8.5 ニャンコと治療と幼馴染と《ディルムン視点》
ディルムンの身バレの関係で本編に挟めなかった話しです。
今日は午後から用事があり街に出る。
6番隊と言う特性の為、外部と連絡を取りに時折街などに赴かなければならない。
不在時はリラは隊長室には居られない為休みになる。
リラは休み街に行った際は必ずクレープを買っているのを知っている。
今日も街に出てクレープを食べいるのだろう。
俺はクレープ屋の近くから帰るか、と道を進んだ。
微かに聞こえる鉄を撃ち合う金属音。
外れた道に、遠目から見えたのは剣構える者達。
急ぎ駆けつけ近づけば刃に晒されるリラの姿。
リラは動かないのか動け無いのか。
剣を抜き全力で俺は駆け寄った。
「リラ!!」
俺は短剣を持つ男の刃を防ぎリラを叱咤した。
「顔を上げろ!前を見ろ!」
見ろ!動け!
動かなければ、死、なのだと。
新たな男が現れリラを襲う。
目の前の男を突き飛ばし剣を防ぐが、短剣の男が再びリラを狙う。
防いだ剣を突き飛ばし叩き伏せ短剣からリラを庇うが短剣が腕を掠った。
油断したわけではないが自分の鍛錬の未熟を感じた。
だが切られた所の異変に気がついた。
急いで俺は傷の上をキツく縛りリラと騎士団に戻るとリラを医務室に行かせた。
俺は熱を持ち始めた全身を感じ医師に説明した。
俺も毒の耐性はあるがこの毒は強そうだと珍しく気弱になる。薬を飲み毒の激痛に苛まれ眠りに落ちた。
また、俺は目を覚ませるのか……と
幼い頃の記憶が蘇る。
毒を含み倒れた母。
幾度も毒を仕込まれた食事………
…………俺は
薄れゆく意識の中で思い出すのは…………
*
俺は無事毒を乗り越え空を眺めた。
だが知らしめられた真実。
ーー貴方は何を掴み毒に溺れずに済みましたか?ーー
俺の手で…………………………。
俺がリラを掴み骨を折った。
付き添い看病していたリラ。
俺はそれに縋り掴んだ……。
踵を返し向かう先は王宮。
私用で向かうなど今まで無かった。
俺は宮廷魔術師団の本館へ向かう。
「宮廷魔術師の治療術師カール・アトモス師団長に面会を願いたい」
守衛に騎士団6番隊隊長ディルムン・ヴォルテールだと伝えるも騎士団と宮廷魔術師では立場が違う。
胡散臭く見られるのは仕方がない。とカールが
来るのを待った。
しばらくするとカールがやってきた。
「珍しいお方が参られましたな?ご無沙汰をしております。ご壮健のこと喜ばしく思います」
カールがディルムンに恭しく礼を取り、それを見ていた守衛が目を見開いていた。
俺は非難する目付きでカールを見つめカールは楽しげに双眸を細め微笑した。
「お話はこちらで」
カールは部屋へディルムンを案内してお互いソファーに腰掛けた。
「今日はどの様な趣でお越しされましたか?ディルムン殿下?」
「殿下は辞めろ。昔のままでいい」
ディルムンは不機嫌に眉を寄せカールは苦笑いをしている。
「はいはい。ディル、要件はなんだい?用事が無きゃ会いにも来ないからなお前」
砕けたカールの口調でディルムンの眉間はいつもに戻った。
「今日はお前に頼みがあって来た」
改まって口にするディルムンにカールは顔を曇らせた。
「何があった?私用で来るのは今まで無かっただろ?」
「怪我人を治して欲しい」
ディルムンの視線を受けカールは表情を固くする。
「ディル、それは誰としての依頼だ。ディルムンとしてか?殿下としてか?」
宮廷魔術師師団長を動かすは王宮のみ。
それを分かっての願い出。
「友人の頼みとして駄目なら、王弟としてでも依頼を、出す」
ディルムンの揺るぎない意思にカールも息を飲んだ。
「お前が王弟の地位を使ってでもなんてどんなヤツだよ?」
なんか友人として妬けるな。と溜め息付きながら呟くカールをディルムンは複雑な顔で見つめた。
「ディル説明しろ」
不機嫌なカールにディルムンは事を話した。
「お前毒って……よく無事だったな……」
カールは安堵の溜め息を漏らし手を顔に当てた。
表情を変えないディルムンに視線を投げカールは様子を伺った。
「リラの腕を治して欲しい」
ディルムンの言葉は朴訥で飾らない。
昔から口数は少なく無表情だ。
王弟の立場と皇太后から狙われ感情を出さない事も増えた。
側室の母親を毒殺されてからは尚の事、無表情となった。
幼馴染のカールと居る時は表情を崩し笑う事もあったが昔から元々感情の起伏は出さない方だった。
今は……
ーー目は口ほどに物を言う。
ディルムンの変貌にカールは苦笑いを浮かべた。
「友人として頼みを聞くよ」
カールは不敵な笑みを浮かべディルムンを見た。
それを見たディルムンは眉を顰めカールにクギを刺す。
「俺が頼んだとリラに言うなよ?」
余計な話はするな。とディルムンから睨まれカールは肩を窄めた。
「残念だな。お前の小さい頃の話とかリラちゃんにしようと思ったのに」
戯けるカールをディルムンは睨むがカールは気にも留めない様子だ。
「それ命令?」
カールのニヤついた口元は上がりっぱなしだ。
「口留め出来るなら友人でも王弟でもどちらでも使う」
ディルムンは憮然と言い放ちカールは目を見開いて驚いている。
王弟の立場を嫌い臣下に降ったディルムンが王弟の立場を利用してでもときた事にカールは楽しげに微笑した。
「お前の依頼受けたよ」
後日、ディルムンはカールからリラについて追及される事となる。
*
「失礼します。リラです。怪我が完治しましたので報告に来ました」
リラとの会話は騒動の時以来だ。気不味く俯くリラの腕に包帯は無い。
「……そうか、完治したか」
リラは訝しんでいるが俺は無表情に徹し、心の中でカールに感謝をした。
狙われるリラを俺なりに護る。
机から取り出し王弟紋の紋章の入った短剣をリラに渡した。
リラは訝しみながら短剣を受け取った。
リラは短剣の因習を知らない。
俺はいつか伝えられるだろうか。




