることと、洗濯機いらずで洗濯ができて洗濯物を折り畳み、きちんとした形で収納してくれて掃除が得意。プルが進んだあとには埃が存在しないし生ゴミやプラスチック、可燃物、貴金属なんかも取り込み吸収して毎週のゴミ捨ての必要性もない。もしプルを競売に出品したら愛くるしい姿も相まってとんでもない金額になりそうだ。もちろん売らないけど」

「まるで家政婦みたいに超がつくほど家庭的なメイドスライムだな…………通の一家に一匹欲しいに合点がいった。ちなみに俺も欲しいぞメイドスライム」

「メイド……」

「メスのスライムなんだろ? オスだったら執事スライムになるな!」


 聞きたいことは山ほどある鋼。ダンジョン話に花を咲かせ気が付けば校門入り口まで来ていた。

 チラチラと視線が飛んでくるがどれもが通を知っている同学年の生徒だ。男子も女子もお構いなく通に熱視線を送ってくる。


「人気者だな~~通」

「やめてくれ。これからのことを考えると胃に穴が開きそうだ」


 深々と溜息を吐いて校庭を進むと、下駄箱付近に一つの集団が目に入った。

学校に通学する日常編に突入しましたが、道中の話が長く端折りたい今日この頃。ダンジョンレベル2に挑戦するのは結構先になりそうです。

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