29 ニャンコと気持ちと感情と
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解術後、ブランブル団長の様子は気になったが、特段、変化も見られず一安心した。
それよりも解術した後、私が寝込んだ間、レンブラントは私を心配して暴走しそうだったのが頭痛の種だ。
おかげで連日レンブラントの突撃訪問に仕事にならない。
また騎士団に迷惑がかかる為、書類が山になるのを覚悟して外に出る事にした。
とは言え、王子のレンブラントを連れまわす訳にもいかず、結局迎賓館でのお茶飲み会となる。
「レンブラントはいつまで居るの?国に戻らないと不味くないの?」
「うーん。そうだねー。動くと色々後ろが騒がしいからねぇ」
"後ろが騒がしい ”と言うレンブラント。私は警護の事?と思い首を傾げるが言っている内容はよく分からない。なんとも気の抜けた返答しか返って来ないのが、こっちも困る。
「国での仕事に差し障りはないの?」
「大まかには済ませたから平気ー。交流の方が重要だろー?」
ウロチョロされてるのはウザイけどな。とポツリと呟くが私には聞き取れなかった。
レンブラントは何でも無かった様な表情を浮かべるとティーカップに口を付けた。
歯に絹を着せた様な物言いに、むず痒さを感じたが深く詮索しても答えは返して貰えないのが分かっている。私も一息つくためにティーカップの香りで気分を落ち着かせた。
「そういえばリラはさぁ、この先どうするの?騎士団にずっといるの?」
「えっ…。ずっとは無理だとは思っているよ。一応考えてはいるけどね」
「へぇ。どうするつもり?」
レンブラントの探る視線に尻込みしそうになるが、お茶を飲みながら誤魔化した。
「うーん。一応お金貯まったら一人暮らしするつもり」
貯まるまでは騎士団にお世話になるけどね。とカップを弄りながら答えた。
騎士団の居候脱却を目標に目処を付けたが、自分の不安定さに溜め息を零した。
手の中で揺れるお茶の水紋に目を落としレンブラントからの視線を逃げた。
「リラはフォルニアスに来るつもりは無い?」
「う…ん……ごめん。やっとココで慣れてきたばかりだから。また振り出しは疲れちゃうかな…」
ごめんね。と言うも俯いた顔は上げにくく、ちょこっと上目でレンブラントを伺えば残念そうに眉間を曇らせた。
「そっか。無理には連れて行けないからなぁ」
「レンブラントの気持ちは嬉しいよ。ありがとうね」
落胆を露わにされると罪悪感に駆られるが、こればかりは仕方ない。
「俺の気持ちはリラが思ってるのとは違うと思うよ。リラは俺の事どう思ってる?」
「え?」
レンブラントの目が鋭くなり、いつもと雰囲気が変わった。
歳下。
そう思っていた。
王子という立場からか、意識の差か、レンブラントから醸し出す雰囲気が大人びて一瞬飲まれかけた。
「私は……レンブラントの事、友達?かな?って……」
そんな感じ?と恐る恐る首を傾げれば、レンブラントは、だろうねー。と肩を落としている。
「俺は第三王子だから立場は緩くても身分に縛られるからなぁ」
レンブラントの言っている事に頭がついていかず当惑しているとレンブラントにクスリと笑われた。
「リラが好きなんだよね」
心臓に悪い言葉をサラリと言われた。
驚きと困惑で茫然とする私をレンブラントは目を細め意地悪く見つめてくる。
「身分的にも無理なのは分かっているからね。諦めてはいるんだけど」
感情はままならないねぇ。と憂いを帯びた瞳に見つめられた。
「だからリラは幸せでいて欲しいんだ」
最初から叶わない思いだって分かっているから。と呟くレンブラントにどんな言葉をかけていいか分からなかった。
「リラは誰と居ると幸せ?」
私はその答えを出すことが出来ず、その言葉だけが心に残った。
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解術の事も踏まえ、自分の術使用を改めて考えた。
ーー術式の知識増量計画に図書室通いかな……
と思っていたら、シャルトから書籍を借りる事になった。
「中級、上級の書巻です。リラなら読めばリアンの記憶から上書きされるでしょうから直ぐに身につくでしょうね」
「ありがとうございます。お借り致します」
本を借りて時間がある時に読む様にした。
*
「リボンは直ぐに使う分は身に付けておいた方が手間がないですよ」
シャルトのお屋敷に招かれ本を返し、お茶にしているとシャルトはリボンを取り出した。
「これは雷撃式を編み込んだ物と結界のブレスレット。利き手に着けた方が反射的に操作し易いですよ」
シャルトは私の手首を取り術式を編んでブレスレットにして着けてくれた。
うん。着けてくれたのは助かる。片手では着け難いし、利き手に着けるからね。でも、手を握ったまま離さないのは困ります。
シャルトは嬉しそうにニギニギ人の手を握ったままだ。
「シャルト、手を離してくれる?」
「リラはいつになったら私の気持ちに答えてくれますか?」
シャルトは悪戯な笑みを浮かべ目を細めている。
私は、困りながらも、この状況に流されてたらダメだなぁ。と頭によぎり俯き瞑目した。
私、は………
ちゃんと答えないと、ダメだよね。
ーー気持ちはハッキリと伝えなきゃ。日本人の悪い所だ。
レンブラントに言われた言葉が思い浮かぶ。
「私はシャルトの事は、尊敬している。師匠として。だからシャルトの気持ちには答えられない」
目を逸らさず、逃げずに気持ちを伝えた。
シャルトは目を伏せ翳らせると手を離し、背凭れに身を預けた。
「何故と、お聞きしても?」
伏せた瞳を上げ私と視線が交わる。
シャルトの眼から熱量が伝わり一瞬息を詰まらせた。
「シャルトにとって私は異世界人でしょ?物を知らない異世界人。それがシャルトにとって都合が良かっただけじゃない?都合の良い私であって私を選んだわけじゃない。異世界人っていう私を。違う?」
「…………」
「公爵も宰相も地位も名誉も意識しない、知らない私だからだよね?それは異世界人だからって線を引かれているのも同じなの」
私は眉を寄せ目を伏せて溜め息をついた。
シャルトに寄せる周りからの視線や羨望は一緒に居れば嫌でも分かる。それに興味を示さない私は珍しいんだとも分かる。だからと言って、それが理由では、私で無くとも異世界人なら誰でもいい、と言う事になる。
薄々感じていた違和感。
言葉に出せばしっくりくる。
価値観の違いによる感情。
それは、最初は良くてもその内に違和感を生じる。
感情の行く末が目に見えている以上、私にはシャルトに師匠としての感謝の念を伝えるしかない。
「………確かに、最初はそうでしたが。今では違いますよ?」
それでも受け入れてはくれませんか?とシャルトに今まで見た事も無い鋭く真剣な瞳を向けられ息が詰まった。
私は静かに首をふるふると横に振り、シャルトに否を示した。
「シャルトには感情しています。ここで生きていくに、魔術という技術を身に付けさせてもらいました。それは私にとって自信にもなり生きていく覚悟にも繋がりました」
ありがとうございます。と頭を下げ感謝を伝えた。
「……はぁ。フラれるとは思いませんでしたよ」
時間をかけても気持ちは変わりませんか?と憂いを帯びた顔で伺う様に見つめられるが私も困り顔しか出来ない。
「私には貴族の生活は無理です」
「……身分が足枷になるとは思いませんでしたよ」
シャルトは諦め半分に目を伏せ肩を落とした。
「仕方ありませんね。……弟子には負けます」
師匠としては必要としてくれますか?と聞かれた私は、勿論です。と答えるとシャルトは穏やかな笑みを浮かべた。
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「残党の動きは?」
「第四騎士団3番隊からの報告はまだです。ですが動いているのは二つ。それぞれに5番隊を付けてます」
「報告待ちか」
第四騎士団。
国の西北に位置するフォルニアス国境を守護する騎士団。再びフォルニアスとの国境の動きに事態悪化が無い事を願うしかない。
ブランブルとドウェルはお互い眉間の皺が深まるのを見て肩を落とした。
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「あー。ソレ、俺狙い。外に出るから潰しとく」
レンブラントは事も無気に言う。
再びレンブラントに振り回されるのが決定し、ブランブルは瞑目した。
次回の投稿で完結となります。4話分投稿します。




