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第二十話 大規模移送作戦

 セトルエットの甲板からは、周囲に展開するすべての部隊を見渡すことができた。出撃を待つ護衛艦。せわしなく動き回る軍事車両と、各機関に所属する人々。

 改めてみると、今作戦がどれほど大規模なものなのかを痛感させられる。

「小隊長! 紗代様!」

 甲板で戦闘機の移動を行う空軍の兵士の邪魔にならないよう、慎重に移動していると聞き覚えのある声に呼び止められた。

「リオレさん!」

「お久しぶりです! ブリッジへ集合してくださいだそうですー!」

 自分たちの上、艦橋の中段からこちらを見下ろしていたリオレは、紗代の返事に笑顔で手を振り返すと大声で指示を伝えてくれた。

 ほかの小隊員たちはすでに艦内に待機中らしいので、そちらとは今しばらく別行動という形になるらしい。

俺たちはリオレの分隊と合流後さっそく指定されたブリッジへ移動を開始した。

「なんだ。艦長も一緒ならそういってくださいよ」

 俺たちと合流したリオレは、艦長も同行していると知ると恥ずかしそうに頬をかく。悪かったとは思うが、俺たちもまさかあんなところでカステレードと出会うなどとは思っていなかったのだし、しょうがないと割り切るしかない。

「はは、悪いことをしたな。どうしても彼らを近くで見たくてね」

 カステレードはというと、意気消沈してしまったリオレへ楽しそうに笑いかけている。どうやらこの人は俺の想像よりも自由人らしい。発艦前の空母で指揮をとるはずの人間があんな所にいたのは偶然ではなかったようだ。

「よーし、ついた」

 そんなこんなで俺たちは、目的地である船を操る重要な空間。ブリッジへとやってきた。

 ブリッジ内にはすでに何人もの空軍の関係者が右往左往しており、こちらに気づくと切れのある敬礼を向けてきた。

「エルネスト小隊の方々ですね。飛行士官長を務めております。クレリー中尉であります」

「エルネスト小隊、小隊長のエルネストだ」

 そんな中、俺たちに話しかけてきたのは黒縁メガネが特徴的な若い兵士だ。こちらに気づき一瞬顔を上げるが、すぐにブリッジ内に設けられたデスクに向かい、なにやら熱心に筆を走らせている。その様子から彼の仕事を何となく察すと子ができる。レーダーなどの計器や各図の管理などを担当する立ち位置。一般的な船では航海士にあたる人物だ。

 まあ、この艦は海上を航行するのではなく、空を飛行するので航海士というよりかは飛行士のほうが正しいのだが。彼の自己紹介でも飛行士官と名乗っていたし、間違いではないだろう。


「ではそろいましたので、今後の作戦について簡潔に説明します。これを見てください」

 艦長含め、メンバーが揃ったのを確認したクレリーから差し出されたのは、この世界の世界地図だ。その地図には赤い線が引いてある。

「この線が今回予定される飛行進路になります」

 なるほど、赤い線の上に沿って移動するわけか。

 しかし、この線、妙にぐにゃぐにゃと曲がりくねっている。ただまっすぐ進めばいいというわけではないのだろうか。地図をよく見れば、どうやら中規模の林や森を避けるように線が引かれているようだ。

「あの、森などを避けているのには何か理由があるのですか?」

「そうか、君は魔導兵器の仕様についてはまだ聞いていないのか」

 俺の些細な問いにカステレードは納得したようにうなずくと説明してくれた。


 この世界には「魔法」と「魔法エネルギー」という概念が存在する。魔法という概念自体は地球に住んでいた俺にも何となく想像がつく。

 現在若い世代を中心に人気があり、数多の作品が発表されているアニメやゲームの影響だ。この世界で魔法使いたちが使用する魔法も、基本的なイメージはアニメなどのキャラクターが使う魔法と酷使している。

 要するに魔法エネルギーを使い、人間が人外の力を振るう。この世界ではその一連の現象を総称し「魔法」と名づけている。

 そんな夢の力である魔法だが、誰でも扱えるわけではなく、適正不適正があり軍などの実力組織に所属する際には、魔法に対する適性検査を受けることが義務付けられている。ちなみに俺は適正度ゼロなので魔法は使えない。……はあ。


 魔法エネルギーはその名の通り、「魔法のエネルギー」であり、この世界で魔法が使える要因でもあるエネルギーだ。

 ゲームやらで「MP:マジックポイント」と呼ばれているあれだ。

 そんな魔法エネルギーだが、一概に魔法を発動するためのエネルギーというわけではない。一例として、この世界では魔法エネルギーの影響で地球よりも高い運動能力を獲得することができる。

 この世界に存在する生物、例えば人間やモンスター、環境生物などは、様々な要因で魔法エネルギーによる能力向上の恩恵を得られている。その影響を色濃く受けている代表種として挙げられるのは植物だ。この世界の植物は魔法エネルギーを自身の栄養とするように進化しており、日の光以外の大部分を魔法エネルギーで賄っている。


 先ほどの、適正不適正の話と矛盾して聞こえるが、魔法という概念が使えるかはその人物の潜在能力であり、言い換えれば内部的要因といえる。特定の要因から一時的に受けられる能力向上作用である外部的要因とは別物だ。


 外部的要因による身体能力向上の一番わかりやすい例は令器による能力アップだろう。

 令器を所有する人間は、令器のレベルに合わせ、体力や瞬発力等の上昇効果がえられる。数メートルクラスのジャンプだったり、高速の斬撃を繰り出せたりなど、映画の主人公になったように自由自在に動き回ることができるようになる。

 最もこの要因が通用するのは人間だけなので、モンスターなどがどうやって魔法エネルギーを取り込んでいるのかは研究中だとか。


 では魔導兵器とは何かといえば、魔法エネルギーを動力源とした兵器のことを言う。

 例えば今俺たちが乗っている空母。仕掛けはいたってシンプルで、魔法エネルギーを凝縮し、膨大な凝縮エネルギーを使い「疑似魔法」という形で効力を発動させ、巨大な空母を浮かせて飛行させているという仕掛けだ。このほかにも魔導の銃になれば、質量をもつほど圧縮したエネルギーを高速で射出することで相手に致死量のダメージを負わせ、装甲車などの車両においては、地球でいうガソリンの役割を果たす。


 そんな魔法エネルギーの供給方法だが、それを説明するためにはもう少し魔法エネルギーについて学ぶ必要がある。

 そもそも、魔法エネルギー自体を作り出しているのはこの星のコアだ。何ともぴんと来ない話だが、ここはそういうものだということにしておいてほしい。

 とにかく、この星自体が魔法エネルギーを作り、地上に放出している。この原理は地球でのマグマに例えるとわかりやすい。地中深くで生成され、ある条件下で火山噴火として地上に噴出してくるというイメージだ。


 その空中に放出された魔法エネルギーを専用の機械で吸収し凝縮する。もちろん、何十トンもの質量のある艦を浮遊させるわけなので、その吸収量は戦車等とは比べ物にならないほど膨大になる。

 莫大な量の魔法エネルギーを凝縮すると、まるで液体のような魔法エネルギーの塊ができるため、それを使用し、物体浮遊の術式を発動させ艦を浮かしコンピュータで魔法燃料の制御を行い艦をコントロールする。


 そこに、森を回避しなければならない要因がある。地上へ放出される際、その放出量にはばらつきが生まれる。

 極端に少ない場所もあれば多い場所もある。その偏りは森林を作り出す要因になっている。

 植物は魔法エネルギーを糧としているわけだが、森のように植物種が異常に発達しているところは、当然ながら魔法エネルギーの放出量は格段に多いことになる。その数値は他所の数倍なんてものではない。

 さらにだ。植物自体が結構な量の魔法エネルギーを放出する。

 では、その膨大な魔法エネルギーはどうなるのかというと、霧状に拡散し、森林の上空を漂っている。これは植物種が行う蒸散という行為が原因で、根から取り込んだエネルギーを蒸気にして葉から酸素とともに放出する。このため森林の魔法エネルギーは霧状になる。さらに厄介なことに、これは空気よりも比較的軽く森林の上空に固まっている。


 これが問題なのだ。この艦隊の主力エネルギーは魔法エネルギーだ。その艦隊が超高濃度の霧状魔法エネルギーへ突っ込んだら……。

「なるほど、魔導の兵器は一発でお陀仏というわけですか」

 俺の答えにカステレードは満足そうに口角を上げる。


 EMPという言葉がある。日本語表記で電磁パルスと呼称されるそれは、スマホなどの機器や半導体、電子回路に損傷を与えて電子機器を麻痺させることができるもので、核爆発などによって引き起こされる非常に強力な電磁波の一種だ。

 電子機器は電気を使用しているため、電磁パルスのような強力な電磁波を浴びると動かなくなったり壊れてしまう。

 これと同じことが起こってしまうのだ。魔法エネルギーで動いている艦隊が高濃度の魔法エネルギーにさらされた場合、魔導兵器である艦隊は高確率で盛大にぶっ壊れる。

 正規の吸収口からではなく艦全体が高濃度の霧に包まれ、あらゆる個所から魔法エネルギーの影響を受けるため計器や圧縮されたエネルギーを突っつきまわすには最高の環境だ。

 過剰な魔法エネルギーは、均衡のとれた魔導兵器のバランスを崩し、暴走または破壊させるにはもってこいの要因なのだ。

「そういったことがあって、森林を回避するような飛行ルートになっているわけさ」

「そういうわけです。時間が押していますので次へ行かせていただきます。次に……」

 クレリーはカステレードの説明が終わったのを確認し、多少早口に報告を再開する。本格的な魔法の講義に時間をくってしまったらしい。

 だが、役に立つ知識だ。また一つこの世界の仕組みを学ぶことができた。

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