兄王の追憶 《ディジェム視点》
ブクマ100越え!ありがとうございます(*^^*)
評価感謝しておりますm(_ _)m
*ディジェムの若かりし頃の話しです。
ディルムンの母セレスティアルも出て来ます。
王宮に退屈し、ディジェムは、父に付いて別荘へ出かけた。
父と二人など、滅多にある事ではなく、ディジェムは密かに楽しみにしていた。
父子で触れ合う事が少なく、この機会に、父と遠乗りに行ったりしてみたい、剣を手合わせしてみたい、などと胸に秘めていたディジェムだった。
だが、父は息苦しい王宮を離れ、王妃の監視の無いここで、色々息抜きをするらしい。
早々に父から離され、退屈な王宮と変らなくなった。
八つ当たりに側近に無理難題を押し付け、メイド達に当たり散らすも、飽きたディジェムは外へ出た。
庭がフラついていると、一人の女性が花を摘んでいた。
八つ当たりに丁度よい、とほくそ笑んだディジェムは、女に近づいた。
「ここで何をしている」
「はい、花を摘んでおります」
陛下の部屋に飾る花を摘んでいるのだ、と言う女に慇懃無礼に話しをする。
「名は何と言う」
「セレスティアル・ヴォルテールと申します。父は子爵の地位を頂き、領主を務めております」
淑女の礼を完璧にこなし、挨拶をする彼女にディジェムは目を奪われた。
王宮に群がる女達と違う。
単純に、そう思えた。
意志の強いその瞳。
母とは違う、力強い光りを持ったその瞳に吸い込まれる様に見惚れたのだ。
揺るがない姿勢に飲み込まれそうになったディジェムは、慌てて自身を取り繕い、セレスティアルを見下した物言いをする。
「辺境では陛下の寵を競うくらいしかやる事が無いみたいだな」
「国に仕えてる以上、陛下を第一にするのは当然で御座います。部を弁え、相応に仕えるのみで御座います」
表情も変えず、にべもなく躱され、逆にディジェムがたじろぐ程の瞳の強さも変らない。
ディジェムは折を見てセレスティアルに絡む。
暇潰しに揶揄う為に。
自分に媚びない、敬意を払わないセレスティアルに腹立ちまぎれの八つ当たりなのだが。
自分の相手をしろ、と言っても、
私は陛下から呼ばれた者。王子の意見は聞けません。
と、愛想笑いすらなく断わる。
茶会に呼んでも、
陛下を通して申し上げて下さい、と頑なに受けない。
セレスティアルは、見かけからは、ディジェムと同い年の17歳に見えない程、しおらしい可愛い娘だ。
だから、揶揄い、暇つぶしに遊ぶつもりが、話し掛けたら、反抗するは、振り回されるは、勝手が違う。
気が付けば、いつの間にか惹かれていた。
だが。
そう。
何故この別荘に居るか。
王の側室候補の一人だから。
小柄で柔らかに弧を描く眉に、大きな青い瞳、通った鼻筋に、小さな紅い唇。薄い灰水色の髪は、サラサラと癖が無く、絹の様な柔らかさを感じる。
何より、真っ直ぐな意志を伝える瞳は、捉えられたら離せない。
「陛下の寵より、俺にしろよ」
父に手を出される前なら、と淡い期待をして声を掛ける。だが、セレスティアルは何時もと同じく。
「今の貴方には惚れないわ。意志も覚悟もない意気地なし。自分の意志を持ちなさい。出された知識だけじゃなく、何が真実か見分けられる大人に、ね」
辛辣を言葉に出す彼女に、思わずセレスティアルの肩を掴めば、セレスティアルは顔色を変えず、その瞳を強めディジェムを射抜く。
「甘やかされてるだけの人形王子じゃない」
「陛下の側室候補だからって生意気言うな!不敬罪だぞ!」
「私は王からの要請。王子と言えど好きに出来ないわよ!」
ぐっと息を詰めたディジェムにセレスティアルは追い討ちをかけた。
「母親に左右される貴方には見損なうわ。私は国を背負った陛下に仕える。貴方は?」
その質問に答えを持たないディジェムは黙るしかなかった。
王都周辺に住む貴族と違い、セレスティアルは貴族だが、家は名ばかりになり、立場も微妙になった。
セレスティアルを側室にあげ、陛下の庇護を受ける為にここにいる。
身を呈して家を守る矜持を持つセレスティアルが、フラフラして王妃の威光を嵩に着るだけのディジェムを軟弱者としか見れないのは当然だ。
家名の進退が、肩に掛かっているセレスティアルが、ディジェムに現実を突き付け、厳しい事を言うのを、黙って聞くしかないディジェム。
レイニアンから嫁いだ母の、気性の強い所に父も辟易している。側室はもちろん何人か居るが、父が側室へ渡ると、その側室は王妃から嫌がらせを受ける。
直接ではないから、王妃だと断定出来ない巧妙な嫌がらせ。
別荘で息抜きする父を自分は責める立場に無い。
翌日、王はセレスティアルを側室にあげた。
セレスティアルから手痛いことを言われ、ある意味失恋となったディジェム。
初めての恋だった事すら気がつかないほど、擦れた気性も、失恋して荒れるが、セレスティアルの言葉を思い返し、心のなかで諭され、母のの呪縛から解放された。
側室となったセレスティアルへは、陰ながら見守る事しか出来なかった。
セレスティアルは側室に上がって、翌年に男子を産んだ。
セレスティアルの髪色と父と同じ瞳を持った、ディルムンと名付けられた赤子を、彼女は愛おしそうに見つめていた。ディジェムは胸の痛みに気が付かない振りをして閉じ込めた。
新しく産まれた、王位継承者に母は気を揉んだのだろう。
母の嫉妬から、毒に倒れ伏すセレスティアル。
ただ、見守るだけしか出来なかった自分。
見守るだけでは、傍観と同じだと、蒼白となった。
それからは、自分の母に対し葛藤する毎日だった。
親を、母を、いつか………と。
せめて、セレスティアルの息子だけでも護りたい、と。ディジェムは自分の出来る事を模索し、母を欺き、騙し、いつか来るその日を迎えるまで、長く自分を偽る事となった。
まるで、ある日の贖罪を贖うかの様に……。
ご読了ありがとうございました。




