第32話:交戦の気配
今日は少し遅くなってしまいました。
「下衆が……。だがそんな事されても吐いたりはしない」
「そりゃ素晴らしい決意だよ」
そういって俺は手首に鋼鉄の剣を突き刺す。
ちゃんとした拷問ではなく、ただ痛めつけるだけだが別にこんなものでいいだろう。
正直こっちには情報を教えてもらってもその正否を確かめるすべがない。
こいつがそれを分かっているかどうかは分からないが、命が惜しいなら拷問される前に嘘の自白ぐらいしてみるだろうし、真実もいざとなれば言うはずだ。
にもかかわらずこうして真面目に無言を突き通すということは、まともに拷問しても成果は得られる可能性が低い。
だとすれば、痛みに負けて自白してくれるかもしれないというわずかな望みに賭けてちょっと痛めつけるだけで、話さなかったらすぐに殺してもいい。
女の子を拷問するのはちょっとやってみたいが、男を拷問しても悲鳴がうるさいだけ。
だったら短時間で終わらせてもいいだろう。
俺は手首にぐしゃぐしゃと剣を突き立て続ける。
だがこいつはわめくだけで情報を話そうとはしない。
はぁ、やれやれまったく、何がこいつをそうまでさせるのかねぇ。
「吐く気はないのか……。分かったよ。殺してやる」
俺が呆れるようにそう言った瞬間男はわずかだが笑った気がした。
まあさっさと殺してほしかっただろうな。
足は切断されて全身に傷。
その上手首をぐちゃぐちゃにされてるんだ。
この惨劇を引き起こした張本人である俺がこんなことを言うのは全くおかしな話なのがだ、本当にご愁傷さまだ。
ともかく、本当の目的は拷問じゃない。
もともと、八割方どうせ偽の情報をつかまされるか自白しないかのどちらかだと思っていたんだ。
こいつらを殺した本当の目的は、持ち物をあさること。
懐にこいつらが何者なのかという情報につながる何かを持っていたりする可能性は意外とある。
全くこんな血塗られた死体をあさるのは最悪だが、やるしかない。
「おい、レイラ、お前も手伝ってくれ」
そういって振り返ると……。
やはり彼女は地面にへたり込んでいた。
あー、うん、1人でやるか。
やはり顔に釣られて美少女を選んだのが間違いだった。
とはいえレイラが役に立たなくても今のところ大して支障は出ないので気長にレイラが慣れてくれるのを待つとするしかない。
しばらく嫌々ながら血がついていない彼らの外套の一部に手をくるんで持ち物をあさっていると、3人の持ち物に共通するものがあった。
「なんだ、これは。何かのカードか?」
見てみると、そこには『帝国解放戦線:No.092.第3位階戦士レギン・ガトリン』『帝国解放戦線:No.093.第3位階戦士ミハエル・リーサ』『帝国解放戦線:No.094.第3位階戦士デイル・クローニン』という文字が刻印のようにして刻まれてあるカードがあった。
これは恐らく身分証明書のようなものか。
つまりここから推察できる情報は、こいつらは帝国解放戦士団と言う謎の組織の人間で、No.94まであれうということは最低でもこの組織は94人以上の人間が属していることが分かる。
つまりこんな強敵が100人、いやそれ以上いる可能性が高いということか。
しかし何故こんな連中がこの街を嗅ぎまわっていたんだ?
中に入る気配はなかったし……。
まぁ間違いなく偵察と言ったところか。
なんのために偵察するかと言えば答えは一つしかない。
「近々この街を奪還しに来るつもりか……」
そうなれば俺も戦争の準備をしなくてはな……。
別に苦労して手に入れたわけではないが、こんな事件があった以上、このトリニの街の防備は前より一層堅固になるだろう。
そうなれば次手に入れるのは至難のは技となる。
だが逆にここで勝てば侵略がさらにやりやすくなる。
兵力には限界がある。
この街を奪還しようとする軍勢を全てとはいかずとも粗方薙ぎ払えば再び軍を編成するのは難しい。
人間の場合、DPをとクリエイトゴーレムのスキルを使うだけで兵を作れる俺よりも、兵を集めるのは難しい。
ここで一気に叩ければ……。
新たなる岐路が、俺の前にまた立ちはだかる……!




