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ニャンコと私と異世界と  作者: たちばな樹
第二部
72/85

27 ニャンコと追憶とお茶会と


私の未練は、もう無いものへの未練だった。


帰れないと理解して納得していても、飲み込みきれない。その未練の理由が私自身ハッキリしていなかった。



ーーリラの帰りたい所はどこ?



その質問に暫し瞑目した。


何故、即答出来ない。

皆んなの所に帰りたい、と。


……皆んなって誰?

友達?


確かに会いたい。

せめて、別れを告げたかった。



両親?

もう一度会いたかった。


そう。

せめてもう一度。



では、私が帰りたかった場所は?


ーーそれは、もう無い祖母の家。


安らげたのは祖母との日々。

その日々に帰りたかった事に気づいてしまった。

そして、帰りたかった場所が両親の所では無かった事に。

蒼白した……。

薄情な自分に胸の奥に靄が渦巻くようで気分が悪くなる。



確かに親への愛情はあった。

今になってわかる。共働きで教育に力を入れ、私を育ててくれた。

そのおかげで社会に出ても、ここに来ても活かされている。


だけど、三つ子の魂百まで。

祖母の家の温もりが私の心を育てた。



“ 本当に” 帰りたかった、場所。


それが祖母の家であった事。

家族では無く…………。


私の焦燥感。

それは、家族より祖母への追憶。


(……私って薄情な子だね。親より祖母か)


向こうで自分は行方不明で捜索されているのだろうか?

心配かけているだろうか?

今まで何度も色々頭の中でグルグル回っていたが、分かってしまった今、自分の気持ちが飲み込めてきた。



ーーコトリ。

果実酒に口を付けコップを置いて窓の外を眺めた。



露見した自分の気持ちに戸惑いが無いとは言えない。


自分の心の澱。

それは追憶。

あの懐かしい日々は祖母の死から止まった。

私の未練が発覚した今は、心の澱が少し晴れた。


確かに両親への思いはある。

未知の世界で助かった教育の数々。

幼い頃は寂しさに親を恨んだりもしたが今は感謝している。

両親にありがとうと伝えられないもどかしさ。

寂しさを感謝で昇華しているからか、祖母への思いとは違うようだ。


未練が祖母への思い。

後悔が両親への感謝。




今の自分には心の整理が必要だ。

前に進む為、

異世界に居る今、諦めと妥協は必要だ。

少しづつ前を見据えて進む事。



ーーこの世界に居るって事が、この世界に受け入れられたって事じゃね?



レンブラントにそう言われ、覚悟を決めるべきかと、向き合い考える事にした。





**********





「いらっしゃいリラ。こちらにどうぞ」


赤髪の美丈夫が庭園を案内し、テーブルへと手を引いてくれた。


「レンブラント王子、本日はお招きありがとうございます」

「リラ、堅苦しいのは無しだよ。さあ、座ってお喋りしよう」





私はレンブラントの脱走防止に離宮に召喚された。


頻繁に騎士団に脱走してくるレンブラントにブランブルが辟易した結果なのだが、お茶会と言う座談会に当惑する。




満面の笑みでレンブラントはご機嫌だ。

レンブラントは、滞在中は迎賓館で過ごしている為、王宮からは離れている。

私の同行の警護にセレンが付いてくれた。同性の方が気安いだろうとのブランブルの配慮に感謝した。



「セレンも一緒じゃ駄目?立ってて貰うの気が引けて……」

「いいよ。構わないから、君も座るといい」

傅かれるのに慣れない私には、知っている人が警護の為とはいえ、立たせたままは気が引けてしまう。


侍女の人がお茶を用意し、下がったらレンブラントが話し始めた。

周りには、人払いしている様で、人影は無い。




「リラは騎士団で大丈夫なのか?」

レンブラントの質問の意味が分からず、首を傾げていると呆れ顔で大仰に溜め息をつかれた。


「リラ狙いが居るだろ?」

「!?」

レンブラントは目を半目にし、口をへの字に曲げ、不機嫌を露わにした。私は言葉に詰まり視線をさ迷わせているとセレンに助け船を出された。


「狙う者は少なからずおりますが、色々な威嚇と牽制が効いておりますよ」

無闇に手を出す無謀な馬鹿は居ません。とセレンは付け加えて意味ありげに目を細めた。

レンブラントは、少なからず、ねぇ。と呟くと思案げに伏せ目がちになった。


「なんなら、俺が後見人になろうか?」

「レンブラントが?」

権力的に抑えになるけど?と軽く言うが、イシェルワに居て、フォルニアスを後見人では国を跨ぐ事になる。


「ま、ウチの国内もやっと落ち着いたし。今なら煩いヤツ居ないから大丈夫だよ?」

私は訳が分からずきょとんとしているとレンブラントは庭に目を向けながら朗々と語った。


「俺が襲われて瀕死になったのは五年前なんだ。それまでイシェルワとフォルニアスは国境で諍いが絶えなかったが、五年前のその時に不可侵条約を結んだ。フォルニアス国内の悶着に乗じてイシェルワに侵略されたら困るからな。隣国との戦争の憂いを絶って、内政を整えたんだ。イシェルワとしてもフォルニアス側からの提案は渡りに船だからな。すぐ条約は結ばれた」

「五年前に刺されたの?15歳の時だね…」

「成人になったのを狙われた」

成人を機に、視察する様になり、そこを狙われた。


「デリュージュ前王は条約の一年後に亡くなった。現王になって4年。婚約でフォルニアスを後ろ盾にしてレイニアンを抑えにかかったのも必然だろうな」

イシェルワも色々あるからなぁ?とレンブラントは遣る瀬無い表情で紅茶を口に運んだ。


「リラの後見人は?」

「……候補が居なくは無いけど、困る相手で…」

眉間に皺を寄せ口籠る私にレンブラントが怪訝な顔になった。


「ちなみに、誰?」

「……メイフェイア公爵」

「シャルトの父親か……。リラはシャルトに口説かれているんだろ?その辺どうなの?」

リラは誰か好きなヤツ居るの?と伺う様に顔を覗き込まれ慌てて顔を逸らした。


「えぇっと…、シャルトは、魔術の先生だし、頼りにしているけど、……恋愛とは違う、かな。……シャルトにとって私は、異世界人だからこその価値で観てるから……」

私、じゃなくて、異世界人の価値感に惹かれているんだと思うよ。と口にしたが、レンブラントは疑わしげだ。

「噂ではリラ一筋だと聞いたけど?」

「……どちらにしても困ってる」


レンブラントから前に、ここで生きる覚悟と助言と後押しをしてもらった事もあり、安心して言葉にする事が出来る。


いつもなら、色々悩みハッキリしない感情に埋もれていたが、騎士団から離れた今なら、切り離して考えていられる様だ。

同郷の魂のレンブラント相手だからか、珍しく自分の気持ちに向き合い、自分を見つめられた。



眉を下げて肩を落としいるとセレンからも聞かれた。

「じゃあ、シーニアは?」

「!!」

息を止め、動揺に視線を泳がせてしまう。


「……やはり、あいつもか」

レンブラントが半目で宙を見据えて呟いた。


「シーニアは………。気楽だし、安心感もあって親しみやすいけど、……やっぱり恋愛感情にはならない、と、思う……」

楽しいし、気遣ってくれるけど、甘やかされて、振り回されて、落ち着かないのも事実。

やっぱり、うだうだと悩む私にレンブラントが厳しい様相を向けた。



「リラ、気持ちはハッキリと伝えなきゃ。日本人の悪い所だ。相手を気遣い本音を言わないのも日本人の美徳かもしれないが、コレはダメだ」


レンブラントに言われハッとする。


そう、気持ちに気が付くのを避けた。


ーーいつもの様に出来なくなるのは怖いから。


だから、言わなかった私。

それは、卑怯だ………。


自分の卑怯さに項垂れて瞑目した。




「レンブラント王子はリラに親身ですね?」

「ただの世話焼きだよ」

意味ありげに顔を向けるセレンにレンブラントは飄々と返す。


「レンブラント王子は日本と関わりがあるのですか?」

セレンは胡散臭げな表情になる。

セレンはレンブラントが転生者である事は知らない。だがレンブラントも転生者である事を言うつもりは無く、セレンの言葉を聞き流し、紅茶を飲み言葉を塞ぎ、沈黙をもって返した。







リラの心の葛藤と成長と。

元の世界から、この世界への気持ちの整理。

人の気持ちって簡単に切り替えられないかな?と思い、話しの速度が遅くなってしまうのが難しい。後ろ向き主人公なので、と言う事でスローペースの展開です。

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