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第十七話 護衛官として

※1魔力分布による索敵 この世界では各人間が魔力を保持しており、その値は能力値と比例し上昇したり低下したりする。よって各機関は魔力量を測定する機器を導入し、魔力量が多い地点を割り出す。魔力量が多い場所には高級階級者が複数人配置されていたり、大規模な人数が配置されていたりするため、対象の重要性の高い範囲を魔力量で割り出すことができる。

フィルバート王国 防衛省 第二会議室


「しかし本当に見たんですか? その、運命とかいう夢」

 若い小隊員のまぶしいほど輝く視線を受け、俺は何と答えるべきかと視線をさまよわせる。

 エルミートの仕事部屋を後にした小隊の面々は、小隊のために開放してもらった防衛省内にある会議室で思い思いの時間を過ごしていた。あるものは作戦計画書へ視線を落とし、またある者は寝不足なのか机に突っ伏している。いわゆる自由時間だ。

 そんな自由時間だが、俺の周りには小隊員たちが集まり、興味津々な視線をこちらに向けていた。


 小隊員たちの前でオリジナルスキルについて語ったのは今回が初めてだ。もちろん概要は話していたのだが、俺の「運命を見る能力」は相当レア……というか俺が初めてのものらしく関心が集まるのも仕方がない。

 そもそも未来を見る能力などこの世界での実例はたった一件のみだし、長きにわたる歴史の中で見ても、俺の能力がどれだけ貴重なのかがわかる。


 そういえば、以前紗代が予言がどうとか言ってたっけな。

 あれこそ未来を見るたった一件の実例。現王妃の持つ「先見」の能力だ。この国の王妃がなぜそのような能力を持っているのかは知らないが、先見で目撃した未来がこの国で予言として扱われているのを見るに、王妃の能力も俺と同様正確かつ重要なものなのだろう。

 もっとも、俺のように都合よく死が訪れようとしている時に見れるというものではないらしいく能力発動の条件はランダムらしいのだが。


「清水さん? 大丈夫ですか?」

「あっ? ああ、ええっとなんでしたっけ?」

「清水さんの能力についてですよ! 本当に大丈夫なんですか? 将軍の部屋を後にしてからずっとそんな感じですよ?」

 俺のあいまいな回答を受け、若い小隊員は頬を膨らませた。確かに、少しボーっとしてしまっている自覚はある。やり切った感というか、緊張から解放されたようなどっかりとした疲労が俺にのしかかっていた。

 それに一つ厄介な問題もあるし、正直なところそっとしておいてほしいのだがそううまくはいかないらしい。

「しっかし、紗代様一人にこれだけの人員を惜しみなく投入するとは。よく上層部が首を縦に振りましたねー」

 そんな俺の様子に気づいたのだろう。助け舟を出してくれたのはエルネストと一緒に作戦計画書に視線を落としていた小隊員だ。

 たしかリオレという名だったか。エルネスト小隊内の分隊長をしている男だ。少し前にもリオレの話題になったっけ……。エルネストからは、気が利く万能人などと呼ばれているのも納得だ。

 リオレの発言を受け、俺の周りに集まっていた小隊員たちの関心がリオレ達に向いてくれたようだ。


「ただでさえ国防費は増え続けてるってのに、財務は今回の作戦内容に白目向いてそうだ」

 小隊員の皮肉交じりの軽口に笑いが起きる。金の事情はたとえ異世界であろうと地球とそれほど変わらないらしい。

 軍備の増強に加え、この世界では天使の憐憫(新たな脅威)に対する防衛費もかさんでいるようで、すでに財務省からは国防費削減を要望する声が上がっているらしい。

 フィルバート王国の防衛関係費の推移は上昇する一方。その中でも、最近の財政で特に金を食っているのは兵器の購入費用となっている。性能が高くなれば兵器は自然と高くなる。初度費等の精査と、各兵器関連の貿易会社や国家間との交渉が今後の大きな課題だ。

 そんな中での今回の大規模作戦だ。最新の兵器や高級階級者の大胆な活用は国防費を吸い上げるにはもってこいというわけだ。


 まあ、別に軍人が予算となる大金を払うわけではないし、我々がこれ以上ああだこうだといい合うのも時間の無駄だ。

 エルネスト達は既に別の話題へ切り替えているようなのでそちらに意識を向けることにしよう。

「そういえば、魔導部隊についてさっき職員が資料持ってきてましたけど、何か記載は?」

「いや、まだ何も。あくまでも魔導部隊導入の通知書ってところだろうな」

 リオレの問いに答えたエルネストは、先ほど受け取ったらしい紙きれをもてあそびながら銀縁メガネに手をかける。

「しかし、清水の運命の内容からして、魔導部隊を導入するとなると戦況はこちらが優勢になるだろうな」

 エルネストは俺へ視線を向けると眼鏡を押し上げる。サイズがあっていないのか、彼はいつも眼鏡をいじっているような気がするな。

「たしかに、エルミート君のナイス判断! だね」

 いつの間にやらエルネストとリオレの間に割り込んだヴェルフィアはご満悦だ。


 確かに、戦況はこちらがかなり優勢になった。……夢の通りにいけばの話だが。

 ヴェルフィアと初めて行動を共にした紗代救出作戦の時に警告された。道中で俺が何かしてしまった場合や、何かとんでもないダブーを犯してしまった場合、「死は訪れるが夢とは違うシチュエーションでおとずれる」という結果になると。

 紗代の移送作戦が中止になったわけではないので、夢と全く違う状況となる可能性は確かに低いが、夢で見た敵の奇襲を見るに、魔導部隊の情報も漏れている可能性が高い。

 敵の的確な部分攻撃。夢での展開規模は一個旅団。今回配布された資料を見るに、紗代をどこに配置するかはきちんと考えられていたし、魔力分布(※1)も各小隊で統一されていて、さらに数か所にダミーまで設けられていたにもかかわらず敵は的確に俺たちを狙い、攻撃を仕掛けてきたのだ。

 あの手際の良さだ。俺が死んだ後、前後の護衛が合流するより早く目標を達成していただろう。

 アルドゥアンが言っていた通り情報が洩れているという説は非常に濃厚。今回の魔道部隊導入がもし敵に知られ、相手が作戦を変えた場合、さらに対処が難しくなることは目に見えている。


 次に訪れるのは、やり直しなど効かない現実だ。

 わかっていてもむやみに手を加えられない現実は歯がゆいもので、俺の不安をあおるにはもってこいだ。紗代の身を守るための手立てが彼女の死を早めているかもしれない。

 全く、なんて残酷な現実なんだ。

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