8 ニャンコと留守番と記憶と追尾と
人称変更しました。
今日は騎士団、魔術師団の合同訓練の日だ。
エレは一緒に行く事は出来ないので宿舎で留守番だ。
宿舎からは出ない。部屋か談話室、その隣にある書庫ならと許可を貰い、エレは久し振りに一人の時間を満喫した。
エレはここの地図を見たり、歴史を読んだり、この世界の事を理解すべく色々本を読んでいた。
流石にずっと読んでいるのも疲れ、エレは一旦談話室から部屋に戻って休む事にした。
春が近づき木々は芽吹き春めいた装いとなり吹く風も心地よい。
エレは長椅子に身体を預け肘置きにもたれ掛かりながら景色を眺め、魔術の本はシャルトさんに借りて読んでみようかなぁ。と色々考えていた。
少し眠くなりウトウトしているとドアのノックが聞こえ、誰ですか?と聞けばセレンの使いでお茶を持って来た。と言われエレは部屋のドアを開けた。
覚えている記憶はそこまでだった。
*
揺蕩う闇の中
朧げな光りが
フワリふわりと
浮かんで揺れる
ここは…どこ?
……夢?
夢の中で………
なにか……
……記憶?
漂う思考の中で浮かぶリボン。
クルリくるり、フワリふわりとリボンが舞い踊る。
その中で光るリボン………
それを手に捉え自然に言葉が湧き上がる……
*
( ここは…どこ?夢の続き? )
夢の続きにしては床板が痛いし、縛られた腕が痛い。後ろ手にされているため痺れてもいる。
( 夢じゃないみたいね )
ぼんやり周りを見渡しエレは状況を確認する。
( 誘拐? )
エレが纏まらない頭で考えていると、ふと夢の中の映像が脳裏をよぎる………………
( あのリボン……書いてあったのは確か…… )
エレは夢の中の映像を思い出し、紡がれた言葉を思い出す…。
『人の時を封じ、古の契約を再び示せ……』
*
合同訓練は仮想敵に対し、魔術で煽動し騎士隊が掃討する。
タイミングがズレれば術で騎士を攻撃してしまうから練度が大切だ。訓練中は緊張に包まれているのだが浮かない様子が一人。
「エレ一人で寂しく無いかなぁ」
シーニアは荷台の上で呟く。
「隊長〜ちゃんと警護訓練して下さいよ〜」
まだ出番じゃない。と毎度の訓練に順番まではダラけているのはシーニアだ。
魔術師の攻撃は前衛と後衛に別れて陣を敷いている。後衛には切り札の強力布陣が控えて居るので当然シャルトが居る。
訓練も半ばにかかり、そろそろ後衛が動く頃シーニアが訝しながらソレを見ていた。
「ん?シャルトの動きがおかしい?」
シーニアが観察しているとシャルトはいきなり振り返り、焦り始めた。
訓練は団長含め色々な隊長も揃い、列を乱すなどご法度だ。
ましてやシャルトは第1部隊副隊長。周りから諌められたのか、列を正し隊を進め訓練を始めた。
「どうしたんだ?あいつ…」
シーニアは訝しみながらシャルトを眺めていた。
*
訓練終了後、シャルトは残りの作業を部下に指示すると走り始めた。
様子を伺っていたシーニアがシャルトを呼び止めた。
「お前さっきから変だぞ?何があった!?」
シャルトは、お前に構う暇はない。と行こうとするのをシーニアが腕を掴み再び聞く。
「何があった!?」
シャルトは時間が惜しいとばかりに短く答えるた。
「エレに異変があった」
シャルトはそう言うとシーニアに掴まれた腕を振り払い走りだした。
それを聞いたシーニアはすぐにブランブルに報告に走った。
*
シャルトは馬を駆り町を抜け森に入り森の中を駆ける。
シャルトにはエレの居る方向は分かる。
ピアスが魔力を伝え、方向を示す。
「痛っつ!!」
ビシッ!!と音と共に思わず馬を止め左耳を押さえたシャルト。
エレと繋がっているピアスが異常な魔力を伝えた。
「マズイですね」
シャルトが思わず呟けば後ろから声が掛けられた。
「どうマズイんだ?」
シャルトが振り向くと馬を駆りシーニアとディルムンが追い付いて来た。
仕方ないとばかりにシャルトは説明をした。
エレに渡している魔力安定用魔具を通じて異変があった。だから魔具を追尾している。と説明し馬を駈り追尾を再開した。
三人は森の中を進むが、奥に進むと馬が入れないため馬を降り更に奥に分け入る。
森の奥深くに慎重に進むと微かに山小屋が見え三人はすぐに茂みに身を隠した。
様子を探れば見張りが居る様子だ。
こんな小屋に見張りなど逆に怪し過ぎる。
シーニアとディルムンが目配せし、表と裏に別れ探ろうとした時、小屋の中で騒ぎが起こった。
小屋の中で男が、探せ!まだ近くに居るはずだ!!。と叫んでいるのが聞こえると、周りの見張りが動揺して慌て始めた。
この好機を逃す騎士は居ない。
ディルムンが飛び出し見張りを倒すと、扉から出て来た大柄の男がディルムンに気が付き瞬時に剣を抜き襲い掛かって来た。
シーニアは他の見張りを相手にし、剣を交える。
その隙にシャルトは小屋の中へ飛び込みエレを探した。
「エレ!どこです!!」
部屋に残った残党がシャルトに剣で斬りかかってきた。
シャルトは身を翻がえし開封してある術式を展開し電撃を放つ。
電撃の直撃に痺れ倒れる人の陰に動く物がありシャルトは目を凝らした。
「エレ!?」
『ゥ二ヤァァーーーーーーーーン』
助けに来たシャルトの胸に飛び込むエレ。恐怖に震えるエレを優しく包み込むシャルト。
もう大丈夫ですよ。とシャルトは繰り返す。
侵入者に気付いた残党がシャルトに斬りかかった。
シャルトは前を見据えると鋭い視線で術を開放する。
「ー轟雷ー」
爆音と共に小屋は半壊した。
2016.11.26改稿
人称変更加筆修正。