防音ルームで
「バンド・・・か」
僕は家に帰ってからずっと考えていた。
「楽しそうだけど・・・やっぱりお金がね・・・」
僕の一番の不安はやはりそこである。
少し悩んでいると、スマートフォンのバイブレーションが鳴る。
ワタルが僕をLINEグループに招待したのだ。
「ワタル、まだ僕は覚悟が・・・」
僕がグループのチャットにそう打つと、そのグループのもう一人のメンバーであるルミから返信があった。
「1回だけマコト君の割り勘のライブ費用ワタルが出すってさ。どうしても君みたいな人材が必要だって言ってるよ」
そこまで僕の歌に価値があるのだろうか?そもそも素人だ。
「恩を着せる訳じゃない、ただ一度バンドをやってみてほしいだけだ」
ワタルはそう告げると、次はルミが画像を送ってきた。
そこには「RED EYE」と書かれたロゴが写っていた。
「これ私が書いたんだ、ワタルが前に組んでたバンドのロゴだよ」
そのロゴは脳裏に焼き付きやすい本格的なデザインだった。
「そして、俺たちのライブ衣装は全てルミの手作りだった。ルミはマネージャーだったからな」
ワタルがそう告げると、ルミは笑顔のスタンプを送ってくる。
「そうだ、みんな明日暇?ワタルと私は休みだからさ、もしマコトくんの都合が良ければうちで軽く演奏していかない?防音だからさ」
ルミはさらっと凄い発言をする。自宅が防音ってど金持ちなのだろうか。
僕がOKの返事をするとワタルが「決まりだな」とチャットを送ってくる。そして、ワタルのバンドの演奏動画を送ってきた。
「この曲を覚えられるだけでいいから覚えてこい。明日はこれをやる」
その曲はライブでも聴いた曲だったのであっさり覚えられた。
そして翌日。
僕がルミから送られてきた位置情報の場所に行くと、和風の豪邸に辿り着いた。
「大きい・・・」
「ルミの親は一流企業の社長だからな」
突然後ろから言葉が返ってくる、ワタルも今到着した様だ。
そしてワタルはインターホンを鳴らす。
「どうも、ワタルwithマコトです」
突っ込み所万歳な説明で紹介される僕。
すると戸が開き、ルミが出てくる。
「マコトくんほんとに来てくれたんだ!さ、上がって上がって!」
僕とワタルが「お邪魔します」と呟いて上がると、2階の一室に案内された。
「ここが防音ルーム、今日はここで練習するよ」
防音ルームの中には数台のアンプ、マイク、ギター、ベース、電子ドラムと一式演奏機材が揃っていた。
「これ全部ルミさんが買ったんですか?」
僕が失礼を承知で質問すると、ルミは答えた。
「まさかぁ~。ベース以外はお父さんが昔バンドを組んでた頃に集めたものだよ」
なるほど、それにしても凄い揃いっぷりである。
「じゃ、いっちょやりますか」
ルミがそう告げると、ルミはベースアンプを、ワタルはギターアンプを弄る。
「ああごめんごめん、ボーカルアンプの調整は後で私がやるから適当にくつろいでて」
そうは言われてもくつろぐどころか緊張する。
「よーし、マコトくんマイクに声出してみて」
僕が「あーあー」と言うとルミは音量の調整を完了させる。
「バッチリだな」
ワタルはギターのアンプとエフェクターの調節が終わったらしい。なんか申し訳なくなった。
そして演奏が始まる。ルーム内でカラオケ音源を流しながら全員でなぞるだけだが、CDよりも各楽器の音がしっかり聞こえた気がした。
演奏が終わる。
「すごいよマコトくん!音程正確だし歌詞も飛んでない、才能の塊だよ!」
ルミが僕をべた褒めし、ワタルは「俺の目に狂いはなかったな」と得意げになる。
「どう?バンドやってみない?」
僕は知ってしまった。演奏する心地よさを。答えは――。
「僕、バンドに加入するよ」