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異世界転生第??回目 「奴隷商人」

バキ、と音がした。自分がこれまで累計何回聞いたか分からない音。この死に方は何回目だろうか。


喉の奥から溢れる鮮血。すぐに吐き出さないと気分が悪くなる。目の前に居るのは虚ろな目をした男、自分を殺した張本人だ。


今回は血飛沫を結構遠くまで飛ばせた、たぶん記録更新。


いや、数回前に殺された時ほどではない。あの時は…どうだったか。数メートル飛んでいたかも?


男がナイフを引き抜く。3秒以内に引き抜けた所を見て、これまでもかなりの数の命を毟って来たのだろう。チンピラに殺された時はナイフを抜くのに苦労していたから。


自分はやれるだけやった。今回はここまで。それだけだ。


次はまた頑張ろう、幸せになって、出来れば生きよう。


何回想い、何回口に出し、何回人に願われたか分からない誓いを胸に。


意識が流転する世界に呑まれるのを感じた。



ーーーーーーーー




「おーい、姉ちゃん、大丈夫かー?」


間抜けな声が頭に響く。どうやらちゃんと゛飛んだ゛ようだ。

目を開くと、大きい双眸と目が合った。その持ち主は淡い金髪で幼いが端整な顔立ちをしており、背丈は地球の女子小学生並と言ったところであろうか。


「なんだー?人の顔じろじろ見てー。聞きたいことは山ほどあるんだけど、とりあえず起きれるかー?」


どうやら語尾が伸びるのはクセらしい。そんなことをぼんやり考えながら、徐々に意識は覚醒していく。




「って私、異世界のロリに膝枕されてるじゃん!!」


衝撃の事実を実感し、文字通り少女の膝から跳ね起きる。少女は少し驚くと同時に、訝しげな顔をして、


「ロリって誰なんだー?ウチはりりぃって名前がちゃんとあるんだぞー?」


と親切に自分の名前を紹介してくれた。かわいい。よく見たら褐色娘である。


「ごめんごめん。では簡潔に自己紹介を。私は絶賛異世界転生で修行の身、勇者シローである!ところでリリィちゃんかわいいね!何歳?8さいくらい??」


「いせかいー?ゆーしゃ?なにいってんだー?」


あどけない顔で子首を傾げるリリィ。その全てがかわいい。色々と異世界を巡ってきたが、これほどまでに将来のが楽しみな少女は久しぶりに見た。


「私はねぇ、リリィちゃん?色んな場所をで色んな探検をして、色んな敵をバッタバッタなぎ倒してきた、スーパーエリート勇者なんだよ!」


「んー?つまりはたびびとさんって事かー?」


旅人か。まあ間違ってはいないだろう。数百回に及ぶ人生の旅人だ、間違いない。


「そうそう、そんなもんだよ、リリィちゃん!で、提案なんだけどこれからお姉さんと遊ばない?色んな遊び教えてあげるよ?さあさあ、どう?」


つい早口になってしまったが、噛んではいないはずだ。たぶん。リリィは一瞬だけ訝しんだ顔をして口を開いた。


「んー、ママから知らない人とは遊んじゃいけないって言われてるんだけどなー」


「もう知り合いじゃん!さあさあ、遊ぼ!これはね、私の故郷ではだいぶメジャーな遊びなんだけど……」


結局、その日の夕方までリリィを愛でながら過ごし、彼女を迎えに来た人の良い両親に挨拶を済ませ、その日の夕飯までご馳走されることになった。


ーーーーーーー


異世界転生してきた数では多分誰にも負けないであろう自称勇者「羽上 代」は、ある程度優先すべきイベントを自分の中で決めている。


そのうち転生して直ぐにやっておけば間違いがない行動は、「ある程度見知った人間を作る」事だった。人と人の縁というものは侮れない。孤高を気取れる力もないか弱い乙女は、まず知人を作ることが重要なのだ。


まあ、今まで数百の異世界を踏破してきた経験のお陰で、ある程度のピンチは切り抜けられる力は身につけたのだが。


リリィの親は見た目はごくごく普通の一般人、村人AとBという印象だった。だが……家業は、街と街を行き来する奴隷商人であった。


「オラ、さっさと歩け!ウチの客人に失礼だろう!」


ドスの聞いた声で奴隷を引っ張るリリィの父。その仕事ぶりはかなり手慣れており、長年の貫禄を感じさせる。聞けば、彼はこの街で中くらいの大きさの3代目の奴隷商会の会長であり、仕事に誇りを持って生きているとのこと。


「お気遣いなく、お父さん。昨日は泊めていただいてありがとうございます!」


「いえいえ、リリィのお友達にこれくらいは当たり前ですよ。良ければ一緒にお昼でもどうです?」


見ず知らずの他人にここまで尽くせる人間も少ないだろう。まさに人間の鑑だ。しかもある程度は裕福な家らしく、こういう人間と繋がりを持てたのはまさに僥倖である。積極的に利用しなければ。


「いえいえ、実はわたし持ち合わせが無くて…ここらで手に職を付けておきたいので、今日仕事を探すことにします!できれば、今日の夜も泊めていただいていいですか?もちろん、何とかして家賃は払いますので!」


「ああ、なるほど、分かりました。仕事探し頑張ってくださいね。あと、家賃なんてもんはいりませんよ。自分はそこまでケチケチした人間じゃありませんから。」


「シロー、面白いもん!ずっといていーよー!」


荷台から顔を出したリリィがニッコリ微笑む。天使のような笑顔でありがたい提案をしてくれるが、さすがに無職のまま他人の家でゴロゴロする勇気はない。


「リリィちゃん、ありがとねー。でも私もさすがにそれは罪悪感があるかな…早く仕事をみつけなきゃね。じゃ、行ってきます。ご飯、ご馳走様でした!もしかしたら夜、また寄らせて頂きますね!」


リリィと父親に背を向け、街へ歩き出そうとした。すると、「待ってください、シローさん!」と呼び止められる。


「あの…、お願いがあります。実はウチの奴隷管理人の1人が結婚するもんで、長期の休みを取っておるんです。前から人を雇おうとは思っていたのですが、シローさん、ウチで働きませんか?」


「…」


なんという僥倖、なんという幸運だろう。今までの世界ではそこまで運がよく無かったはずだが、今回の自分はかなりツイてる気がする。


こうして、異世界転生者シロは、開始二日目にして奴隷管理人という職を手に入れたのであった。



ーーーーーーー



「よし、今日の依頼はこれでおしまいだな」


今しがた討伐依頼の出されていたモンスターの首から剣を引き抜いた男は、爽やかな笑みを浮かべ自身のパーティメンバーに向きなおる。


この世界に異世界転生してから、彼は神様によって与えられたチート能力と突如開花したコミュニケーション能力により、数多もの冒険を乗り越え魔王を討伐し、現実世界での夢であったハーレムを作り出していた。


「お疲れ様ー、とーご!今日もカッコイイよ!」「ああ、流石は最強の勇者だ。«北の勇者 トウゴ»の異名は伊達じゃあないな。妻として鼻が高いよ」「ふん、妾の伴侶なら当然じゃ。ほれ、回復魔法を掛けてやったぞ、今なら妾をなでなでする権利を与えてやるのじゃが…」「とーご……すきぃ…」


一夫多妻制が認められているこの世界でも、4人も妻がいるのは珍しい方だろう。これだけ相手にするのは大変だ。色々な意味で。


……と、ここまでは順風満帆の異世界チートを謳歌する青年なのだが、この勇者、本名「最強崎 灯宕」には一つの隠された重大な秘密がある。それは…


なんと、異世界転生する前は引きこもりのニートオタクだったのだ。


毎日やることといえばインターネットでのレスバトル、ソーシャルゲームにのめり込んだり、寝たりするだけ。しかも顔面も中の下くらいで、教養も無いダメ人間だった。だがしかし、彼はある日家に車が突っ込み死んでしまう。その運転手が神様の子孫であったので、神様が責任を取ってチート能力と共に異世界に送り込んでくれたのである。


しかも、これだけで驚いてはいけない。更に彼は元々全ての属性の魔法、剣術、格闘などの才能を持っていた。これは、異世界に来ないと絶対に気づけない秘められた才能である。


いや、中学生の時に自分の好きなライトノベルを馬鹿にされ、頭に血が上り気が付けばクラスメイト全員を病院送りにしていた事もあるのでもともと格闘のセンスはあったのかもしれない。それで引きこもりになったのだが。


ただまあ今の幸せは異世界転生によるものである。異世界転生万歳。異世界最高。


「お疲れ様です、師匠」「とーご様ー!こっち向いてー!」「勇者様、お勤めご苦労様でございます」


おだやかな表情で手を振るトウゴ。魔王の魔の手から世界を救ったとなれば、当然民衆からも愛されるようになる。しかもどんな依頼も簡単にこなしてしまうので、彼の住む街では犯罪率が軒並み低下していた。必然的に、魔物の残党狩りくらいしかやることが無くなるのである。


しかも、彼の妻の1人であるアイリ・ユリーカ・ここから先はトウゴは忘れている は王族の一員であるため、彼が次の国王になるであろうことはほぼ確定している。



「勇者トウゴよ、貴殿の活躍は目覚しいな。まるで昔の私を見ているようじゃ。」


トウゴは国王に誘われ、食事をしていた。目の前で笑うのは、ハーフエルフの女性という立場でありながら国王まで上り詰めた凄腕の勇者でもある。


人払いをされているので、重要な話であるのだろうか。


「ありがとうございます、国王。しかし、私はまだ自分は未熟者だと考えております。これからも、もっともっと精進していく所存であります」


「そんなに畏まらなくてもよい。私と貴公との間柄ではないか。…さて、では話の本題に入ろう」


少し真剣な表情を作りだした国王は、真っ直ぐにトウゴを見据え、ゆったりと話し始める。


「最近、我が国はほとんど犯罪が無くなり、貴殿を中心に生活も発展してきておる。これからの未来は明るいであろう。これも全て、貴殿のおかげじゃ」


「勿体ないお言葉でございます。国王。しかし、私も依頼が少ないことには危機感を覚えております。この先、私は何かやることがあるのでしょうか。」


チートすぎてニートになるのだけは避けたいトウゴは、小さなイザコザや少しの魔物討伐でもすぐに駆けつけ解決してきた。その結果、仕事が急速に減りつつあるのだ。


「そこでなんじゃが……。これからは、南、西、東の国も傘下に加え、我が国をさらに発展させようと思うのじゃ。既に貴殿の実力を認めた西の国王から、領土譲渡を打診されておる。」


「なるほど、自身の国が大きくなれば、次にやることは他国の侵略という訳ですね」


自分もここまで来たか、という達成感とともに、自分に務まるのだろうかというわずかな不安が胸によぎった。


「そうじゃ。貴殿を西の国に派遣し、そこでも多くの手柄を立ててきてほしい。これで我が国も、さらにさらに発展するぞ!くはははは!」


城に大きな声が響くのを感じながら、トウゴはこれからの生活に思いを馳せるのであった。自分が止まらない限り、きっとこれからも楽しい生活は続くのであろう。自分に辿り着く場所など不要だ。この異世界で、死ぬまで充実した生活を続けよう。


正真正銘の勇者トウゴは、固く胸に誓ったのであった。

前回書いたやつは宣言通り消してしまいました。

こちらは続きを書くモチベーションを上げられるように頑張ります!

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