序章
時間ができたので暇つぶしに書こうと思いました。
大宮隼人は激しい悪寒の中で目を覚ます。極度の精神疲労と流行り風邪で彼は熱病にうなされ続ける日々を送っていた。
瞼は重いが、妙に意識ははっきりしていた。昨夜服用した抗生剤のおかげだ。ゆっくりとした動作で右腕を伸ばし、小さな時計をつかみ、そのちいさな文字盤に目を凝らしてみる。
10時半を少し過ぎていたが、大宮はずいぶん早起きしたものだと少し残念に思った。兄が見舞いに来るのは昼過ぎだからまたしばらく待たなくてはならない。
大宮は布団をかぶり、もう一度夢の中に戻ろうとしたが、一瞬で布団をはねのけ、体を起こして、じっと穴が開くように安い下宿のシミだらけの壁を見つめた。
1分も経たぬうちに、彼の思考は、壁のシミによって完全に帰ってきた。文芸誌に投稿するための原稿を、今日中に書いて送らなくてはならなかった。半分以上は出来上がっていたが、内容が薄っぺらで、本人が一番よくわかっていた。
「こんなアザラシのような格好でいつまでも寝ている場合ではない。」
そうして彼は机上に乱雑に散りばめられた原稿を一瞥する。
「こんなことをしている場合ではないのだ。大学を辞めて作家になるための勉強をしてきて、ようやく細々とだが収入が入ってくるようになったのに・・。」
大宮はのっそりと布団から這い出し、財布を見つけた。牛革の上等な、すっかり軽くなった財布をズボンポケットにねじ込み、衣装棚の外套にくるまって、新鮮な空気を求め、彼は部屋から出て行った。
すぺしゃるさんくす!