第26話:非道なる策
章を追加しました。
遠くの空が赤く染まり始めた。
そろそろ日暮れか。
俺は立ち上がり、洞窟の中に入ると、転移でマスタールームに帰ってくる。
帰ってくると、彼女は壁を触ってみたり観察してみたりしている。
なるほど、なんとかここを抜け出そうとしているのか。
「残念ながらここから抜け出すのはどう頑張っても無理だぞ。どうしても脱出したければ俺を洗脳するぐらいしか手はないな」
「っ!」
俺が声を掛けると、彼女はびくっとしたように振りむいた。
「にしてもまだ飯を食ってないのか……。いい加減食わないとぶっ倒れてそれが続けば餓死だぞ」
「あなたのような最低な人間に屈するぐらいなら死ぬ方がマシです」
口調は違うけど女騎士見たいなこと言ってるな。
さて、そんなことは置いておいてこの子も中々強情だからな。
そろそろ説得していかないとな。
しっかし貴族の女と言うのはこんなにもプライドが高いのか。
それなら多少顔のレベルは落ちても女冒険者ぐらいの方がよかったな。
だがそんなことは言っても仕方がない。
多少は頭が冷えたと信じて……。
「俺が最低ね……。聞いたところによれば貴族の女なんてのは政略結婚の道具らしいじゃないか。そんな人生を強いる父親より俺の方がよっぽどいいと思うぞ。俺は君を奴隷と言う立場にはしたが、それは肩書だけだ。実際は不自由のない生活を約束するっていてるだろう?」
「そんなことは問題ではありません! あなたが人類でありながらダンジョンの味方をしていることに問題があるんです!」
はぁ、それは流石にどうしようもないって。
一体どうしたらいいんだ……。
こんなんじゃ人類を侵略してもらうなんて無理だぞ。
この子が強い恨みでも持っててくれればいいんだが……。
そうだ……恨みがないなら恨みを植え付けてしまえばいいじゃない。
少し無理がある策かもしれないが……。
俺は立ち上がる。
「じゃあ好きにすればいい。だが死んでもいいことなんて無いからな。飯はちゃんと食っておけ」
一言だけ声を掛けると、少し離れてDPで神とボールペンを購入する。
できるだけ丁寧で達筆な字を心掛けて俺は紙にある文章を書き始めた。
幸い字は綺麗で上手い方だと思う。
『私は神。お前たちは貴族の女に呪われたせいで不幸な目に会ってしまった。あの女は邪神の生まれ変わり。あの女を恨み、呪いを跳ね返せ。さすれば呪いは解け、このダンジョンから脱出できるだろう。邪神の暴走を止められなかった詫びとして、しばしの間の食料を与えよう』
俺はこの文章を書き上げると、DPで食料を大量に購入して騎士団たちのいる休憩所に送り付けた。
さて、どうなる?
俺はモニターをつけて、彼女に見られないように騎士団たちのいる休憩所の様子を観察する。
「な、神託だと……!?」
「あり得ねぇ」
「いや、だがこんなことができるのは神ぐらいだろ! 信じるしかねぇよ」
「しかしこの内容……」
「あぁ、俺たちがこんな不幸な目にあったのがレイラ様のせいだったなんてな……」
「様なんてつける必要ねぇよ、あんなクソ女! 貴族だからって女の癖に偉そうにしやがって……」
「そうだな! クソ! 死ね!」
うんうん、あっさり信じてくれたね。
てか彼女レイラって名前なのか。
何気に初めて知ったな。
それはそうとさて、彼女には申し訳ないが少し心を痛めてもらうとするか。
後は俺がこの状況に気が付いてないフリをして彼女にこの休憩所の様子を見せれば……。
俺はモニターを消してレイラに近づく。
レイラは壁の方を向いてずっとボーっとしていたが、俺が近づいてくるのを見たら俺をキッと睨みつけてきた。
「なぁ、俺は飯を食うからこの休憩所の様子監視しててくれ」
「誰があなたのためになることなど……!」
「いいだろ、騎士団がちゃんと生きてる証拠が見れるんだから」
「…………いいでしょう」
大きな沈黙の後、彼女は了承してくれる。
俺はこの策が成功するように祈りながら彼女のもとから離れ、モニターの音声とレイラの声に耳を澄ませる。
そして食事を取り始めた。




